信子と春吉の関係
寝落ちの本ポッドキャスト。こんばんは、Naotaroです。 このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。 作品はすべて青空文庫から選んでおります。
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さて、 今日は芥川龍之介さんの
「秋」です。 なるべく同じ作家さんの作品が続かないようにみたいなのは聞くばりしてたけど、ダメですね。
今回は続いてしまいました。 はい。
概要とあらすじです。芥川君が初めて本格的に近代心理小説に挑んだ作品だそうです。
概要。物語は幼馴染で小説家志望のいとこ、春吉をめぐる姉妹の複雑な愛情と心理を描いている。
姉の信子は大学時代から春吉と親しく将来結婚するだろうと思われていたが、
自ら別の男性と結婚し大阪へと訪ぐ。夫は優しいが信子の創作活動に理解がなく結婚生活には不満と倦怠が漂っていた。
ある日、信子は妹照子が春吉と結婚したことを知る。 6年、夫の出張に同行して東京を訪れた信子は久しぶりに照子夫妻の家を訪ねる。
照子が外出している間、信子は春吉と再会し、文学や昔の思い出を語り合う。
やがて照子が帰宅し、3人で過ごすひと時の中で照子は信子の沈んだ様子からその不幸を感じ取り涙を流す。
信子は妹を慰めながらも照子の嫉妬に残酷な喜びを覚える複雑な感情にとらわれる。
帰り道、馬車に乗る信子は途中で春吉とすれ違うが、声をかけることができず、そのまま秋の冷たい空気の中で孤独と未練をかみしめる。
だそうです。言葉にせず心に秘めた感情の奇妙を描く静かな心理劇である。
ということだそうです。
やっていきますかね。文字数は
12000字なので 40分かかんないかな
はい 急かな使いなんで難しいんですけどちょっと頑張りますかね
どうかお付き合いください それではまいります
秋 1
信子は女子大学にいた時から再演の名声を担っていた。 彼女が相番作家として文壇に打って出ることはほとんど誰も疑いはなかった。
中には彼女が在学中すでに300何枚かの次女伝体小説を書き上げたなどと不意地をして歩くものもあった。
が学校を卒業してみるとまだ女学校も出ていない妹の照子と彼女とを抱えて 後継を立て通してきた母の手前もそうはわがままを言われない複雑な事情もないでは
なかった そこで彼女は創作を始める前にまず世間の習慣通り
演談から決めてかかるべく余儀なくされた 彼女には春吉といういとこがあった
彼は当時まだ大学の文化に席を置いていたがやはり将来は作家仲間に身を投ずる意思があるらしかった 信子はこのいとこの大学生と昔から親しく
往来していた それが互いに文学という共通の話題ができてからは余儀を親しみが増したようであった
ただ彼は信子と違って当世流行のトルストイズムなどには一向敬意を表せなかった そうして時中フランス仕込みの皮肉やケークばかり並べていた
こういう春吉の冷笑的な態度は時々万事真面目な信子を怒らせてしまうことがあった が彼女は怒りながらも春吉の皮肉やケークの中に何か軽蔑できないものを感じない
わけにはいかなかった だから彼女は在学中も彼と一緒に展覧会や音楽会へ行くことが稀ではなかった
もっとも大抵そんな時には妹のテルコも一緒であった 彼ら3人は行きも帰りも気兼ねなく笑ったり話したりした
が妹のテルコだけは時々話の圏外へ置き去りにされることもあった それでもテルコは子供らしく飾り窓の中のパラソルや絹のショールを覗き歩いて各別観客された
ことを不平に思ってもいないらしかった 信子はしかしそれに気がつくと必ず和党を転換してすぐにまた元の通り妹にも口を
聞かせようとした そのくせまずテルコを忘れるものはいつも信子自身であった
春吉は全てに無頓着なのか相変わらず気の利いた冗談ばかり投げつけながら 目まぐるしい往来人通りの中を大股にゆっくり歩いていった
