毛利守の講演準備
こんにちは。岐阜県の工業高校で教員をしている、すみです。
この番組、未来をつなぐものづくりでは、日本の製造業を支える企業の技術や、
そこで働く人たちの思い、そして工業高校での教育現場の様子を紹介していきます。
今回は、岐阜工業高校の100周年記念講演ということで、
宇宙飛行士、毛利守さんを招いて講演会を行いました。
その様子を皆さんにお伝えできたらな、というふうに思っております。
毛利さんって聞いても、高校生はピンとこないかもしれませんが、
日本人で初めて宇宙へ飛び立った人ですよ。
何かもう、自分の想像の範囲を越えて宇宙に行ってしまう人がいるんだと、
しかも日本人だとすごい身近に感じますよね。とても印象に私も残っています。
その毛利さんが今回記念講演として、
岐阜工業高校に足を運んで話をしていただくことになりました。
たまたま私はこの講演会の担当でして、
毛利さんと身近に接することがたまたまできました。大変ラッキーでした。
そういった面からでも、毛利さんのことを少しでも皆さんにお話できたらな、というふうに思っております。
毛利さんが見えるということで、私はAmazonで毛利さんの本を購入して、
一生懸命読み漁りました。
毛利さんのことを深く知った上で、お会いしていろんな話を伺えたらな、というふうにも思っていましたので、
本当に一生懸命毛利さんの本を読み、感銘を受けました。
本に書いてあったことは、宇宙という極限の環境を経験した人が語る、
命のつながりや地球を俯瞰する視点でした。
単に技術者だけでなく、人としてどう生きるのか、
深く考え続けておられる方だな、というふうに思いました。
実際にお会いすると、まさに宇宙飛行士そのものでした。
姿勢がしっかりして見えて、シャキシャキとされていました。
体格は思ったより、背が小さいな、というふうに思いました。
まあ、それでも170センチぐらいかな、というふうに思いましたが、
宇宙飛行士ってすごい画体が良くて、
もう体格でも超人並みなのかな、というふうに勝手に想像しておりましたので、
至って普通の体型に驚きました。
いや、もっと驚いたのはですね、
毛利さんがこの講演会にかける思いです。
中途半端じゃないな、ということが前日のリハーサルで思い知らされました。
まずもって、いろんなことを想定してみました。
記念式典となると、来賓者が挨拶が長くなって、
時間が押すということがよくあるんですよね。
その辺ももう、毛利さんも考えてお見えで、
もし時間が押したらどうされるんですか、と。
時間の変更は、誰が権限を持っていますか。
スミ先生に言えばいいですか、と聞かれましたので、
私は、はい、私が責任を持って変えます、ということを伝えました。
そしたら毛利さんは、スミ先生が、そしたらコマンダーですね、と、
いうふうにおっしゃられました。
コマンダーとは、地上から宇宙飛行士に命令を送る方のことなんですね。
いやー、これは責任重大だな、と、私ビビってしまいました。
毛利さんは、そしたらコマンダーのスミ先生に言えば、
すべて良いということですね、ということを念をされましたので、
はい、そうです、とお答えしました。
やはり責任の所在がどこにあるのかということを、
まず明確にしようということをされていました。
そしてその上で、いろんなことをチェックされてきました。
まずは体育館の照明、そして明るさ、
それはスクリーンがどれだけ見やすいのか、
というところにこだわりを持ってみえたので、
何度もいろんなパターンを試されました。
そしてプレゼンのデータは事前にいただいていて、
本校のパソコンに入れて映し出されているという状況だったのですけれども、
そのプレゼンを見て、毛利さんが、
フォントが違うぞ、ということをおっしゃられました。
フォントというのは文字の形ですよね。
いろんな形がありますが、
同じパワーポイントでも、
書体が入っていなければ、
違う書体に形が変わってしまいますので、
たまたまそのような形で、
違う書体の形になっていました。
それについてなぜこんなことが起きたのかということを、
徹底的に質問されていました。
私だったらいいかと流してしまうところなんですけれども、
毛利さんはデザイン化がある工業高校として、
これは致命的じゃないですかとおっしゃられました。
やはり文字の字体が変わるということは、
デザインとしても変わってしまうから、
これは絶対に追求してくださいと。
厳しいことを言いますが、
工業高校にとって大事なことだと思いますので、
言わさせてもらいますとアドバイスをいただきました。
そしてステージの出方、
そして体状の仕方、
会の進め方、
講演会の本番
司会の言葉まで、
あらゆるところをチェックして、
当初は1時間ぐらいの予定でしたけれども、
2時間もかかってリハーサルを終えました。
私も大変気づかれしました。
こんなに人に気を使ったことは、
久々だなというふうに思いましたが、
まあ、森さんは100周年の講演会で、
こんなものかと思われたら、
岐阜工業のOB、
そして在校生に対しても大変失礼だと、
だからしっかりとしたものにしなければならない
ということをおっしゃっていました。
確かにその通りです。
森さんは私に、
スミ先生は航空機械工学家だから分かると思いますが、
と前置きしながら、
フェールセーフの話をしていただきました。
フェールセーフというのは、
もし問題が起きたときに、
