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2025-03-20 1:59:57

114宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(朗読)

114宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(朗読)

カムパネルラが言いづらくて。今回も寝落ちしてくれたら幸いです。


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サマリー

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』では、主人公のジョバンニと友人のカンパネルラが銀河の不思議を体験し、友情や孤独について深い洞察を得ます。物語は彼らの学校生活や家族との交流を通じて、夢と現実が交差する幻想的な旅を描いています。 この作品では、ジョバンニが夜の街を通り抜け、星や幻想的な風景を巡りながら仲間との交流を描きます。彼はカンパネルラと再会し、銀河の不思議な旅に出発します。また、二人は幻想的な銀河の汽車に乗り込み、美しい風景や出会いを経験し、母親を思い出す場面が描かれます。彼らの冒険の中で、銀河や天の川といった多くの自然の要素が強調され、友情や思い出の大切さがテーマになります。 『銀河鉄道の夜』では、ジョバンニとカンパネルラが不思議な汽車の旅をしながら様々な出会いや発見を経験します。彼らは過去の化石や鳥を捕まえる人との交流を通じて、自然や生命の神秘を感じ取りながら成長していきます。 また、ジョバンニとカンパネルラは銀河鉄道に乗り込む幻想的な旅をしながら、様々な出会いや不思議な体験を通して友情や存在の意味を探求します。彼らは天の川や星々の観測所を訪れ、様々な人物に出会いながら己の内面と向き合います。 物語では、ジョバンニとカンパネルラが神秘的な汽車に乗り、さまざまな出会いや経験を通じて自分たちの幸福を見つけていきます。彼らは愛や犠牲、夢の象徴としてリンゴや歌を通して新たな視点に目覚めます。 また、彼らは旅を通じてさまざまな不思議な生き物や風景に出会い、友情や孤独について考えさせられます。物語は不安や悲しみを抱えながらも、心の豊かさや美しさを見つける過程を描いています。 さらに、この作品ではジョバンニとカンパネルラが友情や生命の意味、宇宙の美しさを体験し、多彩な星々や神秘的な光景を目撃しながら様々な考えや感情に浸ります。物語を通じて、彼らは銀河鉄道での幻想的な旅を通じて友情や幸せの本質を探求しつつ、天の川や汽車、十字架といった象徴的な要素が絡み合い、心の旅が展開されます。 最後に、ジョバンニは友人カンパネルラの遭難を目撃し、深い悲しみを抱えながらその思いを巡らせる物語が進行します。この作品は銀河と川の描写を通じて、希望と絶望の感情を描き出しています。

学校での銀河の授業
寝落ちの本ポッドキャスト。こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品は全て青空文庫から選んでおります。
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それと番組フォローもどうぞよろしくお願いします。
さて、今日は宮沢賢治さんの銀河鉄道の夜ですね。有名なやつです。
宮沢賢治さんは、国語の教科書にはたくさん出てきますが、
日本の詩人、童話作家、仏教信仰と農民生活に根差した創作を行った、
作品中に登場する架空の理想郷に、
郷里の岩手県をモチーフとした伊波島部と名付けたことで知られる。
代表作、銀河鉄道の夜。これ、今日読みます。
注文の多い料理店。セロ引きの豪酒などがあるとのことです。
文字数がですね、4万1千字?およそ4万2千字なので、
1時間40分ぐらいかな。になろうかと思います。
だいたい2万ちょいぐらいを1時間で読み上げるペースなので、
ちょっと早口でそんぐらい。
銀河鉄道の夜をちゃんと文字で全部さらったことがないので、
どんな文体かわからないんですけど。
僕が子供の頃はNHK教育だと思うんですけど、
ジョバニーとカンパーネルラを二足歩行の猫のキャラクターに見立てたアニメがやってたんですよね。
でも全然覚えてないや。絵面しか覚えてないや。
ストーリーの本筋?大筋か。
大筋は中田のあっちゃんのギュッとまとめた動画でいただいたんですけど、
今日改めて文字でさらおうと思います。
AI君が出力してくれた概要によると、
闇の中に展開される色彩や匂いや音楽の世界が強烈で、
多くのアーティストが表現しようとしたが文字で書かれた作品を超えることができていない最高傑作と言われるそうです。
うーん。
だそうですよ。それを今から読み上げますよ。
どうぞ寝落ちまでお付き合いください。
それでは参ります。
銀河鉄道の夜
1.午後の授業
では皆さんはそういう風に川だと言われたり、
土の流れた跡だと言われたりしていたこのぼんやりと白いものが本当は何かご承知ですか?
先生は黒板に吊るした大きな黒い星座の図の
上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら
みんなに問いをかけました。
カンパネルラが手を挙げました。
それから4、5人手を挙げました。
ジョバンニも手を挙げようとして急いでそのままやめました。
確かにあれがみんな星だといつか雑誌で読んだのでしたが、
この頃はジョバンニはまるで毎日教室でも眠く、
本を読む暇も読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。
ところが先生は早くもそれを見つけたのでした。
ジョバンニさん、あなたはわかっているんでしょう?
ジョバンニは勢いよく立ち上がりましたが、
立ってみるともうはっきりとそれを答えることができないのでした。
ザネリが前の席から振り返ってジョバンニを見てくすっと笑いました。
ジョバンニはもうドギマギして真っ赤になってしまいました。
先生がまた言いました。
大きな望遠鏡で銀河をよく調べると銀河はだいたい何でしょう?
やっぱり星だとジョバンニは思いましたが、今度もすぐに答えることができませんでした。
先生はしばらく困った様子でしたが、目をカンパネルラの方へ向けて、
「では、カンパネルラさん。」となざしました。
すると、あんなに元気に手を挙げたカンパネルラが、
やはり文字文字立ち上がったまま、やはり答えが出ませんでした。
先生は意外なようにしばらくじっとカンパネルラを見ていましたが、急いで、
「ではよし。」と言いながら自分で星図をさしました。
このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。
ジョバンニさんそうでしょう?
ジョバンニは真っ赤になってうなずきました。
けれどもいつかジョバンニの目の中には涙がいっぱいになりました。
そうだ、僕は知っていたんだ。
もちろんカンパネルラも知っている。
それはいつかカンパネルラのお父さんの博士のうちで、
カンパネルラと一緒に読んだ雑誌の中にあったんだ。
それどこでなくカンパネルラは、その雑誌を読むとすぐお父さんの書斎から大きな本を持ってきて、
銀河というところを広げ、真っ黒なページいっぱいに白に点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。
それをカンパネルラが忘れるはずもなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、この頃僕が朝にも午後にも仕事がつらく、
学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カンパネルラともあんまり物を言わないようになったので、
カンパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ。
そう考えるとたまらないほど、自分もカンパネルラも哀れなような気がするのでした。
先生はまた言いました。
ですからもしもこの天の川が本当に川だと考えるなら、
その一つ一つの小さな星はみんなその川の底の砂や砂利の粒にも当たるわけです。
またこれを大きな土の流れと考えるなら、もっと天の川とよく似ています。
つまりその星はみんな土の中にまるで細かに浮かんでいる油の玉にも当たるのです。
そんなら何がその川の水に当たるかと言いますと、
それは真空という光をある速さで伝えるもので、
太陽や地球もやっぱりその中に浮かんでいるのです。
つまりは私どもも天の川の水の中に住んでいるわけです。
そしてその天の川の水の中から四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見えるように、
天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集まって見え、
したがって白くぼんやり見えるのです。
この模型をご覧なさい。
先生は中にたくさん光る砂の粒の入った大きな両面の突レンズを指しました。
天の川の形はちょうどこんななのです。
このいちいちの光る粒がみんな私どもの太陽と同じように自分で光っている星だと考えます。
私どもの太陽がこのほぼ中頃にあって、地球がそのすぐ近くにあるとします。
皆さんは夜にこの真ん中に立って、このレンズの中を見回すとしてご覧なさい。
こっちのほうはレンズが薄いので、わずかの光る粒、すなわち星しか見えないでしょう。
こっちはこっちのほうはガラスが厚いので、光る粒、すなわち星がたくさん見え、その遠いのはぼーっと白く見えるという。
これがつまり、今日の銀河の説なのです。
そんならこのレンズの大きさがどれぐらいあるか、またその中のさまざまな星については、もう時間ですから、この次の理科の時間にお話しします。
街での準備
では今日はその銀河のお祭りなのですから、皆さんは外へ出てよく空をご覧なさい。
ではここまでです。本やノートをおしまいなさい。
そして教室中はしばらく机のふたを開けたり閉めたり、本を重ねたりする音がいっぱいでしたが、まもなくみんなはきちんと立って礼をすると教室を出ました。
ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らず、カンパネルラを真ん中にして校庭の隅の桜の木のところに集まっていました。
それは今夜の星祭りに青い明かりをこしらえて川へ流すカラスウリを取りに行く相談らしかったのです。
けれどもジョバンニは手を大きく振ってどしどし学校の門を出てきました。
すると町の家々では今夜の銀河の祭りに一井の葉の玉を吊るしたり、ヒノキの枝に明かりをつけたり、いろいろ支度をしているのでした。
家へは帰らず、ジョバンニが町を三つ曲がってある大きな甲板所に入って靴を脱いで上がりますと、月あたりの大きな扉を開けました。
中にはまだ昼なのに電灯がついてたくさんの輪転機がバタリバタリと回り、
キレで頭を縛ったりランプシェードをかけたりした人たちが何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いておりました。
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高いテーブルに座った人のところへ行ってお辞儀をしました。
その人はしばらく棚を探してから、「これだけ拾っていけるかね?」と言いながら一枚の紙切れを渡しました。
ジョバンニはその人のテーブルの足元から一つの小さな平たい箱を取り出して、
向こうの電灯のたくさんついた立てかけてある壁の隅のところへしゃがみ込むと、
小さなピンセットでまるで泡粒ぐらいのカツジを次から次へと拾い始めました。
青い胸当てをした人がジョバンニの後ろを通りながら、「よう虫眼鏡くん、おはよう。」と言いますと、
近くの四五人の人たちも声も立てずこっちも向かずに冷たく笑いました。
ジョバンニは何遍も目を拭いながらカツジをだんだん拾いました。
六時が打ってしばらくたった頃、ジョバンニは拾ったカツジをいっぱいに入れた平たい箱をもう一度手に取った紙切れと引き合わせてから、
さっきのテーブルの人へ持ってきました。
その人は黙ってそれを受け取ってかすかにうなずきました。
ジョバンニはお辞儀をすると扉を開けて計算台のところに来ました。
すると白服を着た人がやっぱり黙って小さな銀貨を一つジョバンニに渡しました。
ジョバンニはにわかに顔色がよくなって威勢よくお辞儀をすると台の下に置いたカバンを持って表へ飛び出しました。
それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散に走り出しました。
家庭と家族の期待
3. 家
ジョバンニが勢いよく帰ってきたのはある裏町の小さな家でした。
その三つ並んだ入り口の一番左側には空き箱に紫色のケールやアスパラガスが植えてあって、小さな二つの窓には日覆が降りたままになっていました。
お母さん、今帰ったよ。
具合悪くなかったの?
ジョバンニは苦痛をぬぎながら言いました。
ああ、ジョバンニ。お仕事がひどかったろう。
今日は涼しくてね。私はずっと具合がいいよ。
ジョバンニは玄関を上がって行きますと、ジョバンニのお母さんがすぐ入り口の部屋に白いキレをかぶって休んでいたのでした。
ジョバンニは窓を開けました。
お母さん、今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。
ああ、お前先に上がり。私はまだ欲しくないんだから。
お母さん、姉さんはいつ帰ったの?
ああ、三時ごろ帰ったよ。みんなアスパラをしてくれてね。
お母さんの牛乳は来てないんだろうか。
来なかったろうかね。
僕、行って取ってこよう。
ああ、私はゆっくりでいいんだから、お前先に上がり。
姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いていったよ。
うん、では僕食べよう。
ジョバンニは窓のところからトマトの皿を取って、パンと一緒にしばらくむしゃむしゃ食べました。
ねえ、お母さん。僕、お父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。
ああ、私もそう思う。けれども、お前はどうしてそう思うの?
だって今朝の新聞に、今年は北の方の量は大変良かったと書いてあったよ。
ああ、だけどね、お父さんは寮へ出ていないかもしれない。
きっと出てるよ。お父さんが韓国へ入るような、そんな悪いことをしたはずがないんだ。
この前お父さんが持ってきて、学校へ寄贈した大きなカニの甲羅だのと、ナカイの角だの、今だってみんな標本室にあるんだ。
6年生なんか授業のとき、先生がカワルガール教室で持っていくよ。
お父さんはこの次はお前にラッコの浮気を持ってくると言ったね。
みんなが僕に会うとそれを言うよ。ひやかすように言うんだ。
お前に悪口を言うの?
