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生物学者と書店員のインターネットラジオ 本の虫のススメ
本を偏愛する生物学者の椿と書店員の佐藤が 本にまつわるアレやコレやをゆるっとお届けします。
今回は佐藤さんからまず本を紹介してもらいながら、なんか話を広げていきたいなと思います。
佐藤さん、まず一冊目?一冊目何冊今日紹介できるかな?わかんないけど。一冊目はいかがですか?
はい。最近読んだ文学で、韓国文学なんですけど。
最近さ、翻訳増えてない?
増えて、だいぶ増えたよね。
ここ何年やろう、6年ぐらいかな。
目に見えて増えてるよね。
だいぶ増えたよね。
やっぱりすごい素敵な作品もたくさんあるので、その中から一冊紹介したいんですけど。
タイトルは、50people、チョン・セランさんという方が書かれて、 斎藤麻里子さんという方が訳されている本ですね。
この本、すごい設定が面白くて、50peopleだから50人の人たちみたいな訳やねんけど、
文字通り50人の主人公が出てくるね。すごくない?
追い切れる自信ないな。
え、ということは、群蔵劇ってこと?
まあ、そうやな。これは舞台が一応病院っていうことになってるんやけど、
その病院に関わるいろんな人たち、50人の人たちの短編がまとめられてる。
結構じゃあ、1本1本が短い?
すごく短い。
何十ページとか、10ページとか5ページとか、結構短い。ショートショートに近いようなものもあるし。
なるほどね。
なんですよ。
なんか、50人いるから、すごいそれが、しかも病院の中で関わったりしてるから、
すごいね、なんて言ったらいいの?
同じ作者で違う本を読んだ時に、
ああ、この登場人物がここに出てきてるみたいな、世界線が共通しててさ、
グッとくることってあるやんか。
それとちょっと見かしいところがあって、
すごいな。
そう、この人の奥さんって、あそこに出てきたあの人ちゃうん?みたいなのが、
すごい緻密にジェクソーパズルみたいに組まれてる。
結構、その構想というかの段階で、めっちゃ密にプロットモイルあったんよね。
いや、そうだと思う。
でもね、その病院っていうからには、やっぱりそれ事故とか事件とかで運ばれたり、
病気とかで運ばれてくるっていう患者さんとか、
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結構本当にシリアスな場面とかも、もちろん出てくるんだけど、
それだけじゃなくて、
その病院に設置されている看板にまつわる主人公とかがいたりとか。
すごいね、確かに。
50人もいたら、いろんな触手の人が確かにね、いるやろね。
もちろん、出てくる出てくる。
世代も性別も全部バラバラで。
それ書くってすごい、
筆力。
すごい筆力やね、本当に。
なんかね、この日本語版だと表紙に何人も人が、
アイコンみたいな感じで描かれてるんですけど、
日本語版に訳す時に、
このそれぞれの役っていうか、主人公に顔を当てて、
短編の前にこのアイコンみたいな顔を描いてるので。
それが日本語版だけというか、日本語版で。
日本語版にはそれをやってる。
だからすごいイメージしやすい。
なるほどね、なるほどね。
ちょっと泣いてる子供の顔だったりとか、
なんかこう気難しそうなおじさんの顔だったりとか。
で、その読み進めると、
やっぱり、ああうん、こんな人やろうなって思わせられるような、すごい素敵な。
全体としては何か大きな一つの事件が起こってとか、そういう感じではない?