信子といとこのの間柄はもちろん誰の目に見ても来るべき彼らの結婚を予想させる のに十分であった
同僧たちは彼女の未来を天然に羨んだり妬んだりした つとに春吉を知らないものは国境というより他はないが一層これが華々しかった
信子もまた一方では彼らの推測を打ち消しながら 他方ではその確かなことをそれとなく恋にほのめかせたりした
したがって同僧たちの頭の中には彼らが学校を出るまでの間にいつか彼女と春吉 との姿があたかも新郎新婦の写真のごとく一緒にはっきり焼きつけられていた
ところが学校を卒業すると信子は彼らの余儀に反して大阪のある障子会社へ近頃 勤務することになった交渉出身の青年と突然結婚してしまった
そして式後2,3日してから新婦と一緒に爪先の大阪へ向けて立ってしまった その時中央停車場へ見送りに行ったものの話によると信子はいつもと変わりなく晴れ晴れした微笑を
浮かべながら ともすれば涙を落としがちな妹のてる子をいろいろと慰めていたということであった
同僧たちはみな不思議があった その不思議がある心の中には妙に嬉しい感情と前とは全然違った意味でねたましい感情と
が混じっていたあるものは彼女を信頼してすべてを母親の意思に行きした またあるものは彼女を疑って心変わりしたとも言いフラした
がそれらの解釈が結局想像に過ぎないことは彼ら自身さえ知らないわけではなかった 彼女はなぜ春季市と結婚しなかったか
信子の結婚生活
彼らはその後しばらくの間よると触ると重大らしく必ずこの疑問を話題にした そうしてかれこれ2月ばかり経つと全く信子を忘れてしまった
もちろん彼女が書くはずだった長編小説の噂なども 信子はその間に大阪の郊外へ幸福なるべき新家庭を作った
彼らの家はその界隈でも最も静寒な松林にあった 松山にの匂いと日の光とそれがいつでも夫の留守は2階建ての新しいカリアの中に
生き生きとした沈黙を両していた 信子はそういう寂しい午後時々理由もなく気が沈むときっと針箱の引き出しを開けて
はその底に畳んでしまってある桃色の書館線を広げてみた 書館線の上にはこんなことが細々とペンで書いてあった
もう今日限りお姉様とご一緒にいることができないと思うとこれを書いている間でさえ 止めどなく涙が溢れてきます
お姉様どうかどうか私をお許しください てる子はもったいないお姉様の犠牲の前に何と申し上げていいかわからずにおります
お姉様は私のために今度のご縁談を決めになりました そうでないとおっしゃっても私にはよくわかっております
いつぞやご一緒に定劇を見物した晩お姉様私に春さんは好きかとお聞きになりました それからまた好きならばお姉様がきっと骨を折るから春さんのところへ行けともおっしゃいました
あの時もお姉様私が春さんに差し上げるはずの手紙を読んでいらっしゃったのでしょう あの手紙がなくなったとき本当に私はお姉様を恨みしく思いました
ごめんあそばせこのことだけでも私はどのくらい申し訳がないかわかりません ですからその晩も私にはお姉様の親切なお言葉も皮肉のような記載いたしました
私が怒ってお返事らしいお返事もろくに致さなかったことはもちろんお忘れになりもなさりますまい けれどもあれから2,3日経ってお姉様のご縁談が急に決まってしまった時
私はそれこそ死んででもお怯えをしようかと思いました お姉様も春さんがお好きなのでございますもの
お隠しになってはいや 私はよく存じておりましてよ
私のことさえお構いにならなければきっとご自分が春さんのところへいらしたのに違い ございません
それでもお姉様は私に春さん謎は思っていないと何度も繰り返しておっしゃいました そうしてとうとう心にもないご結婚をなすっておしまいになりました
私の大事なお姉様 私が今日鳥を抱いてきて大阪へいらっしゃるお姉様にご挨拶をなさいと申したことを
まだ覚えていらして 私は飼っている鳥にも私と一緒にお姉様へお詫びを申してもらいたかったの