うーん、けれどもカンパネルラなんか決して言わない。
カンパネルラはみんながそんなことを言うときは気の毒そうにしているよ。
カンパネルラのお父さんとうちのお父さんとは、ちょうどお前たちのように小さいときからのお友達だったそうだよ。
ああ、だからお父さんは僕を連れてカンパネルラのうちへも連れて行ったよ。
あのころはよかったな。
僕は学校から帰る途中、たびたびカンパネルラのうちに寄った。
カンパネルラのうちにはアルコールランプで走る汽車があったんだ。
レールを7つ組み合わせると丸くなって、それに電柱や信号標もついていて、信号標の明かりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。
いつかアルコールがなくなったとき石油を使ったら、勘がすっかりせずけたよ。
そうかね。
今も毎朝新聞を回しに行くよ。
けれどもいつでも家中まだ死因としているからな。
早いからね。
ザウェルという犬がいるよ。
尻尾がまるでほうきのようだ。
僕が行くと鼻を鳴らしてついてくるよ。
ジョバンニの街の冒険
ずっと街の角までついてくる。
もっとついてくることもあるよ。
今夜はみんなでカラスうりの明かりを川へ流しに行くんだって。きっと犬もついていくよ。
そうだ。今晩は銀河のお祭りだね。
うん。僕牛乳をとりながら見てくるよ。
あー行っておいで。川へは入らないでね。
あー僕岸から見るだけなんだ。1時間で行ってくるよ。
もっと遊んでおいで。カンパネルラさんと一緒なら心配はないから。
あーきっと一緒だ。お母さん窓を閉めておこうか。
あーどうか。もう涼しいからね。
ジョバンニは立って窓を閉め、お皿やパンの袋を片付けると勢いよく靴を履いて、
「では1時間半で帰ってくるよ。」と言いながら暗い戸口を出ました。
4.ケンタウル祭の夜
ジョバンニは口笛を吹いているような寂しい口つきで日の木の真っ黒に並んだ街の坂を降りてきたのでした。
坂の下に大きな一つの街灯が青白く立派に光って立っていました。
ジョバンニがどんどん電灯の方へ降りて行きますと、
今まで化け物のように長くぼんやり後ろへ引いていたジョバンニの影帽子はだんだん濃く黒くはっきりになって、
足を上げたり手を振ったり、ジョバンニの横の方へ回ってくるのでした。
「僕は立派な機関車だ。ここは勾配だから早いぞ。僕は今その電灯を通りっこす。
そーら、今度は僕の影帽子はコンパスだ。あんなにくるっと回って前の方へ来た。」
とジョバンニが思いながら大股にその街灯の下を通り過ぎた時、
いきなり昼間のザネリが新しい襟の尖ったシャツを着て電灯の向こう側の暗い工事から出てきて、ひらっとジョバンニとすれ違いました。
「ザネリ、カラスより流しに行くの?」
ジョバンニがまだそう言ってしまわないうちに、
「ジョバンニ、お父さんからラッコの上着がくれや。」
その子が投げつけるように後ろから叫びました。
ジョバンニはばっと胸が冷たくなり、そこら中キーンとなるように思いました。
「なんだい、ザネリ。」
とジョバンニは高く叫び返しましたが、
もうザネリは向こうの火場の奪った家の中へ入っていきました。
「ザネリはどうして僕が何もしないのにあんなことを言うんだろう。走る時はまるでネズミのようなくせに。」
「僕が何もしないのにあんなことを言うのは、ザネリがバカなからだ。」
ジョバンニはせわしくいろいろなことを考えながら、
さまざまな明かりや木の枝ですっかりきれいに飾られた街を通っていきました。
時計屋の店には明るくネオン灯がついて、
一秒ごとに石でこさえた袋の赤い芽がくるっくるっと動いたり、
いろいろな宝石が海のような色をした厚いガラスのバンに乗って星のようにゆっくりめぐったり、
また向こう側から銅のジンバがゆっくりこっちへ回ってきたりするのでした。
その真ん中に丸い黒い星座葉やみが青いアスパラガスの葉で飾ってありました。
ジョバンニは我を忘れてその星座の図に見入りました。
それは昼、学校で見たあの図よりはずっと小さかったのですが、
その日と時間にあわせてバンをまわすと、
そのとき出ている空がそのまま楕円形の中にめぐってあらわれるようになっており、
やはりその真ん中には上から下へかけて銀河がぼーっと煙ったような帯になって、
その下の方ではかすかに爆発して湯気で曲げているように見えるのでした。
またその後ろには三本の足のついた小さな望遠鏡が黄色に光って立っていましたし、
一番後ろの壁には空中の星座を不思議な獣や蛇や魚や瓶の形に描いた大きな図がかかっていました。
本当にこんなようなサソリダノ、ユウシダノ、空にぎっしりいるだろうか。
ああ、僕はその中をどこまでも歩いてみたいと思ったりして、しばらくぼんやり立っていました。
それからにわかにお母さんの牛乳のことを思い出して序盤にはその店を離れました。
そして窮屈な上着の肩を気にしながら、
それでもわざと胸を張って大きく手を振って街を通って行きました。
空気は澄みきってまるで水のように通りや店の中を流れましたし、
街灯はみんな真っ青なアモミや奈良の枝で包まれ、
電気会社の前の6本のプラタナスの木などは中にたくさんの豆電灯がついて、
本当にそこらは人魚の都のように見えるのでした。
子供らはみんな新しい織りのついた着物を着て星巡りの口笛を吹いたり、
ケンタウルス、梅雨を降らせ!と叫んで走ったり、
青いマグネシアの花火を模したりして楽しそうに遊んでいるのでした。
けれども序盤にはいつかまた深く首を垂れて、
そこらの賑やかさとはまるで違ったことを考えながら牛乳屋の方へ急ぐのでした。
序盤にはいつか街外れのポプラの木がいく本もいく本も高く星空に浮かんでいるところに来ていました。
その牛乳屋の黒い門を入り、牛の匂いのする薄暗い台所の前に立って、
序盤には帽子を脱いで、「こんばんは。」と言いましたら、
家の中は死因として誰もいたようではありませんでした。
「こんばんは。」
「ごめんなさい。」
序盤にはまっすぐ立ってまた叫びました。
するとしばらくたってから年とった女の人がどこか具合が悪いようにそろそろと出てきて、
何か用かと口の中で言いました。
「あの、きょう牛乳がぼくとこへ来なかったのでもらいにあがったんです。」
序盤にが一生懸命意気をよく言いました。
「いま誰もいないでわかりません。あしたにしてください。」
その人は赤い目の下のとこをこすりながら序盤にを見おろして言いました。
「おっかさんが病気なんですからこんばんでないと困るんです。」
「ではもうすこしたってから来てください。」
その人はもう行ってしまいそうでした。
「そうですか。ではありがとう。」
序盤にはおじぎをして台所から出ました。
十字になった町の角をまがろうとしましたら向うの橋へ行くほうの雑貨店の前で
黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて六七人の生徒らが
口笛を吹いたり笑ったりしてめいめいカラスうりの明かりを持ってやってくるのを見ました。
その笑い声も口笛もみんな聞き覚えのあるものでした。
序盤にの同級の子供らだったのです。
序盤には思わずドキッとして戻ろうとしましたが
思い直して一生意気をよくそっちへ歩いて行きました。
「川へ行くの?」
序盤にが言おうとして少しのどがつまったように思ったとき
「序盤にラッコの上着が来るよ!」
さっきのザネリがまた叫びました。
「序盤にラッコの上着が来るよ!」
すぐみんなが続いて叫びました。
序盤には真っ赤になってもう歩いているかもわからず
急いで行きすぎようとしましたらその中にカンパネルラがいたのです。
天気林の探索
カンパネルラは気の毒そうに黙って少し笑って
怒らないだろうかというように序盤にの方を見ていました。
序盤には逃げるようにその目を避け
そしてカンパネルラの背の高い形が過ぎていって間もなく
みんなはてんでに口笛を吹きました。
町角を曲がるとき振り返ってみましたら
ザネリがやはり振り返って見ていました。
そしてカンパネルラもまた高く口笛を吹いて
すぐにぼんやり見える橋の方へ歩いて行ってしまったのでした。
序盤には何とも言えず寂しくなっていきなり走り出しました。
すると耳に手を当ててわーわーと言いながら
片足でぴょんぴょん飛んでいた小さな子どもらは
序盤にが面白くて描けるのだと思ってわーいと叫びました。
間もなく序盤には走り出して黒い丘の方へ急ぎました。
5.天気林の柱
牧場の後ろはゆるい丘になって
その黒い平らな頂上は北の大熊星の下に
ぼんやり普段よりも低く連なって見えました。
序盤にはもう梅雨の降りかかった小さな林の小道を
どんどん登っていきました。
真っ暗な草やいろいろな形に見えるやぶの茂みの間を
その小さな道が一筋白く星明かりに照らし出されてあったのです。
草の中にはピカピカ青びかりを出す小さな虫もいて
ある葉は青く透かし出され
序盤にはさっきみんなの持っていったカラスうりの明かりのようだとも思いました。
その真っ黒な松や奈良の林を越えると
にわかにがらんと空が開けて天の川がしらしらと
南から北へ渡っているのが見え
また頂の天麒麟の柱も見分けられたのでした。
つりがね草か野菊花の花が
そこら一面に夢の中からでも香り出したというように咲き
鳥が一匹丘の上を鳴き続けながら通っていきました。
序盤には頂の天麒麟の柱のもとに来て
どかどかする体を冷たい草に投げました。
街の明かりは闇の中をまるで海の底のお宮の景色のように灯り
子供らの歌う声や口笛
ギレギレの叫び声もかすかに聞こえてくるのでした。
風が遠くで鳴り
丘の草も静かにそよぎ
序盤にの汗でぬれたシャツも冷たく冷やされました。
野原から汽車の音が聞こえてきました。
その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え
その中にはたくさんの旅人がリンゴを剥いたり笑ったり
いろいろな風にしていると考えますと
序盤にはもう何とも言えず悲しくなって
また目を空に上げました。
ところがいくら見ていても
その空は昼先生の言ったような
ガランとした冷たいとこだとは思われませんでした。
それどころでなく
見れば見るほどそこは小さな林や
牧場やらある野原のように考えられて仕方なかったのです。
そして序盤には青いコトの星が
三つにも四つにもなってチラチラ瞬き
足が何面も出たり引っ込んだりして
とうとうキノコのように長く伸びるのを見ました。
またすぐ目の下の町までが
やっぱりぼんやりしたたくさんの星の集まりか
一つの大きな煙草のように見えるように思いました。
6.銀河ステーション
銀河ステーションへの旅
そして序盤にはすぐ後ろの天気林の柱が
いつかぼんやりした三角標の形になって
しばらくホタルのようにペカペカ消えたり
灯ったりしているのを見ました。
それはだんだんはっきりして
とうとう林と動かないようになり
濃い鋼の空の野原に立ちました。
今新しく焼いたばかりの青い鋼の板のような
空の野原にまっすぐにすきっと立ったのです。
するとどこかで不思議な声が
銀河ステーション銀河ステーション
という声がしたと思うと
いきなり目の前がパッと明るくなって
まるで億万のホタルイカの火を
いっぺんに化石させて
そこら上に沈めたという具合
またダイヤモンド会社で
値段が安くならないために
わざと取れないふりをして
隠しておいた金剛石を
誰かがいきなりひっくり返して
ばら撒いたというふうに
目の前がさーっと明るくなって
ジョバンニは思わず何遍も
目をこすってしまいました。
気がついてみるとさっきから
ごとごとごとごと
ジョバンニの乗っている小さな列車が
走り続けていたのでした。
本当にジョバンニは夜の軽便鉄道の
小さな黄色の電灯の並んだ車室に
窓から外を見ながら座っていたのです。
車室の中は青いビロードを張った腰掛けが
まるでがらわきで
向うのねずみ色のワニスを塗った壁には
真鍮の大きなボタンが2つ光っているのでした。
すぐ前の席に
濡れたように真っ黒な上着を着た
背の高い子供が
窓から頭を出して外を見ているのに気がつきました。
そしてその子供の肩のあたりが
どうも見たことのあるような気がして
そう思うともうどうしても
誰だか分かりたくてたまらなくなりました。
いきなりこっちも窓から顔を出そうとしたとき
にわかにその子供が頭を引っ込めて
こっちを見ました。
それはカンパネルラだったのです。
ジョバンニが
カンパネルラ君は前からここにいたの?
と言おうと思ったとき
カンパネルラが
みんなはねずいぶん走ったけれども
遅れてしまったよ。ザネリもね
ずいぶん走ったけれども追いつかなかった
と言いました。
ジョバンニは
そうだ僕たちは今一緒に里って出かけたんだ
と思いながら
どこかで待っていようか
と言いました。
するとカンパネルラは
ザネリはもう帰ったよ。
お父さんが迎えに来たんだ。
カンパネルラはなぜかそう言いながら
少し顔色が青ざめて
どこか苦しいという風でした。
するとジョバンニも
銀河の旅の始まり
なんだかどこかに何か忘れ物があるというような
おかしな気持ちがして
黙ってしまいました。
ところがカンパネルラは
窓から外を覗きながら
もうすっかり元気が直って
勢いよく言いました。
人を忘れてきた。
スケッチ帳も忘れてきた。
けれどもかまわない。
もうじき白鳥の停車場だから。
僕、白鳥を見るなら本当に好きだ。
川の遠くを飛んでいたって
僕はきっと見える。
そしてカンパネルラは
丸い板のようになった地図を
しきりにぐるぐる回して見ていました。
まったくその中に白く表された
天の川の左の岸に沿って
一条の鉄道線路が
南へ南へと辿っていくのでした。
そしてその地図の
立派なことは
夜のように真っ黒な板の上に
いちいちの停車場や三角標
潜水や森が
青や橙や緑や
美しい光で散りばめられて
ありました。ジョバンニは
なんだかその地図をどこかで
見たように思いました。
この地図はどこで買ったの?
