大堀研磨工業所の紹介
こんにちは、私は岐阜県の工業高校で教員をしているすみです。
この番組、未来をつなぐものづくりでは、日本の製造業を支える企業の技術や、そこで働く人たちの熱い思いを紹介していきます。
このポッドキャストを始めた理由の一つに、地元、岐阜県の企業が持つ素晴らしい技術を多くの方に知ってもらいたいという思いがありました。
今回は念願かなって初の企業とのコラボレーションです。
本当に楽しみにしています。
さて、研磨について聞いたことありますか?
実はあなた、毎日研磨をしているんです。
そう、歯磨きです。歯磨き粉を歯ブラシにつけて歯を磨くと、歯がピカピカになりますよね。
あれも立派な研磨なんです。
歯磨き粉に研磨剤が入っているということはないと思いますが、イメージとしては近いものがあります。
今日ご紹介する大堀研磨工業所は、その研磨で世界を驚かせている岐阜県の会社です。
でも歯磨きとはスケールが全然違います。
想像してみてください。
F1カーが時速300キロで走るとき、エンジンの中では部品が1分間に何万回転も回転しています。
もしその部品がほんの少しでも歪んでいたらどうなるでしょうか?
エンジンは壊れてしまいますし、そして車は走りません。
宇宙に飛び立つロケットエンジンも同じです。
宇宙飛行士の命を預かる部品にほんの髪の毛1本分のずれも許されません。
そんな絶対に失敗が許されない部品を、まるで宝石を磨くように美しく完璧に仕上げているのが大堀研磨工業所なんです。
驚くのはここからです。
この世界最高レベルの技術、実は最後は職人さんの手の感覚で決まるんです。
機械やコンピューターではできない。
最近AIも出てきていますけれども、AIでできそうだけども、人間だけができる技術だそうです。
日本全国を探してもできる会社はほとんどありません。
一体どんな技術なのか、なぜ岐阜県の会社がこんなすごいことができるのか。
大堀研磨工業所の社長にその秘密を聞いてみましょう。
きっとあなたも日本の技術力の素晴らしさに驚かされると思います。
大堀研磨工業所、大堀県社長、本日はよろしくお願いします。
精密加工の技術
まず大堀研磨工業所はどんな仕事をしているところですか。
うちは基本的に工作機械業界がメインですよね。
工作機械のスピンドルとか高速で回転したり、テーブルが周動したりというところがメインです。
あとは試作自動車のエンジン関係だったり、航空のアクチュエーターという油圧だったり、
あとは防衛関係、ヘリコプターのギアボックスだったり。
それとか宇宙だったらエンジン、ターボポンプエンジン、そういう熱に強いところを精度良く加工して、
それが変形しない材質でも精度良くできるかというところです。
医療関係だと、それこそ体内に入れるような人工骨だったりというところも精密さが必要な部分があるので、それと関わるんですけど。
それらの仕事内容について、もう少し具体的にどのような貢献をしているということですか。
うちがお客さんにPRする上で、こういうところに貢献できますよというところが、
やっぱり丸いものを究極に丸くするということと、平らなものを究極に平たくすることによって、
一つ目は回転する部品をより丸く歪みやたわみを除去して、さらに高速に回転させる。
補足ですが、高速回転すると、回転しているものの軸の中心がそのものの重心の位置と少しでもずれていると振動してしまうんですよね。
その状態で高速回転させると、その振動で壊れてしまいます。
スマホのVIBEはわざと回転の中心と重心をずらしているので、振動が起きるのでブルブルっと震えるということですよね。
高速で回そうと思えば回そうとするほど、重心の位置と回転軸の位置がずれないくらいに仕上げないといけないということですね。
より丸くないといけないし、少しでもたわみがあってもいけないですし、
それがF1に使われるようなものになると、手で触るだけで歪んでしまうようなものもたわませないみたいな。
しかし限りなく深淵に近づけるために、加工のため刃物を押し付ければ必然的に材料はたわんでしまいますよね。
そんなことできるんですかね?
そうなんですよ。そういうものもしかもそれも軟削材でそういうことをする。
軟削材というのは削りにくい材料のことですけれども、その材料は硬いという印象があるので、
軟削材の方がたわみにくいということなんでしょうか?
いや、それはないです。細ければ細いほどたわみやすくなるので、
太いものはどこでもたわまずに加工することはできるんですけれども、
細いものをたわまずに加工するというところができない。
これも太ければNC機でできるんですけれども、
細くなればなるほどたわみを感じながら機械で加工しないとできないので、そこが職人の意義ですよね。
加工方法はより精密な円を作るために削るのではなく、
砥石で研磨しながら加工するということなんですが、
ほんの少しの量でも砥石を押し付ければ絶対たわみますよね。
そのたわみも考慮して研磨しているということですね。
そうなんです。人の技術になりますね。
なかなかそれは数値制御できないんでしょうか?
できないですね。数値制御だとたわんでも削ってしまうんですよね。
人がちょっと火花の出方がおかしいなとか、音がおかしいなとか、
たわんだんじゃないかなって思うときに、パッと削るのをやめることができるんですよね。
NCはそれに気づかないんですよね。
ちょっと負荷がかかったら止まることはあるかもわからないですけど、
負荷までいかないんですよ。
数値で表せない何かを人間は感じれるってことですかね?
