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寝落ちの本ポッドキャスト。 こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。 タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。 エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。 ご意見、ご感想、ご依頼は、公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。 さて、今日は、
少し前にですね、リクエストをいただいていた、 梶井基次郎さんの「檸檬」
これを読もうと思います。
シャープ31で温泉という、 同じ作家さんのものを読んでいるんですが、そちらも良かったら聞いてみてください。
若くして亡くなった方なんで、 多分短編集1個出してそのまま亡くなっちゃって、それが後に評価されてという方だったと思いますが、
意外とこの31の温泉がね、再生数が多いので、 ファンがいるのか?
今回リクエストもらったのも、そういうことなんでしょうかね。 肺の病気を患っていらっしゃって、多分呼吸が浅くなっちゃってると思うんですけど、
そこにレモンの香りをたっぷり入れたい、みたいな描写があったような、なかったような。
とりあえず聞いてみてください。それでは参ります。 レモン
得体の知れない不吉な塊が私の心を始終抑えつけていた 焦燥と言おうか嫌悪と言おうか
酒を飲んだ後に二日酔いがあるように 酒を毎日飲んでいると二日酔いに相当した時期がやってくる
それが来たのだ これはちょっといけなかった
結果した肺腺カタルや神経衰弱がいけないのではない また背を焼くような借金などがいけないのではない
いけないのはその不吉な塊だ 以前私を喜ばせたどんな美しい音楽もどんな美しい死の一節も辛抱がならなくなった
蓄音機を聞かせてもらいにわざわざ出かけていっても 最初の2,3小節で不意に立ち上がってしまいたくなる
何かが私をいたたまらずさせるのだ それで始終私は町から町を不老し続けていた
なぜだかその頃私はみすぼらしくて美しいものに強く引きつけられたのを覚えている 風景にしても壊れかかった町だとかその街にしても
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よそよそしい表通りよりもどこか親しみのある汚い洗濯物が干してあったり ガラクタが転がしてあったり
むさ苦しい部屋が覗いていたりする裏通りが好きであった 雨や風が蝕んでやがて土に帰ってしまうといったような趣のある町で土塀が
崩れていたり家並みが傾きかかっていたり 勢いのいいのは植物だけで時とするとびっくりさせるような暇を
ありがあったりカンナが咲いていたりする 時々私はそんな道を歩きながらふとそこが京都ではなくて
京都から何百里も離れた仙台とか長崎とか そのような市へ今自分が来ているのだという錯覚を起こそうと努める
私はできることなら京都から逃げ出して 誰一人知らないような町へ行ってしまいたかった
第一に安静がらんとした旅館の一室 正常な布団
匂いのいいかやとノリの良く聞いた言う方 そこで一月ほど何も思わず横になりたい
寝が悪はここがいつの間にかその街になっているのだったら 錯覚がようやく成功し始めると私はそれからそれ
想像の絵の具を塗りつけていく 何のことはない私の錯覚と壊れかかった町との二重移しである
そして私はその中に現実の私自身を見失うのを楽しんだ 私はまたあの花火という奴が好きになった
花火そのものは第2弾としてあの安っぽい絵の具で赤や紫や 木や青や様々な島模様を持った花火の束
中戦時の星下り花合戦枯れすすき それからねずみ花火というのは一つずつはになっていて箱に詰めてある
そんなものが変に私の心を注った それからまたビードロという色ガラスでタイや花を打ち出してある
おはじきが好きになったし 軟禁玉が好きになった
またそれを舐めてみるのが私にとって何とも言えない強楽だったのだ あのビードロの味ほどかすかな涼しい味があるものか
私は幼い時よくそれを口に入れては父母に叱られたものだが あの幼児の甘い記憶が大きくなって落ちぶれた私によみがえってくるせいだろうか
全くあの味にはかすかな爽やかななんとなく渋といったような味覚が漂ってくる 察しはつくだろうが私にはまるで金がなかった
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とはいえそんなものを見て少しでも心の動きかけた時の私自身を慰めるためには 贅沢ということが必要であった
2000や3000のものといって贅沢なもの美しいもの といって無気力な私の触覚にむしろこびてくるもの
そういったものが自然私を慰めるのだ 生活がまだ蝕まれていなかった以前私の好きであったところは