黒曜石出てきてるね。
ジョバンニが言いました。
銀河ステーションでもらったんだ。
あ、君にもらわなかったの?
あー、僕銀河ステーションを通ったろうか。
今僕たちのいるとこ
ここだろう?
ジョバンニは白鳥と書いてある
停車場の印のすぐ北を指しました。
うん、そうだ。
おや、
あの河原は月夜だろうか。
そっちを見ますと
青白く光る銀河の岸に
銀色の空のすすきが
もうまるで一面
風にさらさらさらさら揺られて動いて
いるのでした。
月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。
ジョバンニは言いながら
まるで跳ね上がりたいくらい
愉快になって足をコツコツ鳴らし
思い出と友情
窓から顔を出して
高く高く星巡りの
口笛を吹きながら
一生懸命に伸び上がって
その天の川の水を見極めようとしましたが
はじめはどうしてもそれが
はっきりしませんでした。
けれどもだんだん気をつけてみると
その綺麗な水はガラスよりも
水素よりも透き通って
時々目の加減かチラチラ紫色の
細かな波を立てたり
虹のようにギラッと光ったりしながら
声もなくどんどん流れて行き
野原にはあっちにもこっちにも
輪行の三角標が
美しく立っていたのです。
遠いものは小さく
近いものは大きく
遠いものは橙や黄色ではっきりし
近いものは青白く
少し霞んであるいは三角形
あるいは四角形
あるいは稲妻や鎖の形
様々に並んで
野原いっぱいに光っているのでした。
ジョバンニはまるで
ドギドギして頭をやけに振りました。
すると本当にその綺麗な野原中の
青や橙や
色々輝く三角標も
点々に息をつくように
チラチラ揺れたり震えたりしました。
僕はもうすっかり
天野原に来た。ジョバンニは
言いました。
それにこの汽車は石炭を焚いてないね。
ジョバンニは左手を突き出して
窓から前の方を見ながら
言いました。
アルコールか電気だろう
カンパネルラが言いました。
するとちょうどそれに返事するように
どこか遠くの遠くの
もやのもやの中から
瀬戸のようなゴーゴーした声が
聞こえてきました。
ここの汽車はスティームや元気で動いていない。
ただ動くように決まっているから
動いているんだ。
ごとごと音を立てていると
僕たちは思っているけれども
それは今まで音を立てる汽車にばかり
慣れているためなのだ。
あの声僕何遍もどっかで聞いた。
僕だって
林の中や川で何遍も聞いた。
ごとごとごとごと
その小さなきれいな汽車は
空のすすきの風のひるがえる中を
天野川の水や
三角点の青じろい美光の中を
どこまでもどこまでもと
走って行くのでした。
ああ林道の花が咲いている。
もうすっかり秋だね。
カンパネルラが
窓の外を指さして言いました。
線路のへりになった
短い芝草の中に
月長石ででも刻まれたような
素晴らしい紫の林道の花が
咲いていました。
僕飛び降りてあいつを取って
また飛び乗ってみせようか。
ジョバンニは胸を躍らせて言いました。
もうだめだ。
あんなに後ろへ行ってしまったから。
カンパネルラがそう言ってしまうか
しまわないうち、次の林道の花が
いっぱいに光って過ぎて行きました。
と思ったら
もう次から次から
たくさんの黄色な底を持った林道の
花のコップが沸くように
雨のように目の前を通り
三角橋の列は煙るように燃えるように
いよいよ光って立ったのです。
7
北十字とプリオシン海岸
お母さんは僕を許してくださるだろうか。
いきなりカンパネルラが
思い切ったというように
少しどもりながら
咳き込んで言いました。
ジョバンニは
ああそうだ、僕のお母さんは
あの遠い一つの塵のように見える
橙色の三角橋のあたりにいらっしゃって
今僕のことを考えているんだった。
と思いながら
ぼんやりして黙っていました。
僕はお母さんが
本当に幸いになるなら
どんなことでもする。けれども
一体どんなことがお母さんの一番の幸いなんだろう。
カンパネルラは
なんだか泣き出したいのを
一生懸命こらえているようでした。
君のお母さんは何にも
ひどいことないじゃないの。
ジョバンニはびっくりして叫びました。
僕わからない。
けれども誰だって本当に
いいことをしたら一番幸いなんだね。
だからお母さんは
僕を許してくださると思う。
カンパネルラは何か本当に
決心しているように見えました。
にわかに車の中が
ぱっと白く明るくなりました。
見るともうじつに
金剛石や草のつゆや
あらゆる立派さを集めたような
きらびやかな銀河の川床の上を
水は声もなく形もなく流れ
その流れの真ん中に
ぼーっと青じろく
ごこうのさした一つの島が
見えるのでした。
その島の平らな頂に
立派な雨もさめるような
白い十字架が立って
それはもう凍った北極の雲でいたと
言ったらいいか
一人一人を叩いて静かに
永久に立っているのでした。
ハレルヤ、ハレルヤ
前からも後ろからも
声が起こりました。
振り返ってみると
車室の中の旅人たちは
皆まっすぐに着物のひだをたれ
黒いバイブルを胸に当てたり
水晶の呪図をかけたり
どの人もつつましく指を組み合わせて
そっちに祈っているのでした。
思わず二人とも
未知との出会い
まっすぐに立ち上がりました。
カンパネルラの頬は
まるで熟したリンゴの
アカシのように美しく輝いてみえました。
そして島と十字架とは
だんだん後ろの方へ
移ってゆきました。
向こう岸も青じろく
ぼーっと光って煙り
時々やっぱりスツキが
風にひるがえるらしく
さっとその銀色が煙って
息でもかけたように見え
またたくさんの林道の花が
草をかくれたり出たりするのは
とても奇妙に思われました。
それもほんのちょっとの間
川と汽車との間は
スツキの列でさえぎられ
白鳥の島は二度ばかり
後ろの方に見えましたが
時期もずーっと遠く小さく
手のようになってしまい
またスツキがざわざわ鳴って
とうとうすっかり見えなくなってしまいました。
ジョバンニの後ろには
いつから乗っていたのか
背の高い黒い担ぎをした
カトリック風のアマさんが
まるな緑の瞳をじゅっと
まっすぐに落として
まだ何か言葉か声かが
そっちから伝わってくるのを
慎んで聞いているというように
見えました。
旅人たちは静かに席に戻り
二人も胸いっぱいの悲しみに似た
新しい気持ちを
何気なく違った言葉で
そっと話し合ったのです。
もうじき白鳥の停車場だね。
あー
11時かっきりには着くんだよ。
早くも
シグナルの緑の明かりと
ぼんやり白い柱とが
ちらっと窓の外を過ぎ
それからイオウの炎のような
暗いぼんやりした点鉄機の前の
明かりが窓の下を通り
汽車はだんだんゆるやかになって
まもなくプラットフォームの
一列の電灯が美しく
規則正しく現れ
それがだんだん大きくなって広がって
二人はちょうど白鳥停車場の
大きな時計の前に来て
止まりました。
さわやかな秋の時計の盤面には
青く焼かれた鋼の2本の針が
ふっきり11時を指しました。
みんなは
いっぺんに降りて車室の中は
がらんとなってしまいました。
20分停車
と時計の下に書いて
ありました。
僕たちも降りてみようか。
ジョバンニが言いました。
降りよう。
二人は一度に跳ね上がってドアを飛び出して
改札口へ駆けて行きました。
ところが改札口には
明るい紫がかった電灯が
一つついているばかり
誰もいませんでした。
そこら中を見ても
駅長や赤ボロらしい人の影も
なかったのです。
二人は停車場の前の
水晶座椅子のように見える
イチョウの木に囲まれた
小さな広場に出ました。
そこから幅の広い道が
まっすぐに銀河の青光りの中へ
行きました。先に降りた人たちは
もうどこへ行ったか
一人も見えませんでした。
二人がその白い道を
肩を並べて行きますと、
二人の影はちょうど四方に窓のある
部屋の中の
二本の柱の影のように
また二つの車輪の矢のように
幾本も幾本も四方へ出るのでした。
そしてまもなく
あの汽車から見えたきれいな河原に来ました。
ガンパネルラは
そのきれいなすねを一つもみ
膝に広げ、指でキシキシさせながら
夢のように言っているのでした。
この砂はみんな水晶だ。
中で小さな火が燃えている。
そうだ。
どこで僕はそんなことを
習ったろうと思いながら
ジョバンにもぼんやり答えていました。
河原の小石はみんな
透き通って、確かに水晶や
トパーズや、またクシャクシャの
終局をあらわしたのや、
また角から霧のような
青白い光を出すコランダムやらでした。
ジョバンには走って
その渚に行って
水に手を浸しました。
けれども怪しいその銀河の水は
水々よりももっと
透き通っていたのです。
それでも確かに流れていたことは
二人の手首の水に浸ったとこが
少し水銀色に浮いたように見え、
その手首にぶっつかって
できた波は美しい輪光をあげて
ちらちらと燃えるように
見えたのでもわかりました。
川上の方を見ると
スツキのいっぱいに生えている
崖の下に白い輪がまるで
運動場のように
平らに川に沿って出ているのでした。
そこに小さな
5、6人の人影が何か
掘り出すか植えるかしているらしく
立ったりかがんだり
時々何かの道具がピカッと
光ったりしました。
「行ってみよう。」
二人はまるで一度に叫んで
そっちの方へ走りました。
その白い輪になったところの
入り口にプリオシン海岸という
瀬戸物のつるつるした標札が立って
向こうの渚には
ところどころ
細い鉄の欄管も植えられ
木製のきれいなベンチも置いてありました。
「おや、変なものがあるよ。」
カンパネルラが
不思議そうに立ち止まって
岩から黒い細長い
木の尖ったくるみの実のようなものを拾いました。
不思議な発見
「くるみの実だよ。
空たくさんある。
流れてきたんじゃない。
ここに入っているんだ。
大きいね、このくるみ。
倍あるね。
こいつは少しも痛んでない。
早くあそこへ行ってみよう。
きっと何か掘っているから。」
二人はギザギザの黒いくるみの実を持ちながら
まださっきの方へ近寄っていきました。
左手の渚には
波がやさしい稲妻のように燃えて寄せ、
右手の掛けには
一面銀や貝殻でこさえたような
すすきの穂が揺れたのです。
だんだん近づいてみると
くるみの背の高いひどい金眼鏡を掛け、
長靴を履いた学者らしい人が
手帳に何か
せわしそうに書きつけながら
鶴足を振り上げたり
スコップを使ったりしている
三人の女子らしい人たちに
夢中でいろいろ指図をしていました。
そこのその突起を壊さないように
スコップを使えたまえ、スコップを。
「おっと、もう少し遠くから掘って。」
「いけない、いけない。
何故そんな乱暴するんだ。」
見ると、その白い柔らかな岩の中から
大きな大きな
青白い獣の骨が
横に倒れて潰れたという風になって
半分以上掘り出されていました。
そして気をつけてみると、
そこらにはひずめの二つある
足跡のついた岩が
近くに遠ばかり
きれいに切り取られて番号が付けられてありました。
君たちは
三冠かね?
その大学士らしい人が
眼鏡をキラッとさせて
こっちを見て話しかけました。
くるみがたくさんあったろう。
それはまあざっと120万年ぐらい前のくるみだよ。
ごく新しい方さ。
ここは120万年前。
第三期の後の頃は海岸でね。
この下からは貝殻も出る。
今、川の流れているとこに
そっくり潮水が寄せたり
引いたりもしていたんだ。
この獣かね?
これはボスといってね。
「おいおい、そこ、ツルハシはよしたまえ。
丁寧に飲みでやってくれたまえ。」
うん、うん、ボスといってね。
今の牛の先祖で
昔はたくさんいたのさ。
標本にするんですか?
