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寝落ちの本ポッドキャスト。
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本を淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想は、公式Xまでどうぞ。
さて、今日は北原白秋という人の新橋というエッセイを読もうかと思います。
ご存知でしょうか、北原白秋。
童謡作家の方らしいですね。
そして詩人。
マチボウケという歌が有名だそうです。
僕これ子供の頃歌った気がしますね。
それからこの道。
それでは参りましょう。北原白秋、新橋。
私が東京に着いて一番に鋭く感じたのは新橋停車場の匂いでした。
文字ではバナナやアナナスの匂いを嗅ぎながら税関の前に出ると。
文字ってあれですね、北九州ですね。
税関の前に出るとすぐ梅園の中を古城記に乗って関門海峡を渡ったので、都会という印象よりも植民地という感が強かった。
つまり都会としての歴史や奥行きというものがなく、出口と入り口とが一緒になっているからであろう。
その他、神戸、大阪、京都、名古屋という順序で東海道の各都会を通過しては来たものの、それはただ旅衆の対象として味わわれたに過ぎぬ。
夜見たところは女のプロフィールのように月光と電気とで美しく、昼間一別し去ったところは汚い非善闇の小敷の背中を見るようで醜かったにせよ。
いずれの停車場付近にも一種の名城しがたい都会と田舎とのアラジュメントがあった。
すなわち汽車についてきた新しい野菜の匂いが、新聞やサンドウィッチの呼び声に混じって、プラットホームの冷え冷えした空気に満ち渡っている。
ことさらに売り子の忙しい哀れげな声は、人をして自分の旅中にある寂しさをしみじみと自覚させる。
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新橋はそれと違う。ここには長和というよりもむしろ旧都会と新市街との不思議なコントラストがある。
東京の随所には廃山した時代の亡骸の傍らに青いガスの火が灯り、強い色彩とシャミセンとに衰弱した神経が鉄橋とレストランとの陰影にわずかに休息を求めている。
それでその当時、私の乗っていた汽車が横浜近くに来る頃から私の神経はオピウムに転化して激しい快楽を待っている時の不安と同系統を覚え始めた。
都会が利用する麻酔剤は梅因である。
梅因。ちょっと意味調べてなかったんですが、ちょっとそのまま梅因として読み続けます。
都会が利用する麻酔剤は梅因である。
コルターである。石油である。ガスである。
生直しいペンキの臭気と濃厚なる脂肪のむしっくるしいため息とである。
神奈川辺りから新しい材木とセメントの乾燥した粉が土やツルハシのしきりなく落としている空に染み込んで、潮風に濡れてくる。
夜だったからなおさら東京地下首都の暗示がなんとなく神秘に聞こえて、町から町へ増えていく電気の色までが、一刻一刻に少年のみずみずしい心を腐食していく中毒症の反転のように美しく見えた。
そしてその時私は考えた。都会は美しいが実に恐ろしいところだ。
あそこには黄金、酒、毒薬、芸術、女、すべてが乱泳に瀕している。
一度かの女の冷酷なる微笑に見せられたものは、事故の破滅は予期しながらいつの間にか引きつけられてしまう。
そして迷い込んだが最後、逃れようったって逃れられるもんじゃない。
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次第に悪い因縁は青い蛇のように柔らかく絡みつく。
どうせ死ぬまでは白い歯型が霊の底までも食い入らねば放すもんじゃない。
ひらひらしながら立って毛布をはたいた。
シガーの灰が蛇のぬけがらの崩れるように散る。
私は熱湯の中に、おずおずと体を沈めるときに感じる異様なおかんに耐えながら、
敷いて落ち着いた風をしてじっと座ってみた。
品川、高輪、芝浜を通り越す自分には、
私は黒い際立った建築や車庫や獣類の周期に腐れたまま倒れかかっている貨物車の影と、
その湿った九時頃の安敵な夜の空に、
薄紫のアクア灯がしんみりした光が放っているのを見た。
いよいよ停車場のコーナーに着いたと思ったときには、
すでに面と向かって凶暇なそして冷酷な都会にぶつかっていたのである。
こちらにはもはや呂州をそそのかされるような物売りの呼び声を聞くことができぬ。
意外に空気は慌ただしいが厳粛なものであった。
私は押し流されるようにしてこの魔球の正門に達する。
大理石のペーブメントのごとく、または監獄へ行く灰色の端増に似た長いプラットホームを耐えながら、
急ぎ足に歩いたときの心地は今にも忘れることができない。
そして私が歩きながら第一に受けた印象は、
清潔な青白い馬で消毒されている便所から染み渡ってくるアルボウスの臭気であった。
すなわち都会の入り口の厳粛な臭いである。
そのほか停車場特有のカモウツの臭い、
くゆうらす葉巻き、
ふくらかなボア、
強烈な香水、
それらのすべてが私の疲れ切った感濃にフレッシュな刺激を与えたことは無論である。
改札口へ出るとすぐ私は迎えに来ていた数名の友人から取り巻かれながら、
強いて兵器をよそおいつつ正面の階段へ押されて行った。
好奇な人々はここから幾組となくほろば車をかけて行く。
車が行く。電車が行く。
そしてそれらの行く手に電気灯の黄色と白熱ガスの緑金色とが華やかに照り輝いている死骸が見えた。
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緑金色。エメラルドですかね。
それが銀座だと教えられたばかり。
美しい夜のプロフィールを遠くから見たままで、
私は暗いカラス森の芸者屋の続き路地を抜けて汚いある町の何がしという素人下宿にたどり着いた。
そうして冷たい女主人の顔を見、
友人の誇らしい不白な夫妻を見、
牢獄同様に仕切られた狭い室に疲れ果てた体を休めた時、
つくづく私は何だか都会の幻影に欺かれていたような気がした。
その後私は寂しくなると、
いつも新橋停車場に出かけては5年前に経験した都会の入り口の周期と感覚等を新たに変えてくる。
そして身も魂も絶えながら、
なお新しい観音の刺激を求めたかの時のみずみずしい心をあちらこちらと拾って歩くのが、
いつとなしに私の習慣となった。
以上、作品者より1999年第1冊発行 日本の名随筆別館95 明治より読み終わりです。
その町その町の匂いというか、民土?
こういう人が多い町だなぁみたいなのはありますよね。
町の色というのでしょうか。
皆さんはどこの町がお好きでしょうか。
それでは短いですが、今日のところはこの辺で。
おやすみなさい。