どうでしょうね。
なるほど、なるほど。
なんかその、すごく難しいと思うんですよ。
その50人の物語を連ねて、それをどういうふうに収束させるかっていうのは。
想像ができない。
できないよね。
でもその物語って、始まり方もすごい面白さ、引き込む力があると思うんやけど、
畳み方ってさ、実はめっちゃ大事やん。
なんかこんだけ読んできたのに、出すとこれかよって叩きつけたくなるような。
正直結構ある。
あるやんか、あるやん。裏切られたみたいな気持ちになるもん。
金返せみたいなね、あるよね。
あるやんか、中にはな。
中にはそう。
中にはそういう本もあるけど、
この本はちゃんとその50人の人生を一緒に生きたみたいな気持ちになった上で、
こういうふうに畳むんやっていう、物語の畳み方も素晴らしい。
それすごいね。
やっぱり病院なので、結構シリアスだったり、たまにすくりがない話とかっていうのも出てきたりするんやけど、
でも基本的にはハートフルなんですよね、物語が。
なんとなく、著者が人間に対してとか物語に対して抱いてる目線とか姿勢っていうものって絶対文章に出てしまうものやと思うんやけど、
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多分この著者は人間に対して深い愛情があったりとか、
登場人物一人一人に対して愛着とか愛情を持ってるんやろうなっていうのが分かるような文体というか。
なるほどね。
だからすごい辛い話やなっていうものもあっても、なんとなく絶望させられないというか、
切り捨てられたような気持ちにならずに、ちょっとだけ救いがあったりとか、ちょっとホッとした気持ちで読めたりとかするので。
50人いるので結構厚みはある本ではあるんですけど、でも短編が連なってるので読みやすいし、
結構私は何日かかけてですけど、雑誌読んでしまいましたね。
あの、キーパーソンみたいな人はその中でもいる?
いないのよ。
すごいなそれ。
でそこも著者が言ってて、50人、まあそういう多くの人が主人公でありながら誰もが主人公でない、でも誰もが主人公であるみたいな話を書きたいって言ってて。
それってでも確かに、あれだよね、実際はそうだもんね。
そうやんな、実際のこの世界というか、みんな主人公じゃないけど主人公みたいな。
やっぱりその日本の文学じゃないっていうところの面白みで言うと、
韓国の文化だったりとか、最近の事情だったり、お国柄みたいなのがちょっと見えたりとかするところだと思うんですけど、
ちょっとネガティブな意味で、へーって思ったのは、韓国でね、何年やったかな、ちょっと忘れちゃったんですけど、
そんなに何十年も前じゃない、10年とかぐらいの前の話だったと思うんですけど、
加湿器、空気の加湿器に問題があって、その加湿器によってすごい死亡者が1000人やったかな、すごい人数出たっていう事件があったらしくて、
韓国で起こった事件で、すごい衝撃的だった事件に、2014年に発生したセオル号の沈没事故の事件があって、
それは日本人も結構ほとんどの人が知ってるんじゃないかなと。
それの犠牲者って500人弱ぐらいいらっしゃるんですけど、それよりも大きい規模、加湿器では亡くなっているわけだよね。
もちろん数で比較することはできないけれども、でもすごい大きな単位で亡くなっているような事件だったんだけど、全然知らなかった。
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すぐ近くの国で起きていることなのに、そんな大きい事件を全然知らずに過ごしてたなと思って、
ちょっと複雑というか、もっといろんなことを知っておかなあかんなって自分で思わされた。
加湿器の事件を基づいて書かれている話があったりとか、実際の事故、事件に基づいて書かれてたりする話も中にはあったりとかして。
なるほど。韓国の人だともうみんな知ってる知ってるってなる。
ベースになるような。
そういう意味で、ちょっと悲しいことではありますけど、そういう意味でも近くの国のことを知れる本で言えるかなって思いました。
なるほど。それでちょっと思い出したのが、すごくその大きな事故とかだったのに、自分は全然知らなかったなってびっくりしたのが私もあって、
ちょっと前に読んだ本なんですけど、永田花子さんっていう大学の先生が書かれている本で、
990円のジーンズが作られるのはなぜ?ファストファッション工場で起こっていること。
っていう本を読んだんですね。
これで、もしかしたらのりこさん知ってるかもしれないけど、
2013年にバングラディッシュの首都のダッカの近くのいろんな繊維系、アパレル系の工場が入っているビルが崩壊したっていう、崩落しちゃったっていう事故があって、
それが亡くなった方だけでも1000名以上がいるっていうすごく大きな事故だったんだけど、
そのことも私、その時もしかしたらニュースとかで聞いてたかもしれないけど、あんまり深く知らないというか、知らなくって、
