1. 寝落ちの本ポッドキャスト
  2. 134芥川龍之介「芋粥」(朗読)
2025-05-29 47:03

134芥川龍之介「芋粥」(朗読)

134芥川龍之介「芋粥」(朗読)

目標は到達すると空虚になるので、ぼんやり宙に浮いたものが良いのでしょうね。

今回も寝落ちしてくれたら幸いです


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サマリー

芥川龍之介の「芋粥」では、主人公の侍、五位が周囲から軽蔑されつつも独自の欲望を抱き、芋粥への執着が描かれています。物語は、五位が特別な意味を持つ食べ物に対する期待と苦悩を中心に展開します。また、都市人と赤花の五位との会話を通じて、彼らの心情や困惑も描かれています。特に五位が都市人に連れられ、越前の鶴賀へ向かう過程における心の葛藤がストーリーの中心となります。このエピソードでは、短編「芋粥」が朗読され、物語の舞台や登場人物の心情が描かれています。特に、五位が芋がゆを待つ過程で感じる不安と期待が強調されています。「芋粥」は日常の幸せを再認識させる物語です。

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寝落ちの本ポッドキャスト。
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから、興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには、面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品は、すべて青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想・ご依頼は、公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。
また、最近別途投稿フォームもご用意しました。
リクエストなどをお寄せください。
それと最後に、番組フォローもどうぞよろしくお願いします。
さて、今日は芥川龍之介さんの芋粥です。
読んだことないんですよね。
難しいんだよな。
文字数は1万6千字。
1時間いかないとは思いますが、30分は超えそう。
調べたところ、宇治周遺物語という古典に由来を解いてのお話なので、
出てくる単語がいちいち難しいっていうね。
人の名前もいまいちピンとこないっていう。
藤原の何たらみたいなですね。
寝落ちには向いているかもしれません。
それでは参ります。
五位の紹介
芋粥。原行の末か、忍者の初めにあった話であろう。
どちらにしても時代は指して、この話に大事な役を務めていない。
読者はただ平安朝という遠い昔が背景になっているということを知ってさえいてくれればよいのである。
その頃、摂章藤原の元常に仕えている侍の中に何菓子という語彙があった。
これも何菓子と書かずに何の誰とちゃんと姓名を明らかにしたいのであるが、
あいにく旧記にはそれが伝わっていない。
おそらくは実際伝わる資格がないほど平凡な男だったのであろう。
一体旧記の著者などというものは平凡な人間や話にあまり興味を持たなかったらしい。
この点で彼らと日本の自然派の作家とはだいぶ違う。
芋粥時代の小説家は存外暇人でない。
とにかく摂章藤原の元常に仕えている侍の中に何菓子という語彙があった。
これがこの話の主人公である。
五位は風才の花々上がらない男であった。
第一背が低い。それから赤鼻で目尻が下がっている。
口ひげはもちろん薄い。
頬がこけているから顎が一並外れて細く見える。
唇は一々数え立てていれば再現はない。
我五位の外貌はそれほど非凡にだらしなく出来上がっていたのである。
この男がいつどうしてもとつねに使えるようになったのかそれは誰も知っていない。
が、よほど以前から同じような色の冷めた水管に同じような苗苗した絵星をかけて
同じような役目を飽きずに毎日繰り返していることだけは確かである。
その結果であろう、今では誰が見てもこの男に若い時があったとは思われない。
五位は始終を越していた。
その代わり生まれた時からあの通り寒そうな赤花と形ばかりの口ひげ等を
須作王子の血また風に吹かせていたという気がする。
神は主人の元恒から霜は牛飼いの童子まで
無意識ながらことごとくそう信じて疑うものがない。
こういう風さえお供えた男が周囲から受ける体験は
おそらくかけまでもないことであろう。
侍どころにいる連中は五位に対してほとんどハエほどの注意も払わない。
ういむい、あわせて二十人近い下役さえ
彼の出入りには不思議なくらい冷淡を極めている。
五位が何か言いつけても決して彼ら同士の雑談をやめたことはない。
彼らにとっては空気の存在が見えないように
五位の存在も目を遮らないのであろう。
下役でさえそうだとすれば別当てとか
侍どころのつかさとかいう上役たちが