そうしたら何にもご存じないお母様までお泣きになりましたのね お姉様もう明日は大阪へいらしておしまいになるでしょう
けれどもどうかいつまでもお姉様のテルコを見捨てずに頂戴 テルコは前朝鳥に餌をやりながらお姉様のことを思い出して誰にも知れず泣いています
信子はこの少女らしい手紙を読むたびに必ず涙が滲んできた つとに中央停車場から汽車に乗ろうとする間際そっとこの手紙を彼女に渡したテルコの姿を
思い出すと何とも言われずにいらしかった が彼女の結婚を果たして妹の想像通り全然犠牲的なそれであろうか
そう疑いを挟むことは涙の後の彼女の心へ重苦しい気持ちを広げがちであった 信子はこの重苦しさを避けるために大抵はじっと心良い感傷の中に浸っていた
そのうちに外の松林へ一面に当たった日の光がだんだん黄ばんだ 暮れ方の色に変わっていくのを眺めながら
2 結婚後かれこれ三月ばかりはあらゆる新婚の夫婦のごとく彼らもまた幸福な日を送った
夫はどこか女性的な口数を聞かない人物であった それが毎日会社から帰ってくれると必ず晩飯後の何時間かは信子と一緒に過ごすことにして
いた 信子は編み物の針を動かしながら近頃世間に騒がれている小説や記憶の話などもした
その話の中には時によるとキリスト教の匂いのする女子大学趣味の人生観が追い込まれて いることもあった
夫は晩酌の頬を赤らめたまま読みかけた勇敢を膝へ乗せて珍しそうに耳を傾けていた が彼自身意見らしいものは一言も加えたことがなかった
彼らはまたほとんど日曜ごとに大阪やその近郊の遊覧地へ来産地の一日を暮らしに行った 信子は汽車電車に乗るたびにどこでも飲食することをはばからない関西人がみな
いやしく見えた それだけ大人しい夫の態度が格段に上品なのを嬉しく感じた
実際見綺麗な夫の姿はそういう人中に混じっていると帽子からも背広からもあるいは また赤川の網上からも化粧石鹸の匂いにいた
一種精神な雰囲気を拡散させているようであった つとに夏の休暇中
マイコマで足を伸ばした時には同じ社やに着合わせた夫の同僚たちに比べてみて 一層誇りがましいような心持ちがせずにはいられなかった
が夫はその下人同僚たちに存外親しみを持っているらしかった そのうちに信子は長い間捨ててあった創作を思い出した
信子の内面の葛藤
そこで夫の留守の家だけ1時間ずつ机に向かうことにした 夫はその話を聞くといよいよ女流作家になるかねと言って優しい口元に薄笑いを見せた
しかし机には向かうにしても思いのほかペンは進まなかった 彼女はぼんやり包材をついて炎天の松林の蝉の声に我知らず耳を傾けている彼女
自身を見出しがちであった ところが残書が初秋へ振り変わろうとする自分
夫はある日会社の出かけに汗じみた襟を取り替えようとした があいにく襟は一本残らず洗濯屋の手に渡っていた
夫は日頃見切れなだけに深いらしく顔を曇らせた そしてズボン釣りをかけながら小説ばかり書いていちゃ困るといつになく嫌味を言った
信子は黙って目を伏せて上衣の誇りを払っていた それからに3時過ぎたあるよ夫は勇敢に出ていた食料問題から月々の経費をもう少し
軽減できないものかと言い出した お前だっていつまでも女学生じゃあるまいし
そんなことも口へ出した 信子は気のない返事をしながら夫の襟飾りのろ雑誌をしていた
すると夫は意外なくらい質用に その襟飾りにしてもさ買う方が帰って安くつくじゃないか
とやはりねちにしした調子で言った彼女はなおさら口が聞けなくなった 夫も姉妹には白けた顔をしてつまらなそうに商売向きの雑誌かなにかばかり読んでいた
が寝室の電灯を消してからのぶ子は夫に背を向けたまま もう小説なんぞ書きません
と囁くような声で言った夫はそれでも黙っていた しばらくして彼女は同じ言葉を前よりもかすかに繰り返した
それから間もなく泣く声が漏れた 夫は双子と見事彼女を叱ったその後でも彼女のすすり泣きはまだ
絶え絶えに聞こえていた がのぶ子はいつの間にかしっかりと夫にすがっていた