いや、照明にいるんだ。
僕から見ると、ここは熱い立派な地層で
120万年ぐらい前にできたという
証拠もいろいろあがるけれども
僕らと違ったやつから見ても
やっぱりこんな地層に見えるかどうか。
あるいは風か水や
がらんとした空かに
見えやしないかということなんだ。
わかったかい?けれども
おいおい、そこもスコップではいけない。
そのすぐ下に肋骨が埋もれているはずじゃないか。
大学士は
慌てて走って行きました。
もう時間だよ。
行こう。
カンパネーバーが地図と腕時計とを
比べながら言いました。
ああ、では私どもは失礼いたします。
ジョバンニは丁寧に
大学士にお辞儀をしました。
ああ、そうですか。
いや、さようなら。
大学士はまた忙しそうに
あちこち歩き回って監督を始めました。
汽車の旅
二人は
その白い岩の上を一生懸命
汽車に送れないように走りました。
そして本当に風のように
走れたのです。
息も切れず膝も熱くなりませんでした。
こんなにして
駆けるならもう世界中だって
駆けれるとジョバンニは思いました。
そして二人は
前のあの河原を通り
改札口の電灯がだんだん大きくなって
まもなく二人は
元の車室の席に座って
来た方を窓から見ていました。
8.鳥をとる人
小声かけてもようございますか。
ガサガサした
けれども親切そうな大人の声が
二人の後ろで聞こえました。
それは茶色の少し
ぼろぼろの街灯を着て
白い着れで包んだ荷物を
二つに分けて肩にかけた
赤ひげの背中のかがんだ人でした。
ええ、いいんです。
ジョバンニは少し
肩をすぼめて挨拶しました。
その人はひげの中で
かすかに笑いながら荷物をゆっくり
網棚にのせました。
ジョバンニは
何が大変寂しいような
悲しいような気がして
黙って正面の時計を見ていましたら
ずっと前の方で
ガラスの笛のようなものが鳴りました。
汽車はもう
静かに動いていたのです。
カンパネーラは車室の天井を
あちこち見ていました。
その一つの明かりに
黒いカブトムシが止まって
その影が大きく天井に映っていたのです。
赤ひげの人は
何か懐かしそうに笑いながら
ジョバンニやカンパネーラの様子を見ていました。
汽車はもうだんだん
早くなって鈴木と川と
河原がある窓の外から
光りました。
赤ひげの人は少し
おぞおぞしながら二人に聞きました。
あなた方は
どちらへいらっしゃるんですか。
どこまでも行くんです。
ジョバンニは少し
決まり悪そうに答えました。
それはいいね。
この汽車は実際どこまででも行きますぜ。
あなたは
どこへ行くんです。
カンパネーラがいきなり
喧嘩のように尋ねましたので
ジョバンニは思わず笑いました。
すると向こうの席にいた
尖った帽子をかぶり
大きな鍵を腰に下げた人も
ちらっとこっちを見て笑いましたので
カンパネーラもついや顔を赤くして
笑い出してしまいました。
ところがその人は別に
怒ったでもなく
頬をピクピクしながら返事をしました。
わしはすぐそこでおります。
わしは鳥を捕まえる商売でね。
何鳥ですか。
鶴や
ガンです。
鷺も白鳥もです。
鶴はたくさんいますか。
いますとも。さっきから鳴いてます。
聞かなかったんですか。
いいえ。
今でも聞こえるじゃありませんか。
そら、耳をすまして聞いてごらんなさい。
二人は
目をあげ耳をすましました。
ごとごとなる
汽車の響きとススキの風との
間からコロンコロンと
水の湧くような音が聞こえてくるのでした。
どうして取るんですか。
鶴ですか。それとも鷺ですか。
鷺です。
ジョバンニはどっちでもいいと
答えました。
そいつはなあ、どうさない。
鷺というものはみんな
天の川の砂が固まって
ぼーっとできるもんですからね。
そして始終川へ帰りますからね。
河原で待っていて、鷺がみんな
足をこういう風にして降りてくるとこを
そいつが地べたへつくかつかないうちに
ピタッと押さえちまうんです。
するともう鷺は固まって
安心して死んじまいます。
あとはもう分かりきってまさあ
お芝にするだけです。
鷺をお芝にするんですか。
標本ですか。
標本じゃありません。みんな食べるじゃありませんか。
おかしいねえ。
カンパネルラが首をかしげました。
おかしいも不審もありませんや。
そら。
その男は立って
浴びながら包みをおろして
手早くくるくるとときました。
さあごらんなさい。今取ってきたばかりです。
本当に鷺だねえ。
二人は思わず叫びました。
真っ白な
あのさっきの北の十字架のように光る鷺の体が
遠ばかり少し平べったくなって
黒い足を縮めて
浮き彫りのように並んでいるのです。
目をつぶってるね。
カンパネルラは指でそっと
鷺の三日月型の白いつぶった目にさわりました。
頭の上の槍のような白い毛も
ちゃんとついていました。
ねえ。そうでしょう。
鳥取は風呂敷を重ねて
またくるくると包んで
紐でくぐりました。
誰が一体ここらで鷺なんと食べるだろうと
ジョバンニは思いながら聞きました。
鷺はおいしいんですか?
ええ。毎日注文があります。
しかし鷺のほうがもっと売れます。
鷺のほうがずっと柄がいいし
第一手数がありませんからな。
そら。
鳥取はまた別のほうの包みを解きました。
すると、きっと青白と真鷺になって
何かの明かりのように光る鷺が
ちょうどさっきの鷺のように
くちばしをそろえて
少しひらべったくなって並んでいました。
こっちはすぐ食べられます。
どうです?少しお分かりなさい。
鳥取は黄色の鷺の足を軽く引っ張りました。
するとそれはチョコレートででもできているように
すっときれいにはなれました。
どうです?少し食べてごらんなさい。
鳥取はそれを二つにちぎって渡しました。
ジョバンニはちょっと食べてみて
なんだ、やっぱりこいつはお菓子だ。
チョコレートよりももっとおいしいけれども
こんなガンガン飛んでいるもんか。
この男はどこかそこらの野原の菓子屋だ。
けれども僕はこの人をバカにしながら
この人のお菓子を食べているのは大変気の毒だ
と思いながらやっぱりポクポクそれを食べていました。
もう少しお分かりなさい。
鳥取がまた包みを出しました。
ジョバンニはもっと食べたかったのですけれども
ありがとうと言って遠慮しましたら
鳥取は今度は向こうの席の鍵を持った人に出しました。
鳥を捕まえる人
商売物をもらっちゃすみませんな。
その人は帽子を取りました。
いいえ、どういたしまして。
どうです?今年の渡り鳥の景気は。
素敵なもんですよ。
一昨日の第二元の頃なんか
なぜ灯台の日を規則以外に
一時空白させるかって
あっちからもこっちからも電話で故障がきましたが
なあに、こっちがやるんじゃなくて
渡り鳥どもが真っ黒に固まって
赤紙の前を通るんですから仕方ありませんや。
私はベラボーめ。
そんな苦情は俺のところへ持ってきたって仕方がねえや。
バサバサのマントを着て足と口との途方もなく
細い対処をやれってこう言ってやりましたがね。
ハッハッハ。
すすきがなくなったために
向こうの野原からぱっと明かりが射してきました。
詐欺のほうはなぜ手数なんですか。
カンパネーラはさっきから聞こうと思っていたのです。
それはねえ、詐欺を食べるには
鳥取はこっちに向き直りました。
天の川の水明かりに十日も吊るしておくかねえ。
そうでなきゃ砂に三四日うずめなきゃいけないんだ。
そうすると水銀がみんな蒸発して食べられるようになるよ。
こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。
やっぱり同じことを考えていたとみえて
カンパネーラが思い切ったというように尋ねました。
鳥取はなにかたいへんあわてたふうで
おおそうそう、ここで降りなきゃや。
と言いながら立って荷物を取ったと思うと
もう見えなくなっていました。
どこへ行ったんだろう。
二人は顔を見合わせましたら
東大森はにやにや笑って
少しのびあがるようにしながら
二人の横の窓の外をのぞきました。
二人もそっちを見ましたら
たった今の鳥取が
黄色と青白の美しい輪行を出す一面の河原は
箱草の上にのって
まじめな顔をして両手をひろげて
じっと空を見ていたのです。
あそこへ行ってる。
ずいぶん期待だね。
きっとまた鳥をつかまえるとこだね。
汽車が走っていかないうちに早く鳥が降りるといいな。
と言った途端
がらんとした希胸色の空から
さっき見たような詐欺が
まるで雪の降るようにギャーギャー叫びながら
いっぱい舞い降りてきました。
するとあの鳥取は
すっかり注文通りだというようにほくほくして
両足をかっき60度に開いて立って
詐欺の縮めて降りてくる黒い足を
両手で片っ端からおさえて
布の袋の中に入れるのでした。
すると詐欺は蛍のように
袋の中でしばらく青くぺかぺか
銀河鉄道の旅始まり
光ったり消えたりしていましたが
おしまいとうとうみんなぼんやり白くなって
目をつぶるのでした。
ところが捕まえられる鳥よりは
捕まえられないで無事に
天の川の砂の上に降りるものの方が多かったのです。
それは見ていると
足が砂へつくや否や
まるで雪の溶けるように
縮まって平べったくなって
まもなく陽光炉から出た銅の汁のように
砂や砂利の上に広がり
しばらくは鳥の形が砂についているのでしたが
それも2、3度明るくなったり
暗くなったりしているうちに
もうすっかり周りと同じ色になってしまうのでした。
トリトリは20匹ばかり
袋に入れてしまうと
急に両手をあげて
兵隊が鉄砲玉にあたって死ぬときのような形をしました。
と思ったらもうそこに
トリトリの形はなくなって
かえって
星々の観測所
ああ、せいせいした。
どうも体にちょうど合うほど稼いでいるくらい
いいことはありませんなと聞き覚えのある声が
ジョバニの隣にしました。
見るとトリトリは
もうそこで取ってきた砂利をきちんとそろえて
一つずつ重ね直しているのでした。
どうしてあそこから
いっぺんにここへ来たんですか?
ジョバニがなんだか当たり前のような
当たり前でないようなおかしな気がして問いました。
どうしてって来ようとしたから来たんです。
全体あなた方はどちらからおいでですか?
ジョバニはすぐ返事をしようと思いましたけれども
さあ全体どこから来たのか
もうどうしても考えつきませんでした。
カンパネルラも顔を真っ赤にして
何か思い出そうとしているのでした。
ああ遠くからですね。
トリトリはわかったというように
造作なくうなずきました。
9.ジョバニの切符
もうここらは白鳥区のおしまいです。
ごらんなさい。
あれが名高いアルビレオの観測所です。
窓の外のまるで花火でいっぱいのような
天の川の真ん中に
黒い大きな建物が
四棟ばかり立って
黒い大屋根の上に
目も覚めるようなサファイアとトパーズの
大きな二つの透き通った玉が
輪になって静かにくるくると回っていました。
黄色のがだんだん向こうへ回っていって
青い小さいのがこっちへ進んでき
まもなく二つの端は
重なり合って綺麗な緑色の
両面突レンズの形を作り
それもだんだん真ん中が膨らみ出して
とうとう青いのは
すっかりトパーズの正面に行きましたので
緑の中心と
黄色の明るい輪とができました。
それがまただんだん横へそれて
前のレンズの形を逆に繰り返し
とうとうすっと離れて
サファイアは向こうへめぐり
黄色のはこっちへ進み
またちょうどさっきのような風になりました。
銀河の形もなく音もない水に囲まれて
本当にその黒い速攻所が
眠っているように
静かに横たわったのです。
あれは水の速さを
測る機械です。
水も
トリトリが言いかけたとき
切符を拝見いたします。
三人の席の横に
赤い帽子をかぶった生の高い車掌が
いつかまっすぐに立っていて
言いました。
トリトリはだまって隠しから
小さな紙切れを出しました。
車掌はちょっと見てすぐ目をそらして
あなた方の方は
というように指を動かしながら
カンパネルラをジョバンニたちの方へ出しました。
さあ
ジョバンニは困ってもじもじしていましたら
カンパネルラは
わけもないという風で
小さなネズミ色の切符を出しました。
友情の深まり
ジョバンニはすっかり慌ててしまって
もしくは上着のポケットにでも
入っていたかと思いながら
手を入れてみましたら
何か大きな畳んだ紙切れに当たりました。
こんなもの入っていたろうかと思って
急いで出してみましたら
それは四つに折ったはがきぐらいの
緑色の紙でした。
車掌が手を出しているもんですから
何でもかまわない。
やっちまえと思って渡してみましたら
車掌はまっすぐに立ち直って
丁寧にそれを開いて見ていました。
そして読みながら
上着のボタンや何か仕切りに直したりしていましたし
灯台監視も下から
それを熱心に覗いていましたから
ジョバンニは確かにあれは
照明書か何かだったと考えて
少し胸が熱くなるような気がしました。
これは三次空間の方から
お持ちになったのですか?