頭から彼を相手にしないのはむしろ自然の数である。
彼らは五位に対するとほとんど子供らしい無意味な悪意を
冷然とした表情の後ろに隠して
何を言うのでも手真似だけして用を達した。
人間に言語があるのは偶然ではない。
したがって彼らも手真似では用を弁じないことが時々ある。
が彼らはそれを全然五位の誤性に
欠陥があるからだと思っているらしい。
そこで彼らは用が足りないと
この男の歪んだもみえぼしの先から
切れかかったわらぞおりの尻まで
まんべんなく見上げたり見下したりして
それから鼻で笑いながら急に後ろを向いてしまう。
それでも五位は腹を立てたことがない。
彼は一切の不正を不正として感じないほど
意気地のない臆病な人間だったのである。
同僚の侍達になると進んで彼を翻弄しようとした。
年笠の同僚が彼の不利はない風才を材料にして
古い洒落を聞かせようとするごとく
年下の同僚もまたそれを機会にして
いわゆる虚言履行の練習をしようとしたからである。
彼らはこの五位の面前で
その鼻と口ひげとえぼしとスイカン等を
品質して飽きることを知らなかった。
そればかりではない。
彼が五、六年前に別れた受け口の女房と
その女房と関係があったという酒飲みの奉仕とも
しばしば彼らの話題になった。
その上どうかすると彼らは
はなはなタチの悪い悪戯さえする。
それをいまいちいち劣記することはできない。
が彼の支えの酒を飲んで
後へ威張りを入れておいたということを書けば
そのほかはおよそ想像されることだろうと思う。
しかし五位はこれらの揶揄に対して全然無感覚であった。
少なくも脇目には無感覚であるらしく思われた。
彼は何を言われても顔の色さえ変えたことがない。
黙って例の薄い口ひげを撫でながら
するだけのことをして済ましている。
ただ同僚の悪戯が高次すぎて
曲げに髪切れをつけたり
タチの鞘に造料を結びつけたりすると
彼は笑うのか泣くのかわからないような笑顔をして
イケヌノオオミタチワという
その顔を見その声を聞いた者は
誰でも一時ある意地らしさに撃たれてしまう。
彼らにいじめられるのは一人
この赤バラの五位だけではない。
彼らの知らない誰かが
多数の誰かが彼の顔と声等を借りて
彼らの無情を責めている。
そういう気がおぼろげながら
彼らの心に一瞬の間染み込んでくるからである。
ただその時の心持ちをいつまでも持ち続ける者は
その少ない中の一人にある無意の侍があった。
これは丹波の国から来た男で
まだ柔らかい口ひげがやっと
鼻の下に生えかかったくらいの青年である。
もちろんこの男も初めはみんなと一緒に
何の理由もなく赤バラの五位を軽蔑した。
ところがある日何かの檻に
イケヌノオオミタチワという声を聞いてからは
どうしてもそれが頭を離れない。
この男の目だけは五位がまったく別人として
映るようになった。
栄養の不足した血色の悪い丸の抜けた五位の顔にも
世間の迫害にべそをかいた人間が
覗いているからである。
この無意の侍には五位のことを考えるたびに
世の中のすべてが急に本来の過等さを表すように思われた。
そうしてそれと同時に下げた赤バラと
数減るほどの口ひげとが何となく
意味の慰安を自分の心へ伝えてくれるように思われた。
しかしそれはただこの男一人に限ったことである。
こういう例外を除けば
五位は依然として周囲の軽蔑の中に
犬のような生活を続けていかなければならなかった。
第一彼には着物らしい着物が一つもない。
青にびのスイカンと
同じ色の差し抜き戸が一つずつあるのが
今ではそれが上白んで
相手もコントもつかないような色になっている。
スイカンはそれでも肩が少し落ちて
丸組の方や菊とじの色が怪しくなっているだけだが
差し抜きになると裾のあたりの痛み方が一通りでない。
その差し抜きの中から下の袴も履かない
細い足が出ているのを見ると
野瀬苦行の車を引いている
野瀬牛の歩みを見るようなみすぼらしい心持ちがする。
それに履いている太刀もすこぶるおぼつかないもので
束の金具もイカがはしければ黒鞘の塗りも励かかっている。
これが
例の赤花でだらしなく象徴を引きずりながら
ただでさえ猫背なのを
一層寒空の下にせぐくまって物欲しそうに左右を眺め眺め
刻み足に歩くのだから
通りがかりの物売りまで馬鹿にするのも無理はない。
現にこういうことさえあった。
ある日、後尉が参上訪問を新千円の方へ行くところで
子供が六七人、路端に集まって何かしているのを見たことがある。
駒つぶりでも回しているのかと思って
後ろから覗いてみると
どこかから迷ってきたムク犬の首へ縄をつけて
打ったり叩いたりしているのであった。
臆病な後尉はこれまで何かに同情を寄せることがあっても
辺りへ気を兼ねてまだ一度もそれを後尉に表したことがない。
がこの時だけは相手が子供だというので
幾分か勇気が出た。
そこでできるだけ笑顔を作りながら
年笠らしい子供の肩を叩いて
もう堪忍してやりなされ。犬も打たれれば痛いでの
と声をかけた。
