地獄の門と神様の国
私はいつも神様の国へ行こうとしながら、地獄の門をくぐってしまう人間だ。
ともかく私は、はじめから地獄の門を目指して出かけるときでも、
神様の国へ行こうということを忘れたことのない甘ったるい人間だった。
私は、結局地獄というものに戦慄したためしはなく、
馬鹿のようにたわいもなく落ち着いていられるくせに、
神様の国を忘れることができないという人間だ。
私は必ず、今に何かにひどい目にやっつけられて、
叩きのめされて、甘ったるいうぬぼれのグーの音も出なくなるまで、
そして、本当に足滑らして真っ逆さまに落とされてしまうときがあると考えている。
私はずるいのだ。
悪魔の裏側に神様を忘れず、神様の陰で悪魔と住んでいるのだから。
今に、悪魔にも神様にも復讐されると信じていた。
けれども、私だって馬鹿は馬鹿なりに、
ここまで何十年か生きてきたのだから、ただは負けない。
そのときこそ、刀折れ、やっつけるまで、
悪魔と神様を相手に組打ちもするし、蹴飛ばしもするし、
めったやたらに乱戦乱闘してやろうと悲壮な覚悟を固めて生き続けてきた。
ずいぶん余ったれているけれども、
ともかく、いつか化けの皮が剥げて裸にされ、
毛をむしられて、突き落とされるときを忘れたことだけはなかったのだ。
利口な人は、それもお前のずるさのせいだ、と言うだろう。
私は悪人です、というのは、私は善人です、ということよりもずるい。
私もそう思う。
でも、何とでも言うがいいや。
私は、私自身の考えることも一向に信用してはいないのだから。