123泉鏡花「高野聖」(朗読)
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サマリー
泉鏡花の「高野聖」を通じて、旅の不思議な怪奇譚を朗読します。物語の中で、主人公は旅の途中で出会った若者に過去の出来事を語ります。この作品では、主人公が高野山への旅で出会う人々や自然との関わりが描かれています。神秘的な山の風景と出家の人々との交流が、主人公の内面的な成長に寄与しています。 朗読エピソードでは、主人公が不気味な森の中で奇妙な生物に出会い、恐怖と驚きに満ちた体験をします。このストーリーは、人間の存在と自然の神秘の関係を探求しています。また、物語に登場する女性の会話や風景が描写され、山の旅の様子や主人公の内面的な葛藤が探求され、自然との関わりも強調されています。 「高野聖」では、不思議な世界での人々の出会いや出来事が描かれ、特に山と水の美しさが際立っています。物語は神秘的な雰囲気の中で、男女の交流を通じて自然との一体感や人間関係の複雑さを描写します。朗読されるこのエピソードでは、主人公が女性と神秘的な馬に出会い、独特の因果関係を通じて展開される幽玄な物語が描かれます。情景豊かな描写と共に、さまざまな登場人物の心理描写が織り交ぜられ、聴く者を引き込む魅力があります。 「高野聖」は、村の神話や人々の霊的な結びつきを描いています。登場人物たちが感情や信念に基づき、お互いの存在を捉え合いながら物語が進展していきます。また、医者の娘や彼女の成長、神秘的な出来事が物語の中心となっています。
物語の導入と背景
寝落ちの本ポッドキャスト。こんばんは、Naotaroです。 このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、 それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。 作品はすべて青空文庫から選んでおります。
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また別途、最近投稿本もご用意しました。 エピソードの概要欄より合わせてご利用ください。
それと最後に番組フォローをどうぞよろしくお願いします。 さて、
今日はですね、 泉鏡花さんの「高野ひじり」というテキストを読もうと思います。
先日読みましたね、泉鏡花さんね。下下室というのを読みました。 すごい難しい文体だったんで、読んだ後ドッと疲れたんですが、この高野ひじりに関しては大丈夫そうかも?
わかりませんね。 泉鏡花さん、日本の小説家。明治以降から小五書家にかけて活躍した。
尾崎紅葉に支持し、夜行巡査、下下室で評価を得、高野ひじりで人気作家になる。
の、高野ひじりを今日読みます。 文字数が4万字となっているので、
2時間ぐらいいきますね。銀河鉄道の夜と同じぐらい。 本当は走れメロスをサクッと読んで終わりにしようと思ってたんですけど、なんかね、
今日は知らない本を読みたい気分だったので、こっちにしましたが、2時間か。
高野ひじりのあらすじです。 高野さんの旅走が旅の途中で道連れとなった若者に、自分がかつて体験した不思議な怪奇譚を聞かせる物語。
難儀な蛇と山ビールの山地を抜け、 妖艶な美女の棲む一つ屋にたどり着いた。
…だそうです。
62%のユーザーがこの書籍を高く評価しています。 だって、現代人は厳しいですね。
当時はこれで人気作家になったのに、現代では6割の支持に留まるっていうね。 人気作家って言ったらなんかもうね、
7割8割支持があっても良さそうなのに。 そうですか。
やっていきましょうかね。 どうか値落ちまでお付き合いください。
旅の途中の出会い
それでは参ります。 高野ひじり
1 参謀本部編参の地図をまた繰り開いてみるでもなかろう
…と思ったけれども、余りの道じゃから手を触るさえ厚苦しい。 旅の衣の袖を掲げて表紙をつけた折り本になっているのを引っ張り出した。
日田から新州へ越える三山の間道で、 ちょうど立ち安らおうという一本の木立もない、右も左も山ばかりじゃ。
手を伸ばすと届きそうな峰があると、その峰へ峰が乗り、 頂がかぶさって飛ぶ鳥も見えず雲の形も見えぬ。
道と空との間にただ一人我ばかり。 およそ正午とおぼし極熱の太陽の色も白いほどにさえかえった光線を、
ふかふかと頂いた人へのひのき傘にしのいで、こう図面を見た。 旅僧はそう言って握り拳を両方枕に乗せ、それで額を支えながらうつむいた。
道連れになった商人は、名古屋からこの越前鶴賀の旗小屋に来て、 芋仕方枕についたときで、私が知っている限りあまり仰向けになったことのない、 つまり呆然として物を見ないたちの人物である。
一体東海道賭け川の宿から同じ汽車に乗り組んだと覚えている。 腰掛けの隅に神戸を垂れて、視界のごとく控えたから別段目にも止まらなかった。
終わりのステーションで他の乗組員は言い合わせたように残らず降りたので、 箱の中にはただ商人と私と二人になった。
この汽車は新橋を昨夜九時半に立って、今席鶴賀に入ろうという。 名古屋では昼だったから飯にひとおりの寿司を買った。
旅僧も私と同じくその寿司を求めたのであるが、 蓋を上げるとバラバラと糊がかかったチラシの花灯なので、「ああ、人参とカンペオばかりだ。」 とそそっかしく絶叫した。
私の顔を見て旅僧はこらえかねたものと見える。 クックと笑い出した。
もとより二人ばかりなり。近づきにはそれからなったのだが、聞けばこれから越前へ行って、 葉は違うが永平寺に尋ねるものがある。
ただし鶴賀に一泊とのこと。 若さへ帰省する私も同じところで泊まらねばならないのであるから、そこで同行の約束ができた。
彼は荒谷さんに席を置くものだと言った。年配四十五六。 乳穴何らの木も見えぬ。
懐かしい大人しやかな鳥鳴りで。 羅車の角袖の街灯を着て、白のフランネルの襟巻きを締め、トルコ型の帽をかぶり、
毛糸の手袋をはめ、白旅にひより下駄で、一見僧侶よりは世の中の僧将というものに、 それよりもむしろ賊か。
お泊りはどちらじゃな?と言って聞かれたから、私は一人旅の旅宿のつまらなさをしみじみ探索した。
第一本を持って女中が居眠りをする。 番頭がそらせじを言う。廊下を歩くとじろじろ目をつける。
何より最も耐えがたいのは、晩飯の支度が済むと、たちまち明かりを暗鈍に変えて、 薄暗いところでお休みなさいと命令されるが、私は夜が更けるまで寝ることができないから、その間の心持ちと言ったらない。
ことにこの頃は夜は長し、東京を出る時から一晩の泊りが気になってならないくらい。 差し支えがなくば、御相と御一緒に。
心よくうなづいて、北陸地方の安宮の節はいつでも杖を休める語り屋というのがある。 元は一軒の旅前であってが、一人娘の評判などがなくなってからは看板を外した。
けれども昔から、好意なものは断らず止めて、年寄り夫婦が内輪に世話をしてくれる。 よろしければそれ、その代わりと言いかけて折を下に置いて、
ごちそうは人参とかんぴょうばかりじゃ、とからから笑った。 涼しみ深そうな内輪よりは気の軽い。
2 岐阜ではまだ青空が見えたけれども、あとは何しよう北国空、
前原、長浜は薄曇り、かすかに日が差して寒さが身に染みると思ったが、 柳瀬では雨。
汽車の窓が暗くなるに従うて、白いものがちらちら混じってきた。 雪ですよ。
さようじゃな。と言ったばかりで別に気にとめず、 青いで空を見ようともしない。
この時に限らず、静畑がと言って湖泉錠をさした時も、 琵琶湖の風景を語った時も、たびそうはただうなずいたばかりである。
鶴賀でおぞけの立つほど煩わしいのは、宿引きの悪兵で。 その日も騎士たるごとく、
汽車降りるとステーションの出口から町鼻へかけて招きの長賃、 印笠の包みを築き、ぐぐり抜ける隙もあらなく旅人を取り囲んで、
てんでにかまびすしく小野ヶ谷号を呼び立てる。 中にも激しいのは、素早く手荷物をひったくって、
「へい、ありがとうさまで。」おくらわす。 頭痛持ちは血が昇るほどこらえきれないが、
例の下を向いて悠々と小鳥回しに通り抜けるたびそうは、誰も袖をひかなかったから、
幸いその後について町へ入って、ほっという息をついた。 雪はおやみなく、今は雨もまじらず乾いた軽いのがさらさらと表を打ち、
酔いながら角を閉ざした鶴賀の通りはひっそりして、一畳二畳縦横に、 筋の角はひろびろと白く積もった中を、
道のほど八丁ばかりで、とある軒下にたどり着いたのが名座支の香取屋。
床にも座敷にも飾りといってはないが、柱立ちの見事な畳の硬い、炉の大いなる、
地材鍵の濃いは、鱗が黄金づくりであるかと思われる艶を持った素晴らしいヘッツイを二つ並べて、
一戸飯は炊けそうな目覚ましい釜のかかった古い家で。 邸主は放年頭。
木綿の筒袖の中へ両手の先をすくまして火鉢の前でも手を出さぬ、ぬーとした親父。
両母のほうは愛嬌のあるちょっと世知のいい婆さん。 九段の人参と官票の話を旅僧が打ち出すと、
にこにこ笑いながら、ちりめんの蛇骨とカレーの干物と、とろろ昆布の味噌汁とで善を出した。
物の言いぶり、鳥なしなんど、いかにも商人とは別婚の間と見えて、 連れの私の居心のいいと言ったらない。
やがて二階に寝床をこしらえてくれた。 天井は低いが、突っ張りは丸太で二抱えもあろう。
矢の棟から斜めに向かって座敷の果ての日差しのところでは頭に使えそうになっている。 頑丈な矢作り。これなら裏の山からなだれが来てもびくともせぬ。
特にこたつができていたから私はそのまま嬉しく入った。 寝床はもう一組同じこたつに敷いてやったが、
旅僧はこれには来たらず横に枕を並べて日のけのない寝床に寝た。 寝るとき商人は帯を解かぬ。もちろん衣服も脱がぬ。
奇妙な体験の語り
着たまま丸くなってうつむきなりに腰からすっぽり入って肩に矢具の袖をかけると手をついてかしこまった。 その様子は我々と反対で顔に枕をするのである。
ほどなくひっそりとして寝につきそうだから汽車の中でもくれぐれ言ったのはここのこと。 私は夜が更けるまで寝ることができない。
哀れと思ってもうしばらく付き合って、そして諸国をあんぎゃなすったうちの面白い話を、と言って打ち解けて幼らしく寝立った。
すると商人はうなずいて、私は中年から仰向けに枕につかぬのが癖で寝るにもこのままではあるけれども、 目はまだなかなか冴えている。
急に寝つかれないのはお前様と同じであろう。 出家の言うことでも、教えだのいましめだの、説法とばかりは限らぬ。 若いの聞かっしゃい、と言って語り出した。
あとで聞くと、修文名誉の説教師で陸民寺の首長という大和尚であったそうな。 3
今にもう一人ここへ来て寝るそうじゃが、お前様と同国じゃの。 若さのもので塗り物の旅やきんど。
いや、この男なぞは若いが関心にじっていない良い男。 私が今話の序開きをしたその日田の山越えをやったときの、
ふもとの茶屋で一緒になった富山の薬売りという奴は、 気体の悪いねじねじした嫌な若いもんで、まずこれから峠にかからうという日の朝早く、
もっとも千の止まりはものの三時ぐらいにはたってきたので、涼しいうちに六里ばかり。 その茶屋まで乗したのじゃが、朝晴れでじりじり暑いわ。
欲張りぬいて大急ぎで歩いたから、のどが渇いてしようがあるまい。 さっそく茶を飲もうと思ったが、まだ湯が沸いておらぬという。
どうしてその自分じゃからと言うて、めったに人通りのない山道、 朝顔の冴えているうちに煙が立つ通りもなし。
将棋の前には冷たそうな小流れがあったから、 手桶の水を汲もうとしてちょいと気がついた。
それというのが、時節から暑さのため恐ろしい病が流行って、 酒に通った辻などという村は殻一面に石灰だらけじゃあるまいか。
もし、姉さん、と言って茶店の女に、 この水は、これは井戸のでござりますか?と決まりもあるし、文字文字聞くとの、
いんね、川野でございます。という、はて、面容なと思った。 山下の方にはだいぶ流行り病がございますが、この水は何から、辻の方から流れてくるのではありませんか?