例えばマルゼンであった 赤焼きのオードコロンやオードキニ
シャレたキリコ細工や天仮名ロココ趣味の浮き模様を持った 琥珀色や火水色の香水瓶
キセル小刀石鹸タバコ 私はそんなものを見るのに小一時間も費やすことがあった
そして結局一刀いい鉛筆を1本買うくらいの贅沢をするのだった しかしここももうその頃の私にとってはおも苦しい場所に過ぎなかった
書籍学生感情台 これらは皆借金取りの亡霊のように私には見えるのだった
ある朝 その頃私は甲の友達から乙の友達へという風に友達の下宿を転々として暮らしていたのだが
友達が学校へ出てしまった後の空虚な空気の中に ぽつんと一人取り残された
私はまたそこから彷徨いでなければならなかった 何かが私を追い立てる
そして町から町へ先に行ったような裏通りを歩いたり 駄菓子屋の前で立ち止まったり
貫物屋の干しエビや棒だらや湯葉を眺めたり とうとう私は2条の方へ寺町を下がりそこの果物屋で足を止めた
ここでちょっとその果物屋を紹介したいのだがその果物屋は私の知っていた範囲で 最も好きな店であった
そこは決して立派な店ではなかったのだが 果物屋固有の美しさが最も露骨に感じられた
果物屋はかなり勾配の急な台の上に並べてあって その台というのも古びた黒い漆塗りの板だったように思える
何か華やかな 美しい音楽の荒れ黒の流れが見る人を石に化したというゴルゴンの奇面
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的なものを差し付けられて あんな色彩やあんなボリュームに凝り固まった
というふうに果物は並んでいる 青ものもやはり奥へ行けば行くほど渦高く積まれている
実際あそこの人参葉の美しさなどは素晴らしかった それから水につけてある豆だとか
くわいだとか またそこの家の美しいのは夜だった
寺町通りは一帯に賑やかな通りで といって感じは東京や大阪よりはずっと住んでいるが
飾り窓の光が帯正しく街路へ流れ出ている それがどうしたわけかその店頭の周囲だけが妙に暗いのだ
もともと片方は暗い二条通りに接している 街角になっているので暗いのは当然であったがその林家が寺町通りにある家にも
関わらず暗かったのがはっきりしない しかしその家が暗くなかったらあんなにも私を誘惑するには至らなかったと思う
もう一つはその家の打ち出した日差しなのだが その日差しが瞼にかぶった帽子の日差しのように
これは形容というよりも おや
あそこの店は帽子の日差しをやけに下げているぞ と思わせるほどなので
日差しの上はこれも真っ暗なのだ 総周囲が真っ暗なため店頭につけられたいくつもの伝統が
周囲のように浴びせかける県南は周囲の何者にも奪われることなく 欲しいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ
裸の伝統が細長い螺旋棒を切り切り目の中へ差し込んでくる往来に立って また近所にある鍵屋の2階のガラス窓を透かして眺めたこの果物店の眺めほど
その時々の私を面白がらせたものは寺町の中でも稀だった その日私はいつになくその店で買い物をした
というのはその店には珍しいレモンが出ていたのだ レモンなどごくありふれている
がその店というのもみすぼらしくはないまでも ただ当たり前の八百屋に過ぎなかったのでそれまであまり見かけたことはなかった
一体私はあのレモンが好きだ レモンイエローの絵の具をチューブから絞り出して固めたようなあの単純な色も
それからあの竹の詰まった防水型の格好も 結局私はそれを一つだけ買うことにした
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それから私はどこへどう歩いたのだろう 私は長い間町を歩いていた
始終私の心を抑えつけていた不吉な塊が それを握った瞬間からいくらか緩んできたと見えて
私は町の上で非常に幸福であった あんなにしつこかった憂鬱が
そんなものの一家で紛らされる あるいは不審なことが逆説的な本当であった
それにしても心という奴は何という不可思議な奴だろう そのレモンの冷たさは例えようもなく良かった
その頃私は配線を悪くしていていつも体に熱が出た 事実
友達の誰かれに私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが 私の手が誰よりも暑かった
その暑いせいだったのだろう 握っている手から体に染み通っていくようなその冷たさは心良いものだった
私は何度も何度もその果実を花に持って行っては買いでみた それの産地だというカリフォルニアが想像に上がってくる
漢文で習った倍感謝の源の中に書いてあった花を打つという言葉がキレギレに浮かんでくる そして深々と胸いっぱいに臭やかな空気を吸い込めば
ついぞ胸いっぱいに呼吸したことのなかった私の体や顔には 暖かい血のほとぼりが昇ってきてなんだか体に元気が目覚めてきたのだった
