海の足浦と宿狩り
海の小品 原 民喜
足浦
温かい渚に、足浦に触れて、ゴムのような感じのする砂地がある。
踏んでいると、まことに奇妙で、なんだか海の足浦のようだ。
宿狩り
じっと砂地を見ていると、そこにも、ここにも、水のあるところ、生き物はいるのだった。
立ち止まって、友は、張っている小さな宿狩りを足の指でいじりながら、
見たまえ、みんな荷物を背負わされているじゃないか、と珍しげにつぶやく、
その友にしたところで、作友、大きなリックを背負いながら、私のところへ立ち寄ったのだった。
渚
歩いていると、歩いていることが、不思議に思えてくる時刻である。
重たくよどんだ空気の帳の中へ足が進んで行き、いつの間にか海岸に来ている。
赤く濁った満月が低く空にかかっていて、暗い波は渚まで打ち寄せている。
ふと、ものくるおしげな犬の鳴き声がする。
波に追われて渚を走り回っている犬の声なのだ。
ふと、怖くなって渚を後に引き返して行くと、
薄闇の道路に犬の声はいつまでも聞こえてくる。