ううん、そうでね。 と女は何気なく答えた。
まず嬉しいやと思うと、お聞きなさいよ。 ここにいて、さっきから休んでござったのが、右の薬売りじゃ。
この又、万錦炭の下回りと来た日には、ご存じの通り、 扇筋の一重に小倉の帯、当節は時計を挟んでいます。
脚半、尾引き、これはもちろん藁仕掛け、 千草木綿の風呂敷包みの角張ったのを首に加えて、
桃油がっぱを小さくたたんで、こいつを真田紐で右の包みにつけるか、 古弁系の木綿のコウモリ傘を一本。お決まりだね。
ちょいと見ると、いやどれもこれも国名で、分別のありそうな顔をして、 これが止まりにつくと、大方の浴衣に代わって、帯広げで焼酎をちびりちびりやりながら、
鳩小屋の女の太った膝へスネをあげようというやがらじゃ。 これは崩壊棒?なんて頭から舐めていらん。
大人ごと言うようだが、何かね、世の中の女ができねえと相場が決まって、 スペラ坊主になってやっぱり命は欲しいのかね。
不思議じゃねえか。争われねえもんだ。 姉さん見ねえ。あれでまだ未練のある家がいいじゃねえか。
と言って顔を見合わせて二人でカラカラと笑った。 年は若し。お前さん、わしは真っ赤になった。
手に汲んだ川の水を飲みかねて躊躇っているとね。 ポンと着せろをはたいて、何遠慮しねえで浴びるほどやんだぜ。
命が危なくなりゃ薬をやらあ。そのために私がついてるんだぜ。 なあ姉さんおい、それだってもただじゃいけねえよ。
はわかりながら辛抱満錦炭。一錠三百だ。欲しくばかりな。 まだ坊主に放射をするような罪は作らねえ。
と言ってもどうだ。お前、言うことを聞くか。 と言って茶店の女の背中を叩いた。
私は早々に逃げ出した。 いや膝だの。女の背中なのと言って、生け年をつかまつった和尚が行邸でおそるいるが、
話が話じゃからそこはよろしく。 四
私も腹立ち紛れじゃ。うやみと急いで、それからどんどん山の裾を田んぼ道へかかる。 半丁ばかり行くと道がこう急に高くなって、
上りが一箇所。横からよく見えた弓なりで、まるで土で直し橋がかかっているような。 上を見ながらこれへ足を踏みかけたとき、以前の薬売りがスタスタやってきて追いついたが。
別に言葉も交わさず、また物を言ったからと言って返事をする気はこっちにもない。 どこまでも人をしのいだ仕打ちな薬売りは尻目にかけてわざとらしい和紙を通り越して、
山への旅の始まり
スタスタ前へ出てぬっと小山のような道の突先へコウモリ傘をさして立ったが、そのまま向こうへ降りて見えなくなる。
その後からつま先上がり。やがてまた太鼓の銅のような炉の上へ体が乗った。 それなりにまた下りじゃ。
薬売りは先へ降りたが、立ち止まってしきりに辺りを見回している様子。 執念深く何かたくんだかと心よからず続いたが、さてよく見ると司祭があるわい。
道はここで二筋になって、一畳はこれからすぐに坂になって上りも急なり、 草も両方から追い茂ったのが道端のその角のところにある、
それこそ四かかえ、そうさな、五かかえ回ろうという一本のヒノキの後ろへうねって切り出したような大岩が二つ三つ四つと並んで上の方へ重なってその背後へ通じているが、
わしが見当をつけて心組んだのはこっちではないので、やっぱり今まで歩いてきたその幅の広いなだらかな方がまさしく本道。
あと二里たらず行けば山になってそれからが峠になるはず。 と見るとどうしたことかさ、今言うそのヒノキじゃが、そこいらに何にもない道を横切って見果てのつかぬ田んぼの中揃え、
虹のように突き出ている。見事な。 根形のところの土が崩れて大うなぎをこねたような根が、いく筋ともなく現れたその根から、
一筋の水が殺到して地の上へ流れるのが通って進もうとする道の真ん中に流れ出してあたりは一面。
田んぼが湖にならぬが不思議で堂々と背になって行く手の人村に矢部が見える。 それを坂にしておよそ二丁ばかりの間まるで川じゃ。
小石はばらばら。 飛び石のようにひょいひょいと大股で伝えそうにずっと見応えのあるのが、それでも人の手で並べたに違いはない。
もっとも着物を脱いで渡るほどの大ごとなのではないが、本海道にはちと難儀すぎて、なかなか馬などが歩かれるわけのものではないので。
くすり寄りもこれで迷ったのであろうと思ううち、気に離れよく向きを変えて右の坂をスタスタと登り始めた。
見る間にヒノキを後ろにくぐり抜けると、私は体の上あたりで出て下を向き。 おいおい松本へ出る道はこっちだよと言って無造作にまた五六歩。
岩の頭や半身を乗り出して、ぼんやりしてると子供がさらうぜ。 気にまだってよしゃあねえよとあざけるが如く言い捨てたが、やがて岩の陰に入って高いところの草に隠れた。
しばらくすると三宅路報道のあたりへコウモリがその先が出たが、木の枝とすれすれになって茂みの中に見えなくなった。
どっこいしょとのんきな掛け声でその流れの石の上をとびとびに伝ってきたのは、御座の尻当てをした何にもつけない天秤棒を片手で担いだ百姓じゃ。
5 さっきの茶店からここへ来るまで薬よりの他は誰にも会わなんだことは申し上げるまでもない。
今、わかり際に声をかけられたので、向うは道中の空き陰道と見ただけに、まさかと思っても気迷いがするので、けさも立ち際によく見てきた。
前にも申すその図面をな。ここでも開いてみようとしていたところ。 ちょいとお伺い等存じますが、
これは何でござりませる。と山国の人などは、ことに出家と見ると丁寧に言ってくれる。 ああいえ、お伺い申しますまでもございませんが、道はやっぱりこれをまっすぐにまえるのでございましょうな。
松本栄かしゃる? ああ、本道やね。なんね、この間の梅雨に水が出て、とてつもない川沢できたでがすよ。
まだずっとどこまでもこの水でございましょうか。 なんのお前さま、見たばかりじゃ。わけはござりません。
水になったのは向うのあの矢部までで、あとはやっぱりこれと同じ道筋で山までは荷車が並んで通るでがす。
矢部のあるのは、もと大きいお屋敷の医者さまの後でな。 ここへらはこれでも一つの村でがした。
十三年前の大水の時から一面に野良になりましたよ。 人死にもいけえこと。
ご坊さま、歩きながらお念仏でも備えてやってくれさっしゃい。 と問わぬことまで親切に話します。
それでよく司祭がわかって確かになりはなったけれども、現に一人踏み迷ったものがある。
こちらの道はこれはどこへ行くので。 と言って薬売りの入ったゆんでの坂を訪ねてみた。
はい、これは五十年ばかり前までは人が歩いた宮堂でがす。 やっぱり新宿へ出まする。
先は一つで七里ばかり総体地区をござりますが、 いや今時往来のできるのじゃござりません。
去年もご坊さま、親子連れの巡礼が間違えて入ったというで、 晴れ大変な小敷を見たようなものじゃと言うて、
人命に代わりはね、追っかけて助けべ。 と、お巡りさまが三人、村の者が十二人、一組になってこれから押しのぼってやっと連れ戻ったぐらいでがす。
ご坊さまも激に流行って近道をしてはなりましねえぞ。 くたびれて野宿をしてからがここを行かっしゃるよりはましでござるに。
はい、気をつけて行かっしゃれ。 ここで百姓に分かれてその川の石の上を行こうとしたが、ふとためらったのは薬売りの実の上で。
まさかに聞いだほどでもあるまいが、それが本当ならば見殺しじゃ。 どのみちわしは出家のからだ。
日が暮れるまでに宿へ着いて屋根の下に寝るには及ばぬ。 おっついて引き戻してやろう。
まかりちごうて宮堂をみな歩いても血臭はあるまい。 こういう時効じゃ、狼の旬でもなく、地味猛猟の正先でもない。
ままよ、と思うて見送ると早、親切な百姓の姿も見えぬ。 よし。
出会いと交流
思いきって坂道をとってかかった。 男気があったのではござらぬ。 決気に流行ったのでは、もとよりない。
いま申したようではずっともう誘ったようじゃが、いや、なかなかの臆病者。 川の水を飲むのさえ気が引けたほどの命が大事で、なぜまたと言わしゃるか。
ただ挨拶をしたばかりの男なら、わしは実のところうっちゃっておいたに違いはないが、 心よからぬ人と思ったから、そのままで見捨てるのがわざとするようで、気がせめてならなんだから。
都州町はやはりうつむけに、床に入ったまま合掌して行った。 それでは口でいう念仏にもすまぬと思うでさ。
6 さて聞かっしゃい。わしはそれから檜の裏を抜けた。
岩の下から岩の上へ出た。 木の中をくぐって草深い小道をどこまでもどこまでも。
するといつの間にか、いま登った山は過ぎて、また一つ山が近づいてきた。 このあたりしばらく間は野が広々として、
さっき通った本海道よりもっと幅の広いなだらかな一筋道。 心持ち西と東と真ん中に山を一つ置いて二筋並んだ道のような、
いかさまこれならば槍を立てても行列が通ったであろう。 この広場でも目の及ぶ限り消し粒ほどの大きさの薬売りの姿も見ないで、
時々焼けるような空を小さな虫が飛び歩いた。 歩くにはこの方が心細い。
あたりがぱっとしていると頼りがないよ。 もちろん日田越えと目を打った日には七里に一軒、十里に五軒という相場。
そこで青の飯にありつけば都合も上の方ということになっております。 それを覚悟の上で足は騒々に達者。
いや屈折に澄んだ澄んだ。するとだんだん山が両方から迫ってきて、肩に使えそうの狭いとこになった。すぐに登り。
さあこれからが七井の天島峠と心得たから、こっちもその気になって、何しろ暑いので、 歩きながらまずわらじの紐を締め直した。
ちょうどこの登り口の辺に美濃の連大寺の本堂の床下まで吹き抜けの風穴があるということを年経ってから聞きましたが、なかなかそこどころの沙汰ではない。
一生懸命景色も奇跡もあるものかい。お天気さえ晴れたか曇ったか訳がわからず、目白ぎもしないでスタスタとこねて登る。
と、お前さまはお聞かせ申す話はこれからじゃが、最初に申すとおり道がいかにも荒れ、まるで人が通いそうでない上に恐ろしいのは蛇で。
両方の草むらに尾と頭とを突っ込んでのたりと橋を渡しているではあるまいか。
わしは真っ先にデックをしたときは傘をかぶって竹杖をついたまま、はっと息をひいて膝を折って座ったて。
いやもう聖徳大嫌い、嫌いというより怖いのでな。
そのときはまず人助けにずるずると尾を引いて、向うで鎌首をあげたと思うと草をさらさらと渡った。
ようよう起き上がって道の五六丁も行くと、また同じようにどんな皮を乾かして尾も首も見えぬのがぬたり。
あっと言って飛び乗りたがそれも隠れた。
三度目に出会ったのが、野球には動かずしかも胴体の太さ。
たとえ這い出したところでぬらぬらとやられて、およそ五分間ぐらい尾を出すまでに間があろうと思う長虫と見えたので、やむを断えずわしはまたぎ越した。
途端に下っ腹が突っ張ってぞっと身の毛、毛穴が残らず鱗に変わって、顔の色もその蛇のようになったろうと目を塞えたくらい。
しぼるような冷や汗になる気味の悪さ。