実際あんな単純な冷覚や触覚や嗅覚や視覚が ずっと昔からこればかり探していたのだと言いたくなったほどに
私にしっくりしたなんて私は不思議に思える それがあの頃のことなんだから
私はもう往来を軽やかな興奮に弾んで 一種誇りかな気持ちさえ感じながら
美的所属をして町を確保した詩人のことなどを思い浮かべては歩いていた 汚れた手ぬぐいの上に乗せてみたり
マントの上あてがってみたりして色の反映を測ったり またこんなことを思ったり
つまりはこの重さなんだな その重さこそ常々尋ねあぐんでいたもので
疑いもなくこの重さはすべての良いもののすべての美しいもの 重量にして換算してきた重さであるとか
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思い上がった改逆心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり 何がさて私は幸福だったのだ
どこをどう歩いたのだろう 私が最後に立ったのは
丸善の前だった 平常あんなに避けていた丸善が
その時の私には安々と入れるように思えた 今日は一つ入ってみてやろう
そして私はずかずか入っていった しかしどうしたことだろう
私の心を満たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった 香水の瓶にも着せるにも
私の心はのしかかっては行かなかった 憂鬱が立て込めてくる
私は歩き回った疲労が出てきたのだと思った 私は画本の棚の前へ行ってみた
画集の重たいのを取り出すのさえ常に増して力がいるなぁ と思った
しかし私は一冊ずつ抜き出しては見るそして開けては見るのだが 国名に育っていく気持ちにはさらに湧いてこない
しかも呪われたことにはまた次の一冊を引き出してくる それも同じことだ
それでいて一度バラバラとやってみなくては気が済まないのだ それ以上はたまらなくなってそこへ置いてしまう
以前の位置へ戻すことさえできない 私はいくどもそれを繰り返した
とうとうおしまいには日頃から大好きだった アングルの橙色の重い本までなお一層の耐え難さのために置いてしまった
なんという呪われたことだ手の筋肉に疲労が残っている 私は憂鬱になってしまって
自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めていた 以前にはあんなに私を惹きつけた画本がどうしたことだろう
一枚一枚に目を晒し終わって後さてあまりに尋常な周囲を見渡すときの あの変にそぐわない気持ちを
私は以前には好んで味わっていたものであった ああそうだそうだ
その時私は田元の中のレモンを思い出した 本の色彩をごちゃごちゃに積み上げて一度このレモンで試してみた
そうだ 私にまた先ほどの軽やかな興奮が帰ってきた
私は手当たり次第に積み上げ また慌ただしく潰しまた慌ただしく築き上げた
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新しく引き抜いて付け加えたり取り去ったりした 機械な幻想的な城がその度に赤くなったり青くなったりした
やっとそれは出来上がった そして軽く蹴り上がる心を制しながら
その城壁の頂に恐る恐るレモンを据え付けた そしてそれは上出来だった
見渡すとそのレモンの色彩は がちゃがちゃした色の階調をひっそりと防水型の体の中へ吸収してしまって
カーンと冴え返っていた 私は埃っぽい丸善の中の空気が
そのレモンの周囲だけ変に緊張しているような気がした 私はしばらくそれを眺めていた
不意に第二のアイディアが起こった その奇妙な企みはむしろ私をギョッとさせた
それをそのままにしておいて私は何食わぬ顔をして外へ出る
私は変にくすぐったい気持ちがした 出て行こうかなぁ
そうだ出て行こう そして私はスタスタ出て行った
変にくすぐったい気持ちが街の上の私を微笑ませた 丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた
機械な圧巻が私で もう10分後にはあの丸善が
美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう 私はこの想像を熱心に追求した
そうしたらあの気づまりな丸善もこっぽみじんだろう そして私は活動写真の看板画が
機械な趣で街を彩っている峡谷を下っていった 1972年発行
大文社 大文社文庫
レモン ある心の風景他20編より
読み終わりです
本屋さんでやったらいいかもね 今の僕たちな
でも1個持ってってどこですか大きい本屋さん 東京だと池袋の潤久堂ですか
でも1個置いてたら やってるなぁって感じになるでしょうね
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はいといったところで今日のところはこの辺でまた次回お会いしましょう おやすみなさい