工業高校の進学シフト
こんにちは。岐阜県の工業高校で教員をしている、すみです。
この番組、未来をつなぐものづくりでは、日本の製造業を支える企業の技術や、
そこで働く人たちの思い、そして工業高校の教育の現場を紹介していきます。
前回は、大宮科学技術高校の視察をお伝えしました。
最近、科学技術高校という名前に変えたり、進学に特化した流れが工業高校の中でも起こってきていますが、
今日は、そのさらに奥にある根本的な問題に切り込みたいなというふうに思っています。
では、なぜ今、工業高校でも就職より進学がこれほど求められているのか、
そしてその流れが私たち地元岐阜県にどのような危機をもたらしているのか、
今日は教員として肌で感じていることも含めて、具体的な案を提言したいなというふうに思っています。
まず一つ目は、工業高校でも進学が増えてきているのかといったところですね。
これは人生100年時代と言われる今、保護者の方や世間一般の中に、
18歳で社会に出すのが早すぎる、もう少し成長してほしいという、
そのような不安があるのではないかというふうに感じています。
確かに現場にいて私たちも、昔の生徒より今の生徒の方が幼さを感じる場面というのがありますね。
特に気になるのはコミュニケーション能力と責任感の不足です。
コロナ禍やSNSの影響もあるでしょう。
多くの人と生身でぶつかり合い、自分の考えを修正しながら、
折り合いをつける経験が圧倒的に足りていないと感じます。
簡単に言うと、自分の都合のいいことだけを鵜呑みにする、
もしくは自分の都合の悪いことはしない、
なんてことが顕著に感じられる場面って結構あります。
そうなると、どうしても自己中心的になってしまいますよね。
それが一つ子供だなと思わせるような要因につながっているのかもしれません。
また社会全体が無理しなくてもいいよというような風潮がコロナ禍以降ありますよね。
昔は少し熱がある程度では学校行きなさいというような感じでしたし、
私たち職員もその程度なら学校来て頑張れよと言えたものですけれども、
最近はですね、無理しなくていいよというような風潮があります。
これ働き方改革にも何か通じる部分がありますよね。
ただ実際プロの世界は違いますよね。
やらなければいけないことがあったら、
寝る間も惜しんでやらなきゃいけない時っていうのがあるわけですよ。
私の娘の夫は心臓外科医なんですよ。
心臓外科医って華やかでキラキラしてるかなという風に皆さん思うかもわかりませんけど、
めちゃめちゃ泥臭いですよね。
急患の呼び出しがあったらもう寝てても起きて病院に駆けつける。
自分の都合よりも他人の命を優先するというのはそれは究極の責任感ですよね。
そしてプライベートの時間でも血管を縫う練習をしていたりですね。
間近で見る機会があったからこそ初めてわかりましたけれども、
やっぱりお医者さんってすごいですよ。
もちろん高校生にいきなりそのレベルを求めませんけれども、
工業高校を卒業して社会人になるということは
安全とか品質とか将来そういったところにもつながってきますよね。
ですからそれと比較するといきなり社会人として就職してしまって大丈夫かなっていうところは
保護者も感じるところがあると思います。
ある会社の方が言ってみました。
工業高校の生徒は本当に真面目で一生懸命やると。
だけども就職して長年こう勤めていった先に周りをまとめたりとか
グループチームというものを動かすってなった時に
プロジェクトのリーダーとしてなっていけるかといったら
ちょっとそこが一つ壁があるんですということをおっしゃってました。
それもやはり大学生の期間18歳から22歳ぐらいの間の期間というので
少し隙間というか余裕があるといろんな人と触れ合ったり
いろんな知見が生まれますから
そういったところで得た経験というのが将来がそういったところにもつながっているんじゃないかなというふうに思います。
人生100年時代と言われる中で
18歳という年齢でモラトリアム期間が少し伸びているというのは
自然に考えれば普通のことだなということも思います。
進学希望者が多いということで普通科と同じように工業高校も進学にシフトできるように
普通教科を多くしていくのか実習を少なくしていくのか
そういったところを立たない課題があると思いますけれども
解決方法としてはどんなことがあるのかというと
私の勝手な考えだと
一つは工業高校のその先に専攻科を作るというのも手かなというふうに思います。
専攻科とは高校卒業後にさらに2年間
校内の施設を使って高度な技術を学ぶ過程です。
いわば大学でも就職でもない第三の選択肢と言ってもいいでしょう。