足がすくんだと言うて立っていられる数ではないから、びくびくしながら道を急ぐとまたしてもいたよ。
しかも今度は半分にひっきってある胴からおわかりの虫じゃ。
切り口が青身をびて、そこでこう黄色な汁が流れてぴくぴくと動いたわ。
我を忘れてばらばらと後へ逃げ帰ったが、気がつけば例のがまだいるであろう。
たとえ殺されるまでも二度とあれをまたぐ気はせぬ。
ああ、さっきの百姓が、ものの間違いでも古道には蛇が来うと言ってくれたら、地獄へ落ちても来なかったにと照りつけられて涙が流れた。
らむあみだぶつ、いまでもぞっとする。
と額に手を。
七
果てしがないから気もおせえた。もとより引き返す分ではない。
もとのところにはやっぱりじょうたらずのむくろがある。
遠くへさけて草の中へ駆け抜けたが、いまにもあとの半分がまといできそうでたまらぬから、気をくれがして足がすじばると石につまずいてころんだ。
そのときひざぶしを痛めましたものとみえる。
それからがくがくして歩くのが少し難重になったけれども、ここで倒れてはうんきでむしころされるばかりじゃと、わがみでわがみをはげまして首すじをとって引き立てるようにして峠のほうへ。
なにしろ道端のくさい切れが恐ろしい。大鳥の卵みたいなものなんぞ足もとにごろごろしているしげりやんばい。
また、にりばかりおろしのうねるような坂を山ぶところにつきあたって岩かどうまがって木の根をめぐってまいったが、ここのことであまりのみしじゃったから、さんぼう本部の絵図面をひらいてみました。
なに、やっぱり道はおんなじで、聞いたにも見たにもかわりはない。
きゅうどうはこちらにそういわないから、こころやりにもなんにもならず、もとよりれっきとした図面というて、かいてある道はただ栗のいがの上へ赤いすじがひっぱってあるばかり。
なんぎさも、へびも、けむしも、とりのたまごも、くさい切れも、しるしてあるはずないのじゃから、さっぱりとたたんでふところへいれて、うむとこのちちの下へねんぶつをとないこんで立ち直ったわよいが、いきもひかぬうちになさけないなかむしが道を切った。
そこでもう、しょせんかなわぬと思ったなり、これはこの山の例であろうと考えて、杖をすてて膝をまげ、じりじりする土に両手をついて、まことにすいませんが、お通しいなすってくださりまし、なるたけひるねのじゃまになりませぬようにぞっと通行いたしませる。
ごらんなとおり杖もすてました。
自然と神秘の体験
と、がおれ、しみじみとたのんで額をあげると、ざっというすさまじい音で、
こころもちよほるの台じゃと思った。
三尺、四尺、五尺四方、一錠よ。
だんだんと草の動くのがひろがって、かたえの谷へ一文字にさっとなびいた。
はては峰も山もいっせいにゆらいだ。
おぞげをふるって立ちすくむと、すずしさに身がしみて、きがつくと山おろしよ。
このおりからきこえはじめたのは、どっというこだものつたわるひびき。
ちょうど山のおくにかぜがうずまいて、そこからふきおこる、あながあいたようにかんじられる。
なにしろさんれい、かんのあったか、へびはみえなくなり、あつさもしのぎよくなったので、きもいさみ、あしもはかどったが、ほどなくきゅうにかぜがつめたくなったりゆうをえとくすることができた。
というのは、めのまえにだいしんりんがあらわれたので。
よのたとえにも、あもうとうげはあおぞらにあめがふるという。
ひとのはなしにも、かみよからそまがてをいれぬもりがあるときひいたのに、いままではあまりきがなさすぎた。
こんどはへびのかわりにかにがあるきそうでわらじがひえた。
しぶらくするとくらくなった。
すぎ、まつ、えのきと、ところどころみやきができるばかりに、とおいところからかすかにひのひかりのさすあたりでは、つちのいろがみなくろい。
なかにはこうせんがもりをいとおすぐあいであろう。
あおだのあかだの、ひだがいってうずくしいところがあった。
ときどきつまさきにからまるのは、はのしずくのおちたまったいとのようなながれで。
これはえだをうってたかいところをはしるので、ともするとまたときわぎがらくようする。
奇妙な出会い
なんのきともしれずばらばらとなり、かさかさとおとがわして、ぱっとひのきがさにかかることもある。
あるいは、いきすぎてうしろへこぼれるのもある。
それらはえだからえだにたまっていて、なんじゅうねんぶりではじめてちのうえまでおちるのかわからん。
8.
こころぼそさはもうすまでもなかったが、ひきょうなようでもしゅぎょうのつまのみには、こういうくらいところのほうがかえってかんねんにたよりがよい。
なにしろ、からだがしのぎよくなったためにあしのようありもわすれたので、みちもおおきにはかどって、まずこれで七分はもりのなかをこしたろうと思うところで、
5.6尺あたまのうえらしかったきのえだからぼたりとかさのうえをちたまったものがある。
7.
なまりのおもりかと思うこころもち。
なにかきのみででもあるかしらんと、にさんとふってみたが、くっついていてそのままにはとれないから、なにこころなくてをやってつかむと、なめらかにひやりときた。
みると、なまこをさえたようなめもくちもないもんじゃが、どうぶつにはちがいない。
うぎみでなげだそうとすると、ずるずるとすべってゆびのさきへすいついてぶらりとさがった。
そのはなれたゆびのさきから、まっかなうつくしいちがたらたらとでたから、びっくりしてめのしたえゆびをつけてじっとみると、いまおりまげたひじのところへつるりとたれかかっているのは、おなじかたちをした、はばがあごぶ、たけがさんすんばかりのやまなまこ。
あっけにとられてみるみるうちに、したのほうからちじみながらぶくぶくとふとっていくのは、ゆきちをしたたかにすいこむせいで、にごったくろいなめらかなはらに、ちゃかっしょくのしまをもった、いぼきゅうりのようなちをとるどうぶつ。こいつはひるじゃや。
たがめにもみちがえるものでもないが、ずぬけてあまりおおきいから、ちょっとはきがつかぬのであった。
なんのはたけでも、どんなりれきのあるぬまでも、このくらいのひるはあろうとはおもわれん。
ひじをばさいとふるったけれども、よくくいこんだとみえてなかなかはなれそうにしないから、ぶきみながらてでつまんでひきちぎると、ぶつりといってようようとれる。
しばらくもたまったものではない。いきなりとってだいちへたたきつけると、これほどのやつらがなんまんとなくすをくって、わがものにしていようというところ。
かねてそのようはしているとおもわれるばかり、ひのあたらぬもりのなかのつちはやわらかい。つぶれそうにもないのじゃ。
ともはや、えりのあたりがむずむずしてきた。ひらてでこいてみると、よこなれにひるのせなをぬるぬるとすべるという。
いや、ちちのしたへひそんで、おびのあいだにもいっぴき。あおくなってそっとみると、かたのうえにもひとすじ。
おもわずとびあがってそうしんをふるいながら、このおえだのしたをいっさんにかけぬけて、はしりながら、まずこころをおぼえのやつだけはむちゅうでもぎとった。
なんにしてもおそろしい。いまのえだにはひるがなっているのであろうとあまりのことにおもってふりかえると、みかえったきのなんのえだかしらず、やっぱりいくつということもないひるのかわじゃ。
これはと思う。みぎもひだりも、まえのえだも、なんのことはない。まるでいっぱい。
わしはおもわずきょうふのこえをたててさけんだ。するとなんと、このときはめにみえて、うえからぼたりぼたりと、まっ黒なやせたすじのはいったあめがからだへふりかかってきたではないか。
わらじをはいたあしのこえもおちたうえへまたかたなり、ねらんだわきへまたくっついてつまさきもわからなくなった。
そうして、いきていると思うだけでみやくをうってちをすうような、おもいなしかひとつひとつのびちじみをするようなのをみるからきがとうくなって、そのときふしぎなかんがえがおきた。
このおそろしいやまびるは、かみおのいにしえからここにたむろうをしていて、ひとのくるのをまちうけて、ながいひさしいあいだにどのくらい、なんごくかのちをすうと、そこでこのむしののぞみがかなう。
そのときはありったけのひるがのこらず、すっただけのにんげんのちをはきだすと、それがためにつちがとけて、やまひとつ、いちめんにちとどろとのおおぬまにかわるであろう。
それとぞうじにここにひのひかりをさぎって、ひるもなおくらいたいぶくがきれぎれにひとつひとつひるになってしまうのにそういないと。いや、まったくのことで。
恐怖の森
9
およそにんげんがほろびるのは、ちきゅうのうすかわがやぶれて、そらからひがくるのでもなければ、おおみがおっかぶさるのでもない。
ひらのくにのきばやしがひるになるのがさいしゅで、しまいにはみんな、ちとどろのなかにすじぐろいむしがおよぐ。それがだいがわりのせかいであろうとぼんやり。
なるほどこのもりも、いりぐちではなんのこともなかったのに、なかへくるとこのとおり。もっとおくぶかくすすんだら、はやのこらず、たちきのねのほうからくちてやまびるになっていよう、たすかるまい。
ここでとりころされるいんねんらしい。とりとめのないかんがいがうかんだのも、ひとがちしごにちかづいたからとふときがついた。
どのみちしぬるまもならひとあしでもまえへすすんで、せけんのものがゆめにもしらぬちとどろのおおぬまのかたはしでもみておこうと。そうかくごがきまっては、きみのわるいもなにもあったものじゃない。
からだじゅうじゅずなりになったのを、てあたりしだいにかにのけ、むしりすて、ぬきとりなどして、てをあげ、あしをふんで、まるでおどりくるうかたちであるきだした。
はじめのうちはひとまわりもふとったようにおもわれてかゆさがたまらなかったが、しまいにはげっそりやせたとかんじられてずきずきいたんでならん。
そのうえをようしゃなくあるくうちにもいりまじりにおそいおった。
すでにめもくらんでたおれそうになると、わざわえはこのへんがぜっちょうであったとみえて、とんねるをぬけたようにはるかにいちりんのかされたすきをおごんだのは、ひるのはやしのでぐちなので。
いや、あおぞらのしたへでたときにはなんのこともわすれて、くだけろ、みじんになれと、よこなぐりにからだをやまじでうちたおした。
それでからもうじゃりでもはりでもあれとつちへこそりつけて、とうあまりもひるのしがいをひっくりかえしたうえから、ごろけんむこうへとんでみぶるいをしてつったった。
ひとをばかにしているではありませんか。あたりのやまではところどころひぐらしどの。
ちとどろのおおのまになろうというもりをひかえてないている。ひはななめ、たにそこはもうくらい。
まずこれならばおおかみのえじきになってもそれはひと思いにしなれるかあと、みちはちょうどだらだらおりなり、こぞうさん、ちょうしはずれにたけのつえをかたにかついですたこらにげたわ。
