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2025-03-25 35:05

115イワン・ツルゲーネフ「あいびき」

115イワン・ツルゲーネフ「あいびき」

待ち合わせじゃなくて「あいびき」。意味の説明できますか?今回も寝落ちしてくれたら幸いです。


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サマリー

イワン・ツルゲーネフの短編小説『あいびき』を通じて、男女の密かな出会いが探求されています。物語の中では、不思議な風景描写と共に、愛し合う二人の緊張感や期待感が表現されています。『あいびき』では、ビクトルとアクーリナの別れの切なさが描かれ、彼らの愛と不安、未来への思いが交錯する情景が表現されており、特に二人の繊細な感情が印象的です。ポッドキャスト115イワン・ツルゲーネフ「あいびき」では、主人公ヴィクトルとアクーリナの関係や、現代のカップルが描かれています。特に新宿のサザンテラスを舞台にした実体験が紹介され、街の様子と恋愛模様が対比されています。

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寝落ちの本ポッドキャスト。 こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには、面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
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ツルゲーネフの紹介
さて、今日はですね、 イワン
ツルゲネフ? 違うなぁ、ツルゲーネフ
さんの、あいびきというテキストを読もうと思います。 この名前ね、ツルゲーネフさんね。
何回か前に読んだ、 田山家太さんの布団の作中で
若い女の子を弟子にとっちゃった主人公が、その若い弟子に読ませるんですよね。 買い与えるんですよ、この人のツルゲーネフさんの本を。
作中はツルゲネフと書いてありましたが、表記売れで、 現在wikipedia上はツルゲーネフとなってますんで、こちらを採用しようと思いますが、
田山家太さんのツルゲネフ、ネーが伸びるのは今回はね、採用しないでおきたいと思いますけど、 なんかあの時代に限定されているのかわかりませんけど、
作家先生が他の作家先生を指して、 名指しでね、
こう、 あいつの作品はこうだって指差して
休談したり、あるいは ちゃんと別具体的に取り出してきて本名添加したり、
自分のフィクションの中で引用して本、ね、さっきの 電子に、女の子の電子に買ってきて読ませてあげた本が実在する本みたいなね。
そういうこともあったりして、なんかね、ちょっとそういうつながりがうっすら見えて面白いなと思いますが、
イヴァン・ツルゲーネフ・ドストエフスキー・トルストイと並んで19世紀ロシア文学を代表する文豪である
ロシア帝国の貴族ということで、代表作に 良人日記
貴族の巣 初恋
父と子などがあるそうです。 それから、名前の表記はツルゲーネフのほか、ロシア語の発音に近い
トゥルゲーネフという表記も用いられる。だって、 音が伸びるのはもうどうでもよくなってるな。
ああ、そうですか。 今日読むのは
相引きというテキストですね。
みなさん、相引きって どうですか?
上手に一言で説明できるでしょうか? まあ男女が合うんだよなぁと僕も
自分で自分に問うって思ったんですけど、でもそれだったら待ち合わせでいいわけですよ。
ねっ 相引きって何なんでしょうか?
どうでしょう? すぐ思いつかみ浮かびますか?
調べました。 相引き
愛し合っている男女が密かに会うこと。ランデブー。 ほら、密かにの要素があるんですよ。
密かに会ってるんですよ。 ということは、会っちゃいけない2人なんですね。ランデブーだもんね。
あらあらあらあら おやおやおやおや
ということで 今回はその
相引きを読んでいこうと思います。 ロシアの相引きってことなんでしょうか?
