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2023-09-07 09:54

【朗読】#9 やさしい大人

週も後半。ちょっと疲れたなあ、そんなときこそひとやすみ。喫茶クロスロードでは毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。/今月のテーマは「人生の先輩」今日は、先輩たちが与えてくれた、大切な言葉にまつわる「やさしい大人」/ 書き手:ひと/語り:いけちょ

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スピーカー 1
カランコロン。いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
いよいよ週も後半。
ちょっと疲れたなぁ。本週もなんだかバタバタしていたなぁ。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。そんな時こそ一休み。
ここでのんびりしていきませんか。
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは【人生の先輩】。
今日は先輩たちが与えてくれた大切な言葉にまつわる人のエッセイを、私池町がお届けします。
それではどうぞ。
やさしい大人。
人。私たちは日々、いろんな人と直接的、間接的に関わりながら生きている。
たくさんの言葉を交わし、何かをしたり、されたりする、現れては消える無数の関わり合いの中で、
けれどごくたまに、後々の人生までじわじわと存在感を残す言葉や行為を受け取ることがある。
心がざわざわと落ち着かない時、どういうわけか無性に心細く感じる時は、そういうものたちを記憶の中から取り出す。
過去に人から向けてもらった好意や愛情を思い出しているうちに、「よし、もう大丈夫。」と心が落ち着いてくる。
父の兄である叔父は、会うのは数年に一度程度だけれど、人生の節目節目に忘れがたい言葉を送ってくれる。
長い受験勉強の末に、念願の大学に合格した時にくれた葉書には、「意思あるところに道は開ける。」と大きな文字で力強く書かれていた。
祝福の入れ送ってくれたのであろうその葉書は、しかしおめでたいデコレーションは一切なく、そっけないほどにシンプルだった。
だけどかえってそれが、叔父にとって私は、もはや小さな命令はなく、親の庇護から離れつつある一人の大人として認めてもらった証のような気がして、照れくさくも嬉しかった。
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スピーカー 1
兄の結婚式でスピーチ役を務めたのも、この叔父だった。
彼は若い夫婦への花向けの言葉として、一編の短い詩を朗読した。
それはアメリカの詩人、エミリー・ディキンソンの、
If I Can Stop One Heart From Breaking という詩の方訳だった。
人が生きることのささやかな意味を歌った強くて優しい詩だ。
病気がちな妻を持つ叔父が読んだこの詩は、これから一番近くで支え合って生きていくであろう二人に贈られる言葉として、まさにふさわしく、いつまでも印象深く私の心に残っている。
私に初めて読書の楽しさを教えてくれたのは紛れもなく母である。
よく買い物のついでに本屋に寄っては、
面白そうだったから、と本を買ってきてくれた。
母の見立ては正しく、私はぐいぐいと物語の世界に引き込まれていった。
那式加保の西の魔女が死んだや、
北村香留の月の砂漠をサバサバと、
湯本一美のポプラの秋、
えくに香りの流しの舌の骨、
森江戸のハラフル、
永遠の出口、月の船。
大人になった今読んでもやっぱり面白くて大好きな本たち。
女性作家が読んでも、
スピーカー 2
今の私の読書傾向は間違いなく母の影響だろう。
スピーカー 1
離れて暮らすようになって、
もう母に本を買ってもらうことはなくなったけれど、
今の夫と入籍したとき、
久しぶりに母が本を送ってくれた。
谷川俊太郎、
小学生の頃、
母は、
久しぶりに母が本を送ってくれた。
谷川俊太郎が編んだ、
「宿婚歌」という28の詩で構成される詩集だ。
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スピーカー 1
普段詩を読まない私には、
正直とっつきにくかったけれど、
吉野ひろしの宿婚歌は好きだった。
不完全を受け入れること、
許しあえる隙を作ること、
夫婦喧嘩をしたときは、
私を思い出して、
ああ、またやってしまったと反省する。
親元を離れて自活するようになってからは、
日々の生活を営む上で大切なことを、
スピーカー 2
松浦谷太郎の本から学んだ。
スピーカー 1
彼が教えてくれる暮らしのヒントは、
どれも参考になるけれど、
スピーカー 2
特に印象的なものが2つある。
スピーカー 1
人は根本的に一人で、
最低条件だと受け入れること。
そして、物を扱うときは、
大切な友人に接するように、
丁寧に扱うこと。
いろんな情報や刺激に晒されて、
自分にとって大切なことが分からなくなったときは、
とりあえずこの2つだけに意識を集中させる。
すると、視界がクリアになって、
呼吸がしやすくなる。
思い返すと、心を強くしてくれる、
言葉や経験を与えてくれる大人たちが、
身近にせよ、本のだけにせよ、
いつもそばにいてくれた。
それはとても幸運なことだと思う。
気がつけば、
いつの間にか私も、
大人と呼ばれる年齢に達していた。
これからは私も、
誰かを守れるようになるのだろうか、
エミリー・ディキンソンの詩のように、
たった一人でいいから、
誰かの心を癒やせるような、
優しい大人になれたらいい。
そう思いながら、
今日も私は、
また誰かと言葉を交わす。
スピーカー 2
いかがでしたか?
09:10
スピーカー 1
さて、名残惜しいですが、閉店のお時間です。
スピーカー 2
今後も喫茶クロスロードは、
スピーカー 1
あなたがほっこりした時間を過ごせるよう、
毎週月曜日と木曜日、夜9時より、
ゆるゆる営業していきます。
それでは、本日はお越しいただきありがとうございました。
またお待ちしております。
09:54

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