これでひるになやまされていたいのかかゆいのかそれともくすぐったいのかえもいわれぬくるしみさえなかったら、うれしさにひとりひだやまごえのかんどうでおきょうにふしをつけてげどうおどりをやったであろう。
ちょっとせいしんたんでもかみくらいてきずぐちへつけたらどうだと、だいぶよなかのことがきがついてきたわ。
つねってもたしかにいきかえったのじゃが、それにしてもとやものくすりよりはどうしたろう。あのようすではとうにちになってどろぬまに。
かわばかりのしがいはもりのなかのくらいところ、おまけにいじのきたないげすなどうぶつがほねまでしゃぶろうとなんびょくというかずでのしかかっていたひには、すをうちまけてもわかるきづかいはあるまい。
こうおもっているあいだ、くだんのだらだら坂はだいぶなかかった。それをくだりきるとながれがきこえて、とんだところにながさいっけんばかりのどばしがかかっている。
人間と自然の関わり
はやその谷川のおとをきくと、わがみでもてあますひるのすいがらをまっさかさまになげこんで、みずにひたしたらさぞいいここちであろうと思うくらい、なんのわたりかけてこわれたらそれなりけり。
あぶないと思わずにずっとかかる。すこしぐらぐらしたがなんなくこした。むこうからまた坂じゃ。こんどはのぼりさ。ごくろうせんばん。
十
とてもこのつかれようでは、坂をのぼるわけにはいくまいと思ったが、ふとゆくてにひいいんとうまのいななくのがこだましてきこえた。
孫がもどるのか、子にだがとおるか。けさひとりの百姓にわかれてから時のたったはわずかじゃが、三年も五年もおなじものをいう人間とはなかをへだてた。
馬がいるようでは、ともかくもひとざとに縁があると。これがためにきがいさんで、ええやっといまひともび。
一軒の山がの前へ来たのには、さまで難儀はかんじなかった。
夏のことで途上紙のしまりもせず、ことに一軒や、あけひらいたなりもんというてもない。いきなりやれえになって男がひとり、わしはもうなんの見さかえもなく、たのみます、たのみます、というさえたすけをよぶようなちょうしで、とりすがらぬばかりにした。
ごめんなさいまし、といったがものもいわない。
くびすじをぐったりと、みみをかたでふさぐほど顔をよこにしたまま、こどもらしい、いみのない、しかもぼっちりした目でじろじろと門に立ったものをみつめる。
そのひとみをうごかすさえおっくうらしい、きのぬけた身のもちかた。
すそみじかで、そではひじよりすくない、のりけのあるちゃんちゃんを着て、むねのあたりでひもでゆわえたが、ひとつみのものを着たようにでっぱらのふとりじし、たいこをはったくらいにすべすべとふくれて、しかもでべぞというやつ。
かぼちゃのへたほどないぎょうなものをかたてでいじくりながら、ゆうれいのてつきでかたてをちゅうにぶらり。
あしはわすれたか。なげだしたこしがなけば、のれんをたてたようにたたまれそうな、としがそれでいてにじゅえにいさん。
くしをあんぐりやった。うわくちびるでまるめこめよう、はなのひくさ。でびたい。
ごぶかりののびたのが、まえはとさかのごとくになって、えりやしへはねてみみにかぶさった、おしか、ばかか。これからかえるになろうとするようなしょうねん。わしはおどろいた。
こっちのせいめいにべつじょうはないが、さきさまのぎょうそう、いや、おおべつじょう。
ちょいと、おねがい申します。
それでもしかたがないから、またことばをかけたが、すこしもつずれず。ばたりというと、わずかにくびのいちをかえて、こんどはひどりのことをまくらにした。
くちのひらいていることをもとのごとし。
こういうのは、わるくすると、いきなりふんづかまえて、へそをひねりながら、へんじのかわりになめようもしれぬ。
わしはひとあしすさったが、
いかにふかやまだといっても、これをひとりでおくというほうはあるまい。
と、あしをつまだてて、すこしこわだかに。
どなたぞ。
ごめんなさい。
といった。
せどと思うあたりで、ふたたびうまのいななくこえ。
どなた?
と、なんどのほうでいったのは、おんなじゃから。
なむさんぽう、このしろいくびにはうろこがはえて、からだはゆかをはって、おをずるずるとひいてでようと、またすさった。
おお、おぼうさま。
と、たちあらわれたのは、こづくりのうつくしい。
こえもすずしい。
ものやさしい。
わしはおおいきをついて、なにもよわず。
はい。
と、つむりをさげましたよ。
おんなはひざをついてすわったが、まえへのびあがるようにして、たそがりにしょんぼりたったわしが、すがとをすかしてみて、
なにかようでございますかい?
やすめともいわず、はじめからやどのつねをわるすらしい。
ひとをとめないときめたもののようにみえる。
いいおくれては、かえってでそびれて、たのむにもたのまれぬしぎにもなることと、つかつかとまえへでた。
ていねいにこしをかがめて、
わしはさんえつでしんしゅうへまいりますものですが、はたかのございますところまでは、まだどのくらいでございましょう?
じゅういち
あなたまだはちりあまりでございますよ。
そう、そのほかにべつにとめてくれますうちもないのでしょうか?
それはございません。
といいながら、またたきもしないですずしいめでわしのかおをつくずくみていた。
いいえ、もうなんでございます。
じつは、このさきいっちをいけ。
そうすれば、じょうだんのへやにねかして、ひとばんあおいでいて、それでくどくのためにするいえがある。
とうけたまありましても、まったくのところひとあしもあるけますものではございません。
どこのものおきでも、うまごやのすみでもよいのでございますから、ごしょうでございます。
とさっきうまがいなないたのは、ここよりほかにはないと思ったからいった。
おんなはしばらくかんがえていたが、
ふとわきをむいてぬどのふくろをとって、ひざのあたりにおいたおきのなかへざらざらとひとはば、
旅の始まり
みずをこぼすようにあけてふちをおさえて、てですくってうつむいてみたが、
ああ、おとめ申しましょう。
ちょうどたいてあげますほどおこめもございますから。
それに、なつのことで、
やまがはひえましても、よるのものにごふじゆうもございますまい。
さあ、とむかくもあなた、おあがりあさばして。
というと、ことばのきれのさきにどっかとこしをおとした。
おんなは、はっとみをおこしてたってきて、
おぼうさま、それでございますが、ちょっとおことわり申しておかねばなりません。
はっきりいわれたので、わしはびくびくもので、
はい、はい。
いいえ、べつのことじゃございませんが。
わたくしは、くせとしてみやこのはなしをきくのがやまいでございます。
くちにふたをしておいでなさいましても、むりあいにきこうといたしますが、
あなた、わされてもそのとききかしてくださいますな。
ようございますかい。
わたしはむりにおたずね申します。
あなたはどうしてもおはなしなさいません。
それをぜひにと申しましても、たっておっしゃらないようにきっとねんをいれておきますよ。
と、しさいありげなことをいった。
やまの高さも谷の深さも、そこのしれない一軒家の女のことばとは思うたが、
たもつにむずかしいかいでもなし、わしはただうなずくばかり。
はい、よろしいございます。なにごともおっしゃりつけはそむきますまい。
女はごんかにうちとけて、
さあさあ、きたのございますが早くこちらへ。おくつろぎなさいまし。
そして、おせんそくをあげましょうかえ。
ああ、いえ、それにはおよびません。ぞうきんをおかしくださいまし。
ああ、それから、もしそのおぞうきんついでにずっぷりおしぼんなすってくださるとたすかります。
とちゅうでたいへんなめにあいましたので、からだをうっちゃりたいほどきみがわるうございますので、
ひとつせなかをふこうと存じますが、おそれいりますな。
そう、あせにおなさりなさいました。
さあぞ、まあおあつうございましたでしょう。おまちなさいまし。
はたごえをつきあそばしてゆにおはいりなさいますのが、たびするおかたには、なによりごつそうだと申しますね。
ゆどころか、おちゃさえろくにおもてなしもいたされませんが、
あの、このうらのがけをくだりますときれいなながれがございますから、
いっそそれへいらっしゃっておながしがよろしいございましょう。
きいただけでもとんでいきたい。
うう、それはなによりけっこうでございますな。
さあ、それではごあんない申しましょう。
どれ、ちょうどわたしもこめをとぎにまいります。
と、くだんのおけをこわきにかかえて、えんがわからわらぞおりをはいてでたが、
かがんでいたえんのしたをのぞいて、ひきだしたのはいっそくのふるげたで、
かちりとあわしてほこりをはたえてそろえてくれた。
おはぎなさいまし。わらじはここでおおきなすって。
わしはてをあげていちれいして、おそれいります。
おそれいります。これはどうも。
おとめもうすとなりましたら、
あの、たしょうのえんとやらでございます。
あなた、ごえんりをあそばしますなよ。
まず、おそろしくちょうしがいいじゃて。
じゅうに
さあ、わたしについてこちらへ。
と、くだんのこめとぎをけをひっかかえて、
てぬぐいをほさいおびにはさんでたった。
かみはふっさいとするのをたまねてな。
くしをはさんでかんざしでとめている。
そのすがたのよさというてはなかった。
わしもてばやくぞおりをといたから、
さっそくふるげたをちょうだいして、
えんからたつときちょいとみると、
それ、れいのばかどのじゃ。
おなじくわしがかたをじろりとみたっけよ。
したたらずがしゃべるようなぐにもつかぬこえをだして、
ねえや、こえ、こえ、
といいながらけだるそうにてをもちあげて、
そのぼうぼうとはいたあたまをなでた。
ぼうさま?ぼうさま?
するとおんながしもぶくれなかおにえくぶをぎざんで、
みっつばかりはきはきとつづけてうなずいた。
しょうねんは、うむといったが、
ぐたいとしてまたへそうをくりくりくり。
わしはあまりきのどくさにかおもあげられないでそっとぬすむようにしてみると、
おんなはなにごともべつにきにかけてはおらぬようす。
そのままあとへついているようとするとき、
あじさいのはなのかげからぬいとでたいちめいのおやじがある。
せどからまわってきたらしい。
わらじをはいたなりでどうらんのねつけをひもなかにぶらりとさげ、
くわえぎせるをしながらならんでたちのまった。
おしょうさまおいでなさい。
おんなはそなたをふりむいて、
おじさまどうでございました?
そればそのとんまでまのぬけたというのはあのことかい。
ねっからはやぎつねでなければのせえそうにもないやつじゃが、
そこはおらがくちじゃ。
うまくなこうとしてふたつきやみつきは、
おじょうさまがごふじゆうのねえようにあすはものにして、
うんとここへかついこみます。
おたのみ申しますよ。
しょうちしょうち。
おお、じょうさまはどこさへいかっしゃる?