すごい内実みたいな話をこの本で紹介してて、
どんどんどんどん安い服、ファストファッションがたくさん売れていくっていう状況の中で、安い労働力を求めて、
違法に建物をどんどん建増していったりとか、建物の強度がどんどん担保できない状況になってきているっていうのは認識されながらも、
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短期的な利益っていうのを優先してしまった結果として、ある意味人災みたいな形で起こったものだったっていうような話とか、
あとはもちろん、どういう背景があって、本のタイトルの通りなんですけど、
安い服を私たちが使い捨てるみたいに買ったりするけど、その背景にあることを色々書いてくれてて、
グローバリゼーションの負の側面でまとめられるのかもしれないけど、その背景にジーンズとかってそれこそめちゃめちゃ縫うところも多いし、形も複雑だし、
あれがあんな値段で手に入るってやっぱりおかしいなっていうそういう素朴な感性をちょっと自分ももう今ちょっと失ってたかもとか思ったりしたかな。
全部がそのさ、なんか種興業でいいものをみたいになったら、それこそその、なんだろ、自分で服作るしかないみたいに追い詰められてしまう人もたくさん出てくると思うから、
安く売ることそのものが悪というよりもそのなんていうの、構造的にどうしてもその搾取、大量消費、大量生産っていうのが、
無理をすることによって絶対歪みがどっかに出るのが弱い立場の人に追い付けられてしまうっていうのは、
すごい感じて、自分にできるところから服を長く使うとかそんなもんだけどさ、したいなと思ったりしたかな。
ちなみにエピソード31、さわやかな呪物と恐ろしいファッションの話っていうところで、
死を招くファッション、服飾とテクノロジーの危険な関係という本を椿さんが紹介してくれてるんですけど、
そこでも近代化によってちょっと起こった歪みの話ってかもしてるので、そっちももしよかったら聞いてもらえると参考というか楽しいかな。
深まる?
深まるんじゃないかななんて思います。
そのなんだっけ、その死を招くファッションの方の本は結構そのイラストとか写真がすごい豊富で、見た目にも楽しい本なので、
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楽しい、内容は結構ヘビーなんですけど、見た目のその美しさと内容のそのギャップがあってより印象的な本でしたね。
それもおすすめなので、よければ読んでほしいですね。
ちょっと重めな話になったので、ちょっと軽めな話を挟みたいなと思うんですけど。
いいね。
なんて言うんでしょう、結構シンプルな構造だったけど最近読んで面白かった本が2冊あったので、紹介したいんですけど。
すごい、豊作だ。
豊作なんです。
1つはもう皆さんご存知かなと思うんですけど、ヘミングウェイの老人と海。
いいよね。
いろんなことある?
あるあるある。好き結構。
もう一つがミハイルエンデの魔法のカクテル。
知らない。
という本です。ちょっとマイナーかもしれない、ミハイルエンデは。やっぱり桃とか果てしない物語とか。
その2つだよね。
老人と海、まあまあ読まれてる方は多いと思うんですけど、あれってさ、言うたらさ、老人がさ、海に出て漁をするだけの話って言ったらそうじゃそうやんか。
なのに、だしそんなに厚みのある本ではないのに、すごい引き込まれちゃって。
わかるわかる。
なんかすごいその、老人と一体になって自分が潜り込んで、その世界に入って、その街の中に入って読んでしまえるような没入感がある本というか。
なんか、マッチョだよね。
そうやね。マッチョ、マッチョ、どういう意味でのマッチョ?
なんかさ、いや文体じゃなくて、内容が本、なんか、自分の肉体、肉体が架空になってるやんか。
肉体、なんて言うんだろうな。
あの、老人と海って有名な話なので、ご存知の方も多いと思うんですけど、大きな魚を老人が自分一人で釣り上げて、それを港まで持って帰る話なんですよね。
まあ言ってしまえばね。
言ってしまえばそうやね。
だからその、老人と魚の格闘みたいな、その自分の肉体っていうのが、なんか結構さ、ヨーロッパ文学とかってさ、ドイツ文学とかもそうやと思うけど、自分の精神が核にあるなって私すごい思ってて、
そうじゃなくてすごい肉体っていうのを駆使してというか、感じがすごいアメリカ文学って感じが私はすごいして、
何かの受け売りな気もするんやけど、どっかで読んだのを納得したから、そう自分で今言ってるような気もするんだけど、
でもすごいその、肉体っていうのが軸になる文学っていうのを私あんまり、なんか知らなかったというか。
なのでその、結構新鮮に感じたのを覚えてますね。
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あれ私めちゃくちゃ精神的な本として捉えて読んでた。
本当?