今回は双葉亭氏名さんの役ということになっております。 どうぞお値打ちまでお付き合いください。
それでは参ります。 相引き
物語の風景描写
この相引きは、先年フランスで死去したロシアでは有名な小説家 ズルゲーネフという人の刃物の作です。
今度、徳富先生のご依頼で訳してみました。 私の訳文は我ながら不思議とそのなんだが、これでも原文は極めて面白いです。
秋9月中旬という頃 一日自分が去るカバの林の中に座していたことがあった。
今朝から小雨が降り注ぎ、その晴れ間にはおりおり 生暖かな日陰も差して
まことに気まぐれな空あい。 あわあわしい白雲が空一面にたなびくかと思うと、ふとまたあちこち瞬く間、
雲切れがして。 無理に押し分けたような雲間から澄みて逆しげに見える人の目のごとくに、
ほがらかに晴れた青空が覗かれた。 自分は座して、よんこしてそして耳を傾けていた。
木の葉が頭上でかすかにそよいだが、 その音を聞いたばかりでも季節は知られた。
それは春先する面白そうな笑うようなさざめきでもなく、 夏のゆるやかなそよぎでもなく、
ながたらしい話し声でもなく、また末の秋のおどおどした、 嘘さぶそうなおしゃべりでもなかったが、
ただようやく聞き取れるか聞き取れぬほどのしめやかな死後の声であった。 そよ吹く風はしのぶように木末を伝った。
てると曇るとで、雨にじめつく林の中の様子が簡単なく移り変わった。 あるいはそこにありとあるものがすべて一時に微笑したように、
くまなく赤みわたって、 さのみしげくもないかまの細々とした幹は、
思いがけずも白きぬめく、やさしい艶を帯び、 地上に散りしいた細かな落葉はにわかに日にえいじて、
まばゆきまで金色を放ち、頭をかきむしったようなパーポロトニク、 わらびの類の見事な茎、
しかもつえすぎたぶどうめく色を帯びたのが、 再現もなくもつれつからみつして木前にすかしてみられた。
あるいはまたあたり一面にわかに薄暗くなりだして、 またたく間にものの藍色も見えなくなり、
カバの子たちも、ふりつもったままでまだ日の目にあわぬ雪のように、 白くおぼろにかすむ、
と、小雨がしのびやかに、あやしげに、 死後するようにぱらぱらっとふって通った。
カバの子の葉は、いちじるしく光沢はさめていても、 さすがになお青かった。
が、ただ、 そっちこっちに立つ若木の実は、すべて赤くも黄色くも色づいて、
おりおり日の光が、いま雨にぬれたばかりの細枝の茂みをもれて、 すべりながらにぬけてくるのを浴びては、きらきらときらめいていた。
鳥はひと声も音をきかせず、みなどこかにかくれてひそまりかえっていたが、 ただおりふしにひとをさみしたしじゅうからの声のみが、
古鈴でも鳴らすごとくにひびきわたった。 このカバの林へくる前に、自分は両剣をひいて、さる高くしげった箱柳の林をすぎたが、
この木は、箱柳は、ぜんたい虫がすかぬ。 幹といえば青みがかったれんぎょう色で、
葉といえば、ねずみともつかず、みどりともつかず、 へたなかのもの在庫を見るようで、
しかも竹いっぱいに首をひきのばして、大じわのように空中に立ちはだかって、 どうも虫がすかぬ。
ながたらしい茎へ、ぶきようにひっつけたようなうすきたないえんようをうるさくふりたてて、 どうも虫がすかぬ。
この木のみて心よいときといっては、 ただせびくな棺木の中央に、一段高くそびえて入り火をまともにうけ、
根もとより木すえに至るまでむらなくかばえろにそばりながら、 風にそよいでいる夏の夕暮れか。
さなくば、空のごりなくはれわたって、風のすさまじく吹く日。 青ぞらにかげにして立ちながら、ざわざわざわつき、
風にふき悩まされるこの葉のいまにも、 木すえをもぎはなれて遠く吹き飛ばされそうに見えるときかで、
とにかく自分はこの木を好まぬので、 そこでその箱柳の林には行こわず、わざわざこの川の林にまでたどりついて、
地上をわずか離れて、下枝の生えた飴しのぎになりそうな木立を見たてて、 さてその下に炭火をかまえ、
あたりの風景をながめながら、ただ良勇者のみが思いのあるという、 例の穏やかな罪のない夢をむすんだ。