がけのみずまでちょいと。
わかいぼうさまされてかわいおっこちさっしゃるな。
おらここにがんばってまっとるに。
と、よこさまにえんにのさり。
あなた、あんなことを申しますよ。
と、かおをみてほほえんだ。
ひとりでまいりましょう。
と、わきえのくと、おやじはくっくとわらって、
はははは、さあ、はやくいってござがっせ。
おじさま、きょうはおまえめずらしいおきゃくがおふたかたござんした。
こういうときはあとからまたみえようもしれません。
じろうさんばかりではきたものがよわんなさろう。
わたしがかえるまでそこにやすんでいておくれでないか。
いいとものう。
と、いかけて、おやじはしょうねんのそばへにじりよって、
かなてこをみたようなこぶしですなかをどんとくらわした。
ばかのはらはだぶりとして、べそをかくようなくちづきでにやいとわらう。
わしはぞっとしておもてをそむけたが、おんなはなにげないていであった。
おやじはおおぐちをひらいて、
るすに、おらがこのていしをのせむぞよ。
はい、ならばてがらでございます。
さあ、あなた、まいりましょうか。
うしろからおやじがみるようにおもったが、
みちびかるるままにかべについて、かのあじさいのあるかたではない。
やがてすとと思うところで、ひだりにうまごやをみた。
ことことというおとははめをけるのであろう。
もうそのへんからうすぐらくなってくる。
あなた、ここからおりるのでございます。
すべりはいたしませんが、みちがひどうございますから、おしずかに。
じゅうさん
そこからおりるのだとおもわれる。
まつのきのほそくって、どはずれにせのたかい。
ひょろひょろした、およそごろっけんうえまでは、こえだひとつもないのがある。
そのなかをくぐったが、あおぐことこぜにでてしろい。
つきのかたちは、ここでもべつにかわりはなかった。
うきよは、どこにあるかじゅうさんよで。
さきへたったおんなのすがたがめさきをはなたれたから、
まつのびきにつかまってのぞくと、ついしたにいた。
あおむいて
きゅうにひくくなりますから、きをつけて。
これ、あなたには、あしだではむりでございましたかしら。
よろしくばぞおりと、おとりかえ申しましょう。
たちおくれたのを、あるきなやんだとさすじたようす。
なにがさて、ころげおちても、はやくいって、ひるのあかをおとしたさ。
なに、いけませんければ、はだしになりますぶんのこと。
どうぞ、おかまいなく。
じょうさまに、ごしんぱいをかけては、すみません。
あれ、じょうさまって。
と、ややちょうしをたかめて、あでやかにわらった。
うーん、はい。
たたいま、あのじいさんが、さようを申したようにぞんじますが、
おくさまでございますか。
なにしても、あなたには、おばさんくらいなとしですよ。
まあ、おはやくいらっしゃい。
ぞれもようございますけれど、とげがささりますと、いけません。
それにじくじくぬれていて、おきみがわるうございましょうから。
と、むこうむきでいいながら、きもののかたつまをぐいとあげた。
自然との対話
ましろうなのが、やみまきで、あるくとしもがきえてゆくような。
ずんずんずんずんと、みちをおりる。
かたわらのくさむらから、のさのさとでたのは、ひきで。
あれ、きみがわるいよ。
そういうと、おんなは、うしろへたかだかとかかとをあげて、むこうへとんだ。
おきゃくさまが、いらっしゃるではないかね。
ひとのあしになんかからまって、ぜいたくじゃないか。
おまえたちは、むしをすっていれば、たくさんだよ。
あなた、ずんずんいらっしゃいましたな。
どうもしはしません。こういうところですから、あんなものまでひとなつかしいございます。
いやじゃないかね。
おともだちとともだちをみたようで、はずかしい。
あれ、いけませんよ。
ひきは、のさのさとまた、くさをわけてはいった。
おんなは、むこうへずいと。
さあ、このうえへのるんです。
つちがやわらかでくえますから、じめんはあるかれません。
いかにもたいぼくのたおれたのが、くさがくれにそのみきをあらわしている。
のると、あしだばきでさしつかえがない。
まるきだけれども、おそろしくふといので、もっともこれをわたりはてると、たちまちながれのおとがみみにげきした。
それまでには、よほどのあいだ。
あおいでみると、まつのきはもうかげもみえない。
じゅうさんようのつきは、ずっとひくうなったが、いまおりたやまのいただきに、なかばかかって、
てがとどきそうにあざやかだったけれども、たかさは、おやそはかりしられぬ。
あなた、こちらへ。
と、いったおんなは、もうひといきめのしたにたってまっていた。
そこは、はやいちめんのいわで。
いわのうえへ、たにがわのみずがかかって、ここによどみをつくっている。
かわはばは、いっけんばかり。
みずにのぞめば、おとは、さまでにでもないが、うつくしさは、たわんをといてながしたよう、
かえって、とうくのほうですさまじく、いわにくだけるひびきがする。
むこうぎしは、また、いちざのやまのすそで、
いただきのほうは、まっくらだが、やまのはから、そのやまはらをいる、
つきのひかりにてらしだされたあたりからは、おおいしこいし、
そざえのようなの、ろくしゃっかくにきりだしたの。
つるぎのようなのやら、まりのかたちをしたのやら。
めのとどくかぎり、のこらずいわで、しらいにおおきく、みずにひたったのは、ただ、こやまのよう。
いいあんばいに、きょうは、みずがふえておりますから、
なかへはいりませんでも、このうえでいいようございます。
と、こうをひたして、つまさきをかがめながら、ゆきのようなすあしで、いしのばんのうえにたっていた。
じぶんたちがたったがわは、かえって、こっちのやまのすそがみずにせまって、
ちょうどきりあなのかたちになって、そこへこのいしをはめたようなあつらえ。
かわかみもかりゅうもみえぬが、むこうのあのいわやま、つずらおりのようなかたち。
ながれはごしゃく、さんしゃく、いっけんばかりずつ、じょうりゅうのほうがだんだんとおく。
主人公の葛藤
とびとびに、いわをかがったようにいんけんして、いずれもげっこうをあびた、ぎんのよろいのすがた。
まのあたりちかいのは、ゆるぎとさばくがごとく、ましろにひるがえって。
けっこうのながれでございますな。
はい、このみずは、みなもとがたきでございます。
このやまをたびするおかたは、みんな、おおかずのようなおとをどこかでききます。
あなたはこちらへいらっしゃるみちで、おこころつきはなさいませんかい?
さればこそ、やまびるのおおやぶへはいろうという、すこしまえからそのおと。
あれは、はやしへかぜのあたるのではございませんので?
いえ、だれでもそうもします。
あのもりからさんりばかりわけみちへはいりましたところに、おおたきがあるのでございます。
まあそれは、にっぽんいちだそうですが、みちがけわしゅうございますので、じゅうにんにひとりまいったものはございません。
あのたきがあれましたと申しまして、ちょうどいまからじゅうさんねんまえ、おそろしいおおみずがございました。
こんなたかいところまで、かわのそこになりましてね。
ふもとのむらも、やまのいえも、のこらずながれてしまいました。
このかみのほらも、はじめはにじっけんばかりあったのでございます。
このながれも、そのときからできました。
ごらんなさいましな。このとおりみな、いしがながれたのでございますよ。
おんなはいつかもう、こめをしらげはてて、えもんのみられた、ちちのはしもほのみゆる、ふくらかなむねをそがしてたった。
はなたかくくちをむすんで、めをうっとりとうえをむいて、いただきをあおいだが、つきはなお、はんぷくのそのるるいたるいわおをてらすばかり。
いまでも、こうやってみますと、こわいようでございます。
とかがんで、にのうでのところをあらっていると、
あれあなた、そんなぎょうぎのいいことをしていらしては、おめしがぬれます。きみがわるいございますよ。
すっぱりはだかになって、おわらいなさいまし。わたしがながしてあげましょう。
いえ、いえじゃござせんぬ。それそれ、おころものそでがひたるではありませんか。
というと、いきなりうしろからおうびにてをかけて、みもだえをしてちじむのを、おちゃげんらしくすっぱりぬいでとった。
わしはししょうがきびしかったし、きょうをよむからだじゃ。はださえぬいたことはついぞうおぼえぬ。
しかも、おんなのまえ、まえまえつぶりがしろをあけわたしたようで、
くちをきくさえ、ましててあしのあがきもできず、すなかをまるくしてひざをあわせてちじかまると、
おんなはぬがしたころも、かたわらのえだへふわりとかけた。
おめしはこうやっておきましょう。さあ、おせなお。あれさ、じっとして。
おじょうさまとおっしゃってくださいましたおれいに、おばさんがせわをやくのでござんす。
もうひたのわるい。
といってかたそでをまえばでひきあげ、たまのようなにのうでをあからさまにせなかにのせたが、じっとみて、
まあ、どうかいたしておりますか。
あざのようになって、いちめんに、
ええ、それでございます。ひどいめにあえました。
おもいだしてもぞっとするて。
じゅうごう。
おんなはおどろいたかおをして、
それではもりのなかでたいへんでございますこと。
たびをするひとがひらのやまではひるがふるというのはあすこでござんす。
あなたはぬけみちをごぞんじないから、まともにひるのすをおとおりなさいましたのでございますよ。
おいのちもみょうがなくらい、うまでもうしでもすいころすのでございますもの。
しかしうずくようにおかゆいのでござんしょうね。
ただいまではもういたみますばかりになりました。
それではこんなものでこすりましてはやわらかいおはだがすりむけましょう。
というと、てがわたのようにさわった。
それから、りょうほうのかたから、せ、よこばら、いしき、
さらさらみずをかけてはさすってくれる。
それがさ、ほねにとおってつめたいかというとそうではなかった。
あついじぶんじゃが、りくつをいうところではあるまい。
わしのちがわいたせいか。
おんなのぬくみか。
てであらってくれるみずがいいぐらいにみにしみる。
もっともたしのいいみずはやわらかじゃそうな。