するとその子供は振り返りながら上目を使って下げ進むように
じろじろ後尉の姿を見た。
いわば侍どころの別当てが用の通じない時に
この男を見るような顔をしてみたのである。
いらぬせあは焼かれとうもない。
その子供は一足下がりながら高慢な唇をそらせて
こう言った。
なんじゃこの鼻赤目が。
後尉はこの言葉が自分の顔を打ったように感じた。
がそれは悪態をつかれて腹が立ったからでは
もうとうない。
言わなくてもいいことを言って恥をかいた自分が
情けなくなったからである。
彼は決まりが悪いのを苦しい笑顔に隠しながら
黙ってまた新千円の方へ歩き出した。
後尉は子供が六七人肩を寄せて
別格好をしたり舌を出したりしている。
もちろん彼はそんなことを知らない。
知っていたにしてもそれがこの育児のない後尉にとって何であろう。
ではこの話の主人公はただ
軽蔑されるためにのみ生まれてきた人間で
別に何の希望も持っていないかというとそうでもない。
五位の欲望
後尉は五六年前から芋がゆというものに
異常な執着を持っている。
芋がゆとは。
山の芋を中に切り込んでそれを
天面の汁で煮た粥のことを言うのである。
当時はこれが無情の神として
上は万丈の君の食前にさえのぼせられた。
したがって我が後尉のごとき人間の口へは
年に一度臨時の客の檻にしか入らない。
その時でさえ飲めるのはわずかに
喉を潤すに足るほどの少量である。
そこで芋がゆを飽きるほど飲んでみたいということが
彼の唯一の欲望になっていた。
もちろん彼はそれを誰にも話したことがない。
いや彼自身さえそれが彼の一生を貫いている
欲望だとは明白に意識しなかったことであろう。
が事実は彼がそのために生きているといっても
差し支えないほどであった。
人間は時として満たされるか満たされないか
わからない欲望のために一生を捧げてしまう。
その愚を笑う者は卑怯人生に対する
魯胞の人に過ぎない。
しかし語彙が無双していた芋がゆにあかんことは
存外要因に事実となって現れた。
その始終を書こうというのが芋がゆの話の目的なのである。
芋粥の思い出
ある年の正月二日、
本常の題にいわゆる臨時の客があったときのことである。
臨時の客は二宮の大経と同日に
摂政寒白家が大臣以下の神田知名を招いて
催す教縁で大経と別に変わりがない。
語彙も外の侍達に混じってその残行の奨判をした。
当時はまだ取りばみの習慣がなくて
残行はその家の侍が一堂に集まって
食うことになっていたからである。
もっとも大経に等しいと言っても昔のことだから
品数の多いわりにろくなものはない。
餅、ふと、虫あわび、ほしどり、
宇治のひお、大海の船、
鯛のすわやり、酒のこおもり、
焼だこ、大えび、大麹、小麹、
橘、串焼きなどの類である。
ただその中に例の芋粥があった。
語彙は毎年この芋粥を楽しみにしている。
がいつも人数が多いので自分が飲めるのはいくらもない。
それが今年は特に少なかった。
そうして気のせいかいつもよりよほど味がいい。
そこで彼は飲んでしまった後の碗をしげしげと眺めながら
薄い口ひげについているしずくを手のひらで拭いて誰に言うともなく
いつになったらこれに飽けることかのうとこう言った。
大部殿は芋粥に飽かれたことがないそうな。
語彙の言葉が終わらない中に誰かがあざ笑った。
錆びのある応用な武人らしい声である。
語彙は猫背の首を上げておくびょうらしくその人の方を見た。
語彙の主はその頃同じ元常の格言になっていた
明武京特徴の子藤原の都市人である。
都市人との会話
肩幅の広い身の丈の群を抜いたたくましい大男で
これはゆで栗を噛みながら黒木の酒漬を重ねていた。
もうだいぶ酔いが回っているらしい。
お気の毒なことじゃの。
都市人は語彙が顔を上げたのを見ると
軽蔑と憐憫とを一つにしたような声で語を継いだ。
お望みなら都市人がおわかせもそう。
地中いじめられている犬はたまに肉をもらっても容易に寄りつかない。
語彙は例の笑うのか泣くのかわからないような笑顔をして
都市人の顔と殻の腕とを当分にむくらべていた。
おいやかな?
どうじゃ?
語彙はその中に囚人の視線が自分の上に集まっているのを感じだした。
答え方一つでまた一度の長老を受けなければならない。
あるいはどう答えても結局バカにされそうな気さえする。
彼は躊躇した。
もしそのときに相手が少しめんどくさそうな声で
おいやなら立ってとは申すまえ。
と言わなかったなら語彙はいつまでも腕と都市人とを見比べていたことであろう。
彼はそれを聞くと慌ただしく答えた。
いや片仕けのござる。
この問答を聞いていた者は皆一時に失笑した。
いや片仕けのござる。
こう言って語彙の答えを真似する者さえある。
いわゆる投稿きっこを持った窪月や鷹月の上に
多くのもみえ星や縦え星が笑い語彙とともにひとしきり波のように動いた。
中でも最も大きな声で機嫌よく笑ったのは都市人自身である。
ではその中にお誘い申そう。
そう言いながら彼はちょいと顔をしかめた。