あていうのは、老人が一人で寮に出るんですよね。
で、3日間か何か寮に出て、ずっとその中で魚と対話するぐらいしかできないじゃないですか。
一人でずっといるしかないから。
だから一人ごとずっと言って、自分と対話をずっとし続けるんですけど。
だからその、事故への何か内面への深みを追っていくみたいな意味で、精神的な本でもあるなと思って読んでましたね。
確かに、確かに。
むしろそっち。
すごいね、面白いね。
面白いよね。
だいたいにおいて他者っていうのが現れて、それとの関係を描かれる本が多い中で、あれはもう事故との対話。
もうなんか一人っていう。
私結構その、お魚と。
お魚。
お魚。
もう一つ重要なのが出てくるじゃない。
そうだね。
あれと対話してると思ってたから孤独は感じなかった全く。
いや、孤独は感じてないけど、なんて言ったらいいのかな。
その、魚と対話してるんやけど、でもそれって老人が一人でやってる話でもあるやんか。
実際に喋って関係性を築くというのともまた違う。
老人がどういうふうにその世界を捉えるかっていうところしかないから。
そうそうそう、なんかそういう意味でちょっと珍しい本というか、古典ではあるんやけど、
なんか意外とすごい今見ても全然新鮮に読める本やなって。
面白いよね。
面白いなと思って。
はい、読みましたね。
それがちょっと簡単な構図やけど、面白かった本。
もう一つ魔法のカクテルも簡単なんですよこれも、プロットとしては。
そのだいたい1日の中で、しかも夕方から深夜0時までっていう、
5時からスタートしてるので7時間。
7時間の間だけを書いた本、一冊の中でなんですよね。
でその7時間の中で、なんとかセニア、世界が滅びちゃうよみたいな悪者がおって、
その悪者を止めないと世界が終わってしまうけどどうすんねんみたいな、
結構なんかありそうなプロットではあるんですけど、
その出てくるちょこちょこした小物とか登場人物とかがすごく魅力的で、
すごい引きつけられてしまうんですよね。
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それはやっぱりミハイル・エンデの想像力がすごいたくみ、豊かやからって思うんですけど。
すごいちっちゃい話で言うと、
例えばその一番最初のページにハト時計が出てくるんやけど、
中からハトじゃなくて親指が飛び出してハンマーで打たれる仕組みに乗ってて、
でしかも時計が痛い痛い痛い痛いっていう風に悲鳴を上げて時を知らせるっていう。
かわいい。
ハト時計、ハト時計っていうのかな、指時計が出てくるとか、
なんやねんこれっていうような。
小物がね。
すごいかわいい、面白いというか。
世界観が。
そう、すごいたくみなんで。
一応これ自動書として岩波少年文庫から出てるんですけど、
全然大人が読んでも夢中で読めてしまうんじゃないかなっていう風に思います。
確かにモモとかもそうだもんね。
そうやね、ミハイル園では大人向けな自動書かもしれない。
魔法寿密古文館とかね、っていう肩書が出てきたり、
黒魔術アカデミー会員とか、なんかハリーポッターなんかをさ、
確かにちょっとぽい。
ぽいでしょ。
なんかその肩書。
肩書とかがね、読んでなんかワクワクするようなあの気持ちをちょっと。
確かにね、ハト時計のくだりとかもね。
ドヤンとかね、ちょっとハリーポッターぽいよね。
確かに確かに。
そうなんでそうなんで。
なんでちょっと軽く読める本としておすすめしました。
じゃあ今回はそんな感じで、ちょっと重めの話から軽く読める本まで、
いろいろと紹介しました。
はい。
また皆さんの読書に参考になると嬉しいな。
ね。
では来週も楽しみにしていただけると幸いです。
良い読書体験を。
良い読書体験を。
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