そのここちのえんもいわれなさでねむげがさしたでもあるまいが、
うとうとするようすできずのいたみがなくなってきがとおくなって、
ひたとくっついているおんなのからだでわしははなびらのなかへつすまれたようなぐらい。
やまがのものにはにあわぬみやこにもまれなきりょうはゆうにおよばぬが、
かわしそうなふうじゃ。
せなかをながすうちにも、はっはとないしょでいきがはずむから、
もうことわろうことわろうと思いながら、
れいのうっとりできわつきながらあらわした。
そのうえやまのきかおんなのにおいかほんのりといいかおりがする。
わしはうしろでつくいきじゃろうと思った。
しょうにんはちょっとくぎって、
いやおまえさまおてじかじゃ。そのあかりをかきたってもらいたい。
くらいとけしからんはなしじゃ。
ここらからいちばんのづらでやっつけよう。
まくらをならべたしょうにんのすがたもおぼろげにあかりはくらくなっていた。
さっそくとうしんをあかるくすると、しょうにんはほほえみながらつづけたのである。
さあ、そうやっていつのまにやらうつうつともなしに、
こうそのふしぎなけっこうなにおいのするあったかいはなのなかへやわらかにつつまれて、
あし、こし、て、かた、えりからしだいにあたままでいちめんにかぶったからびっくり。
いしにしりもちをついてあしをみずのなかになげだしたからおちたと思うとたんに、
ほんなのてがうしろからかたごしにむねをおさえたのでしっかりつかまった。
あなた、おそばにいてあせくそうはございませんかい。
とんだあつかりなんでございますから、こうやっておりましてもこんなでございますよ。
というむねにあるてをとったのをあわててはなしてぼうのようにたった。
しつれ。
いいえ、だれもみておりはしませんよ。
とすましていう、おんなもいつのまにかきものをぬいでぜんしんをねりぎりのようにあらわしていたのじゃ。
なんとおどろくまいことか。
こんなにふとっておりますから、もうはずかしいほどあついのでございます。
いまどきはまいちにどもさんどもきてはこうやってあせをながします。
このみずがございませんかったらどういたしましょう。
あなた、おてぬぐい。
といってしぼったのをよこした。
それで、おみやしをふきなさえまし。
いつのまにか、からだはちゃんとふいてあった。
おはなしもうすのもおそれおおいが。
じゅうろく。
なるほどみたところ、きものをきたときのすがたとはちごうて、ししつきのゆたかなふっくりとしたはだえ。
さっきこややはいってすやをしましたので、ぬらぬらしたうまのはなえきがからだじゅうにかかってきみがわるいございます。
ちょうどようございますから、わたしもからだをふきましょう。
と、きょうだいがうちわばるしをするようなちょうし。
てをあげてくろかみをおさえながら、わきのしたをてぬぐいでぐいとふき、あとをりょうてでしぼりながらたったすがた。
ただこれ、ゆきのようなのをかかるれいすいできよめた。
こういうおんなのあせは、うすくれないになってながれよ。
ちょいちょいとくしをいれて。
まあ、おんながこんなおてんばをいたしまして、かわよこちたらどうしましょう。
かわしもえながれてでましたら、むらさとのものがなんといってみましょうね。
しろもものはなだと思います。
とふとこころづいて、なんのきもなしにいうとかおがおうた。
するとさんはうれしそうににっこりして、そのときだけはうゆいしゅうとしも、ななつやつわかやぐばかり。
きむすめのはじをふくんでしたをむいた。
わしはそのままめをそらしたが、そのいちだんのおんなのすがたがつきをあびて、
うすいけむりにつまれながらむこうぎしのしぶきにぬれて、
くろいなめらかなおおきないしえ、あおみをおびてすきとおってうつるようにみえた。
するとね、よめではっきりとはめにいらなんだが、じたいなんでもほらあながあるとみえる。
ひらひらと、こちらからもひらひらと、もののとりほどはあろうというおおこうもりがめをさえぎった。
あれ、いけないよ。おきゃくさまがあるじゃないかね。
ふいをうたれたようにさけんでみおだえしたのはおんな。
どうかなさいましたか。もうちゃんところもをきたからきじょうぶにたずねる。
いいえ、といったばかりできまりがわるそうにくるりとうしろむきになった。
そのとき、こいぬほどのねずみいろのこぼうずがちょこちょことやってきて、
あなやと思うとがけからよこにちゅうをひょいとうしろからおんなのせなかへぴったり。
はだかのたちすがたはこしからけえたようになってだきついたものがある。
ちくしょう。おきゃくさまがみえないかい?とこえにいかりをおびたが、
おまえたちはなまいきだよ。とはげしくいいさま、
わきのしたからのぞこうとしたくだんのどうぶつのあたまをふりかえりさまにくらわしたで。
きっきというてきせいをはなったくだんのこぼうずは、そのままうしろとびにまたちゅうをとんで、
いままでころもをかけておいたえだのさきへながいてでつるしさがったと思うと、
くるりとつるべがえしにうえへのって、それなりさらさらときのぼりをしたのはなんとさるじゃあるまいか。
えだからえだをつたわるとみえてみあげるようにたかいきのやがてこずえまでかさかさがさり、
まばらにはのなかをすかしてつきはやまのはをはなたれたそのこずえのあたり。
おんなはものにすねたよう。いまのいたずら。いや、まいまいひきとこうもりとおさるでさんどじゃ。
そのいたずらにおおくひげんをそこねたかたち、
あんまりこどもがはしゃぎすぎるとわかいおふくろにはえてあるずじゃ。ほんとうにおこりだす。
といったふずえでめどくさそうにきものをきていたから、わしはなにもとわず、ちいさくなってだまってひかえた。
やさしいなかにつよみのある、きがるにみえてもどこかにおちつきのある、なれなれしくておかしやすからぬひんのいい、
美しい自然の描写
いかなることにもいざとなればおどろくにたらぬという、みにこたえのあるといったようなふうのおんな。
かくきょうしんをはしてはきっといいことはあるまい。
いまこのおんなにじゃけんにされては、きからおちたさるどうぜんじゃとおっかなびっくりでおぞおぞひかえていたが、いや、あんずるよりうむがやすい。
あなた、さぞおかしかったでござんしょうね。
とじぶんでもおもいだしたようにこころよくほほえみながら、
しようがないのでございますよ。
いぜんとかわらずこころやすくなった。
おびもはやしめたので。
それではうちへかえりましょう。
それではうちへかえりましょう。
と、こめとぎおけをこわきにしてぞりょをひっかけてつとがけへのぼった。
おあぶのうございますから。
いいえ、もうだいぶかってがわかっております。
ずっとこころえたつもりじゃったが、さてあがるときみると、おもいのほかうえまではたいそうたかい。
やがてまたれいのきのまるたをわたるのじゃが、さっきもいったとおり、くさのなかによこだおりになっているきじがこうちょうどうろこのようで、
たとえにもよくいうが、まつのきはうあばみににているで。
ことにがけをうえのほうへいいあんばいにうねったようすが、とんだものにもってきいなり、
およそこのくらいなどうなかのながむしがと思うと、あたまとおおくさにかくして、つきあかりにありありとそれ。
やまみちのときをおもいだすと、われながらあしがすくむ。
おんなはしんせつにうしろをきずこうてはきをつけてくれる。
それをおわだりなさいますとき、したをみてはなりません。
ちょうどちゅうとうでよっぽどたにがふかいのでございますから、めがまうとわるうござんす。
はい。
ぐずぐずしてはいられぬから、わがみをわらいつけてまずのった。
ひっかかりよう、きざがいれてあるのじゃから、きさえたしかならあしだでもあるかれる。
それがさ、いっけんじゃからたまらぬて、のるとこうぐらぐらして、やわらかにずるずるとはいそうじゃから、
わっというとひんまたいでこしをどさり。
ああ、いくじはございませんね。あしだではむりでございましょう。これとおはきかえなさいまし。
あれさ、ちゃんということをきくんですよ。
わたしはそのさきからなんとなくこのおんなにいけいのねんがしょうじて、
ぜんかくかどのみちめいれいされるようにこころえたから、いわれるままにぞおりをはいた。
するとききなさい。おんなはあしだをはきながらてをとってくれます。
たちまちみがかるくなったようにおぼえて、わけなくうしろにしたがって、
ひょいとあのひとつやのせどのはたへでた。
であいがしらにこえをかけたものがある。
やあ、だいぶてまがとれると思ったに。ごぼうさま、もとのからだでかえらっしゃったの。
幽玄な出会い
なにをいうだね。おじさん、うちのばんはどうおしだ。
もういいじぶんじゃ。またわしもあまりおそうなってはみちがこまるで、そろそろあおをひきだしてしたくしておこうと思てよ。
それはおまちどうでございました。
なにさ、いってみさっしゃい。ごていしゅはうぶじじゃ。
いや、なかなかわしがてにはくどきをおとされなんだ。
と、いみもないことをおおわらいして、おやじはうまやのほうをえいてくてくといった。
ばかはおなじところになおかたちをそんしている。
くらげもひにあたらねばとけぬとみえる。
じゅうはち
ひひーん。しっ、どうどうどう。
と、せどうもあるひずめのおとがえんへひびいて、おやじはいっとうのうまをもんぜんへひきだした。
じょうさま、そんならこのままでわしまえりやする。
はい。ごぼうさまにたくさんごちそうしてあげなされ。
おんなはろぶちにあんどんをひきつけ、うつむいてなべのしたをいぶしていたが、ふりあおぎ、てつのひばしをもったてをひざにおいて、
ごくろはでかざんす。
いんえ。ごねんごろにはおよびましね。
しっ、とあらなわのつなをひく。
あおであしげ、はだかうまでたくましいが、たてがみのうすいおすじゃわい。
そのうまがさ、わしもべつにうまはめずらしいもないが、ばかどののうしろにかしこまっててもちぶさたじゃから、
いまひいていこうとするときえんがおへひらりとでて、
そのうまはどこへ?
おお、すばのみずみのあたりまでうまいちへだしやすのじゃ。
これからあしたおぼうさまがあるかしゃるやまじをこえていきやす。
もし、それへのっていまからおにぎあそばそうつもりではないかい?