何時ばかり眠っていたかはっきりしないが、 とにかくしばらくして目をさましてみると、林の中は陽の光りが至らぬ熊もなく、
うれしそうに騒ぐこの葉をもれて、華やかに晴れた青ぞらが、 まるで火花でも散らしたように鮮やかに見渡された。
雲は狂い廻る風に吹き払われて形を潜め、 空には霧雲ひとつもたどめず、大気中に含まれた一種清涼の木は、人の気を爽やかにして、
穏やかな晴れ夜の来る前ぶれをするかと思われた。 自分はまさに立ち上がりて、またさらに生んだ飯、
少女の出会い
かっこただし漁獣のことで、をしようとして、 ふと壇前と座している人の姿を認めた。
瞳を定めてよく見れば、それは農夫の娘らしい少女であった。 二十歩ばかりあなたに物を思わし、木に香笛を垂れ、力なさそうに両の手を膝に落として、
壇前と座していた。 ガタガタの手を見れば、中葉むき出しで、その上に乗せた
草花の束根が呼吸をするたびに、島のペチコートの上を静かに転がっていた。 清らかな白の表衣をしとやかに着なして、喉元と手首のあたりでボタンをかけ、
大粒な黄色い飾り玉を二列に分かって襟から胸へ垂らしていた。 この少女、なかなかの美人で、造毛をも欺く色白の額際で、
キレの狭い火の模型を占めていたが、その下から美しいうずら色で、 しかも白く光る濃い頭髪を丁寧に溶かしたのがこぼれてて、二つの半円を描いて左右に分かれていた。
顔の他の部分は日に焼けてはいたが、薄皮だけにかえって見どころがあった。 眼差しはわからなかった。
始終、下目のみ使っていたからで、しかしその代わり、 火出た細眉と長いまつ毛とは明らかに見られた。
まつ毛はうるんでいて、肩肩の頬にもまた青ざめた唇へかけて、 涙の伝った跡が夕日に生えてありありと見えた。
そうして首つきが愛らしく、鼻が少し大きく丸すぎたが、 それすらさのみ目障りにはならなかったほどで。
とりわけ自分の気に入ったはその面挿し。まことに乳和でしとやかで、 取り繕った景色はみじんもなく、さもうるわしそうで、
そしてまたあどけなく途方に暮れた仰向きもあった。 誰をか待ち合わせているのと見えて、何かかすかに物音がしたかと思うと、
少女はあわてて頭をもたげて振り返ってみて、その大肩の涼しい目、 目じかのもののようにおどおど下の尾は、うす暗い木陰で光らせた。
くわっと見ひらいた目を物音の下方へ向けてしげしべ見つめたまま、 しばらく聞きすましていたが、やがてため息を吐いて静かに小肩を振り向いて、
前よりはひときわ低くかがみながら、またおもむろに鼻をえりわけはじめた。 すりあかめたまぶちに厳しくこうれんする唇、
またしても濃いまつげの下よりこぼれ出る涙のしずくは、流れよどみて日にきらめいた。 こうしてしばらく時刻をうつしていたが、その間少女はかわいそうに、
みじろぎもせず、ただおりおり手で涙をぬぐいながら聞きすましてのみいた。 ひたすら聞きすましてのみいた。
ふとまたがさがさと物音がした。 少女はぶるぶるとふるえた。
物音は山ののみか、次第にたかまって近づいて、 ついにおもいきったかっぽの音になると、
少女はおきなおった。 なんとなく心おくれのしたけしき、
ひたとみつめたまなざしにおぞおどしたところもあった。 心のじられてたえかねた気味もみえた。
ちげみをもれて男のすがたがちらり。 少女はそなたをちゅうししてにわかにはっと顔をあからめて、
われもしあわせと思い顔ににっこり笑って立ちあがろうとして、 ふとまたしおれてあおざめてどぎまぎして。
さっきの男がそばに来て立ちどまってからようやくおぞおぞ頭をもたげてねんずるように その顔をみつめた。
自分はなおものかげにひそみながら、あやしと思う心にほだされて、 その男の顔をつくづくながめたが、
あからさまにいえばあまり気にはいらなかった。 これはどうみても若干の祖父家の甘やかされすぎた
九字らしい男であった。 衣服をみればことさらに風流をめかしているうちにも、またどことなくしどけないのを飾る気味もあって、