こみ上げてくる笑いと今飲んだ酒とかのとでひとつになったからである。
しかとよろしいな。
片仕けのござる。
語彙は赤くなってどもりながらまた前の答えを繰り返した。
一堂が今度も笑ったのは言うまでもない。
それが言わせたさにわざわざ念をした党の都市人に至っては
まよりも一層かしそうに広い肩をゆすって交渉した。
この作北の野人は生活の方法を二つしか心得ていない。
ひとつは酒を飲むことでほかのひとつは笑うことである。
しかし幸いに談話の中心はほどなくこの二人を離れてしまった。
これはことによるとほかの連中がたとえ長老にしろ一堂の注意を
旅の始まり
この赤花の語彙に集中させるのが不快だったからかもしれない。
とにかく談平はそれからそれへと移って酒も魚も残り少なになった自分には
何がしという侍学省が
ムカバキの肩皮へ両足を入れて馬に乗ろうとした話が一座の興味を集めていた。
が語彙だけはまるで外の話が聞こえないらしい。
おそらく芋がゆの二児が彼のすべての資料を支配しているからであろう。
前にキギスの焼いたのがあっても箸をつけない。
黒酒の酒があっても口をふれない。
彼はただ両手を膝の上に置いて見合いをする娘のように
下に侵されかかった瓶のあたりまでうぶらしく蒸気しながらいつまでも
空になった黒糊の湾を見つめてたわいもなく微笑していたのである。
それから四五日経った日の午前。
鴨川の河原に沿って淡田口へ通う街道を
静かに馬を進めて行く二人の男があった。
一人は濃い花田の刈衣衣に同じ色の袴をして
内出の太刀を履いたひげ黒くビング黄色き男である。
もう一人はみそぼらしい青にびの水管に
薄綿の絹を二つばかり重ねてきた四重恰好の侍で
これは帯の結び方のだらしない様子といい
赤花でしかも花のあたりが花に濡れている様子といい
身の回り万端のみそぼらしいことを帯だらしい。
もっとも馬は二人とも前のは月毛
後ろのは足毛の三歳後まで
道を行く物売りや侍も振り向いてみるほどの瞬速である。
その後ろからまた二人
馬の歩みに遅れまいとしてついて行くのは
丁度崖と隣人に相違ない。
これが年人と語彙との一行であることは
わざわざここに断るまでもない話であろう。
冬とは言いながらもの静かに晴れた日で
白けた河原の石の間
戦艦たる水のほとりに立ちがれている
よもぎの葉を揺するほどの風もない。
川に臨んだ背の低い柳は
葉のない枝に雨の如く滑らかな日の光を受けて
小杖にいる赤霊の尾を動かすのさえ鮮やかに
それと影を街道に落としている。
東山の暗い緑の上に
霜に焦げた微露土のような肩を
まるまると出しているのは
大方比叡の山であろう。
二人はその中に
蔵の羅伝をまばゆき日にきらめかせながら
無知も加えずゆいゆうと
慌た口をさして行くのである。
どこでござるかな。
手前を連れて行ってやろうとおせられるのは。
小杖が慣れない手に手綱を買い繰りながら行った。
すぐそこじゃ。
お安心になるほど遠くはない。
すると慌た口あたりでござるかな。
まずそう思われたがよろしかろう。
都市人は
けさ五尾を誘うのに
東山の近くに湯の湧いているところがあるから
そこへ行こうと言って出てきたのである。
赤花の五尾はそれを真に受けた。
久しく湯には入らないので
体中がこの間からむずがよい。
芋が湯の地層になった上に
入湯ができれば
願ってもない幸せである。
こう思ってあらかじめ都市人が引かせてきた
足毛の馬にまたがった。
ところが靴羽を並べてここまで来てみると
どうも都市人はこの近所へ来るつもりではないらしい。
厳にそうしている中に慌た口は通り過ぎた。
慌た口ではござらんの。
いかにももそっとあなたでな。
都市人は微笑を含みながらわざと五尾の顔を見ないようにして
静かに馬を歩ませている。
両側の人家は次第に稀になって
今は広々とした冬田の上に
餌を漁るカラスが見えるばかり。
山の陰に消え残って
雪の色もほのかに青く煙っている。
晴れながらトゲトゲしい端の梢が
目に痛く空をさしているのさえ
なんとなく肌寒い。
では山品あたりででもござるかな。
山品はこれじゃもそっと先でござるよ。
なるほどそういう中に山品も通り過ぎた。
それどころではない。
何かとする中に関山も後ろにして
かれこれ昼少し過ぎた自分には
とうとう三井寺の前へ来た。
三井寺には都市人の行為にしている僧がある。
二人はその僧を訪ねて昼下の地僧になった。
それが済むとまた馬に乗って道を急ぐ。
行く手は今まで来た道に比べると
はるかに人煙が少ない。
ことさらに当時は盗賊が四方に横行した
物騒な時代である。
五位は猫背を一層低くしながら
都市人の顔を見上げるようにして訪ねた。
まだ先でござるの。
都市人は微笑した。
いたずらをしてそれを見つけられそうになった子供が
年長者に向かってするような微笑である。
鼻の先へ寄せた芝と目尻にたたえた筋肉のたるみとが
当たってしまおうかしまうまいかとためらっているらしい。
そうしてとうとうこう言った。
