今日のテーマは、AIと組織の未来を設計する―です。
今回は、松本雄貴さんの「生成AI・戦力化の教科書」という本と、
広木大地さんの「AIエージェント・人類と共同する機械」という
AI時代の組織と知識の在り方を書いた2冊を取り上げます。
それぞれ異なる立場から、しかし共通の問題意識―
AIをどうやって人と組織の中に位置づけて、どのようにして未来を設計していくか、
ということを掘り下げた、そういう本なんですけど、
それをそれぞれ紹介しつつ、読んで思ったことなんかを話していければなというふうに思っております。
まず、松本雄貴さんの「生成AI・戦力化の教科書」について紹介をします。
この本の中心概念というのは、本のタイトルにもなっている「戦力化」という言葉だと思います。
これは最近はオンボーディングなんて言われ方をして、
これはどういうことかというと、例えば会社に新入社員が入ってきたりしますよね。
それで、昔だったら結構まず現場に入ってみて、それでOJTで覚えていくみたいなことをやってたんだと思うんですけど、
最近はなかなかやる仕事も複雑だし、技術的なハードルなんかも結構高かったりして、
ちゃんと一つ一つ組み上げていって、会社の中に馴染んでいくというか、
あるいは業務知識とか、あるいは人との関係性みたいなのを丁寧に構築することを支援していって、
それで戦力としてできるだけ早く、かつ精度の高い形で立ち上がってもらうみたいな、
そういうノウハウっていうのが結構確立してきたのかなというふうに思います。
AIに関してもそれは同じことが言えるんじゃないか、
これがこの本の一番面白い脚相のポイントなのかなというふうに思うんですけども、
どういうことかというと、会社でもものすごい優秀な人がもし入ってきたと、
例えば人間関係がまだできてなかったりとか、あるいは業務に必要な情報がどこにあるかわからないとか、
こういう会社独自のコンテキストっていうのがわからなければ、どんなに優秀な人でも立ち上げすることはできないわけです。
これはAIも同じで、AIもすごい賢いは賢いですけど、
何も知らないで入ってきた優秀な人間の社員と同じで、
やっぱりオンボーディング、この本で呼ばれている言葉で言うと、
戦力化というのをしないとちゃんと活躍をしてくれるわけではない。
これは言われてみれば当たり前なんですけど、
AIっていうのがすごく賢いっていうのと、
あとAIは人間ではない、今のところはスクリーン上で動くようなデジタルなものなんで、
忘れがちなことなんじゃないかなというふうに思うわけです。
その生成AIっていうのをちゃんと戦力化してあげないと役に立たないよねっていう話がされた後で、
この戦力化のためのポイントっていうのを2つ挙げています。
それはワークフローとナレッジベースの構築ということです。
ワークフローっていうのは、我々が仕事をするときに意識しているかどうかっていうのは、
人それぞれだったり業務によって違ったりすると思うんですけど、
必要な情報があったりとか、会社の中でそれを正式に承認する手順があったりとか、
お客さんに出すときに何でもかんでもポイポイ出すわけにいかないんで、
ある種の例えば品質管理ですとか、それを外に出すときのやり方みたいなのがあって、
そういうものが積み重なって仕事っていうのは成り立っているわけですね。
なのでAIに関しても、そうやって仕事の要素をちゃんと分解してあげて、
ワークフローという形でちゃんとAIが分かるような形で構築をしてあげて、
そのポイントポイントでAIがそれぞれのタスクをちゃんとこなしていって、
そうすることによって一つの仕事が完結する。
そういったものを構築する必要があるよねっていうのがワークフローという感覚。
もう一つは、ワークフローが仮に整っていたとしても、
そのワークフローを実施するためには、いろんな業務知識っていうものが必要なわけ。
これは例えば、さっきのお客さんに何かプロダクトとかサービスを定義となったときに、
例えば契約をしますよね。契約書を交わしたりすると思うんだけど、
そういうときに、ただ一般的な契約書っていうのを交わすわけじゃなくて、
例えば同様の事例が過去にあったかとか、あるいはそのときにどういう内容にしたかとか、
あるいはその契約書に基づいて、例えば経営会議みたいなとこ、
承認を得るみたいなときにどういう倫理を出すとか、
そういう事例みたいなものが会社にはたまっていて、
そういったものを活用するっていうのが仕事において非常に大事なわけです。
なので、そういう過去の事例であるとか、
あるいは人々がどういうふうにして意思決定をしてきたかっていうポイントみたいなものがたまっている可能性がある。
これがどんなに賢い人でも業務のやり方とか人間関係とか、
あるいは業務知識がないとちゃんと働けませんよねっていうところと対応して、
AIエージェントっていうのを、AIエージェントっていうか、
平成AIが仕事上で活躍してもらうには、
そういったワークフローとかナレッジベースっていうのが必要なんだよねって話がされているわけです。
その上で、じゃあどうやってそのワークフローやナレッジベースを構築していけばいいのか、