感じれる。そうなんです。
それともう一つは、軽量化への貢献みたいなものがあったんですね。
軽量化、航空宇宙となるとどうしても空に行ったり宇宙に行ったりするので、
軽ければ軽いほうがいいですよね。
そうすると品物をいかに薄く、いかに軽い素材で精密な部品を作るかってところになるので、
うちの場合はそういったアルミであったりマグネシウムであったりチタンであったり、
そういった普段削りにくいものを高精度に仕上げる技術があるので、
そういうのを売りにしてますね。
軽くなればやはりコストは下げれますよね。
省エネという面ではどうでしょうか?
そうすると宇宙に持っていくものはロケットで打ち上げるときに、
1キロ増えると100万円コストが増えるらしいですよね。
なので本当に1グラムでも5グラムでもなるべく減らしたい、軽くしたいというところがあるので、
そこに役に立ちますよと。
もう一つはさっき言った油圧関係は、
例えば品物が動くときに研磨してある目が荒かったり錆びていたりすると負荷がかかるじゃないですか。
負荷がかかるということは、ものを動かすときにそれだけエネルギーがかかる。
ということは燃費が悪くなるということになるので、
研磨で真っ平にしたり丸くしたりすることで、
滑らかさを出すことで長寿命化でもなるし、
省エネ低燃費になるというところが貢献するという意味ではある。
省エネへの貢献
修道面は金属と金属が触れ合っている面ですけれども、そこがツルツルということですね。
そういうことですね。
ツルツルなほどエネルギーは少なくて済みますよ。
そこら辺が技術が貢献する部分というかですね。
そうかなというふうに考えていますね。
それが人の手じゃないとできないというのは、どんな理由なんですか?
結局は熱なんですよね。
薄いものだと熱を持ちやすいですし、熱を持つと歪むじゃないですか。膨張したり。
そこで気づいて切り込みをやめたり、切り込んだり、やめたり切り込んだりというところはやっぱり人の感覚なんですね。
それはどんなふうに身につけられるんでしょうか?
何か独自な方法とかあるんでしょうか?
初めは熱を加えても大丈夫なようなものを加工したりとかから始めて、徐々に薄いもの。
薄いものだと削るのも難しいし、掴むのも難しいんですよね。
水詰めチャックで掴んでしまうとおにぎりになってしまいますからね。
物を掴む力が弱ければポイシーを当てた瞬間に飛んでいってしまいますし、強ければ変形してしまうということで、これは力加減が難しいですよね。
技能を身につけるにはどのくらいの年数がかかるんですか?
例えば5年、10年やったからといってそれが確実にできるかというとそうでもないし、
20年目、30年目の職人さんでもやはり苦労してやるので、
謙虚に挑戦する気持ちがないとやっぱりなかなか難しいですね。
その技能を身につけている方ってやっぱり人数的には少ないんですよね。
挑戦する人が少ないというか、
多分みんな挑戦すればできるんですけど、やっぱり結構大変なので、
できれば職人の先輩にやってほしいというところはあるんですけど、
そういうのをなるべく若い人に挑戦してもらって、やれるようになるとまた次の難しい加工が待ってますので。
やはりどんどん仕事の要求は難しくなっていくんでしょうか?
そうですね。要求が難しくなっていますし、
あと他にやれるところがなくなってきています。
なるほど。やる人がいなければそうなっていきますよね。
こういうのやれませんか、ああいうのやれませんかというのが、
前は岐阜県の中だけの話だったのが、
ここ10年、15年で北海道から九州の会社さんからでも来るようになってますね。
それだけ需要があるというのは、世の中それだけ高速で回転させるものが増えてきているってことですかね?
そうなんですね。
EV化とか水素のインフラ関係だったりとなると、
高速回転が効率につながるみたいな。
あと高速回転がパワーにつながるとか、そういう風になってきますので。
しかし世の中そのように求めても、それとは反比例して作る人がいない。
もっとできる人が必要ですよね。
そうですね。ほぼほぼ90%から95%の品物はNC機で、日本じゃなくてもたぶんできてしまうんですけど、
あと数パーセントのところというのは人の技術になると思いますね。
これだけAIが発達したら、どこかいつか自動化できるんじゃないかなって思っちゃいますけど、やっぱりできなさそうですね。
できないと思いますね。物がある限りですね。
3Dプリンターが進化したとしても、
素材の材料の細かさ以上に精度が細かいとそこが無理なんですよね。
そうなるとどうしても研削仕上げというのが必要になってきますね。奥が深いですね。
企業の製品と未来
今回は大堀社長から会社の製品や研磨という工程はどのようなところに貢献しているのかというところを話をしてもらいました。
次回は社員教育や社員への思いなどを語ってもらっていますので、ぜひお楽しみに。
来週また配信したいと思います。
また、こんなことを聞いてみたいというリクエストや質問がありましたら、ぜひお便りをいただけますと嬉しいです。
今後も地元企業の素晴らしい技術を発信していきたいと思いますので、ぜひという企業がありましたらまた教えてください。
番組の感想やご意見もぜひお聞かせください。
アップルポッドキャストやスポティファイでのレビューは私にとって大きな励みになりますし、新しいリスナーの方々に番組を見つけていただくにも役立ちます。
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次回の配信は来週月曜日朝7時を予定しております。
お楽しみに。
それではまた来週お会いしましょう。ありがとうございました。