翌日彼らはまた元の通り仲の良い夫婦に帰っていた と思うと今度は12時過ぎてもまだ夫が会社から帰ってこない番があった
しかもようやく帰ってくると甘買いともう一人では抜けないほど 酒臭い匂いを呼吸していた
のぶ子は眉をひそめながら買い替えしく夫に着替えさせた 夫はそれにもかかわらず回らない車で皮肉さえ入った
今夜は僕が帰らなかったからよっぽろ小説が墓取ったろう そういう言葉が何度となく女のような口から出た
彼女はその番床に入ると思わず涙がホロホロ落ちた こんなところをてる子が見たらどんなに一緒に泣いてくれるだろう
てる子てる子 私が頼りに思うのはたったお前一人切りだ
のぶ子は度々心の中でこう妹に呼びかけながら 夫の酒臭い寝息に苦しませてほとんど夜中
まんじりともせずに寝返りばかり売っていた それもまた翌日になると自然と仲直りが出来上がっていた
そんなことが何度か繰り返されるうちだんだん秋が深くなってきた のぶ子はいつか机に向かってペンを取ることが稀になった
家族の絆と変化
その時にはもう夫の方も前頃彼女の文学団を珍しがらないようになっていた 彼らは与党に長火鉢を隔ててさまつな家庭の経済の話に時間を殺すことを覚え
出した その上またこういう話題は少なくとも晩酌後の夫にとって最も興味があるらし
かった それでものぶ子は気の毒そうに時々夫の顔色を伺ってみることがあった
が彼は何も知らず近頃伸ばした髭を噛みながらいつもよりもよほど快活に これで子供でもできてみると謎と考え考え話していた
するとその頃から月々の雑誌にいとこの名前が見えるようになった のぶ子は結婚を忘れたように春吉との文通を絶っていた
ただ彼の同棲は大学の文化を卒業したとか 同人雑誌を始めたとかいうことは妹から手紙で知るだけであった
またそれ以上彼のことを知りたいという気も起こさなかった が彼の小説が雑誌に載っているのを見ると懐かしさは昔と同じだった
彼女はそのページをはぐりながら何度も一人微笑を漏らした 春吉はやはり小説の中でも霊傷と解虐との2つの武器を宮本武蔵のように使って
いた 彼女にはしかし気のせいかその軽快な皮肉の後ろに何か今までの居床にはない
寂しそうな捨て鉢の長襲が潜んでいるように思われた と同時にそう思うことが後ろめたいような気もしないではなかった
信子はそれ以来夫に対して一層優しく振る舞うようになった 夫はヨザムの長干鉢の向こうにいつも晴れ晴れと微笑している彼女の顔を見出した
その顔は以前より若々しく化粧をしているのが常であった 彼女は張り仕事の店を広げながら彼らが東京で式を挙げた当時の記憶なども話したり
夫にはその記憶の細かいのが意外でもあり嬉しそうでもあった お前はよくそんなことまで覚えているね
夫にこうからかわれると信子は必ず無言のまま目にだけ媚びのある返事を見せた がなぜそれほど忘れずにいるか彼女自身も心の内では不思議に思うことがたびたびあった
それからほどなく母の手紙が信子に妹の優位能が済んだということを報じてきた その手紙の中にはまた春吉がテルコを迎えるために山手のある郊外へ新居を設けたことも付け加えて
あった 彼女は早速母と妹へ長い祝いの手紙を書いた
何分東方は無人故式には不本意ながら参りかに候えどもそんな文句を書いているうちに 彼女にはなぜかわからなかったが筆のしぶることも再三あった
すると彼女は目を上げて必ず外の松林を眺めた 松は諸島の空の下に早々と青黒く茂っていた
秋の深まりと内面的な変化
その晩信子と夫とはテルコの結婚を話題にした 夫はいつもの薄笑いを浮かべながら彼女が妹の口真似をするの面白そうに聞いていた
が彼女には何となく彼女自身にテルコのことを話しているような心持ちがした どれ寝るかな
2 3時間の後夫は柔らかな髭を撫でながら大義そうに長火鉢の前を離れた
信子はまた妹へ祝ってやる品を決し兼ねて火鉢で灰文字を書いていたがこの時急に顔を 上げて