主人の着ふるしめく茶のみじかい外套をはおり、 はしばしをれんぎょう色に染めたバラ色の首巻きをまいて、
金毛のもこうをつけた黒帽をまぶかにかぶっていた。 シャツの角のない衿は、
容赦もなく押しつけるように耳たぶをささえて、また両頬をこすり、 のりで固めた腕飾りはまったく手首をかくして、赤い先のまがった指、
ターコイズ、かっこ宝石の一種、 製のミョソティス、かっこ草の名を飾りにつけた金銀の指輪をいくこともなくはめていた指にまで至った。
世には一種の面貌がある。 自分の観察したところでは、
ビクトルとアクーリナの出会い
常に男子の気にもとる顔あり、不幸にも女子の気にかなう面貌があるが、 この男の顔つけはまったくその一つで、
桃色で清らかで、そして極めて傲慢そうで。 己が荒けない顔立ちに、わざと日を軽しめ、世に海晴れた色を装うとしていたものと見えて、
絶えず只えさえ小さな、薄白く、ネズミばみた目を細めたり、眉をしわめたり、 口角を引き下げたり、敷いてあくびをしたり、さも気のなさそうな、
やり話な風を装うて、あるいは勇ましく巻き上がったもみ上げを撫でてみたり、 または厚い上唇の上のきばみた髭を引っ張ってみたりして、
いやどうも、見ていられぬほどに様子をうる男であった。 待ち合わせていた例の少女の姿を見たときから、もう様子を織り出して、
のそりのそりと大股に歩いて傍へ寄りて、立ち止まって肩をゆすって、 両手を街灯の隠しへ押し入れて、気のなさそうな目を走らして、
じろりと少女の顔を見流して、そして下にいた。 待ったか?
と初めて口を聞いた。 なお、どこをか眺めたままであくびをしながら、足を動かしながら、
うん? 少女は急に返答をしえなかった。
どんなにもあったでしょう、とついにかすかに言った。
と言って、さきの男は帽子を出した。 さももったいらしく、
ほとんど眉際より生え出した濃いちじれ髪を撫でて、 応用にあたりを見まわして、さてまたそっと帽子をかぶって、大切な頭を隠してしまった。
危なく忘れるところよ、それにこの雨だもの。 とまたあくび。
ようは多し、早々は知れるもんじゃない。 そのくせ嫌やともすれば小言だ。時に出発は明日になった。
明日? と少女はびっくりして男の顔を見つめた。
明日。 おいおい頼むぜ。
と男は忌々しそうに口早に言った。 少女のブルブルと震えて、さしうつむいたのを見て、
頼むぜ、あくうりな。泣かれちゃ謝る。 俺はそれが大嫌いだ。
と低い鼻にシワを寄せて、 泣くなら俺はすぐ帰ろう。
なんだ馬鹿げた。泣く。 あら泣きはしませんよ。と慌ててあくうりなは言った。
せぐりくる涙をようやくのことで飲み込みながら。 しばらくして、
それじゃあ明日はお立ちなさるの? いつまた会われるだろうね。
会われるよ心配せんでも。 さよう、来年。出なければ再来年だ。
旦那はペテルブルグで役にでもつきたい様子だ。 と少し鼻声で気のなさそうに言って。
がことによると外国へ行くかもしれん。 もしそうでもなったらもう私のことなんざ忘れておしまいなさるだろうね。
と言ったが、いかにもほころ細そうであった。 なぜ?大丈夫忘れはしない。があくうりな、ちっとこれからは気をつけるがいいぜ。
悪あがきもいい加減にして、親父の言うこともちっとは聞くがいい。 俺は大丈夫だ。忘れる気遣いはない。
それはなぁ。 はぁ。
と平気でのびをしながらまたあくびをした。 本当にビクトル、アレクサンドルイチ。忘れちゃいやですよ。
と少女は祈るが如くに言った。 こんなにお前さんのことを思うのも欲と屑口じゃないから。
二人の未来への不安
お父さんの言うことも聞けと言いなさるけれど、 私にはそんなことはできないわ。
なぜ?と仰向けざまに寝ころぶ表紙に、両手を頭にしきながらあたかも胸から押し出したような声で尋ねた。
なぜと言ってお前さん、あの始末だものを。 少女は口を継ぐんだ。ビクトルはたもと時計の薬を依頼出した。
おいアクーリーな。お前だってバカじゃあるまい。 とまた話し出した。
そんなくだらんことを言うのは置いてもらおうぜ。 俺はお前のためを思って言うんだ。分かったか?
