文化祭の思い出
こんにちは。岐阜県の工業高校で教員をしているすみです。
この番組、未来をつなぐものづくりでは、日本の製造業を支える企業の技術や、そこで働く人たちの思い、そして工業高校の教育の現場を紹介していきます。
今回は文化祭について話したいと思います。文化祭ではどんな思い出が皆さんありますか?
クラスで劇をやったり、歌を歌ったり、いろんな思い出があると思いますが、最近の文化祭も少しずつ変わってきているような感じがしますね。
今回は、岐阜工業高校で行われた文化祭の様子と、またそこで気づいたことについてお話したいと思います。
まず今年の文化祭。やっぱりこの行事って生徒たちのエネルギーが詰まってますよね。
体育館ではステージ発表があり、どのクラスも個性を発揮して盛り上がっていました。
特に印象に残ったのは航空機械工学科3年生の劇ですね。
航空機械工学科は私が教えている生徒も多いので楽しみにしていました。
踊りも上手いし、歌も上手いし、完成度が高くて何より楽しそうだなという風に見ていました。
教室ではなかなか見られない生徒たちの新しい一面を見せてもらいました。
クラス全体が一つになっていて、担任の先生も一緒にステージで演じていました。
こういうのがいいなという風に素直に感じましたね。
運動会の時も教員チームでリレーを走ろうと思っていましたけれども、
文化祭でなんか教員チーム作って劇やライブなんか企画できたら面白いななんて勝手に思って見てました。
一方で昔の文化祭と比べると変わってきたなぁと感じるところもあります。
最近は夜遅くまで残って準備をしたり、泊り込みで作業したりということはもうなくなりましたね。
昔はやっぱり泊り込んだり、みんなでご飯を食べたり、カップラーメンすすったりなんてことで夜遅くまでやるっていうのも一つの醍醐味ではあったと思うんですけれども、
働き方改革とか安全面の観点からすれば、もうそれも時代の流れでなかなかできなくなってきてますね。
そして工業高校らしいものづくりの展示や体験コーナーも少なくなってきているのは少し寂しい気もします。
ステージ発表やお化け屋敷など普通課ででもできる内容が多くなってきて、工業高校ならではの学びを生かした文化祭がもう少しあってもいいのかなというふうに思うんですけれども、
航空機械研究部のプロジェクト
先ほども話しましたが、準備をする時間とか限られた環境がありますからね。
その中で担任の先生や学科の職員が協力してやれることっていうのはかなり限られてきているっていうのも実際のところですね。
そういった中でも自分たちの技術で誰かを喜ばせる、そういう文化祭をこれからもう一度みんなで考えていけたらなというふうに思っています。
さてそんな思いの中で動き出したのが航空機械研究部のプロジェクトでした。
プロジェクトっていうほどでもないんですけれども、文化祭で何か思い出に残ることをしようと声をかけたんですが、最初はなかなかアイデアが出ませんでした。
そんな時ちょうど創立100周年の節目のこの年ですので、せっかくだから記念になるキーホルダーを作ろうという声もあり、そこから一気に動き出しました。
切断できることが分かり、アクリル素材で作ることにしました。
まずはCADでデザインを作り、レーザー加工機にデータを読み込ませて表面を削り、文字や絵を刻んでいきます。
そして最後に外周を切断して完成です。
いろんな加工機があるんですが、レーザー加工機でもこのアクリル板を彫刻するレーザー加工機は私自身初めて使ったので、
使い方をマスターするのに少し時間がかかりましたが、問題なく作れましたので良かったです。
これを機に実習とかでもこの機械を使えたらなという風にも思っています。
1個作ったらOKというわけにはいかないので、やはり多くの方に配りたいということがありますので、実際には300個作ろうということで動き始めました。
削った部分にできる小さなバリという指に引っかかるような部分ができますので、そこを研磨剤で磨き上げる作業が地味ながら一番の難関でしたね。
研磨中に指を擦ってしまったり、手が真っ白になるほど作業したりと、それでもみんなで励まし合いながら進めていきました。
そしてようやく完成。でもただ配るだけでは味気ないですよね。
どうすれば受け取った人に特別感を味わってもらえるかを考えました。
生徒たちは100周年ロゴ入りの台紙をビニール袋に入れてキーホルダーと一緒に封入しました。
キーホルダーにはチェーンもつけてすぐ使えるようにと工夫を凝らしました。
そしてその台紙にはQRコードがついていて、読み取ると感想を記入するフォームが出てきますので、それを手に取った時の感想を記入してもらうようにしました。
そして当日、これが見事に大成功したのかわかりませんけれども、すべてのキーホルダーがなくなりました。
アンケートを見てみるとかっこいいとか大切にしますとか丁寧に作ってありますねとかそんな温かいメッセージたくさん寄せられていましたので、
ものづくりの精神
生徒たちはそのコメントを見てやってよかったなぁと頑張った甲斐があったと嬉しそうにしていました。
この経験を通じて私が感じたのは、やってもやらなくてもいいことを誰かのためにやってみようと思うことの大切さですね。
効率とか、例えば成績につながるとか、そういったことだけ考えれば、やってもやらなくてもいいことならやらないという選択肢を取る生徒も多いと思いますけれども、
でも人が喜ぶからやってみようとか、自分たちできることで盛り上げようとか、そういった気持ちというのはものづくりの出発点じゃないのかなというふうに思います。
作ることの大変さや完成した時の達成感、そして受け取った時の人の笑顔、それを見た瞬間にやってよかったと心から思える。
この気持ちはどんな授業でも教えられない実感だと思います。
そして文化祭という行事自体もこれからの時代に合わせて新しい形を模索していく必要があります。
例えば中学生に向けた工業高校の体験会を文化祭と一緒に行うとか、
地域の人にも工業高校の学びをしてもらう機会にするとか、あるいは思い切って部活動の招待試合を全員応援しに行くとか、
いろいろな可能性や形があると思いますけれども、今の現状に合わせた良い方法を模索していく必要があるかなと思います。
文化祭の目的を自分たちが楽しむから一歩広げて、自分たちと周りをつなげる、自分たちのことを伝える、
自分たちのことを中学生に見せる、そんな場にできたらなおいいのかなというふうに思います。
それがこれからの工業高校らしい文化祭の形なのかもしれません。
今回は文化祭についてお話ししました。
文化祭を通じて人がつながり、笑顔が生まれる、そんな瞬間の中こそものづくりの精神が息づいている、私はそう思います。
これからも生徒たちのやってみようという気持ちを大切に育てていきたいと思います。
番組の感想や応援メッセージは、ぜひ番組のページからいただけると大変嬉しいです。
次回もものづくりの現場や学校の取り組みの様子など、いろいろ話をしていきます。
どうぞお楽しみに。ではまた来週。