でも妙なものね 私にも弟が一人できるのだと思うと
と言った 当たり前じゃないか妹もいるんだから
彼女は夫にこう言われても考え深い目つきをしたまま何とも返事をしなかった テルコと春吉とは芝生の中旬に式を挙げた
当日は昼少し前からちらちら白いものが落ち始めた 信子は一人昼の食事を済ませた後いつまでもその時の魚の匂いが口について離れ
なかった 東京も雪が降っているかしら
こんなことを考えながら信子はじっと薄暗い茶の間の長火鉢にもたれていた 雪がいよいよ激しくなった
が校中の生臭さはやはりしふねく消えなかった さん
信子はその翌年の秋写名を帯びた夫と一緒に久しぶりで東京の土を踏んだ が短い日限内に果たすべき用向きの多かった夫はただ彼女の母親のところへ
起早々顔を出した時の他はほとんど1日も彼女を連れて外出する機会を見出さなかった 彼女はそこで妹夫婦の郊外の新居を訪ねる時も
深海縮みた電車の終点からたった一人車に揺られていった 彼らの家は街並みがネギ畑に移る近くにあった
しかし隣近所にはいずれも狩野らしい新築がせでこましく軒を並べていた 抜け打ちの門
金目持ちの柿それからサウに干した洗濯物 すべてがどの家も変わりはなかった
この平凡な様子は多少信子を失望させた が彼女が案内を求めた時声に応じて出てきたのは意外にもいとこの方であった
春吉は以前と同じようにこの賃客の顔を見るといやーと快活な声を上げた 彼女は彼がいつの間にか胃がぐり頭でなくなったのを見た
しばらくさあお分かりあいにく僕一人だが テルコはルース
使いに行った女中も 信子は妙に恥ずかしさを感じながら派手な裏のついたコートをそっと玄関の隅に縫いだ
春吉は彼女を書斎兼客間の8条へ座らせた 座敷の中にはどこを見ても本ばかり乱雑に積んであった
つとに午後の日の当たった障子際の小さな下んの机の周りには新聞雑誌や原稿用紙 が手のつけようもないほど散らかっていた
その中に若い細君の存在を語っているものはただ床の間の壁に立てかけた新しい 一面のことだけであった
信子はこういう周囲からしばらくもの珍しい目を離さなかった 来ることは手紙で知っていたけれど今日を超えようとは思わなかった
春吉は巻煙草へ火をつけるとさすがに懐かしそうな目つきをした どうです大阪のご生活は
旬産こそいかが幸福 信子もまた双子と巫女と話すうちにやはり昔のような懐かしさが蘇ってくるのを意識した
文通さえろこにしなかったかれこれ2年越しの気まずい記憶は思ったより彼女を 煩わせなかった
彼らは一つ火箸に手をかざしながらいろいろなことを話し合った 春吉の小説だの共通な知人の噂だの東京と大阪との比較だの話題はいくら話しても
尽きないぐらいたくさんあった が二人とも言い合わしたように全然暮らし向きの問題に触れなかった
それが信子には一層いとこと話しているという感じを強くさせた 時々はしかし沈黙が二人の間に来ることもあった
そのたびに彼女は微笑したまま目を火鉢の灰に落とした そこには待つとは言えないほどかすかに何かを待つ心持ちがあった
すると恋か偶然か春吉はすぐに話題を見つけていつもその心持ちを打ち破った 彼女は次第にいとこの顔を伺わずにはいられなくなった
が彼は平然と薪タバコの煙を呼吸しながら格別不自然な表情を装っている景色も 見えなかった
そのうちにテレ子が帰ってきた 彼女は姉の顔を見ると
手を取り合わないばかりに嬉しがった 信子も唇は笑いながら目にはいつかもう涙があった
二人はしばらくは春吉も忘れて去年以来の生活を互いに尋ねたり尋ねられたりしていた 外にてる子は生き生きと
篠色を頬に透かせながら今でも飼っているニワトリのことまで話して聞かせることを 忘れなかった
春吉は薪タバコを加えたまま満足そうに2人を眺めて相変わらずニヤニヤ笑っていた そこへ女中も帰ってきた
春吉はその女中の手から何枚かの葉書を受け取ると早速そばの机に向かってせっせと ペンを動かし始めた