実はなあ鶴賀までお連れ申そうと思ったのじゃ。
笑いながら都市人は鞭をあげて遠くの空を指差した。
その鞭の下には適暦として午後の日を受けた
大海の湖が光っている。
五位は狼狽した。
鶴賀と申すとあの越前の鶴賀でござるかな。
あの越前の。
都市人が鶴賀の人、藤原のあり人の女性になってから
多くは鶴賀に住んでいるということも日頃から聞いていないことはない。
がその鶴賀まで自分を連れて行く気だろうとは今の今までは思わなかった。
第一、幾多の山川を隔てている越前の国へ
この通りわずか二人の友人を連れただけでどうして無事に行かれよう。
ましてこの頃は行き来の旅人が盗賊のために殺されたという噂さえ書法にある。
五位は嘆喚するように都市人の顔を見た。
それはまた滅相な。
東山じゃと心得れば山支那。
山支那じゃと心得れば三井寺。
狐の使者
挙句が越前の鶴賀とは一体どうしたということでござる。
はじめからそう押されろうなら下人どもなりと飯つれようものを鶴賀とは滅相な。
五位はほとんどべそをかかないばかりになって呟いた。
もし芋がゆにあかんことが彼の勇気を鼓舞しなかったとしたら
彼はおそらくそこから離れて京都へ一人帰ってきたことであろう。
都市人が一人いるのは千人とも思いなされ。
路地の心配は御無用じゃ。
五位の狼狽するのを見ると都市人は少し眉をしかめながら嘲笑った。
そうして丁度賀家を呼び寄せて持たせてきた壺屋なぐいを背に追うとやはりその手から黒質の眉毛を受け取って
それを蔵上に横えりながら先に立って馬を進めた。
こうなる以上は育児のない五位は都市人の意思に猛獣するより他に仕方がない。
それで彼は心細そうに高齢をとした周囲の原野を眺めながら
うろうぼえの観音魚を口の中にねんじねんじ
例の赤花を蔵の前林にすりつけるようにしておぼつかない馬の歩みを相変わらずとぼとぼ進めていった。
馬蹄の反響するのは茫々たる黄帽に覆われて
その所々にある水たまりも冷たく青空を映したまま
この冬の午後をいつかそれなりに凍ってしまうかと疑われる。
その果てには一帯の山脈が日に背いているせいか
輝くごとき斬雪の光もなく紫がかった暗い色をながながとなすっているが
それさえ精情たる幾村の枯れすすきに遮られて
二人の従者の目には入らないことが多い。
すると都市人が突然五位の方を振り向いて声をかけた。
あれに
良い使者が参った。鶴ヶ谷のことづけを申そう。
五位は都市人のいう意味がよくわからないので
こわごわながらその弓で射す方を眺めてみた。
もとより人の姿が見えるようなところではない。
ただのぶどうか何かの鶴が漢木の一村に絡みついている中を
一匹の狐が温かな毛の色を傾きかけた日に晒しながらのそりのそり歩いて行く。
と思う中に狐は慌ただしく身をはねらせて一山にどこともなく走り出した。
都市人が急に鞭を鳴らせてその方へ馬を飛ばし始めたからである。
五位もあれを忘れて都市人の後を追った。
駐車ももちろん遅れてはいられない。
しばらくは石を蹴る馬蹄の音がカツカツとして荒野の静けさを破っていたが
やがて都市人は馬を止めてみたのを見ると
いつ捕まえたのか。
もう狐の後ろ足をつかんで逆さまに鞍のそばへぶら下げている。
狐が走れなくなるまで追い詰めたところで
それを馬の下に敷いて手取りにしたものであろう。
五位は薄いひげにたまる汗を慌ただしく拭きながらようやくそのそばへ馬を乗りつけた。
「これ狐、よう聞けよ。」
都市人は狐を高く目の前へ吊るし上げながらわざと物々しい声を出してこう言った。
「そなた今夜の中に鶴賀の都市人が館へ参ってこう申せ。
都市人はただいまにわかに客人を備えて下ろうとするところじゃ。
明日三時ごろ高島のあたりまで男たちを迎えに使わし、
それに鞍を給馬に引き、引かせてまいれ。
よいか、忘れるなよ。」
言い終わるとともに都市人はひとふり振って狐を遠くの草むらの中へ放り出した。
「いや、走るわ、走るわ。」
やっと追いついた二人の従者は逃げて行く狐の行方を眺めながら手を打って林立てた。
落葉のような色をしたその獣の背は夕日の中をまっしぐらに木の根、石くれの嫌いなくどこまでも走って行く。
それが一向の立っているところから手に取るようによく見えた。
狐を追っている中にいつか彼らは荒野がゆるい斜面を作って水の枯れた川床と一つになるそのちょうど上のところへ出ていたからである。
「高齢のお使いでござるの。」
五位はナイブな尊敬と惨憺とを漏らしながらこの狐さえ意思する野育ちの無人の顔を今さらのように仰いでみた。
自分と都市人との間にどれほどの間隔があるか。
そんなことは考える暇がない。
ただ都市人の意思に支配される範囲が広いだけに、その意思の中に包容される自分の意思もそれだけ自由が利くようになったことを心強く感じるだけである。
愛はおそらくこういう時に最も自然に生まれてくるものであろう。
読者は今後、赤花の五位の態度に、宝冠のような何者か見出しても、それだけでみだりにこの男の人格を疑うべきではない。