車掌が尋ねました。
何だかわかりません。
もう大丈夫だと安心しながら
ジョバンニはそっちを見上げて
くつくつ笑いました。
ようしゅうございます。
サザンクロスへ着きますのは
次の第三次頃になります。
車掌は紙を
ジョバンニに渡して向こうへ行きました。
カムパネルラは
その紙切れが何だったか
待ちかねたというように
急いで覗き込みました。
ジョバンニも全く早く見たかったのです。
ところがそれは
一面黒い辛草のような模様の中に
おかしな塔ばかりの字を印刷したもので
黙って見ていると
何だかその中へ吸い込まれてしまうような
気がするのでした。
するとトリトリが横からちらっと
それを見て慌てたように言いました。
おやー
こいつは大したもんですね。
こいつはもう本当の天井へさえ
天井どこじゃない。
どこでも勝手に歩ける通行券です。
こいつをお持ちになりゃ
なるほど。
こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか
どこまででも行けるはずでさ。
あたかた大したもんですね。
何だかわかれません。
ジョバンニが
赤くなって答えながら
それをまた畳んで隠しに入れました。
そして決まりが悪いので
カムパネルラと二人
また窓の外を眺めていましたが
そのトリトリの
時々大したもんだというように
ちらちらこっちを見ているのが
ぼんやりわかりました。
もうじきわしの停車場だよ。
カムパネルラが
向こう岸の三つ並んだ
小さな青白い三角標と地図と
見比べて言いました。
ジョバンニは何だか訳もわからずに
にわかに隣のトリトリが
気の毒でたまらなくなりました。
詐欺を捕まえて
せいせいしたと喜んだり
それをくるくる包んだり
人の切符をびっくりしたように横目で見て
慌てて褒め出したり
そんなことをいちいち考えていると
もうその見ず知らずのトリトリのために
ジョバンニの
持っているものでも食べるものでも
なんでもやってしまいたい。
もうこの人の本当の幸いになるなら
自分があの光る天の川の河原に立って
百年続けて立って
鳥をとってやってもいい
というような気がして
どうしてももう黙っていられなくなりました。
本当にあなたの欲しいものは
一体何ですかと聞こうとして
それではあんまり出し抜けだから
どうしようかと考えて振り返ってみましたら
そこにはもうあのトリトリがいませんでした。
網棚の上には
白い荷物も見えなかったのです。
また窓の外で足を踏ん張って
空を見上げて
詐欺を捕る支度をしているのかと思って
急いでそっちを見ましたが
外は一面の美しい砂子と
白いススキの波ばかり
あのトリトリの広い背中も
尖った帽子も見えませんでした。
あの人どこへ行ったろう
カンパネルラも
ぼんやりそう言っていました。
どこへ行ったろう
一体どこでまた会うんだろう
僕はどうしても
少しあの人に物を言わなかったろう
ああ
僕もそう思っているよ
僕はあの人が邪魔なような
気がしたんだ
だから僕は大変つらい
ジョバンニはこんなヘンテコな気持ちは
本当に初めてだし
こんなこと今まで言ったこともないと思いました。
なんだかリンゴの匂いがする
僕今はリンゴのことを
考えたためだろうか
カンパネルラが不思議そうに
辺りを見回しました。
本当にリンゴの匂いだよ
それからノイバラの匂いもする
ジョバンニも
そこらを見ましたがやっぱりそれは
窓からでも入ってくるらしいのでした。
今秋だから
ノイバラの花の匂いのするはずはない
とジョバンニは思いました。
そしたらにわかにそこに
ツヤツヤした黒い髪の
6つばかりの男の子が
赤いジャケツのボタンもかけず
ひどくびっくりしたような顔をして
ガタガタ震えて裸足で立っていました。
隣には
黒い洋服をきちんと着た背の高い
青年がいっぱいに風に吹かれている
ケヤキの木のような姿勢で
男の子の手をしっかり
引いて立っていました。
あらここどこでしょう。
まあきれいだわ。
青年の後ろにも一人
十二ばかりの目の茶色な
可愛らしい女の子が
黒い街灯を着て青年の腕にすがって
不思議そうに窓の外を
見ているのでした。
ああここは
ランカシャイヤだ。
いやコンネクテカット州だ。
いや
ああ僕たちは
空へ来たんだ。
僕たちは天へ行くのです。
ごらんなさいあの印は
天上の印です。
もう何も怖いことありません。
私たちは神様に
召されているのです。
黒服の青年は喜びに輝いて
その女の子に言いました。
けれどもなぜかまた
額に深くシワを刻んで
それに大変疲れているらしく
無理に笑いながら
男の子をジョバンニの隣に座らせました。
それから女の子に
優しくカンパネラの隣の席を
指差しました。
女の子は素直にそこへ座って
きちんと両手を組み合わせました。
僕お姉さんのところへ
行くんだよ。
腰掛けたばかりの男の子は
顔を変にして東大館主の
向こうの席に座ったばかりの青年に
言いました。
青年は何とも言えず悲しそうな顔をして
じっとその子の
縮れた濡れた頭を見ました。
女の子はいきなり両手を
顔に当ててしくしく泣いてしまいました。
お父さんや
菊代お姉さんはまだいろいろなお仕事があるんです。
けれどももうすぐ後から
いらっしゃいます。
それよりも、お母さんはどんなに長く待って
いらっしゃったでしょう。
私の大事な正しは今どんな歌を歌っているだろう。
雪の降る朝に
みんなと手をつないで
ぐるぐるに岩床の矢部を
回って遊んでいるだろうかと考えたり、
本当に待って心配していらっしゃるんですから
早く行って
お母さんにお目にかかりましょうね。
うーん、だけど
僕、船に乗らなきゃよかったな。
ええ、けれど
ご覧なさい。空どうです?
あの立派な川。ね。
あそこはあの夏中
ツインクルツインクルリトルスター
を歌って休むとき
いつも窓からぼんやり白く見えていたでしょう。
あそこですよ。ね。
きれいでしょう。あんなに光っています。
泣いていた姉も
半ケチで目を拭いて外を見ました。
青年は教えるようにそっと
兄弟にまた言いました。
私たちはもう
悲しみと幸福の旅
何にも悲しいことないのです。
私たちはこんないいとこを旅して
じき神様のとこへ行きます。
そこならもう本当に明るくて
匂いが良くて立派な人たちで
いっぱいです。
そして私たちの代わりにボートで乗れた人たちは
きっとみんな助けられて
心配して待っている
めいめいのお父さんやお母さんや
自分のお家へやら行くのです。
もうじきですから元気を出して
面白く歌っていきましょう。
青年は男の子の
濡れたような黒い髪を撫で
みんなを慰めながら
自分もだんだん顔色が輝いてきました。
あなた方はどちらからいらっしゃったんですか。
どうなったんですか。
さっきの東西観修は
やっと少しわかったように
青年に尋ねました。
青年はかすかに笑いました。
いえ、氷山にぶつかって
船が沈みましてね。
私たちは
こちらのお父さんが急なようで
2ヶ月前、一足先に本国へ
お帰りになったので
後から立ったのです。
私は大学へ入っていて
家庭教師に雇われていたんです。
ところがちょうど12日目、
今日か昨日のあたりです。
船が氷山にぶつかって
いっぺんに傾き、もう沈みかけました。
月の明かりはどこかぼんやりありましたが
霧が非常に深かったんです。
ところがボートは
砂原の方半分はもうだめになってしまいましたから
とてもみんなは乗りきらないんです。
もうそのうちにも
船は沈みますし、私は必死となって
どうか小さな人たちを乗せてください
と叫びました。
近くの人たちはすぐ道を開いて
そして子供たちのために
祈ってくれました。
けれどもそこからボートまでのところには
まだまだ小さな子供たちや親たちや
なんかいて、とても押しのける
勇気がなかったんです。
それでも私はどうしても
この方たちをお助けするのが私の義務だ
と思いましたから
前にいる子供らを押しのけようとしました。
けれどもまた
そんなにして助けてあげるよりは
このまま神の御前にみんなで行く方が
本当にこの方たちの幸福だ
とも思いました。
それからまた
その神に背く罪や
私ひとりでしょってぜひとも助けてあげよう
と思いました。
それでもどうしても見ていると
それができないのでした。
子供らばかりのボートの中へ話してやって
お母さんが狂気のように
キスを送り
お父さんが悲しいのをじっとこらえて
まっすぐ立っているなど
とてももう腹渡もちぎれるようでした。
そのうち船はもうずんずん沈みますから
私たちは固まって
もうすっかり覚悟して
この人たち二人を抱いて
浮かべるだけは浮かぼうと
船の沈むのを待っていました。
誰が投げたか
ライフVがひとつ飛んできましたけれども
滑ってずっと向こうへ行ってしまいました。
私は一生懸命で
甲板の格子になったところを
離して、三人それに
しっかり取り付きました。
どこからともなく
306番の声が上がりました。
たちばちみんなはいろいろな国語で
いっぺんにそれを歌いました。
そのときにわかに大きな音がして
私たちは水に落ち
もう渦に入ったと思いながら
しっかりこの人たちを抱いて
それからぼーっとしたと思ったら
もうここへ来ていたんです。
この方たちのお母さんは
一昨年亡くなられました。
ええ、ボートはきっと
助かったに違いはありません。
なにせよほど熟練な
政府たちが来いで素早く
船から離れていましたから。
そこらから小さな探索や祈りの声が聞こえ
ジョバンニもカンパネルラも
今まで忘れていたいろいろのことを
ぼんやり思い出して
気がつくなりました。
ああ、その大きな海は
パシフィックというのではなかったろうか。
その氷山の流れる
北の果ての海で
小さな船に乗って
風や凍りつく潮水や激しい寒さと
戦って
誰かが一生懸命働いている。
僕はその人に本当に気の毒で
不思議な出会い
そしてすまないような気がする。
僕はその人の幸いのために
一体どうしたらいいんだろう。
ジョバンニは
気をたれてすっかり塞ぎ込んでしまいました。
何が幸せかわからないです。
本当にどんなつらいことでも
それが正しい道を進む中での出来事なら
峠の上りも下りも
みんな本当の幸福に近づく
一足ずつですから。
東大森が慰めていました。
ああ、そうです。ただ一番の幸いに至るために
いろいろな悲しみも
みんなおぼし飯です。
青年が祈るように
そう答えました。
そしてあの兄弟はもう疲れて
めいめいぐったり
席に寄りかかって眠っていました。
さっきのあの裸足だった足には
いつか白い柔らかな靴を履いていたのです。
ごとごとごとごと
汽車はきらびやかな林檎の
川の岸を進みました。
向うの方の窓を見ると
野原はまるで
幻灯のようでした。
百も千もの大小
さまざまの三角標
その大きなものの上には
赤い点々を打った測量器も見え
野原の果ては
それらが一面
たくさんたくさん集まって
ぼーっと青白い霧のよう
そこからか、またはもっと向こうからか
ときどきさまざまの形の
ぼんやりしたのろしのようなものが
河原があるきれいな
希氷色の空に打ち上げられるのでした。
実にその透き通ったきれいな風は
薔薇の匂いでいっぱいでした。
いかがですか。
こういうリンゴはおはじめてでしょう。
向うの席の東大館主が
いつか金と紅で
美しく彩られた大きなリンゴを
落とさないように
両手で膝の上に抱えていました。
おや、どこから来たんですか。
立派ですね。
ここらではこんなリンゴができるんですか。
青年は本当にびっくりしたらしく
東大館主の両手に抱えられた
一森のリンゴを
目を細くしたり
首を曲げたりしながら
我を忘れて眺めていました。
いや、まあ、お取りください。
どうか、まあ、お取りください。
青年は一つ取って
ジョバンニたちの方をちょっと見ました。
さあ、向うのぼっちゃん方。
いかがですか。お取りください。
ジョバンニはぼっちゃんと言われたので
少し尺に触って黙っていましたが
カンパネルラは
ありがとうと言いました。
すると青年は
自分で取って
一つずつ二人に送って起こしましたので
ジョバンニも立ってありがとうと言いました。
東大館主はやっと
両腕が空いたので
今度は自分で一つずつ
眠っている兄弟の膝にそっと置きました。
どうもありがとう。
どこでできるんですか。こんな立派なリンゴは。
青年はつくづく見ながら
言いました。
このあたりではもちろん農業はいたしますけれども
大抵一人でいいものが
できるような約束になっております。
農業だってそんなに骨は折れはしません。
大抵自分の望む種さえ撒けば
一人でにどんどんできます。
米だってパシフィック編のように
殻もないし
十倍も大きくて匂いもいいものです。
けれどもあなた方のいらっしゃる方なら
農業はもうありません。
リンゴだってお菓子だって
カスがすかしもありませんから
みんなその人その人によって違った
わずかのいい香りになって
毛穴から散らけてしまうんです。
にわかに男の子が
バッチリ目を開いて言いました。
ああ、僕今
お母さんの夢を見ていたよ。
お母さんがね
立派な戸棚や本のあるところにいてね
僕の方を見て手を出して
にこにこにこにこ笑ったよ。
僕、お母さんリンゴを
拾ってきてあげましょうかと言ったら
目が覚めちゃった。
ああ、ここさっきの汽車の中だね。
そのリンゴはそこにあります。
このおじさんにいただいたんですよ。
青年が言いました。
ありがとう、おじさん。
おや、かわる姉さん
まだ寝てるね。
僕、起こしてやろう。
姉さん、ごらん、リンゴをもらったよ。
起きてごらん。
姉は笑って目を覚まし
まぶしそうに両手を目に当てて
それからリンゴを見ました。
男の子はまるでパイを食べるようにも
それを食べていました。
またせっかく見たそのきれいな皮も
くるくるコルク抜きのような形になって
床へ落ちるまでの間には
スーッと灰色に光って
蒸発してしまうのでした。
二人はリンゴを大切に
ポケットにしまいました。
川下の向こう岸の青く茂った
大きな林が見え
その枝には熟して真っ赤に光る
丸い実がいっぱい
その林の真ん中の高い高い三角標が立って
森の中から
オーケストラベルやジロフォンに混じって
なんともいえずきれいな音色が
溶けるようにしみるように
風につれて流れてくるのでした。
青年はゾクッとして
体を震うようにしました。
黙ってその風を聞いていると
そこらに一面
黄色や薄い緑の明るい野原か
敷物かが広がり
また真っ白な蝋のような杖が
太陽の面をかすめていくように
思われました。
「まあ、あのカラス。」
カンパネルラの隣のカオルと呼ばれた
女の子が叫びました。
「カラスでない。
みんなハササギで
カラスでない。みんなカササギだ。」
カンパネルラがまた
何気なく叱るように叫びましたので
ジョバンニはまた思わず笑い
女の子は
決まり悪そうにしました。
まったく
河原の青白い明かりの上に
黒い鳥がたくさんたくさんいっぱいに
列になって止まってじっと
川の尾行を受けているのでした。
「カササギですね。
歌と共鳴
頭の後ろのとこに
毛がピンと伸べてますから。」
青年はとりなすように言いました。
向こうの青い森の中の
三角標はすっかり
汽車の正面に行きました。
そのとき汽車のずっと後ろの方から
あの聞き慣れた
306番の
三美歌の節が聞こえてきました。
よほどの人数で合唱している
らしいのでした。
青年はさっと顔色が青ざめ
立っていっぺんそっちへ
行きそうにしましたが
思い返してまた座りました。
カオルコはハンケチを顔に
当ててしまいました。
ジョバンニまでなんだか鼻が変になりました。
けれども
いつともなく誰ともなく
その歌は歌い出されだんだんはっきり
強くなりました。
思わずジョバンニもカンパネルラも
一緒に歌い出したのです。
そして青い観覧の森が
見えない天の川の向こうに
さめざめと光りながらだんだん
後ろの方へ行ってしまい
そこから流れてくる怪しい楽器の音も
もう汽車の響きや風の音に
すり減らされてずっと
かすかになりました。
あ、クジャクがいるよ。
あ、クジャクがいるよ。
あの森、ライラの宿でしょう。
あたしきっとあの森の中に
不思議な出会い
昔の大きなオーケストラの人たちが
集まっていらっしゃると思うわ。
まわりには青いクジャクや
なんかたくさんいると思うわ。
ええ、たくさんいたわ。
女の子が答えました。
ジョバンニはその小さく小さくなって
今はもう一つの緑色の
貝ボタンのように見える
森の上にさっさと青じろく
時々光って
そのクジャクが羽を広げたり
閉じたりする光の反射を見ました。
そうだ、クジャクの声だって
さっき聞こえた。
カンパネルラが女の子に言いました。
ええ、三十匹ぐらいは確かにいたわ。
女の子は答えました。
ジョバンニは
にわかに何とも言えず
悲しい気がして思わず
カンパネルラ
ここから跳ね降りて遊んでいこうよ
と怖い顔をして言おうとしたくらいでした。
ところがその時ジョバンニは
川島の遠くの方に
不思議なものを見ました。
それは確かに
何か黒いつるつるした細長いもので
あの見えない天の川の水の上に
飛び出して
ちょっと弓のような形に進んで
また水の中に隠れたようでした。
おかしいと思ってまたよく
気をつけていましたら
近くでまたそんなことがあったらしいのでした。
そのうちも
あっちでもこっちでも
その黒いつるつるした変なものが
水から飛び出して
丸く飛んでまた頭から水へくぐるのが
たくさん見えてきました。
みんな魚のように川上へのぼるらしいのでした。
まあ何でしょう。
たあちゃん、ごらんなさい。
まあたくさんだわね。
何でしょうあれ。
眠そうに目をこすっていた男の子は
びっくりしたように立ち上がりました。
なんだろう。
青年も立ち上がりました。
まあおかしな魚だわ。
何でしょうあれ。
イルカです。
カンパネルラが
そっちを見ながら答えました。
イルカだなんてあたしはじめてだわ。
けどここ海じゃないんでしょ。
イルカは
海にいると決まっていない。
あの不思議な低い声が
またどこからかしました。
本当にそのイルカの形のおかしいことは
二つのヒレをちょうど
両手を下げて
不動の姿勢をとったようなふうにして
水の中から飛び出してきて
うやうやしく頭を下にして
不動の姿勢のまま
また水の中へくぐっていくのでした。
見えない天の川の水も
そのときはゆらゆらと
青い炎のように波をあげるのでした。
イルカ、
お魚でしょうか。
女の子はカンパネルラに話しかけました。
男の子はぐったり疲れたように
席にもたれて眠っていました。
イルカ、
魚じゃありません。
クジラと同じようなケダモノです。
カンパネルラが答えました。
あなたクジラを見たことあって?
