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カランコローン、いらっしゃいませ。 喫茶クロスロードへようこそ。
いよいよ週も後半。 ちょっと疲れたなぁ。
今週もなんだかバタバタしていたなぁ。 そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。
そんな時こそ、一休み。 ここでのんびりしていきませんか?
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、 月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは、【人生の先輩】。 今日は、人生の先輩とともに、辛い日々を乗り越えた
【みのり】のエッセイを、私、SEIがお届けします。 それではどうぞ。
会ったことは ないけれど
【みのり】 人生の先輩
そう呼べる大人に出会えていたら 少し違う人生だったのだろうか
そんな気持ちを抱いてしまうほど、私は ずいぶん生意気な子供だった
元からそういう性格だった、というわけではない ただの言い訳だけど、半分くらいは環境のせいにしたい
中学校は絵に描いたような荒れた学校だった そんなのテレビドラマの中だけの話だと思っていたのに
守られていた校則一つでもあったかな 3年児なんて授業という授業が成立せず
途中で教室から出て行ってしまう先生も少なくなかった こんなもんか
机に頬杖をつきながら足早で歩き去る先生を見送った 何度も
何度も オール後の成績表は
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【きもい】と嘲笑の対象にするくせに 試験中は登音カンニングさせろと
手のひらを返す同級生たちには吐き気がしたし その後の仕返しが怖くて無言で従う弱い自分にも
イライラした 思いやりを持ってとか聞こえのいいことだけは言う教師陣は
目の前の教室をまっすぐ見ようともしない ありたい自分になればなるほど
周囲からの当たりは強くなっていくから もういっそのこと自分もタバコでも吸って退学した方がいいんじゃないか
なんて本気で思っていたこともある 本はそんな腐りかけのバナナのようなぐずぐずの私を
なんとか形ある状態に踏みとたまらせてくれた 実家の道路を挟んですぐのところに大きな本屋さんがあって
幸運にも欲しい本は大概揃っていた その月のお小遣いを使い果たした後は
まあすぐにすっからかんだ 自転車をさっと走らせて最寄りの図書館に向かった
あんなにもすぐそばに本があってよかった あの頃はお守りのようにどこに行くにも本を持ち歩いていた
ずしりという単行本の思いはいつも私の心を落ち着かせてくれた 教室で本を読んでいると消しゴムのかせら
黒板消しが四方八方から飛んでくるから チャイムが鳴るとすぐに人気のない渡り廊下へと逃げ込んだ
友達のいない中学生にとって休み時間はあまりにも長い おかげで本当に本当にたくさんの本を読むことができた
うつうつとした現実とはかけ離れた長編ファンタジー 似たような境遇の中高生たちがそれぞれに困難を乗り越えていく青春小説
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恋愛やらキャリアやらいつか私も悩んでみたい未来が綴られたエッセイ集 親の部屋にあった哲学書
あまりに難しくて数ページで挫折 置かれた状況を一瞬でも忘れられることがありがたくて
読み終えて本を閉じた瞬間は無敵になったような気がした 当時は特に後書きが好きだった
作者がどんな経験からどんな思いからこの本を生み出したのか どんなことを読者に伝えたくて
筆を取ったのか 喜びや楽しみだけじゃない
人生の陰の部分 辛い部分をもエネルギーにして紡がれていく文章たち
私だけじゃない 歯を食いしばり必死に立っているのは
だったらいつかは どうにかなるかもしれない
彼らの言葉を追っている時だけはそう思えた
周囲の大人の声に耳を貸さなかった私だけど 本から響くものはなぜかすんなりと信じることができた
卒業式の日 青春の代名詞ともいえる寄せ書や集合写真とはもちろん縁はなく
私はカバンを片手に軽快に校舎を飛び出した もう二度とここには来なくていいんだ
帰り道の途中で立ち止まりふとそう思った時 涙が止まらなかった
よく頑張っていたなと思う もっと賢く立ち回る方法はあっただろう
上手な逃げ方や戦い方が今なら思いつくかもしれない
でも あの時諦めてしまっていたら
本を手放してしまっていたら きっと今の私はここにはいない
あったことのない たくさんのたくさんの人生の先輩方が
本という形でこの世界を温かく見守ってくれている その人たちに背中を押されて
09:05
今日も私は どうにか生きている
いかがでしたか さて残り惜しいですが閉店のお時間です
今後も喫茶クロスロードは あなたがほっこりした時間を過ごせるよう
毎週月曜日と木曜日 夜21時よりゆるゆる営業していきます
それでは 本日はお越しいただきありがとうございました
またお待ちしております