放り出された狐は謎への斜面を転げるようにして駆け下りると、水のない川床の石の間を器用にぴよいぴよい飛び越えて、今度は向こうの斜面へ勢いよく筋替えに駆け上った。
駆け上りながら振り返ってみると、自分を手取りにした侍の一行は、まだ遠い傾斜の上に馬を並べて立っている。
それがみんな指を揃えたほどに小さく見えた。
筒に入火を浴びた月毛と足毛とが、霜を含んだ空気の中に描いたよりもくっきりと浮き上がっている。
狐は頭をめぐらすと、また枯れ薄の中を風のように走り出した。
物語の始まりと舞台設定
一行は予定通り翌日の実の時ばかりに高島のあたりへ来た。
ここは琵琶湖に臨んだささやかな部落で、昨日に水、どんよりと曇った空の下に幾個の藁屋がまばらに散らばっているばかり。
岸に生えた松の木の間には、灰色のさぞ波を寄せる湖の水面が、磨くのを忘れた鏡のようにざむざむと開けている。
ここまで来ると都市人が五位をかえり見て行った。
あれをごろうじろ。男どもが向かいに参ったけでござる。
見るとなるほど、二匹の蔵置き葉を引いた二三十人の男たちが、馬にまたがったのもあり、勝ちのもあり。
みな、水管の袖を寒風にひるがえして、湖の岸、松の間を一行の方へ急いで来る。
やがてこれが間近くなったと思うと、馬に乗っていた連中は慌ただしく蔵を折り、
勝ちの連中は路傍に損去して、いずれもうやうやしく都市人の来るのを待ち受けた。
やはりあの狐が使者を務めたとみえますのう。
聖徳、変化ある獣じゃて、あのくらいの用を務めるのは何でもござらん。
五位と都市人とがこんな話をしている中に、一行は老道を立ちのまっているところへ来た。
大義者と都市人が声をかける。
損去していた連中が慌ただしく立って二人の馬の口を取る。
急にすべてが陽気になった。
五位の内面的葛藤
夜前、けうなことがございましたな。
二人が馬から降りて、敷川の上腰を下ろすか下ろさない中に、
肥肌色の水管を着た白髪の老道が都市人の前へ来てこう言った。
「何じゃ?」
都市人は老道たちの持ってきた笹枝や割子を五位にも勧めながら応用に問いかけた。
さればでございまする。
夜前、犬ときばかりに奥方がにわかに人心地を失いなされましてな。
「おのれは坂本の狐じゃ。
きょう都ののおせられたことをことづてせうほどに。
ちこよってよをききあれ?」
と、こうおっしゃるのでございまする。
さて一度がお前に参りますると奥方のおせられまするには。
「都のはただいまにわかに客人をぐして下られようとするところじゃ。
あした身のときごろ高島のあたりまで男どもをむかいにつかわし、それに蔵置ばにひきひかせてまいれ。」
と、こうぎょい遊ばすのでございまする。
それはまたけうなことでござるの。
五位は都市人の顔と老道の顔とを司祭らしくみくらべながら、
両方に満足を与えるようなあいづちをうった。
それもただおせられるのではございません。
さも恐ろしそうにわなわなとおふるえになりましてな。
「おくれまいぞ。おくれれば己が都のご感動をうけねばならん。」
と、しっきりなしに大泣きになるのでございまする。
「してそれからいかがした?」
それからたあいなくおやすみになりましてな。
手前どもの出て参りまするときにもまだおめざめにならぬようでございました。
「いかがでござるの?」
老道の話をきき終わると都市人は五位をみて得意らしくいった。
「都市人には獣も使われ申すわ。」
「なんとも驚きいる以外はござらんの?」
五位は赤鼻をかきながらちょいと頭を下げて、
それからわざとらしくあぎれたように口をひらいてみせた。
くちひげにはいまのんだ酒がしずくになってくっついている。
その日の夜のことである。
五位は都市人の館のひと間に霧灯台の火をながめるともなくながめながら
ねつかれない長の夜をまじまじしてあかしていた。
すると夕方ここへつくまでに都市人や都市人の住者と談笑しながら
越えてきた松山、小川、枯れ野、あるいは草、木、葉、石、のびの煙のにおい、
そういうものがひとつずつ五位の心にうかんできた。
つとにすずめいろどきのもやの中をやっとこの館へたどりついて
ながびすによこしてある炭火の赤い炎を見たときのほっとした心持ち。
それもいまこうして寝ていると遠い昔にあったこととしか思われない。
五位は綿の四五寸も入った黄色いひたたれの下に
らくらくと足をのぼしながらぼんやりわれとわが寝姿を見まわした。
ひたたれの下に年人が貸してくれた練り色の絹の綿厚などを
二枚まで重ねて着込んでいる。
それだけでもどうかすると汗が出かねないほど温かい。
そこへ夕飯のときに一杯あった酒のよいが手伝っている。
枕元のしとみひとつへたてた向うは霜のさえた広庭だが
それもこう当然としていれば少しも苦にならない。
万寿は京都の自分の雑誌に行ったときと比べれば雲泥の相違である。
がそれにもかかわらずわが五位の心にはなんとなく釣り合いのとれない不安があった。
第一時間のたっていくのが待ち遠い。
しかもそれと同時に夜の明けるということが