僕あります。
クジラは
頭と黒い尻尾だけ見えます。
潮を吹くとちょうど本にあるようになります。
クジラなら大きいわね。
クジラ大きいです。
子供だってイルカぐらいあります。
そうよ。
私アラビアンナイトで見たわ。
姉は細い銀色の指輪をいじりながら
面白そうに話していました。
カンパネルラ、
僕も行っちまうぞ。
僕なんかクジラだって見たことないや。
ジョバンニはまるでたまらないほど
イライラしながら
それでも固く
唇を噛んでこらえて
窓の外を見ていました。
その窓の外には
イルカの形ももう見えなくなって
皮は二つに分かれました。
その真っ暗な島の真ん中に
高い高い矢倉が一つけまれて
その上に一人のゆるい服を着て
赤い帽子をかぶった男が立っていました。
そして両手に
赤と青の旗を持って
空を見上げて信号しているのでした。
ジョバンニが見ている間
その人はしきりに赤い旗を振っていましたが
にわかに赤旗を下ろして
後ろに隠すようにし
青い旗を高く高くあげて
まるでオーケストラの指揮者のように
振っていました。
すると空中に
ザーッと雨のような音がして
何か真っ暗なものが
幾塊も幾塊も
鉄砲玉のように
川の向こうのほうへ飛んでいくのでした。
ジョバンニは思わず
窓から体を半分出して
そっちを見上げました。
美しい美しい
卑怯色のがらんとした空の下を
実に何万という小さな鳥どもが
幾組も幾組も
めいめいせわしく飛んでいました。
鳥が飛んでいくな。
ジョバンニが窓の外で
言いました。
ドラッ。
ガンパネルラも空を見ました。
その時
あのヤグラの上の
ゆるい服の男は
にわかに赤い旗を上げて
狂気のように振り動かしました。
するとピタッと鳥の群れは通らなくなり
それと同時にピシャーンと
うつぶれたような音が
川下のほうで起こって
それからしばらく死因としました。
と思ったら
あの赤棒の信号手が
また青い旗を振って叫んでいたのです。
今こそ渡れ渡り鳥
今こそ渡れ渡り鳥
その声もはっきり聞こえました。
それと一緒にまた
幾万という鳥の群れが
空をまっすぐにかけたのです。
二人の顔を出している真ん中の窓から
あの女の子が顔を出して
美しい頬を輝かせながら
空を仰ぎました。
まああの鳥たくさんですわね。
あらまあ空のきれいなこと。
女の子はジョバンニに
話しかけましたけれども
ジョバンニは
生意気なやだいと思いながら
黙って口をむすんで
空を見上げていました。
女の子は小さくほっと息をして
黙って席へ戻りました。
カンパネラが気の毒そうに
窓ころ顔を引っ込めて地図を見ていました。
あの人
鳥絵を教えているんですか?
女の子がそっと
カンパネラに尋ねました。
渡り鳥へ信号しているんです。
きっとどこからかの
のろしが上がるためでしょう。
カンパネラが少し
おぼつかなそうに答えました。
そして車の中は
死因となりました。
ジョバンニはもう頭を引っ込めたかったのですけれども
明るいとこへ顔を出すのが
つらかったので
黙ってこらえてそのまま立って
口笛を吹いていました。
どうして僕は
こんなに悲しいんだろう。
僕はもっと心持ちを綺麗に
大きく持たなければいけない。
あそこの岸のずーっと向こうに
まるで煙のような小さな
青い火が見える。
あれは本当に静かで冷たい。
僕はあれをよく見て心持ちを沈めるんだ。
ジョバンニは
ほてって痛い頭を両手で
押さえるようにしてそっちの方を
見ました。
ああ本当にどこまでも
僕と一緒に行く人はいないだろうか。
カンパネルラだって
あんな女の子と面白そうに
話しているし
僕は本当につらいなあ。
ジョバンニの目はまた涙で
いっぱいになり
天の川もまるで遠くへ行ったように
ぼんやり白く見えるだけでした。
その時汽車は
だんだん川から離れて崖の上を
通るようになりました。
向こう岸もまた黒い色の
崖が川の岸を下流に
下るに従ってだんだん
高くなっていくのでした。
そしてチラッと大きな
トウモロコシの木を見ました。
その葉はぐるぐるに
ちじれ、葉の下にはもう美しい
緑色の大きなホウが
赤い毛をはいて真珠のような
実をチラッと見えたのでした。
それはだんだん数を増してきて
もう今は列のように崖と線路
との間に並び、
思わずジョバンニが窓から顔を
引っ込めて向こう側の窓を
見ました時は、美しい空の野原の
地平線の果てまで
その大きなトウモロコシの木が
ほとんど一面に植えられて、
さやさや風に揺らぎ、
その立派なちじれた葉の先からは
まるで昼の間に
いっぱい日光を吸った
金剛石のように梅雨がいっぱいについて
赤や緑やキラキラ燃えて
光っているのでした。
カンパネルラが
あれトウモロコシだね
そうジョバンニに言いましたけれども
ジョバンニはどうしても気持ちが直りませんでしたから
ただぶっきらぼうに野原を見たまま
そうだろう
と答えました
その時汽車がだんだん静かになって
いくつかのシグナルと
電鉄機の明かりを過ぎ
小さな停車場に止まりました
その正面の青白い時計は
かっきり第二時を示し
風もなくなり汽車も動かず
静かな静かな野原の中に
その振り子はカチッカチッと
正しく時を刻んでいくのでした
自然の美しさ
そしてまったく
その振り子の根の絶え間を
遠くの遠くの野原の果てから
かすかなかすかな旋律が
糸のように流れてくるのでした
新世界交響楽だわ
向こうの席の姉が
一人ごとのように
こっちを見ながらそっと言いました
まったくもう車の中では
あの黒服の丈高い青年も
誰もみんな優しい夢を見ているのでした
こんな静かな良いとこで
僕はどうしてもっと愉快になれないんだろう
どうしてこんなに一人寂しいんだろう
けれどもカンパネルラなんか
あんまりひどい
僕と一緒に汽車に乗っていながら
まるであんな女の子とばかり話しているんだもの
僕は本当につらい
ジョバンニはまた手で
顔を半分隠すようにして
向こうの窓の外を見つめていました
透き通ったガラスのような笛が鳴って
その笛が鳴って
その笛が鳴って
透き通ったガラスのような笛が鳴って
汽車は静かに動き出し
カンパネルラも寂しそうに
星巡りの口笛を吹きました
ええええ
もうこの辺はひどい高原ですから
後ろの方で
誰か年寄りらしい人の
今目が覚めたという風で
ハキハキ話している声がしました
トウモロコシだって
棒で二尺も穴を開けておいて
そこへ巻かないと生えないんです
そうですか
ええええ
川までは二千尺から六千尺あります
もうまるでひどい峡谷になっているんです
そうそう
ここはコロラドの高原じゃなかったろうか
ジョマンには思わず
そう思いました
あの姉は
弟を自分の胸に寄りかからせて
眠らせながら
黒い瞳をうっとりと遠くに投げて
何を見るでもなしに考え込んでいるのでしたし
カンパネルラはまだ
寂しそうに一人口笛を吹き
男の子はまるで絹で包んだ
リンゴのような顔色をして
ジョバンニの見る方を見ているのでした
突然トウモロコシがなくなって
大きな黒い野原が
いっぱいに開けました
新世界公共学は
いよいよはっきり地平線の果てから沸き
その真っ黒な野原の中を
一人のインディアンが
白い鳥の羽を頭につけたくさんの石を
腕と胸に飾り
小さな弓に矢をつがえて
一目散に汽車を追ってくるのでした
あらインディアンですよ
インディアンですよ
お姉さまご覧なさい
黒服の青年も目をさましました
不思議な旅の始まり
ジョバンニもカンパネルラも立ち上がりました
走ってくるわ
あら走ってくるわ
追いかけているんでしょう
いいえ汽車を追っているんじゃないんですよ
寮をするか踊るかしているんですよ
青年は
今どこにいるか忘れたというふうに
ポケットに手を入れて立ちながら
言いました
インディアンは半分は踊っているようでした
第一かけるにしても
足の踏みようがもっと経済も取れ
本気にもなれそうでした
にわかにくっきり白いその羽は
前のほうへ倒れるようになり
インディアンはピタッと立ち止まって
素早く弓を空に引きました
そこから一羽の鶴が
フラフラと落ちてきて
また走り出したインディアンの
大きく広げた両手に落ち込みました
インディアンはうれしそうに
立って笑いました
そしてその鶴をもって
こっちを見ている影も
もうどんどん小さく遠くなり
電信柱の外枝がキラッキラッと
続いて二つばかり光って
またトウモロコシの林になってしまいました
こっち側の窓を見ますと
汽車は本当に高い高い
崖の上を走っていて
その谷の底には顔がやっぱり幅広く
明るく流れていたのです
えーもうこの辺から下りです
なんせ今度は
この辺まで降りていくんですから
用意じゃありません
この傾斜があるもんですから
汽車は決して向こうから
こっちへは来ないんです
そーらもうだんだん早くなったでしょう
さっきの老人らしい声が言いました
どんどんどんどん
汽車は降りていきました
崖の端に鉄道がかかるときは
川が明るく下に覗けたのです
序盤にはだんだん心持ちが
明るくなってきました
汽車が小さな小屋の前を通って
その前にしょんぼり
一人の子供が立って
こっちを見ているときなどは
思わずほーっと叫びました
どんどんどんどん
汽車は走っていきました
部屋中の人たちは
半分後ろの方へ倒れるようになりながら
腰掛けにしっかりしがみついていました
序盤には思わず
ガンパネルラと笑いました
もうそして天の川は
汽車のすぐ横手を
今までよほど激しく流れてきたらしく
と言っているのでした
薄赤い河原のでしこの花が
あちこち咲いていました
汽車はようやく落ち着いたように
ゆっくり走っていました
向こうとこっちの岸に
星の形と
つるはしを描いた旗が立っていました
あれ何の旗だろうね
序盤にがやっと
物を言いました
さあわからないね
地図にもないんだもの
鉄の船が置いてあるね
橋をかけるとこじゃないでしょうか
女の子が言いました
あああれ
工兵の旗だね
河橋演習をしているんだ
けれど兵隊の形が見えないね
そのとき
向こう岸近くの少し下流のほうで
見えない天の川の水が
ギラッと光って
柱のように高く跳ね上がり
どうと激しい音がしました
葉っぱだよ葉っぱだよ
ガンパネルラはこうおどりしました
その柱のようになった水は見えなくなり
大きな柿やマスが
キラッキラッと白く腹を光らせて
空中に放り出されて
丸い輪を描いてまた水に落ちました
序盤にはもう
跳ね上がりたいぐらい気持ちが軽くなって
言いました
空の工兵大隊だ
どうだマスなんかがまるでこんなになって
跳ね上げられたね
僕こんな愉快な旅はしたことない
いいね
あのマスなら近くで見たらこれくらいあるね
たくさん魚いるんだなこの水の中に
小さいお魚もいるんでしょうか
女の子が
話に吊り込まれて言いました
いるんでしょう
大きなのがいるんだから小さいのもいるんでしょう
けれど遠くだから
今小さいの見えなかったね
序盤にはもうすっかり機嫌が直って
面白そうに笑って
女の子に答えました
あれきっと双子のお星さまのお宮だよ
男の子がいきなり窓の外を
さして叫びました
右手の低い丘の上に
小さな水晶ででもこさえたような
二つのお宮が並んで立っていました
双子のお星さまのお宮ってなんだい
私前に何遍もお母さんから聞いたわ
ちゃんと小さな水晶のお宮で
二つ並んでいるからきっとそうだわ
話してごらん
双子のお星さまが何をしたっての
僕も知ってない
双子のお星さまが野原へ遊びに出て
カラスとケンガしたんだろ
そうじゃないわよ
あのね天の川の岸にね
お母さんお話なさったわ
それからほうき星が
ギーギーフーギーギーフーって
言ってきたね
いやだわたーちゃんそうじゃないわよ
それは別の方だわ
するとあそこに今笛を吹いているんだろうか
今海へ行ってら
行けないわよ
もう海から上がっていらっしゃったのよ
そうそう僕知ってら
僕お話をしよう
川の向こう岸がにわかに赤くなりました
柳の木や何かも
豊かな自然と星々
真っ黒にすかし出され
見えない天の川の波も
時々ちらちら針のように赤く光りました
まったく向こう岸の野原に
大きな真っ赤な火が燃やされ
その黒い煙は高く
希氷色の冷たそうな天をも
焦がしそうでした
ルビーよりも赤く透き通り
リチウムよりも美しく酔ったようになって
その火は燃えているのでした