おんなはあわただしくさえぎってこえをかけた。
いやもったいない。しゅぎょうのみが、うまであしやすみをしましょうなぞとはぞんじません。
なんでもにんげんをぬけられそうなうまじゃござらん。
おぼうさまはいぬちびろいをなされたのじゃで、おとなしうでじょうさまのそうでのなかで、
こいはたすけてもらわっしゃい。さよなら。ちょっからいってまいりますよ。
あい。
ちゅくしょう。といったがうまはでないわ。
びくびくとごめいてみえるおおきなはなずらをこちらへねじむけてしきりにわしらがいるほうをみるようす。
どうどうどう。ちゅくしょう。これはだけたけものじゃ。
いえい。
みぎひだりにしてつなをひっぱったが、あしからねをつけたごとくにぬくとたっていてびくともせぬ。
おやじおおいにいらだってたたいたりぶったり、うまのどうたいについてにさんどぐるぐるまわったがすこしもあるかん。
かたでぶつかるようにしてよこぽらへたいをあてたとき、ようようまいあしをあげたばかり、またよつあしをつっぱりぬく。
じょうさま、じょうさま。とおやじがあわめくと、
おんなはちょっとたってしろいつもさきをちょろちょろとまっくろにすすけたふろいはしらをたてにとって、うまのめのとどかぬほどにこかくれた。
そのうちこしにはさんだにしめたようなないないのてぬぐいをぬいてこくめいにぎざんだひたいのしわのあせをふいて、おやじはこれでよしというきぐみ。
ふたたびまえへまわったが、もどによってびんぼをゆるぎもしないので、つなにりょうてをかけてあしをそろえてそりかえるようにして、うむとそうみにちからをいれた。
とたんにどうじゃい。
すさまじくいなないてまいあしをりょうほうなかぞらへひるがえしてから、ちいさなおやじはあおむけにひっくりかえった。
ぞんどう。
つきあにすなぼこりがぱっとたつ。
ばかにもこれはおかしかったろう。
このときばかりじゃ。まっすぐにくびをすえてあついくちびるをばくりとあげたおおつぶのはをむきだして、あのちゅうへさげているてをかぜであおるようにはらりはらり。
せいはがやけることね。
おんなはなげるようにいってぞりをつっかけてどまへついとでる。
じょうさま、かんちがいさしちゃうな。
これはおまえさまでないぞ。
なんでもはじめからそこのおぼうさまにめをつけたっけよ。
ちくしょう、ぞくえんがあるたっぺわいさ。
ぞくえんとはおどろいたい。
するとふじんが、
あなたここへいらっしゃるみちでだれにかおあいなさりはしませんか。
じゅうきゅう。
はい。すじのてまえでとやまのはんごんたんうりにあいましたが、ひとあしさきにやっぱりこのみちへはいりました。
ああ、そう。
とかいしんのえみをもらしておんなはあしげのほうをみた。
およそたまらなくおかしいといったはしたないとりなりで。
きわめてくみしやすうみえたので、
もしやこちらへまわりませなんだでございましょうか。
いいえ、ぞんじません。
というときたちまちおかすべからざるものになったから、
わしはくちをつぐむとおんなはさじをなげてきもののちりをはろうといううまのまやしのしたに
ちいさなおやじをみむいて、しょうがないねといいながらかねぐるようにしてそのほそうびをときかけた。
かたはしがつちへひこうとするのをかいとってちょいとためらう。
ああ、ああとにごったこえをだしてばかがくだんのひょろりとしたてをさしむけたのでおんなはといたのをわたしてやると、
ふろしきをひろげたようなたわいのない、ちからのないひざのうえへわがねてほうもつをしゅごするようじゃ。
おんなはえもんをだきあわせ、ちちのしたでおさえながらしずかにどまをでてうまのわきへつつとよった。
わしはただあっけにとられてみていると、つまだちをしてのびあがり、てをしなやかにからざまにしてにさんどたてがみをなでたが、
おおきなはなじらのしょうめんにすっくりとたった。
せいもすらすらときゅうにたかくなったようにみえた。
おんなはめをすえ、くちをうすび、まゆをひらいてうっとりとしたありさま、あいきょうもしなも、せわらしいうちとけたふうはとみにうせて、かみかまかと思われる。
そのときうらのやま、むこうのおみね、さいをぜんごにいすくすくとあるのがひとつひとつくちばしをむけ、かしらをもたげてそのいちらくのべつせんち。
おやじをしもてにひかえ、うまにめんしてただずんだげっかのびじょのすがたをさしのぞくがごとく、えんえんとしてみやまのきがこもってきた。
なまぬるいかずのようなけはいがすると思うと、ひだりのかたからかたはだをぬいだが、みぎのてをはずしてまへまわし、ふくらんだむねのあたりできていたそのひとえをまるげてもち、かすみもまとわぬすがたになった。
うまわせな、はらのかわをゆるめてあせもしとどにながれんばかり、つっぱったあしもなやなやとしてみぶるいをしたが、はなずらをおちにつけてひとつかみのしろあわをふきだしたと思うと、まえあしをおろうとする。
神秘的な馬の描写
そのとき、あぎとのしたへてをかけて、かたてでもっていたひとえをふわりとなげて、うまのめをおおうがいなや。
うさぎはおどってあおむけざまにみをひるがえし、ようきをこめてもうろうとしたつきあかりに、まえあしのあいだがはだがはざまったと思うと、きぬをだっしてかいとりながらしたばらをおつとくぐって、よこにぬけてでてた。
おやじはさしこころえたものとみえる。このきっかけにかずなをひいたから、うまはすたすたとけんきゃくをやまじにあげた。
シャンシャンシャン、シャンシャン、シャンシャン。みるまにげんかいをとうざかる。
おんなははやきものをひっかけてえんがわへはいってきて、いきなりおびをとろうとすると、ばかはおしそうにおさえてはなさず、てをあげておんなのむねをおさようとした。
じゃけんにはらいのけてきっとにらんでみせると、そのままがっくりとこうべをたれた。すべてのこうけいはあんどんのひもかすかにまぼろしのようにみえたが、ろにくべたしばがひらひらとほさきをたてたので、おんなはつとはしってはいる。
そらのつきのうらをいくと思うあたり、はるかにまごうたがきこえたて。
にじゅう
さて、それからごはんのときじゃ。ぜんにはやまがのこうのもの、はじかみのつけたのとわかめをうでたもの、しおづけのなもしらぬきのこのみそしる。いや、なかなかにんじんとかんぴょうどころではござらん。
しなものはわびしいが、なかなかのおてりおり。うえてはいるし、みょうがしごくなおきゅうじ。ぼんをひざにかまえて、そのうえにひじをついて、ほをささえながらうれしそうにみていたわ。
えんがわにいたばかは、たれもとりあわぬつれづれにたえられなくなったものか。ぐたぐたと、いざりだして、おんなのそばへ、そのべんべんたるはらをもってきたが、くずれたようにはくだして、しきりにこう、わがぜんをながめて、ゆびさじをした。
ううううう、
なんでございますね。あとでおわかんなさい。おきゃくさまじゃありませんか。
ばかは、なさげないかおをして、くちをゆがめながら、かぶりをふった。
いや?しょうがありませんね。
ませんねそれじゃあご一緒に召し上がれ あなたごめんをこぼりますよ
私は思わず箸を置いてあさあどうぞお構いなく 飛んだご増佐をいただきます
いいえ何のあなたお前さんのちょうど私と 一緒にお食べなさればいいのに困った人で
ございますよ と空さの愛想
手早く同じような前をこしられて並べて 出した
飯のつけようも買い替えしにおぼぶり しかもなんとなく奥ゆかしい上品な後継の風がある
アホはどんよりした目を上げて前の上をねめて いたがあれをあああれと言ってキョロキョロと
あたりを見回す 女はじっと見守ってまあいいじゃないか
そんなものはいつでも上がられます今夜お 客様がありますよ
いやいやと肩腹を寄せたがベゾを書いて 泣き出しそう
独特な情景と心理描写
女は工事で貼ってたらしい 片腹のものの気の毒さ
ジョーソンは何か存じませんがおっしゃる とおりなったが良いではございませんか
私にお気遣いは帰って心苦しいございますと 因言に言えた
女はまたもう一度嫌かいこれでは悪いのかい 馬鹿が泣き出しそうにすると様を恨めしげに
流し目を握りながら壊れ壊れになった戸棚の中から 箸に入ったのを取り出して手早く馬鹿の前につけた
はい とわざとらしく拗ねたように言って笑顔づくり
はてさて迷惑なこれは目の前で青大将の馬にか 腹ごもりの猿の虫役か災難が狩るても赤ガエルの
ひものを尾口にしゃぶるであろうとそっと 見ていると片手にワンを持ちながら掴み出した
のはひねた区案 それもさ刻んだのではないで一本三つ切りにしたろうという握り太
なのを横具合にしてやらかすのじゃ 女はよくよくあしらえかねたか盗むようにわしを見て
さっと顔をあからめてうらしいそんな立ちでは ある前に恥ずかしげに膝なる手ぬぐいの端を口に
当てた なるほどこの少年はこれであろう体はたくん色に太っている
やがてわけもなく餌を耐えられて言うとも言わず ふっと耐えぎそうに息を向こうへつくはさ
何でございますか 私は胸に使いましたようでちっと申しくございませんからまた後ほどに
いただきましょう と女自分は箸も取らずに2つの前を片付けてな
21 しばらくしょんぼりしていたっけ
あなた佐藤お疲れすぐにお休ませ申しましょうか ありがとうございますまだちっとも眠くはございません
さっき体を洗いましたよねくたびれもすっかり治りました あの流れはどんな病にでもよく聞きます私が苦労をいたしまして骨と
皮ばかりに体が枯れましても半日あそこに使っておりますとみずみずしくなるので ございますよ
もっともあのこれから冬になりまして山が丸で凍ってしまい 川も崖も残らず雪になりましてもあなたが行水を遊ばしたあそこばかりは水が隠れ
ません そして生きりが立ちます
鉄砲傷のございますサルダのあなた足を追ったご潔いさぎ いろいろなものが弱みにまいりますからその足跡で崖の道ができますくらいきっとそれが
聞いたのでございましょう そんなにございませんければこうやってお話をなすってくださいまし
寂しくってなりません本当にお恥ずかしいございますがこんな山の中に引っこもって おりますと物を言うことも忘れましたようで心細いのでございますよ
あなたそれでもお眠ければご遠慮なさいますない別にお寝間と申してもございませんが その代わり彼は一つもいませんよ
待ち方ではね神のほらの者は里や泊まりに来た時かやを釣って寝かそうとするとどうして 入るのかわからないので
はしごを稼いと喚えたと申してなぶるのでございます なんと朝寝を遊ばしても金は聞こえず鳥も鳴きません
犬だっておりませんからお心安うございましょう この人も生まれ落ちるとこの山で育ったので何にも存じません代わり気の良い人でちっとも
物語の導入
心置きはないのでございます それでも風の変わった方がいらっしゃいますと大事にしてお辞儀をすることだけは知ってで
ございますがまたご挨拶をいたしませんね この頃は体がだるいと見えてお怠けさんになってなすった
いえまるで愚かなのではございません何でもちゃんと心得ております さあご坊様にお挨拶をなすってください
まあお辞儀を忘れかい と親しげに身を寄せて顔を差し除いて急いそして言うとバカはフラフラと両手をついて
前前が切れたようにがっくり位置で はいって言って私も何か胸が迫ってつむりを下げた
そのままそのうつむいた表紙に筋が抜けたらしい横に流れようとするのを女は優しい 助け起こして
大よくしたねー あっぱれと言いたそうな顔つきであなた
もうせば何でもできましょうと思いますけれどもこの人の病ばかりはお医者の手でも あの水でも治りませなんだ
両足が立ちませんのでございますから何を覚えさせましても役には立ちません それにご覧なさいましお辞儀一ついたしますさえあの通り大義らしい
ものを教えますと覚えますのにさぞ骨が折れて切脳ございでしょう 体を苦しませるだけだと存じて何もさせないのでおきますから
だんだん手を動かす働きも物を言うことも忘れました それでもあの歌が歌えますは2つ3つ今でも知っておりますよ
さあお客様に一つお聞かせなさいましだね バカ女を見てまたはしが顔をじろじろ見て人見知りをするといった形で首を振った
22 とこうして女が励ますように透かすようにして進めると馬鹿は首を曲げてかのへそを持って
遊びながら歌った その音丈さんは夏でも寒い合わせやりたや旅添えて