20,30でそれが事故にならないように、
まあ保険をかけとくというか、
違う対策を打ってやるということなんですよね。
宇宙飛行車30でフェールセーフかけてますよと、
そういったことをいろんなところで結びつけてやってくださいと、
森さんからメッセージをいただいたような気がしました。
そして森さんはとにかく生徒に対して、
しっかりと今後、
何かにつながるようなメッセージを送りたいという
強い気持ちも感じました。
講演会の本来の目的、
生徒たち何を感じ取ってもらうかということを、
しっかりと念頭に置きながら、
今回の講演で生徒たちの未来に火を灯すんだという
強い思いが伝わってきました。
そして迎えた本番、
来賓の挨拶が長引くことを心配していましたが、
予定通りに式典が進み、
講演も時間通りに始まることができました。
昨日の曇り空とは違い、
今日は快晴、
光が多く入り、
プロジェクターの映像が見づらくなったので、
カーテンを1枚ずつ閉める対応をしました。
ここまでは順調です。
ところが本番が始まりました。
思わぬトラブルです。
マイクの音が非常に悪かったんですよね。
音が割れて割れて。
それはマイクの持つ位置が悪いとか
そういったこともあるかもわかりませんが、
それよりもシステムの問題、
電波がいまいち届かないとか
講演の概要
そういったことが大きな問題でした。
これは昨日もピンマイクが不調だったため、
今日はワイヤレスマイクに変更して望んだのですが、
それでも音が割れていました。
環境の悪さに私だけでなく、
関係職員は皆申し上げない気持ちでいっぱいでしたね。
あれだけリハーサルで細部まで確認されていた毛利さん。
講演が終わって、これはお叱りを受けるなぁと、
私はとても重い気持ちで
毛利さんを控室に案内させていただきました。
しかし講演後、毛利さんは
何一つ一切マイクの音や
もしくは不手際が私の知らないところであったとしても
何一つ触れずに
まん面の笑みでまるで何事もなかったように
控室に戻ってこられました。
私が思うにきっとそれも想定内だったのではないかと思います。
昨日、マイクが割れている状況というのが
結局改善されなかったことを毛利さんは
見越して今晩も同じようなことが起きるのではないかと
いうことは多分想定内だったのではないかと
そんなふうに私は思いました。
講演では美しい地球の映像とともに
地球の素晴らしさや命のつながり
挑戦することの尊さについて語られました。
難しい話ではなく、まっすぐ心に届く言葉でした。
生徒たちからの質問も
毛利さんは一つ一つ丁寧に答えてくださり
会場全体が温かい空気に包まれていました。
終わった後、生徒たちは本当にすごかった。
挑戦することの重要性
あんな大人になりたいと口々に話していました。
講演を終えた後、毛利さんは
司会や進行を務めてくれた生徒たちと
写真を撮ってくださいました。
そして私にも気さくに声をかけてくださり
ザックバラな雰囲気で控室では会話が始まりました。
講演の最後にステージの中央から退場するはずが
思わず裾の方に出てしまい
慌てて真ん中に戻られる場面があったので
私はつい毛利さんに
毛利さんでも緊張されることあるんですね
と聞いたところ、毛利さんは笑いながらこう話されました。
天皇陛下にお会いした時はさすがに緊張しましたよ。
でも宇宙に行ってから何事にもあまり緊張しなくなったんです。
生命体として見た時、天皇陛下も私もそんなに差がない。
もっと言えば全ての生命は同じように尊重し合うべき存在なんです。
そしてこう続けられました。
だからこそこの地球という生命体の星を
どうやって皆で維持していくのかを
考えなければならないんですよ。
宇宙から人類を俯瞰するような言葉
静かにしかし深く心に響きました。
帰りが車に乗り込まれた毛利さんが
何かを忘れたように私に
スミ先生と声をかけて下さいました。
まさか私はここでクレームが来るのかなと
ドキッとしましたが
何かと思ったら
これ先生にあげてなかったね、あげるよと言って
ステッカーを手渡して下さいました。
毛利さんが宇宙飛行士として関わったミッションの時のステッカーです。
その姿、その姿勢に私は本当にダンディで優しくて
人としても惚れ込んでしまうような瞬間でした。
今回は毛利さんの記念講演の様子を間近で見た私が
皆さんにちょっとお伝えしようと思い
音声配信させていただきました。
リハーサルで見せた妥協を許さない厳しさ
本番で見せたトラブルを包み込む優しさ
そして講演後に語ってくださった生命への眼差し
毛利さんは宇宙を経験したからこそ
地球の上での人と人との在り方を
誰よりも大切にしておられることだと感じました。
宇宙を見た人の眼差しはやっぱり広くて深い
その視点に少しでも近づけるよう
これからも教育の現場で挑戦する生徒たちを支え続けたいと思いますし
挑戦すること自体が人類がこれから生存していくために
絶対に必要なことなんだよということで
毛利さんに今日メッセージいただきましたので
そんな生徒というよりも
自分自身がまず挑戦しなきゃいけないですよね
いろんなことに挑戦できるマインドを作っていきたいな
というふうに思います
未来をつなぐものづくりでは
これからも工業高校の教育や
ものづくりに欠ける人たちの思いを届けていきます
ご感想やご意見をぜひメッセージを送っていただきたいと思いますし
フォローいただけると私の励みになります
それでは次回の放送でお会いしましょう
さよなら