てる子は女中も留守だったことが意外らしい景色を見せた じゃあお姉さまがいらっしゃった時は誰も家にいなかったの
春山だけ 信子はこう答えることが平気を強いるような心持ちがした
すると春吉が向こうを向いたなり 旦那様に感謝しろその茶も僕が入れたんだと言った
てる子は姉と目を見合わせていたずらそうに薬と笑った が夫にはわざとらしく何とも返事をしなかった
まもなく信子は妹夫婦と一緒に晩飯の食卓を囲むことになった てる子の説明するところによると前に上がった卵はみな家の鶏が産んだものであった
春吉は信子に葡萄酒を勧めながら 人間の生活は略奪で持っているんだね
章はこの卵から なぞと社会主義地味た理屈を並べたりした
そのくせここにある3人の中で一番卵に愛着あるのは春吉自身に違いなかった てる子はそれがおかしいと言った
子供のような笑い声を立てた 信子はこういう食卓の空気にも遠い松林の中にある寂しい茶のものくれ
方を思い出さずにいられなかった 話は食後の果物を荒らした後もつきなかった
微睡を帯びた春吉は夜長の伝統の下にアグラを書いて盛んに彼一流の気弁を漏した その談論風発がもう一度信子を若返らせた
彼女は熱のある目つきをして私も小説を書き出そうかしらと言った するといとこは返事をする代わりグールもんの傾向を放りつけた
それは ミューズたちは女だから彼らを自由のに虜にするものは男だけだという言葉であった
信子とてる子の夜のできごと
信子とてることは同盟してグールもんの権威を認めなかった じゃあ女でなければ音楽家になれなくってアポロは男じゃありませんか
てる子は真面目にこんなことまで言った その暇に夜が更けた信子はとうとう止まることになった
寝る前に春吉は縁側の雨戸を一枚開けて寝巻きのまま狭い庭へ降りた それから誰を呼ぶともなく
ちょいと出てごらんいい月だからと声をかけた 信子は一人彼の後ろから靴脱ぎの庭下田へ足を下ろした
旅を縫いで彼女の足には冷たい梅雨の感じがあった 月は庭の隅にある痩せがれたヒノキの梢にあった
いとこはそのヒノキの下に立って薄明るい夜空を眺めていた 大変草が生えているのね
信子は荒れた庭を気味悪そうにオズオズ彼のいる方へ歩み寄った が彼はやはり空を見ながら13よかなと呟いただけであった
しばらく沈黙が続いた後春吉は静かに目を返して鳥小屋へ行ってみようかと言った 信子は黙ってうなずいた
鳥小屋はちょうどヒノキとは反対の庭の隅にあった 2人は肩を並べながらゆっくりそこまで歩いていった
しかしむしろが恋の家にはただ鳥の匂いのするおぼろげな光と影ばかりがあった 春吉はその小屋を覗いてみてほとんど独り言かと思うように
寝ていると彼女に囁いた 卵を人に取られた鳥が
信子は草の中に佇んだままそう考えずにはいられなかった 2人が庭から帰ってくるとてる子は夫の机の前にぼんやり伝統を眺めていた
青い横梅がたった一つ傘に貼っている伝統 4
翌朝春吉はイッチョーラの背広を着て食後早々玄関へ行った 何でも亡き友の一周期の母さんをするのだということであった
いいかい待ってるんだぜ昼ごとまでにはきっと帰ってくるから 彼は該当を引っ掛けながら幸信子に念をしたが彼女は華奢な手に彼の中折れを持った
まま黙って微笑したばかりであった てる子は夫を送り出すと姉を長干鉢の向こうに生じてまめまめしく茶を進めなどした
隣の奥さんの話訪問記者の話それから春吉と見に行ったある外国の歌劇団の話 その他愉快になるべき話題が彼女にはまだいろいろあるらしかった
が信子の心は沈んでいた彼女はふと気が付くといつもいい加減な返事ばかりしている 彼女自身がそこにあった
それがとうとうしまいにはてる子の目にさえ止まるようになった 妹は心配そうに彼女の顔を覗き込んでどうしてと尋ねてくれたりした
しかし信子にもどうしたものだかはっきりしたことはわからなかった 柱時計が十字を打った時