よく知っておりましょうと女は気にすましてにっこりする 不思議や歌った時のバカの声はこの話をお聞きなさるお前様はもとよりじゃが
私も推定をしたとは月別運で天地の総意 節回し上げ下げ息の続くところから第一その清らかな涼しい声というのは到底この少年の
喉から出たものではない まずさっきのようなこの馬鹿の実がメイドから区田でその膨れた腹へ通わして
よこすほどに聞こえましたよ わしは賢まって聞き果てると膝に手をついたっきりどうしても顔を上げてそこの2人を
見ることができん 何か胸がキヤキヤしてハラハラと落霊した
女は目早く見つけたそうでおやあなたどうかなさいましたか 急に物も弱れなんだが洋洋
はい何変わったことでもございません 私も女様のことは別にお尋ね申しませんからあなたも何にも当ては下されますな
年さえは語らずただ思い入ってそう言うたが実は以前から様子でも知れる 金鎖玉山をかざし
ちょいをまとうて種類をうがたばばさに入りさんに入って愛抱くべき放費4円の人が その男に対する取り回しの優しさ
隔てなさ親切さに一言ながら嬉しくて思わず涙が流れたのじゃ すると人の腹の中を読み兼ねるような女ではない
たちまち様子を悟ったかして あなたは本当にお優しい
と言って絵も言われぬ色を目にたたえてじっと見た 私も神戸を垂れた向こうでも差しうつむく
いやアンドンがまた薄暗くなって参ったようじゃがおそらくこれは馬鹿のせいじゃて その時よ
ザガシラ家でしばらく言葉が途絶えたうちに所在がないので歌うたりの他優退屈をしたと 見えて顔の前のアンドンを吸い込むような大あくびをしたから
身動きをしてな 寝ようちゃー寝ようちゃーとゆたゆた体を持ち扱う愛
眠くなったのかいもうお寝か と言ったが座り直ってふと気がついたようにあたりを見回した
表はあたかも真昼のよう 月の光は明け広げた矢の内へハラハラと刺して紫陽花の色も鮮やかに青かった
あなたももうお休みなさいますか はいご厄介にあいになりまする
まあ今宿を寝かせますおゆっくりなさいましな表は地候ございますが夏は広い方が結構よう ございましょう
私どもは何度へ伏せりますからあなたはここへお披露くおくつろぎがようございます ちょいと待って
と言いかけてずっと立ちつかずかと足早に土前を下りた あまり身の悲しが活発であったのでその表紙に黒髪が先へ巻いたまま
同じへ崩れた 便を押さえてとに捕まって表を透かしたが独り言をした
登場人物の葛藤
おやおやさっきの騒ぎで串を落としたそうな 以下様馬の腹をくぐった時じゃ
23 この檻から下の廊下に足音がして静かに大股に歩いたのが咳としているからよく
やがて雇用を達した様子雨戸をバタリと開けるのが聞こえた 長寿鉢へ飛躍の響き
積もった積もったと呟いたのは旗小屋の停止の声である 方この長さのアーキンドはどこかへ止まったと言える何か面白い夢でも見ているかな
どうぞその後それから と聞く身に私を言ううちがもどかしく鈍もなく続きを促した
さて夜も更けましたと言って旅走はまた語り出した 大抵水流もなさるであろうがいかにくたびれておっても申し上げたような宮間の一つ屋で
眠られるものではない それに少し気になって初めのうち和紙を寝かせなかったこともあるし
目はさえてまじまじしていたがさすがに疲れがひどいから シーンは少しぼんやりしてきた
何しろ世の知らぬのが待ち遠でならぬ そこで初めのうちは我ともなく金の音を聞こえるのを心頼みにして今なるかもうなるか
果て時刻はたっぷり経ったもの音を怪しんだがやがて気がついてこういうところじゃ 山手などころではないと思うとにわかに心ぼとくなった
その時は早夜がものに例えると谷の底じゃ 馬鹿がだらしのない寝息も聞こえなくなるとたちまち人の外にものの気配がしてきた
獣の足音のようでさまで遠くの方から歩いてきたのではないよう チャルも引きもいるところと気休めにまず考えたがなかなかどうして
しばらくすると今そやつが正面のとに近づいたなと思ったのが羊の鳴き声になる 私はその方を枕にしていたのじゃからつまり枕元の表じゃな
しばらくすると目手の花の紫陽花が咲いていたその花の下あたりで鳥の羽ばたきする音 むささびが知らぬがキッキといって矢の胸
やがておよそ小山ほどあろうと蹴取られるのが胸を押すほどに近づいてきて牛が泣いた 遠くの彼方からひたひたと小刻みにかけてくるのは日本足にわらじをはいた獣と思われた
いや様々にムラムラと家のぐるりを取り巻いたようで2030のものの花行き 羽音中には囁いているのがある
あたかも何よそれ畜生堂の地獄の絵を月夜に映したような怪しの姿がいたどいちまい 地味猛虜というのであろうか
ザーザーと木の葉がそよぐ景色だった 息を凝らすと何度で
と言って長く息を引いて一声うなされたのは女じゃ 今夜お客様があるよと叫んだ
お客様があるじゃないか としばらくたって2度目のははっきり涼しい声極めて小声でお客様があるよ
と言って願える音がしたさらに願える音がした との外のものの気配は土曜日を作るが如くグラグラと家が揺らめいた
わしはだらにおじゅした 略夫婦願衆の乱切法者頭端1分量あり重視に欲しい分も罪悪入を優応等賞合応人情 脱波創罪方針欲しい者と逆能勢を
と一心不乱さっとこの葉を巻いて風が南へ吹いてがたちまち静まり帰った 目音がねやもひっそりした
24 翌日また昼頃を里近く滝のあるところで昨日馬を売りに行った親父の帰りに追った
ちょうど足が修行に出るのを良して一つやに引き返して女と一緒に生涯を送ろうと思って いたところで
実は思うとところへ来る途中でもそのことばかり考える 蛇の橋も幸いになし昼の林もなかったが道が何重何つけても汗が流れて心持ちが悪いにつけて
も今更あんぎゃもつまらない 紫のけさをかけて指導が乱に済んだところで何ほどのこともあるまい
息ぼとけさま者と言うてわーわー拝まれれば一息でで胸が悪くなるばかりか 首都お話もいかがじゃからさっきのことは分けて言いませんなんだが
夕べも馬鹿を寝かしつけると女がまた炉のあるところへやってきて世の中へ苦労をし に出ようより夏は涼しく冬はあったかいこの流れに一ところにわしのそばにおいで
なさいと言うてくれるし まだまだそればかりでは自分にまがさしたようじゃけれども
ここに我が身で我が身に言い訳ができるというのはしきりに女が不憫でならぬ 宮山の一つやに馬鹿の研ぎをして言葉も通せず
日を降るに従うて物を言うことさえ忘れるような気がするというは何たること ほとにけさも篠の目に手元を振り切って別れようとすると
おなごりをしやかようなところにこうやって老い朽ちる身の 再びお目にはかかられまい
いささ小川の水になりともどことで白桃の花が流れるのをご覧になったら私の体が 谷川に沈んでちぎれちぎれになったことと思え
と言ってしおれながらなお親切に道はただこの谷川の流れに沿って行きさえすれば どれほど遠くても里に出られる
目の下近く水が踊って先になって映るのを見たら人間が近づいたと心を休んずるように と気をつけて一つやの見えなくなったあたりで指差しをしてくれた
その手と手を取り交わすには及ばずともそばにつき添って朝夕の話し合いて キノコの汁で午前を食べたり
わしがホダを炊いて女が鍋をかけてわしが好みを拾って女が川を向いて それから生地の打ちた外で話をしたり笑ったり
それから谷川で二人してその時の女が裸になって わしが背中へ息が通って微妙な香りの花びらに温かに包まれたらその命が
薄れてもいい 谷の水を見るにつけても耐えがたいのはそのことであった
いや冷や汗が流れまして その上もう気がたるみ筋がゆるんで早歩くのに飽きが来て喜ばではならぬ神華が近づいたのも
鷹がよくされて口の臭いばあさんに渋茶を振る舞われるのが咳の山と たとえ入るのも嫌になったから石の上に膝をかけた
ちょうど目の下にある滝じゃったこれがさ後に聞くと目音滝と言うそうで 真中にまずワニザメが口が開いたような先の尖った黒い大岩が突き出ていると
上から流れてくるサッと背の早い谷川がこれにあたって2つに分かれておよそ4畳 ばかりの滝になってドット落ちてまた安壁に白布を追って矢を入るように里へ出るの
じゃが その岩にせかれた方は6尺ばかりこれは川の人幅を裂いて糸も乱れず一方は幅が
狭い3尺くらい この下には雑多の岩が並ぶと見えてちらちらちらちらと玉のすだれを100銭に砕いたよう
9弾のワニザメの岩にすれつもつれつ 25
ただ一筋でも岩を越してお滝にすがりつこうとする形それでも中を隔てられて末までは 雫も通わんのでもまれ揺らされてつぶさに真空をなめるという風勢
この方は姿もやつれ形も細って殴れる音さえ別様に泣くか恨むかとも思われるが 哀れにも優しい目滝じゃ
尾滝の方は裏腹で石を砕き血を貫く勢い 堂々たる有様じゃこれが2つ9弾の岩にあたって左右に分かれて二筋となって落ちるのが
物語の結末
身に染みて目滝の心を砕く姿は男の膝に取り付いて美女が泣いて身を震わすようで 岸にいてさえ体が罠なく肉が踊る
ましてこの身中身は昨日一夜の女と水を浴びたところと思うと気のせいかその目 滝の中に絵のようなかの女の姿がありありと浮いて出ると巻き込まれて沈んだと思うと
また浮いて 血筋に乱れる水とともにその肌絵が子に砕けて花びらが散り込むような
穴やと思うとさらに元の顔も胸も父も手足も全き姿となってういつ沈みつぱっと刻まれ あっと見る間にまた現れる
私はたまらず真っ逆さまに滝の中へ飛び込んで目滝をしかと抱いたとまで思った 気がつくとお滝の方は堂々と地響き打たせて山彦を呼んで届いて流れている
ああその力を持ってなぜすくわぬままよ 滝に身を投げて忍ぶよりは元の一ツ屋へ引き返せ
汚らわしい欲のあればこそこうなった上に躊躇するわ その顔を見て声を聞けば彼ら目音が一つねするのに枕を並べて差し支えぬ
それでも汗になって修行して坊主で果てるよりよほどのマシじゃと思い切って戻ろうとして 石を離れて身を起こした後ろから一つ背中を叩いて
やあご坊様と言われたから時が時なり心も心 後ろぐらいのでびっくりしてみると縁王の使いではないこれが親父
馬は打ったか身軽になって小さな包みを肩にかけて手に一尾の鯉の鱗は金色なる 発落として斧動きそうな新しいその丈三尺ばかりなのを
アギトに藁を通してぶらりと下げていた 何も言わず急にものも言われないで見守ると親父はじっと顔を見たよ
そうしてニヤニヤとまた一通りの笑い方ではないて 薄気味の悪いほくそ笑みをして
何をしてござる ご修行のみがこのくらいの暑さで岸に休んでいさっしゃる分ではあんめー
一生懸命に歩かしちゃりや夕べの泊まりからここまではたったゴリもう里へ行って 地蔵様を拝ましちゃる地獄じゃ
なんじゃのオラが女王様に思いがかかって煩悩が起きたんじゃの うんや隠さしゃるなオラが目は赤くっても白いか黒いかはちゃんと見える
時代並のものならば女王様の手が触ってあの水を振る舞われて今まで人間で言おうはずが ない
医者の家族の物語
牛か馬か猿かひきかコウモリか何せ飛んだか跳ねたかせねばなん 谷川から上がって来さしった時手足も顔も人じゃからオラ頭げたくらい
お前様それでも関心に志が堅強じゃから助かったようなものよ なんとオラが引いていった馬を見さしったろう
それで一つへ行きさしちゃる山道で富山の半御丹売りに合わしったというではないか それ見させあのスケベ野郎等に馬になってそれ馬市で大橋になって
大橋がそうらこの恋に化けた大好物で晩飯の際になされ お嬢様を一体なんじゃと思わしゃるの
私は思わず遮った お承認
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1991年発行 筑波書房
筑波日本文学全集 泉教科 より独領 読み終わりです
ため息出るこれ めっちゃ疲れたなこれ
どうですか皆さん 何言ってるかわからない単語がたくさん出てきたでしょう
僕もです あとねー
あとねー 漢字で
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そこも虚しいねなんかね まあそういうタイムありましょうはい終わりにします
無事に寝落ちできた方も最後までお付き合いいただいた方も大変にお疲れ様でございました といったところで今日のところはこの辺でまた次回お会いしましょう
おやすみなさい
01:46:32