芋がゆを食うときになるということが
そう早く来てはならないような心持ちがする。
そしてまたこの矛盾した二つの感情が
互いに酷しあう後には
境遇の急激な変化からくる落ち着かない気分が
今日の天気のようにうすら寒く控えている。
それが皆邪魔になってせっかくの暖かさも容易に眠りを誘いそうもない。
すると外の広庭で誰か大きな声を出しているのが耳に入った。
声柄ではどうも今日途中まで迎えに出た白髪の老働が何か触れているらしい。
その干からびた声が霜に響くせいか
凛々として小枯らしのように一語ずつ鯉の骨に応えるよう泣きさえする。
この辺りの下人受け賜われ
そのの御意遊ばさるるには明朝宇野時までに
切口三寸長さ五尺の山の芋を
各々一筋ずつ持って参るようにとある。
忘れないぞ宇野時までにじゃ。
それが二三度繰り返されたかと思うと
やがて人の気配が止んで
辺りはたちまち元のように静かな冬の夜になった。
その静かな中に霧灯台の油が鳴る。
赤い真綿のような火がゆらゆらする。
御意はあくびを一つ噛みつぶして
まだ取り留めのない資料にふけり出した。
山の芋というからには
もちろん芋がやにする気で持ってこさせるのに相違ない。
そう思うと一時他に注意を集中したおかげで忘れていたさっきの不安が
いつの間にか心に返ってくる。
つとに前よりも一層強くなったのは
あまり早く芋がやに荒れつきたくないという心持ちで
それが意地悪く資料の中心を離れない。
どうかもう容易に芋がゆにあかむことが事実となって現れては。
せっかく今まで何年となく辛抱して待っていたのが
いかにも無駄な骨折りのように見えてしまう。
できることなら突然何か故障が起こって
一旦芋がゆが飲めなくなってから
またその故障がなくなって
今度はやっとこれにやりつけるというような
そんな手続きに万事を運ばせたい。
こんな考えが小松ぶりのようにぐるぐる一つところを回っている中に
なぜか五位は旅の疲れでぐっすり熟睡してしまった。
芋がゆの調理と食事
翌朝目が覚めるとすぐに
昨夜の山の芋の一見が気になるので
五位は何よりも先に部屋の瞳を上げてみた。
すると知らない中に寝過ごして
もう鵜の時を過ぎていたのであろう。
広庭へ敷いた四五枚の長虫炉の上には
丸太のようなものがおよそ二三千本
斜めに突き出した火肌吹きの軒先へ
使えるほど山のように積んである。
見るとそれがことごとく切口三千
長さ五尺の徒歩もなく大きい山の芋であった。
五位は寝起きの目をこすりながら
ほとんど終章に近い驚愕に襲われて
呆然と周囲を見回した。
広庭のところどころには
新しく打ったらしい九位の上に
極な麩釜を五つ六つ掛け連ねて
白い布の青を着た若いゲス女が
何十人となくその周りに動いている。
火を焚きつける者、灰をかく者
あるいは新しい白木の桶に
甘面みせんを組んで釜の中へ入れる者
皆芋がゆを作る準備で目の回るほど忙しい。
釜の下から昇る煙と
釜の中から湧く湯気とが
まだ消え残っている明け方のもやと一つになって
広庭一面はっきり物も見定められないほど
灰色の物が込めた中で
赤いのは烈々と燃え上がる釜の下の炎ばかり
目に見る者耳に聞く者ごとごとく
戦場か火事場へでも行ったような騒ぎである。
五位は今更のようにこの巨大な山の芋が
この巨大な極な麩釜の中で
芋がゆになることを考えた。
そして自分がその芋がゆを食うために京都から
わざわざ越前の鶴窯で旅をしてきたことを考えた。
考えれば考えるほど何一つ情けなくならないものはない。
我が五位の同情すべき食欲は
実にこの時も一般を厳拙してしまったのである。
それから一時間の後
五位は都市人や州都のあり人とともに
朝飯の前に向かった。
前にあるのは白がれの日下げの一戸ばかり入るのに
なみなみと海のごとく称えた恐るべき芋がゆである。
五位はさっきあの抜きまで積み上げた山の芋を
何十人かの若い男が薄刃を器用に動かしながら
片っ端から削るように勢いよく切るのを見た。
それからそれを
あのゲス女たちが右往左往に馳せ違って
一つ残らず極な麩釜へ
すくってはいれすくってはいれするのを見た。
最後にその山の芋が
一つも長むしろの上に見えなくなったときに
芋のにおいと
天面のにおいとを含んだ
幾十日の湯気の柱が
ほうほう然として釜の中から晴れた朝の空へ
舞い上がってゆくのを見た。
これを目の当たりに見た彼が
いま日下げに入れた芋がゆに対したとき
まだ口をつけない中からすでに満腹を感じたのは
おそらく無理もない時代であろう。
ゴイは日下げを前にして
間の悪そうに額の汗をふいた。
芋がゆにあかれたことがござらぬげな。
どうぞ遠慮なく召し上がってくだされ。
しゅうとのあり人は
童子たちに言いつけて
さらに幾つかの銀の日下げを
膳の上に並べさせた。
中にはどれも芋がゆが
あふれんばかりに入っている。
ゴイは目をつぶって
ただでさえ赤い花を一層赤くしながら
日下げに半分ばかりの芋がゆを
大きな皮らけにすくって
いやいやながら飲み干した。