信子は物嘘を舐めを上げて春さんはなかなか帰りそうもないわねと言った テル子も姉の言葉に連れてちょいと時計を仰いだがこれは存外冷淡にまだ
とだけしか答えなかった 信子にはその言葉の中に夫の愛に飽きたりている
に妻の心があるような気がしたそう思うといよいよ彼女の気持ちは憂鬱に傾かず にはいられなかった
てるさんは幸福ね 信子は顎を半襟に埋めながら冗談のようにこう言ったが自然とそこへ忍び込んだ
真面目な戦貿の調子だけはどうすることもできなかった てる子はしかし無邪気らしくやはり生き生きと微笑しながら
覚えていらっしゃいと睨む真似をしたそれからすぐまたお姉様だって幸福のくせに と甘えるように付け加えたその言葉がピシリと信子を打った
彼女は心持ちまぶたを上げて そう思ってと問い返した問い返してすぐに後悔した
てる子は一瞬間妙な顔をして姉と目を見合わせた その顔にもまたかばいがたい後悔の心が動いていた
信子は強いて微笑した そう思われるだけでも幸福ね
二人の間には沈黙が来た 彼らは柱時計の時を刻むもとに長干鉢の鉄瓶が滾る音を聞くともなく聞き
済ませていた でもお兄様はお優しくはなくって
やがててる子は小さな声で恐る恐る子を訪ねた この声の中には明らかに気の毒そうな響きがこもっていたがこの場合信子の心は何よりも
憐憫を反発した 彼女は新聞を膝の上に乗せてそれに目を落としたなりわざと何とも答えなかった
新聞には大阪と同じように米韓問題が掲げてあった そのうちに静かな茶の間の中にはかすかに人の泣く気配が聞こえ出した
信子は新聞から目を離して田本を顔に当てた妹を長干鉢の向こうに見出した 泣かなくたっていいのよ
れる子は姉にそう慰められても容易に泣きやもうとはしなかった 信子は残酷な喜びを感じながらしばらくは妹の震える肩へ無言の視線を注いでいた
それから女中の耳をはばかるようにてるこの方へ顔をやりながら 悪かったら私が謝るは私はてるさんさえ幸福なら何よりありがたいと思っているの
本当よ旬さんがてるさんを愛していてくれればと低い声で言い続けた 言い続けるうちに彼女の声も彼女自身の言葉に動かされてだんだん感傷的になり始めた
すると突然てる子は袖を落として涙に濡れている顔を上げた 彼女の目の中には意外なことに悲しみも怒りも見えなかったがただ抑えきれない嫉妬の
情が燃えるように瞳をほてらせていた じゃあお姉さま
信子の内面の葛藤
お姉さまはなぜ策やも てる子は皆まで言わないうちにまた顔を袖に埋めて発作的に激しく泣き始めた
2、3時間の後、信子は電車の終点に急ぐべくホログルマの上に揺られていた 彼女の目に入る外の世界は全部のホロを切り抜いた四角なセルロイドの窓だけであった
そこには馬性らしいイエイゲート色づいた臓器の梢とがおもむろにしかも絶え間なく 後ろへ後ろへと流れていった
もしその中に一つでも動かないものがあればそれは薄雲を漂わせた冷ややかな 秋の空だけであった
彼女の心は静かであったがその静かさを支配するものは寂しい諦めに他ならなかった てる子の欲しさが終わった後、若いは新しい涙と共に絶やすく二人を元の通り仲の良い姉妹に
返していた しかし事実は事実として今でも信子の心を離れなかった
彼女はいとこの帰りも待たずこの車上に身を託した時常に妹とは永久に他人になった ような心持ちが意地悪く彼女の胸の中に氷を張らせていたのであった
信子はふと目を上げた その時セルロイドの窓の中にはゴミゴミした街を歩いてくる杖を抱えたいとこの姿が見えた
彼女の心は動揺した車を止めようかそれともこのまま行き違おうか 彼女は動機を抑えながらしばらくはただホロの下に虚しい春巡を重ねていた
が春吉と彼女との距離はみるみるうちに近くなってきた 彼は薄日の光を浴びて水溜りの多い往来にゆっくりと靴を運んでいた
春さん そういう声が一瞬間信子の唇から漏れようとした
実際春吉はその時もう彼女の車のすぐそばに見慣れた姿を表していた が彼女はまたためだった
その暇に何も知らない彼はとうとうこのホログルマとすれ違った 薄に凝った空
