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寝落ちの本ポッドキャスト、本番はNaotaroです。 このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、 それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。 作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見ご感想は、公式エックスマでどうぞ。 さて今日はですね、
亀井勝一郎さんの、「馬鈴薯の花」というエッセイを読んでいこうと思います。
日本ロマン派の文芸評論家だそうで、 代表作は
武者名康二・佐値厚四種。 それから、ダザイオ45人の追悼文集だそうです。
初見ですね。 少し短いですが、
サクッと読んでいきたいと思います。 亀井勝一郎「馬鈴薯の花」
北海道の花といえば、誰でもまずスズランを思い出すだろう。 私の小学生・中学生時代には、
湯の川のトラピスト女子修道院の 遥か前方の丘は、すべてスズラン畑であった。
自由にそこへ行って、 好きなだけ摘んでこれたが、
今はどうなっているか知らない。 消滅してしまったのではなかろうか。
しかし、スズランよりもっと私の好きな花は、 馬鈴薯の花である。
馬鈴薯って何でしたっけ? ジャガイモ?
さつまいも? 函館の東部。
湯の川から20丁ほど歩いて行くと、 そこにトラピスト女子修道院があるが、
この付近はすべて馬鈴薯畑か、 トウモロコシの畑である。
北海道の馬鈴薯は有名だが、 やっぱジャガイモですよね。
あの花を注意する人は少ないようだ。 芋の方だけ注意しているが、
6月頃から、 そろそろ可憐な花が咲き始める。
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白と紫がかったのと2種類あるが、 決して派手な花ではない。
厚ぼったい花びらで、 それがやや外側を向いて、
小さく、 つつましく咲いているだけだ。
平凡といえば、こんな平凡な花はあるまい。 しかしよく見ていると、実に清楚だ。
ういういしい百姓の娘の耳たぶのような花だ。 修道院へ行く道の左右の馬鈴薯畑の花の咲かりの頃。
私は馬鈴薯の花見と称して、よく散歩した。 この花の感じは、周囲の雰囲気にもよるだろう。
東京の郊外で見ては、それほどではないかもしれない。 修道院の赤レンガの塀とか、
正廊のある牧場とか、 高いポプラの並木を通して、白い雲の流れていくその下に、
この花を見たとき、初めて感じが出てくるのかもしれない。 函館の郊外と言ってもいいが、そこには大沼公園がある。
以前に述べた駒畑の麓である。 しかし私は駒畑の裏側、
つまり太平洋に面した裾の一帯が好きである。 札幌から汽車で函館へ向かうとき、
ここを通過するが、高齢として寂しい風景、 いや風景とも言い切れないほど明けずりで、
凄まじい姿は見物である。 駒畑は時々噴火するので、
頂上は無論。 裾の全体に渡って樹木は非常に少ない。
大沼公園の側からはほとんど気づかないが、 太平洋岩を通るときは、その
麓と間近く通るのでわかるのだが、赤ちゃけた溶岩と砂岩の断壁が 大きく幅広く続いている。
奇怪な要望である。樹木が一本もない。 赤みかかった山頂ほど薄気味悪いものはない。
裾のは緩やかに伸びているが、噴火によるひどい傷跡のただ中を通っているような感じである。
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麓から太平洋岩の波打ち際まで、若干の樹木はあるが、 それも半ば砂地に埋もれた冠木に過ぎない。
砂漠のような地帯である。それでもどうやら開拓して、 バレーショやトウモロコシを植えているのが車窓から見える。
人貨もわずかながら散在している。 函館へ向かう汽車の窓の右側には、
狛畑のそそり立つ赤い肌の断崖が見え、 左側には無限に広がった太平洋の怒涛が眺められる。
こういうところに住んでみたらどうだろうか。 寂しさに耐えられるか。
もっとも、汽車へ乗ると、 わずかの時間で函館へ行けるが、
こうした土地で厳しい冬を迎えたり、 また、星のない深い夜など、
人々はどんな気持ちで生きているだろうか。 住んでいる人はそれほど感じないかもしれないが、
ふと通り過ぎる私などには肝をつぶすような 若幕たる土地である。
しかし私は心惹かれた。 美しい風景に対して、もし醜い風景があるとすれば、
それは美しい風景を汚している風景であろう。 観光地帯としてもてはやされるにつれて、
美しい風景も醜く変貌するようである。 ところでこの太平洋岸側の狛畑など、
何と名付くべきだろうか。
美しいというのではない。 むろん観光客など一人もなく、そういう汚れは全然ない。
つまり美しいというにはあまりに凄まじく、 高齢として、
ど疑問を抜くような面子を持っているということだ。 人間の目で愛されるには、あまりに明けずりで、
大まかで原始的なのだ。 そうだ原始と呼ぶのが一番いい。
風景以前の風景である。 人間の目で愛護される以前の風景である。
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日本にはこうした場所が他にもあるに違いない。 ある年、汽車でここを通ったとき、
小さな駅のそばの畑に、 バレーショの花を見つけたときは嬉しかった。
堂々とそびえる狛畑の原始の姿に対して、 この花は凛として、
清らかに小さな口を開いて歌っているようであった。 1983年第1冊発行。作品者より日本の名随筆一位。
花より読み終わりです。 好きなお花はありますか?
やっぱり桜でしょうか。 今、僕の家は
他肉植物が花をつけていますが、 猫がいたずらをするのでね。
そのうち折られてしまいそうです。 今日は短めでしたが、
眠りにつくことができたでしょうか。 それでは皆様また次回おやすみなさい。