父もそう思うすじゃて
平に遠慮は御無用じゃ。
都市人も傍から新たな日下げをすすめて
意地悪く笑いながらこんなことを言う。
弱ったのはゴイである。
遠慮のないところをいえば
はじめから芋がゆは
ひとあんもすいたくない。
それをいま我慢してやっと
日下げに半分だけ平らげた。
これ以上飲めば
のどをこさない中に戻してしまう。
そうかといって飲まなければ
都市人や有人の好意を無にするも同じである。
そこで彼はまた目をつぶって
残りの半分を三分の一ほど飲み干した。
もうあとは一口もすいようがない。
なんとも片づけのござった。
もう十分頂戴いたしたて。
いやいやなんとも片づけのござった。
ゴイはしどろもどろになってこう言った。
よほど弱ったとみえて
口ひげにも鼻の先にも
冬とは思われないほど
汗がたまになって垂れている。
これはまたご消食じゃ。
客人は遠慮されるとみえたぞ。
それそれそのほうども何をいたしておる。
同事たちは有人のゴに連れて
新たな日下げの中から
芋がゆを皮らけにくもうとする。
ゴイは両手をハエでも追うように動かして
ひらに慈意の意を示した。
いやもう十分でござる。
失礼ながら十分でござる。
もしこのとき都市人が
突然向うの家の軒をさして
あれをごろうじろと言わなかったなら
有人はなおゴイに芋がゆをすすめて
やまなかったかもしれない。
が幸いにして都市人の声は
一度の注意をその軒のほうへ持って行った。
ひわだぶきの軒にはちょうど朝日がさしている。
そしてそのまばゆい光に
艶のいい毛皮をあらわせながら
一匹のけものがおとなしく座っている。
見るとそれはおととい
都市人がかれののみしで手取りにした
あの坂本ののぎつねであった。
きつねも芋がゆがほしさにけんざんしたそうな。
男ども、しあつにもものをくわせてつかわせ。
都市人の命令は豪華に行われた。
軒から飛び降りたきつねは
じかにひろにわで
芋がゆのちそうにあずかったのである。
ゴイは芋がゆをのんでいるきつねをながめながら
ここへこないまえのかれじしんを
なつかしく心のなかでふりかえった。
それは多くのさむらいたしに
ぐろうされているかれである。
きょうわらべにさえ
なんじゃこのはなあかめが
とののしられているかれである。
いろのさめたすいかんにさしぬきをつけて
かえぬしのないむくいぬのように
物語の背景
すざくおうじをうろついてあるく
あわれむべきこどくなかれである。
しかしどうじにまた
芋がゆにあきたいというよくぼうを
ただひとりだいじにまもっていた
こうふくなかれである。
かれはこのうえ
芋がゆをのまずにすむというあんしんとともに
まんめんのあせがしだいに
はなのさきからかわいていくのをかんじた。
はれてはあいても
つるがのあさは
みにしみるようにかぜがさむい。
ゴイはあわててはなをおさえるとどうじに
しろがれのひさげにむかって
おおきなくさめをした。
たいしょうごねん。
はちがつ。
せんきゅうひゃくろくじゅうはちねんはっこう。
ちくましょぼう。
げんだいにっぽんぶんがくたいけいよんじゅうさん。
あくたがわりゅうのすけしゅう。
より、
どくりょうよみおわりです。
日常の再評価
うーん、
なるほど。
ほしいほしいがみたされると
かえっていやになるみたいなことね。
きつねはなんなんですかね。
ちょっとわかんないですね。
ないものねだりみたいなことかな。
なんか、
めをそむけたくなるようなトラブルとか
にっちもさっちもいかない
きょくめんとかにおいこまれたときに
ああ、あのなにもなかったじかんってのは
しあわせだったんだなって
そのときにしあわせなじかんだったことを
かくにんするっていうのがあるなって
わかいころ思ったんですけど
いまのおおきなくなんのないじかんを
まんぜんとすごしていますが
このじかんこそがいま
こうふくなじかんなのであるということに
じかくてきでなきゃいけないなと
おもいましたというか
じかくてきでなきゃいけないんでしょうね。
そうですよね。
そうですよねみなさんって感じですかね。
なんともね、
きづかないままにちじょうはすぎていくので
すぎていくにちじょうにこそ
おそらくこうふくはやどっているのでしょう。
まいにちね、
おなじことのくりかえしはきっとあきちゃうし
それがそれでしあわせでもあるし
しげきがほしくて何かあたらしいことをはじめてみたり
知らない場所へ行ってみたりすると
しげきはもらえるけど
まいにちしげきじゃそれはそれで
ふりまわされるみたいでやっちゃうし
つめといてるね。
何が言いたいのかわからなかったな。
おわりにしましょう。
むじ寝落ちできたかたも
さいごまでおつきあいいただいたかたも
たいへんにおつかれさまでした。
といったところできょうのところはこのへんで
またじかいおあいしましょう。
おやすみなさい。
47:03

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