もちろんお前はバカじゃない。やっぱりお袋の証を受けてると見えて、 それこそ鉄頭鉄尾、今のその農夫というでもないが、しかしともかくもう教育はないの。
そんなら人の言うことなら、はいと言って聞いてるがいいじゃないか。 だって怖いようだもの。
つ、怖い?何も怖いことはちっともないじゃないか。
なんだそれは? とアクーリーなの側へすり寄って、
花か? 花ですよ。と言ったが、いかにも哀れそうであった。
この清涼茶は今あたしが摘んできたの。 と少し気の乗った様子。
これを牛の子に食べさせると薬になるって。 ほら、バーマリゴレ、蕎麦菓子の薬。
ちょいとご覧なさいよ。美しいじゃありませんか。 私生まれてからまだこんな美しい花見たことないのよ。
ほら、ミョソティス、ほら、スミレ。 あ、これはね、お前さんにあげようと思って摘んできたのですよ。
と言いながら、 黄色な野草の花の下にあった青々としたブルーボトルの細い草で溜まれたのを取り出して、
いりませんか? ビクトルは渋々手を出して花束を取って、気のなさそうに匂いを嗅いで、
そしてもったいをつけて、ものましそうに空を見上げながら、 その花束を指頭で回し始めた。
アクーリナはビクトルの顔をじっと見つめた。 その修善とした目つきのうちに情けを含め、優しい真心を込め、
豪物と仰ぎ、敬う兆しを表していた。 男の気を兼ねていれば、あえて泣き顔は見せなかったが、その代わり、
長折をしそうにひたすらその顔をのみ眺めていた。 それにビクトルといえば、
シタンのごとくに寝そべって、ぐっと大まけに負けて人柄を崩して、 言えながらしばらくアクーリナの本尊になって、その礼拝記念を受け使わしておった。
その顔、あから顔を見れば、ことさらに作った園見式。 無頓着な色を帯びていたうちにも、ふとごとなく独特としたところが見透かされて憎かった。
そして帰りみてアクーリナを見れば、魂がとめどなく身を浮かれ出て、 男の方へのみ引かされて甘え切っているようで。
ああ、よかった。しばらくしてビクトルは、 ビクトルは花束を草の上に取り落してしまい、製造の枠をはめた眼鏡を街頭の隠しから取り出して、目へあてがおうとしてみた。
がいくら眉をしかめ、頬をねじあげ、鼻まで仰向かせて眼鏡を支えようとしてみても、 どうしても外れて手の中へのみ落ちた。
「なに、それは?」 アクーリナがけげんな顔をして尋ねた。
「眼鏡。」 とビクトルは呆然として答えた。
「それをかけるとどうかなるの?」 「よく見えるのよ。」
「ちょいとはいけんな。」 ビクトルは顔をしかめたが、それでも眼鏡は渡した。
「こわしちゃいけんぜ。」 「だいじょぶですよ。」とコアゴは眼鏡を目のそばへ持ってきて、
「おや、なんにも見えないよ。」とあどけなく言った。
「ちょ、そんな、目を細くしなくっちゃいかない。目を。」 とさながら不機嫌な教師のような声で叱った。
アクーリナは眼鏡をあてがっていた方の目を細めた。
「ちょ、まぬけめ。そっちの目じゃない。こっちの目だ。」 とまた大声で叱って、叱える間もあらせず、アクーリナの持っていた眼鏡をひったくってしまった。
アクーリナは顔を赤くして、きまり悪そうに笑って、よそを向いて、
「どうでもあたしたちの持つもんじゃないと見える。」 「知れたことさ。」
かわいそうにアクーリナは太いため息をして黙してしまった。
「ああ、ビクトル・アレクサンドルイチ。 どうかして一緒にいられるようにはならないもんかね。」 とだし抜けに行った。
ビクトルは衣服の裾で眼鏡をぬぐい、再び隠し袋に納めて、
「そりゃあ、とうざ四五日はちっとは寂しかろうさ。」 と寛大の処置をもって、手ずからアクーリナの肩を軽く叩いた。
アクーリナはその手をそっと肩から外して、おぞおぞせっぷんした。
「ちっとは寂しかろうさ。」 とまた繰り返していって、とくとくと微笑して、
「だが、やむを得ざる主題じゃないか?」
「まあ、積もっても見るがいい。旦那もそうだが、 俺にしてもこんなケチなところにはいられない。