というのはこの本に詳しく書かれているので、ぜひ読んでいただきたいなと思うんですけど、
面白かった、特に印象に残った話として、
業務というのを自動運転、車の自動運転ですね、
それになぞらえて、業務自動化の6段階っていうフレームワークを定義してるんですね。
それによると、一番低いところだとまだAIもなくて自分たち頑張ってるよってところから、
AIにどんどん任せていって、
最終的にはAIが自律的に仕事をしていくみたいな、
そういう6段階のステップっていうのを定義をして、
今はまだまだAIが自律的にやっていくってところからはおとといわけですけれども、
そういった現実的な認識を持ちつつ、
それをどう高めていけばいいのか、みたいなことが詳しく語られています。
一方で、ひろきだいちさんのAIエージェント、人類と共同する機会っていうのは、
AIエージェントの話というところで、
松本さんの本とも重なるところ、
あるいは同じことを別の見方とか別の語り口で語ってるみたいなところも多くあって、
両方読んでいただけると、
より生成AIとかAIエージェントをどう活用するか、
これに対する考えが深まるのかなと思う本なんですけれども、
この本はすごくいろんなことを扱っていて、
ページ数もすごいボリュームがありますし、
たくさん話題があるんですけど、
個人的に興味を持ってる領域っていうのは、
AIと組織の関係性とか、
あるいはAIを使ってどうやって組織の生産性を上げるのかっていうところに
自分自身は関心があるんですけども、
そのことについて、
三ロキさんはAMDARの法則というものをまず持ち出しています。
AMDARの法則って何かというと、
例えばこれはプログラミングにおける
陥りがちなミスリーディングな考え方みたいなところを
是正するというか、
こうだよねっていうことを示すような法則なんですけど、
つまり物事を並列にバーッと行っていけばいくほど、
例えば今まで10個のタスクがあるとして、
それを1個ずつ直列にやっていくより、
10個並列にバーッとやっていけば早いじゃんって思うじゃないですか。
もちろん10個を同時に並列でできるんだったら、
10倍早いみたいなことって起きるんですけど、
プログラミングにおいて、
あるいは現実の業務においてはもっとそうですけど、
10個並列にタスクを実行してそれで終わりみたいな、
現実的にはないわけですね。
というのは、例えば現実の業務に即して考えたほうが
分かりやすいと思うんですけど、
あるタスクがあるとして、
それをじゃあ3人のチームでやりましょうみたいになったときに、
それを純粋に9個のタスクを3個ずつ割り当てて、
3人で3つバーッてやったら、
3倍で終わるかっていったら、
基本的にはそういうことはなくて、
なぜかというと、
例えば最初にどういうことをやりましょうか、
みたいなことを考えなきゃいけないですよね。
とか、あるいは何が行われるとこのタスクってゴールなんだっけ、
みたいな検証みたいなことをしなければいけないこともありますよね。
それに、あるタスクが次のタスクを実行するのに必要であるとか、
そういう依存関係みたいなものもありますよね。
そういう諸々があって、
なかなか全部のタスクを同時に並列でやって終わりみたいなことはないわけです。
なので、アムダールの法則っていうのは、
ざっくり言うと、並列実行できないタスク群があると、
並列数を上げていっても、
生産性の向上にはボトルネックになる部分があって、
それは並列で実行できない領域がどれくらいあるかに依存するよね、
みたいなことなわけです。
AIエージェントっていうのを、
AIエージェントとまでいかなくても、
AIとか生成AIを使ったツールみたいなのを、
いまいろんな会社が導入しているわけですけど、
そういったものを使って、
手元の業務はすごく早く終わるようになっているものもあるんですけど、
組織全体としてみると、
あれ、なんか生産性が上がっているとは言えないのでは、
みたいなことが起こるわけです。
それは何でかって言ったら、
プログラミングもそうだし、
人間のチームによる業務ってもそうなんですけど、
並列実行できないような領域っていうのは必ずある、
ということによるわけです。
それが何で起こるのかっていうと、
これは人月の神話っていう本を書いた、
ブルックスさんっていう人が言っている、
本質的複雑性、
つまり人間的な判断とか、
あるいは関係性とか、
仕事っていうのはやっぱり社会的なものですから、
いろいろ社会的なあれこれみたいなの、
うまく整理してあげないと、
そんなに簡単に並列にバーッとできるようなものじゃないよね、
みたいな、
そういうところがボトルネックになるわけです。
そういうのを解決するために、
いろいろこうやったら、こう考えたらいいよね、
みたいなことがあれこれ書かれていて、
非常に参考になります。
また、この本はさらにAIエージェントっていうのを、
的本さんの本では、
先ほど言った業務自動化の6段階っていうところにマッピングして、
具体的に人を助けるぐらいのところから、