あれは何の火だろう
あんな赤く光る火は
何を燃やせばできるんだろう
ジョバンニが言いました
サソリの火だな
カムパネルラがまた地図と
くびっぴきして答えました
あらサソリの火のことなら
私知ってるわ
サソリの火ってなんだい
ジョバンニが聞きました
サソリが焼けて死んだのよ
その火が今でも燃えてるって
私何遍もお父さんから聞いたわ
サソリって虫だろう
ええサソリは虫よ
ええサソリは虫よ
だけどいい虫だわ
サソリいい虫じゃないよ
僕博物館でアルコールにつけてあるのを見た
小川こんな鍵があって
それで刺されると死ぬって先生が言ってたよ
そうよだけどいい虫だわ
お父さんこう言ったのよ
昔のバルドラの野原に
一匹のサソリがいて
小さな虫やなんか殺して食べて生きてたんですって
するとある日
イタチに見つかって食べられそうになったんですって
サソリは一生懸命
逃げて逃げたけど
とうとうイタチに抑えられそうになったわ
その時いきなり前に井戸があって
その中に落ちてしまったわ
もうどうしても上がられないで
サソリは溺れ始めたのよ
その時サソリはこう言ってお祈りしたというの
ああ私は今まで
いくつのものの命を取ったかわからない
そしてその私が
今度イタチに取られようとした時は
あんなに一生懸命逃げた
それでもとうとうこんなになってしまった
ああ何にも当てにならない
どうして私は私の体を
黙ってイタチにくれてやらなかったろう
そしたらイタチも一日生き延びたように
どうか神様
私の心をご覧ください
こんなに虚しく命を捨てず
どうかこの次にはまことのみんなの幸いのために
私の体をお使いください
って言ったというの
そしたらいつかサソリは自分の体が
真っ赤な美しい火になって燃えて
夜の闇を照らしているのは見たって
別れと祈り
今でも燃えてるって
お父さんおっしゃったわ
それだわ
そうだ見たまえ
そこの三角標はちょうどサソリの形に並んでいるよ
ジョバンニは全くその大きな火の向こうに
三つの三角標が
ちょうどサソリの腕のように
こっちに五つの三角標が
サソリの尾や鍵のように並んでいるのを
見ました
そして本当に
その真っ赤な美しいサソリの火は
音なく明るく明るく燃えたのです
その火がだんだん
後ろの方になるにつれて
みんなは何とも言えずにぎやかな
様々な額の根や
草花の匂いのようなもの
口笛や人々のざわざわいう声やらを聞きました
それはもうじき近くに
町か何かがあって
そこにお祭りでもあるというような気がするのでした
ケンタウル梅雨を降らせ
いきなり今まで眠っていた
ジョバンニの隣の男の子が
向こうの窓を見ながら叫んでいました
ああそこには
クリスマストリーのように真っ青な
モミの木が立って
その中にはたくさんのたくさんの
豆伝統がまるで千のホタルでも
集まったようについていました
ああそうだ
今夜はケンタウル祭だね
ああここはケンタウルの村だよ
カンパネルラがすぐ
言いました
ボール投げなら僕決して外さない
男の子が大いわりで言いました
のじきサザンクロスです
降りる支度をしてください
青年がみんなに言いました
僕もう少し汽車に乗ってるんだよ
男の子が
言いました
カンパネルラの隣の女の子は
そわそわ立って支度を始めましたけれども
やっぱりジョバンニたちと別れたくないような
様子でした
ここで降りなきゃいけないんです
青年はきちっと口を結んで
男の子を見下ろしながら言いました
いやだい
僕もう少し汽車に乗ってから行くんだい
ジョバンニが堪えかねて
言いました
汽車に乗っていこう
僕たちどこまでも行ける切符は持ってるんだ
だけど私たちもここで降りなきゃいけないのよ
ここ天井へ行くとこなんだから
女の子が寂しそうに
言いました
天井へいかなくたっていいじゃないか
僕たちここで天井よりも
もっといいところを
こさえなきゃいけないって
僕の先生がいってたよ
だっておっ母さんもいってらっしゃるし
それに神様がおっしゃるんだわ
そんな神さまは嘘の神様だい
貴方の神様は
神様よ そうじゃないよ
あなたの神様ってどんな神様ですか 青年は笑いながら言いました
僕本当はよく知りませんけれどもそんなん でなしに本当のたった一人の神様です
本当の神様はもちろんたった一人です そんなんでなしにたった一人の本当の本当
の神様です だからそうじゃありませんか私はあなた
方が今にその本当の神様の前に私たちと お会いになることを祈ります
青年はつつましく両手を組みました 女の子もちょうどその通りにしました
みんな本当に別れが美味しそうでその顔色も 少し青ざめて見えました
ジョバンニは危なく声を上げて泣き出そうと しました
さあもう支度はいいんですか 時期サウザンクロスですから
ああその時でした見えない天の川のずーっと 川下に青や橙やもうあらゆる光で
散りばめられた十字架がまるで一本の木 というふうに川の中から立って輝きその
上には青白い雲が丸い輪になって五光の ようにかかっているのでした
記者の中がまるでザワザワしました みんなの北の十字の時のようにまっすぐに
立ってお祈りを始めました あっちにもこっちにも子供が売りに
飛びついた時のような喜びの声やなんとも 言いようのない深いつつましいため息の
音ばかりが聞こえました そしてだんだん十字架は窓の正面に
幻想的な旅の始まり
なりあのリンゴの肉のような青白い輪の 雲も緩やかに緩やかに巡っているのが
見えました ハレルヤハレルヤ
明るく楽しくみんなの声は響きみんなは その空の遠くから冷たい空の遠くから
透き通ったなんとも言えず爽やかな ラッパの声を聞きました
そしてたくさんのシグナルや伝統の明かり の中を汽車はだんだん緩やかになり
とうとう十字架のちょうど真向かいに行って すっかり止まりました
さあ降りるんですよ 青年は男の子の手を引き姉は互いに
襟や肩を直してやってだんだん向こうの出口 の方へ歩き出しました
じゃあさよなら 女の子が振り返って2人に言いました
さよなら 序盤にはまるで泣き出したいのを
こらえて怒ったようにぶっきらぼうにいました 女の子はいかにも辛そうに目を大きくして
もう一度こっちを振り返ってそれから後は もう黙って行ってしまいました
汽車の中はもう半分以上も空いてしまい にわかにガランとして寂しくなり風が
いっぱいに吹き込みました そして見ているとみんなはつつましく
列を組んであの十字架の前の天の川の 渚にひざまずいていました
そしてその見えない天の川の溝を渡って 一人の光合し白い着物の人が手を伸ばして
こっちへ来るのを2人は見ました けれどもその時はもうガラスの呼び子
は鳴らされ汽車は動き出しと思ううちに 銀色の霧が川下の方からスーッと流れて
友情と本当の幸せ
きてもうそっちは何も見えなくなりました たくさんのくるみの木が葉をさんさんと
光らしてその霧の中に立ち 金の円弧を持ったデンキリスが可愛い顔を
その中からちらちら覗いているだけでした その時スーッと霧が晴れかかりました
どこかへ行く街道らしく小さな伝統の一 列についた通りがありました
それはしばらく線路に沿って進んでいました そして2人がその明石の前を通っていく
時はその小さな豆色の日はちょうど挨拶でも するようにポカッと消え2人が過ぎて
行く時またつくのでした 振り返ってみるとさっきの十字架は
すっかり小さくなってしまい本当にもうそのまま 胸にも吊るされそうになり
さっきの女の子や青年たちがその前の白い 渚にまだひざまずいているのかそれとも
どこか方角もわからないその天井へ行ったのか ぽんやりして見分けられませんでした
序盤にはあーっと深く息しました カンパネラーまた僕たち二人きりになった
ねー どこまでもどこまでも一緒に行こう
僕はもうあのサソリのように本当にみんなの 幸いのためならば僕の体なんか100ペン
焼いても構わない 僕だってそうだ
カンパネラーの目には綺麗な涙が浮かんで いました
けれども本当の幸いは一体何だろう 序盤にが言いました
僕わからない カンパネラーがぼんやり言いました
僕たちしっかりやろうねー 序盤にが胸いっぱい新しい力が湧くように
ふーと息をしながら言いました ああそこ石炭袋だよ空の穴だよ
カンパネラーが少しそっちを避けるように しながら天の川のひととこを指差しました
序盤にはそっちを見てまるでギクッとして しまいました
天の川のひととこに大きな真っ暗な穴が ドーンと開いているのです
その底がどれほど深いかその奥に何があるか いくら目をこすって覗いても何にも見えず
ただ目がしんしんと痛むのでした 序盤にが言いました
僕もあんな大きな闇の中だって怖くない きっとみんなの本当の幸いを探しに行く
どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んでいこう
あーきっと行くよ あーあそこの野原はなんて綺麗だろう
みんな集まってるね あそこが本当の天井なんだ
あ、あそこにいるのは僕のお母さんだよ
カンパネルラはにわかに窓の遠くに見える 綺麗な野原を指して叫びました
序盤にもそっちを見ましたけれども そこはぼんやり白く煙っているばかり
どうしてもカンパネルラが言ったように 思われませんでした
なんとも言えず寂しい気がして ぼんやりそっちを見ていましたら
向こうの川岸に二本の伝心柱が ちょうど両方から腕を組んだように
赤い腕着を連ねて立っていました
カンパネルラー 僕たち一緒に行こうね
序盤にがこう言いながら振り返ってみましたら その今までカンパネルラの座っていた席に
もうカンパネルラの形は見えず ただ黒いビロードばかり光っていました
序盤にはまるで鉄砲玉のように立ち上がりました そして誰にも聞こえないように
窓の外へ体を乗り出して 力いっぱい激しく胸を打って叫び
それからもう喉いっぱい泣き出しました もうそこらがいっぺんに真っ暗になったように思いました
その時 お前は一体何を泣いているのちょっとこっちをご覧
今までたびたび聞こえたあの優しいセロのような声が 序盤にの後ろから聞こえました
序盤にはハットを持って涙を払ってそっちを振り向きました さっきまでカンパネルラの座っていた席に黒い大きな帽子をかぶった
青白い顔の痩せた大人が優しく笑って大きな一冊の本を持っていました お前の友達がどこか行ったんだろう
あの人はね本当に今夜遠く行ったんだ お前はもうカンパネルラを探しても無駄だ
どうしてなんですか僕はカンパネルラと一緒にまっすぐ行こうと言ったんです ああそうだみんながそう考えるけれども一緒に行けない
そしてみんながカンパネルラだ お前が会うどんな人でもみんな何でもお前と一緒にリンゴを食べたり汽車に乗ったりしたの
だ だからやっぱりお前はさっき考えたようにあらゆる人の一番の幸福を探しみんなと一緒に
早くそこに行くがいい そこでばかりお前は本当にカンパネルラといつまでも一緒に行けるのだ
ああ僕はきっとそうします僕はどうしてそれを求めたらいいでしょう ああ私もそれを求めている
お前はお前の切符をしっかり持っておいでそして一心に勉強しなきゃいけない お前は科学を習ったろう
水は酸素と水素からできているということを知っている 今は誰だってそれを疑いやしない実験してみると本当にそうなんだから
けれども昔はそれを水銀と塩でできていると言ったり 水銀と硫黄でできていると言ったりいろいろ議論したんだ
みんなが命名自分の神様が本当の神様だと言うだろう けれどもお互い他の神様を信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう
それから僕たちの心が良いとか悪いとか議論するだろう そして勝負がつかないだろう
けれどももしお前が本当に勉強して実験でちゃんと本当の考えと嘘の考えと分けてしまえば その実験の方法さえ決まればもう信仰も科学と同じようになる
けれどもねちょっとこの本をご覧いいかい これは地理と歴史の時点だよ
この本のこのページはねえ紀元前2200年の地理と歴史が書いてある よくご覧紀元前2200年のことでないよ
紀元前2200年の頃にみんなが考えていた地理と歴史というものが書いてある だからこのページ一つが一冊の地歴の本に当たるんだ