まばらな柳 高い木々の木板だ小杖
後ろには相変わらず人通りの少ないバスへの街があるばかりであった 秋
信子は薄ら寒いホロの下に全身で寂しさを感じながらしみじみこう思わずにいられ なかった
大正9年3月 1968年発行
ちくま処方 現代日本文学体系43
芥川龍之介集より独領読み終わりです はい
芥川君武士が炸裂したねー この人の適性がすごいんですよ
文章が一番あるでしょ 目にだけ媚びのある返事を見せた
丸が打ってあって次がから始めるもうこればっかり ガーガーすごいねこの人
だから行き継ぎのタイミングどうしようっていつも思うんだよなぁ 雪がいよいよ激しくなったが高中の生臭さは
もう 続ければいいのにね
1回1回止めるんだよね 雪がいよいよ激しくなったが高中の生臭さはで
やればいいんだけど1回リズムとるんですよ 雪がいよいよ激しくなった
が高中の生臭さもうこんなんばっかりこの人 芥川君の手癖ですねこれは
はい これはいつ頃配信になるんだろうか
今日僕収録は10月17日の朝ですが ストックがね結構減っているのでね
23ですね来週 23木曜日に配信されると思いますどうですか
秋目入っていますか それから日程的には総理大臣は決まっていますか
高市さんになるのかなどうなるんですかね はい
僕はの右利きなんですけど右手の手のひらの 薬指の
根元って言ったらいいですかね 2黒くて丸い
ほっ黒みたいなのがポツンとぷっくり膨らんでいるのが発見してなんだこれと思って 8持ってポリポリポリポリやってたら
なんか なんて言ったらいいかな内側がからぷっくり膨れている感じだったのね
それが嫌で何これ何これってこう 左手の人差し指と親指でつまみ上げてんだこれってやってたら汚れでもないから
飲んだってやったら取れたって言うかその 破けて血が出始めて
えっ何これ 何したらまずこんなところに行こう
ぷっくりができるのと思って不思議だなぁと思って そういうことってありますかなんだろうこれね
突然できたんだよなんか見覚えもないのに パソコン使う仕事なんでなんかなんていうのその
手が柔らかいねと言われるぐらいには甘やかされたてなんですけどその表面的には 本当に突然できたんだよなぁ
なんだかなという感じです 名前でもつけるかこの傷に
昨日20代の男女3人のポッドキャスト番組の収録に立ち会ってたんですけど 僕が企画して話してもらってるんですけど
大丈夫だけがなんかすぐ治るんだよって20代の女の子が言ってて 猫が泣いている
30すぎると傷の治り遅くなるよって思ってましたけど 口挟まないでおきましたがねー
年取ると傷の治り遅いからねー あと傷の後めっちゃ残るし
まだそれを知らないんだなは高度立ちはっていう あれは僕が33歳ぐらいの時ですかねなんか家に酔っ払って
でろでろで家に帰ってなんか何かの表紙でこう つまずいて体勢を可視化してなんか月日みたいになったんですよ
その倒れ前として そしたその月日ぽくなった指が向こう3ヶ月ぐらいずっと痛かったですからね
昔の子供の頃そんなことないじゃないですか はいはい
月指してもまあそうがどれぐらいで直ったんだろうな 2週間ぐらいでは直ってたのかな
ね直りが早かったからねもう隣なると全然な本ないんですもんね 僕のこのポッドキャストは
spotify 上だと 40歳の僕よりもお兄さんお姉さん方が聞いていらっしゃる傾向が強く出ていますので
気持ちわかっていただけるだろうなと思うんですけどね 本当に直らなくなってくるね
直りが遅くなってくるね まあゆっくりゆっくりやってみましょう
僕の番組への感想お便りそれからリクエストは概要欄のリンクより 投稿フォームよりお寄せください
それでは終わりにしましょうか
無事に寝落ちできた方も最後までお付き合いいただけた方も大変にお疲れ様でした といったところで今日のところはこの辺でまた次回お会いしましょう
おやすみなさい