実際にAIエージェントがどんどん実装して、
仕事をしていくよみたいな道筋ってのを描いてるんですけど、
このひろきさんの本では野中育二郎さん、
竹内ひろたかさん、この2人が、
1995年に書いた知識創造企業ってのがあるんですけど、
そこで提案していた、
的モデルっていう、ある種のフレームワークで、
これは、組織というものが仕事をする上で、
実際どういうふうに動いているのか、
あるいはどういうことが理想なのかっていうのをモデル化したものなんですけど、
そういったものに基づいて、
AIエージェントっていうのを考えていくと、
単にツールを使うっていうだけではなくて、
そこで人がどういうふうに動いていくのか、
あるいはシステムというのがどういうふうにあるのか、
あるいはそれを組織としてどう活用していくのか、
そしてまた人に差し戻していって、
それで人、組織、ツールとかシステムっていうのが、
ぐるぐると螺旋状に成長していくみたいな、
そういうような感じのモデルとして僕自身はイメージしてるんですけど、
そういう形で的モデルにAIエージェントをマッピングすることによって、
この先AIエージェントをどういうふうに出すと、
組織にとって有用なものになるのか、
みたいな見通しを示す。
この2つの本っていうのは、
それぞれお立場も違ったりとかするところはあるわけですけれども、
AI、あるいはAIエージェントっていうのをどういうふうに使うと、
実際に組織にとってインパクトが出せるかっていうところを、
実践的であったり、あるいは理論的であったり、
あるいは歴史的な資料に基づいていろいろ書いてくださって、
とても参考になるなというふうに思ったので、
今日紹介をして。
この著者の2人は、
僕が所属している日本CTO協会っていうところで、
ご一緒させている2人なんですけど、
こういう本を書くぐらいなんで、
すごい賢い方々ですね。
それぞれキャラクターは違うんですけど、
どっちもめちゃくちゃ頭が切れて、
話すこともものすごい明快だし、
はっきりしていて、
僕なんかはぼんやりした人間なんで、
いろいろ考えはするんですけど、
なかなかうまく言語化できないなみたいな感じで、
ぼーっとしていることが多いんですが、
この2人が話しているのを聞いたりとか話したりすると、
いろんなことを名識にバシバシと語ってくれるんで、
こっちまで頭が良くなったような、
そんな気持ちになるような、
その方々が季節して、
同じ時期に話題としては似たようなところに関する本を、
それでいて、それぞれのアプローチの違いがよく分かるような、
そういう違いのある本が同じ時期に出たんで、
読み比べてみて、
それぞれ自分の問題関心とは違うと思うんで、
これが重要だったり、これは役立つなっていうところを、
取捨選択して取り入れていっていただければ、
いいのかなというふうに思います。
2025年、今年っていうのは、
年頭ぐらいからAIエージェント元年みたいなことを、
そういう年になるんじゃないかとか言われてましたが、
もちろんそういうことはあると思うんですけど、
実際問題としては、
いろんなエージェントが出てきて、
いろんな人がすごいすごい言ってはいるものの、
組織的に何かインパクトが出せたのかと、
なかなかうーんっていう会社が多いのかなと思っていて、
僕自身が関わっているところでも、
AIはすごい使いこなしてるけど、
じゃあ会社としてすごい計算性が上がったのかっていうと、
まだまだ期待するほどじゃないな感じです。
それは2つの面があって、
1つにはこれは松本さんがXとかで書かれていて、
僕なんかはすいませんと思いながら読んでるんですけど、
AIを効率化とかそういうことに使うみたいなことはみんなやってるけど、
AIをうまく使いこなして新しい価値を生む、
新しいプロダクトとかサービスを生んでいくような、
そういうことを本気で取り組んでる人少ないんじゃないの?
みたいなことをやっていて、
そうですよねみたいな。
頑張りますっていう気持ちにいつもなって。
一方で効率化はうまくいってるのかっていうと、
それはなかなかそう言ってもないよなっていうのがさっき言った話で、
なぜかというとひろきさんがよく整理してくださったように、
本質的な複雑性っていうのがあって、
それはAMDARの法則に基づいて、
自動化、あるいは並列実行できるところを何度も増やしていくように、
業務っていうのは整理していかなきゃいけないんだけれども、
なかなかそこをうまくできないので、
なのにツールだけ入れても、
なんか頑張ってるけど、
なんか思うようにはいかないなみたいな感じになって、
効率性も思ったより上がらない。
そういう2つの理由によって、
まだまだAIエージェント元年とは言いますが、
それが世の中のインパクトになっているかというと、
まだまだそういうことがある。
で、それがなぜなのかっていうのが、
この2つの方に書かれていて、
そしてこうしていけばいいんじゃないの?みたいなのが、
具体的かつ理論的にも、
それぞれのお立場で、
それぞれのやり方で述べられていて、
ぜひ2冊とも読んで読み比べていただけたらなというふうに思います。