理解そしてこの中に書いてあることは紀元前2200年頃には大抵本当だ 探すと証拠も続々出ているけれどもそれが少しどうかなとこう考え出してごらん
そらそれは次のページだよ 紀元前1000年
現実への帰還
だいぶ地理も歴史も変わっているだろう この時はこうなのだ変な顔してはいけない
僕たちは僕たちの体だって考えだって天の川だって記者だって歴史だってただそう 感じているのなんだから
そらご覧僕と一緒に少し心持ちを静かにしてごらん いいか
その人は指を一本を上げて静かにそれを下ろしました するといきなり序盤には自分というものが自分の考えというものが記者やその学者や天の川
やみんな一緒にポカッと光ってシーンとなくなって ポカッと灯ってまたなくなってそしてその一つがポカッと灯るとあらゆる広い世界が
ガランと開けあらゆる歴史が備わり すっと消えるともうガランとしたただもうそれっきりになってしまうのを見ました
だんだんそれが早くなって間もなくすっかり元の通りになりました さあいいかだからお前の実験はこの切れ切れの考えの始めから終わりすべてに渡るようでなければ
いけない それが難しいことなんだけれどももちろんその時だけのでもいいのだ
あごらんあそこにプレシオスが見える お前あのプレシオスの鎖を解かなければならない
その時真っ暗な地平線の向こうから青白いのろしがまるで昼間のように打ち上げられ 汽車の中はすっかり明るくなりました
そしてのろしは高く空にかかって光り続けました マジェランの声援だ
さあもうきっと僕は僕のために僕のお母さんのために カンパネルナのためにみんなのために本当の本当の幸福を探すぞ
ジョバンニは唇を噛んでそのマジェランの声援を望んで立ちました その一番幸福なその人のために
さあ切符をしっかり持っておいで お前はもう夢の鉄道の中でなしに本当の世界の日や激しい波の中を大股にまっすぐ歩いて
いかなければいけない 天の川の中でたった一つの本当のその切符を決してお前はなくしてはいけない
あのセロのような声がしたと思うとジョバンニは あの天の川がもうまるで遠く遠くなって風が吹き
自分はまっすぐ草の丘に立っているのを見 また遠くからあのブルカニロ博士の足音の静かに近づいてくるのを聞きました
ありがとう私は大変いい実験をした 私はこんな静かな場所で遠くから私の考えを人に伝える実験をしたいとさっき考えて
いた お前の言った後はみんな私の手帳にとってあるさあ帰っておやすみ
お前は夢の中で決心した通りまっすぐに進んでいくがいい そしてこれから何でもいつでも私のとこへ相談においでなさい
僕きっとまっすぐに進みますきっと本当の幸福を求めます ジョバンニは力強く言いました
ではさようならこれはさっきの切符です 博士は小さく折った緑色の紙をジョバンニのポケットに入れました
そしてもうその形は天気輪の柱の向こうに見えなくなっていました ジョバンニはまっすぐ走って丘を下りました
そしてポケットが大変重くカチカチなるのに気がつきました 林の中で止まってそれを調べてみましたらあの緑色のさっき夢の中で見た
怪しい天の切符の中に大きな2枚の金貨が包んでありました 博士ありがとう
お母さんすぐ父を持っていきますよ ジョバンニは叫んでまた走り始めました
何かいろいろなものがいっぺんにジョバンニの胸に集まって何とも言えず悲しいような 新しいような気がするのでした
コトの星がずーっと西の方へ移ってそしてまた夢のように足を伸ばしていました ジョバンニは目を開きました
元の丘の草の中に疲れて眠っていたのでした 胸はなんだかおかしくほてり
頬には冷たい涙が流れていました ジョバンニはバネのように跳ね起きました
街はすっかりさっきの通りに下でたくさんの明かりを綴ってはいましたがその光はなんだか さっきよりは熱したという風でした
そしてたった今夢で歩いた天の川もやっぱりさっきの通りに白くぼんやりかかり 真っ黒な南の地平線の上ではコトに煙ったようになってその右には
サソリ座の赤い星が美しくきらめき 空全体の位置はそんなに変わってもいないようでした
ジョバンニは一山に丘を走っておりました まだ夕ご飯を食べないで待っているお母さんのことが胸いっぱいに思い出されたのです
どんどん黒い松の林の中を通ってそれからほのじろい牧場の柵を回ってさっきの 入り口から暗い牛舎の前へまた来ました
そこには誰かが今帰ったらしくさっきなかった一つの車が何かの樽を2つ乗っけて おいてありました
こんばんは ジョバンニは叫びました
はい 白い太いズボンを履いた人がすぐ出てきて立ちました
何のご用ですか 今日牛乳が僕のところへ来なかったんですが
あーすみませんでした その人はすぐ奥へ行って1本の牛乳瓶を持ってきてジョバンニに渡しながらまた言いました
本当にすみませんでした今日は昼過ぎうっかりして 子牛の柵を開けておいたもんですから大将早速親牛のところへ行って半分ばかり飲んで
しまいましてねー その人は笑いました
そうですかではいただいていきます どうもすみませんでしたいいえ
ジョバンニはまだ熱い父の瓶を両方の手のひらで包むように持って牧場の柵を出ました そしてしばらく木のある街を通って大通りへ出てまたしばらく行きますと道は縦文字になって
その右手の方通りの外れにさっきカンパネーラたちの明かりを流しに行った川へかかった 大きな橋の矢倉が夜の隣ぼんやり立っていました
ところがその10時になった街角や店の前に 女たちが78人ぐらいずつ集まって橋の方を見ながら何かひそひそ話しているのです
ジョバンニの遭遇
それから橋の上にもいろいろな明かりがいっぱいなのでした 序盤にはなぜかさーっと胸が冷たくなったように思いました
そしていきなり近くの人たちへ何かあったんですか と叫ぶように聞きました
子供が水へ落ちたんですよ 一人が言いますとその人たちは一斉にジョバンニの方を見ました
ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました 橋の上は人でいっぱいで川が見えませんでした
白い服を着た巡査も出ていました ジョバンニは橋のたもとから飛ぶように下の広い河原へ降りました
その河原の水際に沿ってたくさんの明かりがせわしく登ったり下ったりしていました 向こう岸の暗い土手にも日が7つ8つ動いていました
その真ん中をもうカラス売りの明かりもない川がわずかに音を立てて灰色に静かに 流れていたのでした
河原の一番下流の方へ巣のようになって出たところに人の集まりが くっきり真っ黒に立っていました
ジョバンニはどんどんそっちへ走りました するとジョバンニはいきなりさっきカンパネルラと一緒だったマルソに会いました
マルソがジョバンニに走るよって言いました ジョバンニ、カンパネルラが川へ入ったよ
どうして? いつ?
ザンネリがね 船の上からカラス売りの明かりを水の流れる方へ押してやろうとしたんだ
その時船が揺れたもんだから水へ落っこったろう するとカンパネルラがすぐ飛び込んだんだ
そしてザンネリを船の方へ押して起こした ザンネリは加藤に捕まったけれどもあとカンパネルラが見えないんだ
みんな探してるんだろ? ああすぐみんな来た カンパネルラのお父さんも来た
けれども見つからないんだ ザンネリは家へ連れられてった ジョバンニはみんなのいるそっちの方へ行きました
そこに学生たちや街の人たちに囲まれて 青白い尖った顎をしたカンパネルラのお父さんが黒い服を着て
まっすぐに立って左手に時計を持ってじっと見つめていたのです みんなもじっと川を見ていました
誰も一言も物を言う人もありませんでした ジョバンニはワクワクワクワク足が震えました
魚を捕る時のアセチレンランプがたくさん忙しく行ったり来たりして 黒い川の水はちらちら小さな波を立てて流れているのが見えるのでした
下流の方の川幅いっぱい銀河が大きく映って まるで水のないそのままの空のように見えました
ジョバンニはそのカンパネルラはもうあの銀河の外れにしかいないというような気がして 仕方なかったのです
けれどもみんなはまだどこかの波の間から僕ずいぶん泳いだぞと言いながら カンパネルラが出てくるかあるいはカンパネルラがどこかの人の知らない巣に
でもついて立っていて誰かの来るのを待っているかというような気がして仕方ない らしいのでした
けれどもにわかにカンパネルラのお父さんがきっぱりいました もうダメです落ちてから45分経ちましたから
ジョバンニは思わず駆け寄って博士の前に立って僕はカンパネルラの行った方を知っています 僕はカンパネルラと一緒に歩いていたんですと言おうとしましたが
もう喉が詰まって何とも言えませんでした すると博士はジョバンニが挨拶に来たとでも思ったもんですか
しばらくしげしげジョバンニを見ていましたが あなたはジョバンニさんでしたねどうもこんばんはありがとう
と丁寧に言いました ジョバンニは何も言えずにただお辞儀をしました
あなたのお父さんはもう帰っていますか 博士は固く時計を握ったまままた聞きました
いいえ ジョバンニはかすかに頭を振りました
どうしたのかなぁ僕にはおととい大変元気な頼りがあったんだが 今日あたりもう着く頃なんだが船が遅れたんだな
ジョバンニさん明日放課後皆さんと家遊びに来てくださいね そう言いながら博士はまた川下の銀河のいっぱい映った方へじっと目を送りました
ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいで何も言えずに博士の前を離れて早く お母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思うともう一目
お父さんに河原の町の方へ走りました 1969年発行 門川書店門川文庫
物語の結末
銀河鉄道の夜 より独領読み終わりです
はいいかがでしたでしょうか えっとですね作中ですね鍵括弧が2回ほど出てきまして
この間原稿がなくなってますみたいな注釈が入ってたんですけど そこのところは全部無視して無音で読み通したので
すっと話が変わってあれ今どの場面みたいな感じになるところも一部あるかと思いますが えっとね
どこだったかな電車の中 の会話の会話のところ
子供が2人いた会話のところが一箇所と あとその前にあったのがどこだったかなちょっとそれ忘れましたけど
なんか原稿が見当たらず おかしいんだけどそのまま
ガッチャンコして出しましたみたいなことを書いてあったような気がします 確かに景色の描写とか
色彩色とかあと匂いにも言及されてましたけど 確かに素敵な文章が続いてましたね
最初の見立てだと1時間40分ぐらいどういう想定でしたけど およそ2時間ぐらいになってしまいました
最近の僕ですがちょっと 病院にかかってですね肝臓がおかしいということで3月いっぱいお酒を抜いています
今日この収録は3月15日土曜日の夜ですが 休館日ならぬ休館好きというかまるまる1ヶ月酒抜いてみようかなと思いましてね
あのお医者さんかかった時のお医者さんが僕より若いぐらいの 頑張っているお医者さんって感じだったんですが僕週7でお酒飲んでたのでそれもあって
か 目にたたえる
どうせお前ら酒飲みは酒やめられないだろうみたいな こうにじみ出た
どうせ無理っしょみたいな感じが 肌についてやめたらと思って今お酒抜いてますけど
代わりにねすごいお腹が減りますずっとご飯のこと考えています 1日一食だったにこれまで
すごい食べてますねあの山崎のミニクロワッサンをずっとパクパクパクパク食べながら 仕事しています
そういうことでちょっとね太るんじゃないかと危惧してますけどまぁそれはそれでいいか 何とかなるかなという気持ちで日々生きています
あさって月曜日ね ct 検査というのを生まれて初めて受けてきますのでその結果次第 ですかねはい
じゃあ終わりにしましょうかね 無事寝落ちできた方も最後までお付き合いいただいた方も大変お疲れ様でございました
といったところで今日のところはこの辺でまた次回お会いしましょう おやすみなさい
01:59:57

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