けだし猛時期に冬だが、田舎の冬という奴は 忍ぶべからずだ。
それから思うとペテルブルク、大したもんだ。 嘘と思うなら行ってみるがいい。
お前たちが夢に見たこともない結構なものばかりだ。 こう、立派な建屋、町、会社、文明界か。
それは不思議なものよ。」 アクリナは子供のごとくに口を開いて一心になって聞き惚れていた。
と話を聞かしても、とヴィクトルは寝返りを打って、
「ふだか。お前には空空若々だ。」
「なぜ、ヴィクトル・アレクサンドルイチ。わかりますわ。 よくわかりますわ。」
「ほう、それはえらいな。」 アクリナはしおれた。
「なぜこのごろはそうじゃけんだろう。」 と頭をうなだれたままで言った。
「なに?このごろはじゃけんだと?」 となんとなく不平そうで、
「このごろ。ふんふん、このごろ。」 両人とも惨事無言。
「どれ、帰ろうか。」 とヴィクトルは肘を杖に立ち上がろうとした。
「あら、もうちっとおいでなさいよ。」 とアクリナは祈るように言った。
「なぜ?」 「いとまごいならもうこれで済んでいるじゃないか。」
「もうちっとおいでなさいよ。」 ヴィクトルは再び横になって口笛を吹き出した。
アクリナはその顔をじっと見つめた。 次第次第に胸が涙ってきた様子で、
唇も高冷し出せば今まで青ざめていた頬も またほの赤くなり出した。
「ヴィクトル、アレクサンドルイチ。」 とにじみ声でお前さんも、
「あんまり、あんまりだ。」
「何が?」 と眉をしわめて少し起き上がってきっとアクリナの方を向いた。
「あんまりだわ、ヴィクトルアレクサンドルイチ。 今別れたら、またいつ会われるか知れないのだから。
なんとか一言ぐらい言ったって良さそうなもんだ。 なんとか一言ぐらい。」
「どう言えばいいというんだ?」 どう言えばいいか知らないけれど。
そんなことは百も承知しているくせに、 もう今が別れだというのに一言も。
「あんまりだからいい。」 おかしなことを言う奴だな。どう言えばいいというんだ。
「なんか一言ぐらい。」 「くどい。」
といまいましそうに言ってヴィクトルは立ち上がった。
「あらかに、かにしてちょうだいよ。」 とアクリナは早口に言った。
辛うじて涙を飲み込みながら。
「腹も立たないがお前の別れずやにも困る。 どうすればいいというんだ。」
「もともと女房にされないのは徳真塾じゃないか?」 「徳真塾じゃないか。」
「そんな何が不足だ。」 「何が不足だよ。」
とさながら返答を催促するように、 ぐっとアクリナの顔を覗き込んで、そして指の股を広げて手を差し出した。
「何も不足、不足はないけれど。」 とどもりながらアクリナもまた震える手先を差し出して、
「ただ何とか一言。」 涙をはらはらと流した。
「ちょっきまりをはじめた。」 とヴィクトルは平気で言った。
あとから眉間へ帽子をすべらしながら。
「何も不足はないけれど。」 とアクリナは両手を顔へ当ててすすり上げて泣きながら再び言葉をついだ。
「今でさえ家にいるのがつらくってつらくってならないんだから、 これから先はどうなることかと思うと心細くって心細くってなりゃしない。
きっと無理やりにお嫁にやられて苦労するに違いないから。」
「並べろ並べろ、だんと並べろ。」 とヴィクトルは足を踏み替えながら口の裏で言った。
「だがたった一言、一言なんとか。 アクリナ、俺も、お、お、俺も。」
ふいにこみ上げてくる涙に胸が疲れて言い切れない。 アクリナは草の上へうつぶしに倒れて苦しそうに泣き出した。
そうみをぶるぶるふるばして、 長文で高波を打たせた。
こらえにこらえた溜め涙の咳が一時に切れたので、 ヴィクトルは泣きくずおれたアクリナの背中を眺めて、 しばらく眺めてふと首をすくめて身を転じてそして大股に悠々と立ち去った。
感情の高まり
しばらくたった。 アクリナはようやく涙をとどめて頭をもたげて蹴り上がってあたりを見回して手を打った。
あと追って駆け出そうとしたが足が利かない。 ばったり膝をついた。