この専攻科には大きなメリットがあります。
一つは18歳で就職ということではなく
さらに2年間濃厚な実習と社会人の交流を補って
精神的に大人になってから送り出せるというメリットですよね。
もう一つは中小企業の研修の代わりになることもできます。
なかなか中小企業には新人をしっかりと育てる余裕がなく
研修期間も短いということもあります。
そうではなく中小企業がこの専攻科を卒業者生徒を採用することで
研修期間を省けるというメリットもありますよね。
県内の機関に卒業生が残るということですから
就職先は地元の有料企業になるということでは
人材の輸出に歯止めがかかる可能性があります。
さらにもう一つこれは現実的には難しいかもわかりませんが
県内の大学で工学部を作るということです。
現在は国立の岐阜大学に工学部があるのみで
他の私立大学には工学部はありません。
ですから岐阜大学に入れるという生徒はいいですけれども
国公立ですから入学のハードルは高いですよね。
誰もが入れるわけではありません。
では工学部入るにはどうしたらいいのかといったら
県外の私立大学の工学部へ流れていきます。
これが何を意味するのかというと
一度県外に出て向こうで生活してしまえば
就職もそのまま県外に就職するという確率が高くなってきます。
本来岐阜県のものづくりを担うはずだった若者が
進学を機に戻ってこなくなるということもありますよね。
ですから県内の私立大学に工学部があれば
工業高校からでももしくは工業高校ではない普通科からでも
岐阜大学の工学部ではなくその私立大学の工学部に行ってみようという子が
中には出てくると思います。
工学部や小学部に行くより工学部に行った方が就職がいいぞということになれば
やはりそういう選択肢も出てくるんじゃないかなというふうに思います。
いきなり工学部作るのは難しいだろうと思われるかもわかりませんが
例えば鏡原のVRテクノとかそういった機関を大学の機関の一部と連携してですね
教育機関として活用するとか
もしくは鏡原の企業もたくさんありますから
インターンシップを中心にカリキュラムを考えてみるとか
いろんなことが考えられるので
ぜひここは私立の大学に経営のこともありますけれども
工学部を作っていただけたら優秀な層だけでなく
中間層の技術者を地元に留めるという意味でも
重要になってくるんじゃないかなというふうに思っています。
未来への改革提案
今回は工業高校が名前を変えたり進学に特化する理由として
進学希望者が多くなってきているという問題点を少し掘り下げてみました。
そして具体的な案を私なりに考えてみました。
専攻科の設置や私立大学の工学部の設置など
これは実現するにはとてつもない高い壁がありますが
これは何とかできないかなというふうに思っています。
かつて三菱航空機が国産ジェット機の開発をスタートしたんですけれども
途中でですねこれはなかなか難しいぞと
設計からやり直さなきゃいけないというふうな状況に追い込まれても
なかなかやめることができなかったんですよね。
たまたまコロナ禍に陥ったのでそれを機にやめることになったんですけれども
実はこれは大企業の話だけではなく教育現場でも起こり得ることですよね。
本当は教育システムをこういうふうに変えていきたいんだけども
なかなか流れを変えることは一向人では難しいということは結構あります。
組織というのは現状維持の力が大きく働きますから
特に問題が顕著にならなければ例年通りと
もしくは予算がありませんという理由で
新しい芽はすぐ詰まれてしまいますよね。
しかしこの問題は早く声を上げなければ未来は変わっていきません。
岐阜県にはこういうことが必要だ、もしくはこういった方法があるということを
もっともっとみんなで案を出しながら前に進めていけたらなというふうに思っています。
この音声配信もそのための小さな一歩なんですよね。
もし今日の話を聞いて確かにその通りだと思ってくださった方がいれば
ぜひ周りの方と話題にしていただけたらなというふうに思います。
名前を変えるだけでは改革とは言えません。
中身を変えて地域を変える改革をしていかなければ
私たちはこの先子どもの将来、大きな未来を作っていくことはできません。
今回は大宮科学技術高校の視察からさらにここまで話を膨らませて
2回にわたりお付き合いいただきありがとうございました。
未来をつなぐものづくりは毎週月曜日朝7時に放送しています。
今後も岐阜県の企業の様子や工業高校の様子を皆さんに配信していきます。
ご意見やメッセージがあれば私の励みになりますので
ぜひいただけたらというふうに思っております。
それではまた次回の放送で会いましょう。さようなら。