もう見るに見かねた。自分は木陰を踊り出て駆け寄ろうとすると、 アクリナはふと振り返って自分の姿を見るや否や、
たちまち忍び音にアッと叫びながらムックと羽を着て木の間で駆け入った。 かと思うともう姿は見えなくなった。
草花のみは取り残されて歴覧としてあたりに満ちた。 自分は立ち止まった。花束を拾い上げた。
そして林を去って野良へ出た。 日は青々とした空に低く漂って、
サスカゲも青ざめて冷ややかになり、 テルトはなくてただ地味な水色のぼかしを見るように四方に道渡った。
日没にはまだ半時間もあろうに、もう夕焼けがほの赤く天末を染め出した。 黄色く絡びた刈株を渡って激しく吹きつける野脇に催されて、
反り返った細やかな落ち葉が慌ただしく起き上がり、 林に沿った往来を横切って自分の側を駆け通った。
野良に向いて壁のように立つ林の一面はすべてざわざわざわつき、 材末の玉の屑を散らしたように輝きはしないがちらついていた。
また枯草、葉草、藁の嫌いなくそこら一面に絡みついた蜘蛛の巣は風に吹き、なびかされてなびたっていた。
自分は立ち止まった。心細くなってきた。 目に遮る物象はさっぱりとはしていれど、
面白気もおかしいげえもなく、さびれ果てたうちにもどうやら間近になった 浮遊の凄まじさが見透かされるように思われて。
正真なカラスが重そうに羽ばたきをして、 激しく風を切りながら頭上を高く飛びすぎたが、ふと首を回らして、
横目で自分を睨めて急に飛び上がって、声をちぎるように鳴き渡りながら 林の向こうへ隠れてしまった。
鳩が幾はともなく群れをなして勢い込んで黒草の方から飛んできたが、 ふと柱を立てたように舞い上って、さてぱっと一斉に野空に散った。
あ、秋だ。 誰だかハゲ山の向こうを通ると見えて、
空車の音が虚空に響き渡った。 自分は帰宅したが、かわいそうと思ったアクーリナの姿は久しく眼前にちらついて忘れかねた。
持ち帰った花の束根は絡びたままで、なお未だに秘蔵してある。
現代のカップルの姿
1969年発行。周永社。 日本文学全集1。
坪内周永。二羽亭氏名集。より独領読み終わりです。 はい。
ヴィクトルと アクーリナの
あいびき でございましたね。
このヴィクトルは結婚してなさそうですよね。 女房にできないのは得心作だじゃないかって言ってたから、まだ女房、奥さんもらってなさそうな感じでしたけどね。
遠くに行ってしまう用事があるからというか、今は女どころじゃないのでっていう感じもしましたが。
でも別れ話を目撃したということでしょうかな。
職場の関係でですね、新宿駅のサザンテラスというところを毎日通るんですけど、 冬はイルミネーションをやったりして、あと
代々木の方に建ってる時計がついたドコモタワーがね、こう見栄えがいいので、割と写真撮ってる人が多いんですけど、
まあやっぱりたくさんカップルもいててですね。 この前仕事終わって、時間何時だったかな、9時ぐらい
新宿駅に向かってサザンテラスの中歩いてたら、カップルがね、若いカップルが
おデートの最中というか、 まあ遅い時間なんで締めにかかっている時間帯だと思うんですけど、
キリンのラガーの中瓶をぶら下げて
二人で歩いてて、どこで買ったんだそれっていうね。 街中間にあるやつだよっていう。
飲み干した後その瓶どうするんだろうという思いもあって、なんかね。 もちろんその瓶は線が空いててね、
ラッパ飲みをしながら歩いてるんだろうなという感じなわけですよ。
どこ? 売ってないですよね。あれ売ってんのかな、中瓶って。
なんかね不思議な光景を見ました。という、自由研究の結果でございました。
はい。 今日は30分ぐらいでしたかね。
無事に寝落ちできた方も、最後までお付き合いいただいた方も大変にお疲れ様でございました。
といったところで、今日のところはこの辺で。 また次回お会いしましょう。おやすみなさい。
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