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高瀬舟 前編
2025-02-08 16:07

高瀬舟 前編

250208 森鴎外 高瀬舟 前編 朗読:植草俊
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おしゃべり本棚。 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
高瀬舟 森鴎外
前編 高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。
徳川時代に京都の財人が遠投を申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、 そこで営まごいすることを許された。
それから財人は高瀬舟に乗せられて大阪へ回されることであった。 それを護送するのは京都町部行の配下にいる同心で、
この同心は財人の親類のうちで重たった一人を大阪まで同船させることを許す官礼であった。 これは神へ通ったことではないが、いわゆる多目に見るのであった。
黙拠であった。 当時遠投を申し渡された財人は、もちろん重いトガを犯したものと認められた人ではあるが、
決して盗みをするために人を殺し火を放ったというような童学な人物が多数を占めていたわけではない。
高瀬舟に乗る財人の過半は、いわゆる心得違いのために思わぬトガを犯した人であった。
ありふれた例を挙げてみれば、 当時相対時にといった上司を図って相手の女を殺して自分だけ生き残った男というような類である。
そういう財人を乗せて、入合の鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を両眼に見つつ、東へ走って、鴨川を横切って下るのであった。
この船の中で財人とその親類の者とは、夜通し身の上を語り合う。
いつもいつも悔やんでも帰らぬ繰りごとである。
御相の役をする同心は、そばでそれを聞いて、財人を出した親戚眷属の悲惨な境遇を細かに知ることができた。
所詮町部業所の知らすで、表向きの公共を聞いたり、役所の机の上で口書きを読んだりする役人の夢にも伺うことのできぬ境遇である。
03:07
同心を務める人にもいろいろの性質があるから、このときただうるさいと思って耳を覆いたく思う冷淡な同心があるかと思えば、またしみじみと人の哀れを身に引き受けて、役柄ゆえ景色には見せぬながら、無言のうちにひそかに胸を痛める同心もあった。
場合によって非常に悲惨な境遇に陥った財人とその親類と、特に心弱い涙もろい同心が大量していくことになると、その同心は不覚の涙を禁じ得ぬのであった。
そこで高瀬船の御相は町部業所の同心仲間で不快な職務として嫌われていた。
いつの頃であったか、たぶん江戸で白河楽王公が征兵をとっていた関西の頃でもあっただろう。
千恩院の桜が入合の金に散る春の夕べに、これまで類のない珍しい財人が高瀬船に乗せられた。
それは、なお喜助といって三十歳ばかりになる。住所不上の男である。
もとより老屋敷に呼び出されるような親類はないので、船にもただ一人で乗った。
御相を命ざられて一緒に船に乗り込んだ同心、羽田勝兵衛はただ喜助が弟殺しの罪人だということだけを聞いていた。
さて老屋敷から桟橋まで連れてくる間、この痩せじしの色の青白い気づけの様子を見るに、
いかにも神病に、いかにもおとなしく、自分をば公義の役人として敬って、何事につけても逆らわぬようにしている。
しかもそれが罪人の間に往々見受けるような恩准を装って献世にこびる態度ではない。勝兵衛は不思議に思った。
そして船に乗ってからも、単に役目の表で見張っているばかりでなく、絶えず気づけの挙動に細かい注意をしていた。
その日は暮れ方から風が止んで空一面を覆った薄い雲が月の輪郭をかすませ、
06:02
ようよう近寄ってくる夏の暖かさが両眼の土からも川床の土からももやになって立ち上るかと思われる夜であった。
下郷の町を離れて鴨川を横切った頃からはあたりがひっそりとして、ただへさきに咲かれる水のささやきを聞くのみである。
夜船で寝ることは罪人にも許されているのに、気づけは横になろうともせず、
雲の濃淡に従って光の増したり減じたりする月を仰いで黙っている。
その額は晴れやかで、目にはかすかな輝きがある。
商兵衛はまともには見ていのが、始終気づけの顔から目を離さずにいる。
そして不思議だ、不思議だと心のうちで繰り返している。
それは気づけの顔が縦から見ても横から見てもいかにも楽しそうで、
もし役人に対する気兼ねがなかったなら口笛を吹き始めるとか鼻歌を歌いだすとかしそうに思われたからである。
商兵衛は心のうちに思った。
彼はこれまでこの高瀬船の裁量をしたことはいくたびなか知れない。
しかし乗せて行く罪人はいつもほとんど同じように目も当てられぬ気の毒な様子をしていた。
それにこの男はどうしたのだろう。
輸産船にでも乗ったような顔をしている。
罪は弟を殺したのだそうだがよしやその弟が悪いやつでそれをどんな行き係になって殺したにせよ人の情としていい心持ちはせぬはずである。
この色の青い痩せ男がその人の情というものが全く欠けているほどの世にも稀な悪人であろうか。
どうもそうは思われない。
ひょっとおかしくなっているのではあるまいか。
いやいやそれにしては何一つ辻褄つじつまの合わぬ言葉や挙動がない。
この男はどうしたのだろう。
商兵衛がためには喜助の態度が考えれば考えるほどわからなくなるのである。
09:04
しばらくして商兵衛はこらえきれなくなって呼びかけた。
喜助おまえ何を思っているのか。
はい。
といってあたりを見回した喜助は何事か役人に見とがめられたのではないかと気づかうらしく、
いずまいを直して商兵衛の景色をうかがった。
商兵衛は自分が突然問いをはした動機を明かして、
役目を離れた王隊を求める言い訳をしなくてはならぬように感じた。
そこでこう言った。
いや、別にわけがあって聞いたのではない。
実はな、俺はさっきからおまえの島へ行く心持ちが聞いてみたかったのだ。
俺はこれまでこの船で大勢の人を島へ送った。
それはずいぶんいろいろな身の上の人であったが、
どれもどれも島へ行くのを悲しがって見送りに来て、
一緒に船に乗る親類のものと夜通し泣くに決まっていた。
それにおまえの様子を見れば、どうも島へ行くのを苦にしてはないようだ。
いったいおまえはどう思っているんだい。
喜助はにっこり笑った。
ご親切におっしゃって下すってありがとうございます。
なるほど、島へ行くということは他の人には悲しいことでございましょう。
その心持ちは私にも思いやってみることができます。
しかしそれは世間で楽をしていた人だからでございます。
京都は結構な土地ではございますが、
その結構な土地でこれまで私の致して参ったような苦しみは
どこへ参ってもなかろうと存じます。
お上のお慈悲で命を助けて島へやって下さいます。
島はよしやつらいところでも鬼の住むところではございますまい。
私はこれまでどこといって自分の居ていいところというものがございませんでした。
今度お上で島にいろとおっしゃって下さいます。
そのいろとおっしゃるところに落ち着いていることができますのが、
まず何よりもありがたいことでございます。
それに私はこんなにか弱い体ではございますが、
ついぞ病気を致したことはございませんから、
島へ行ってからどんなにつらい仕事をしたって
体を痛めるようなことはあるまいと存じます。
それから今度島へおやり下さるにつきまして
12:01
二百文の帳目をいただきました。
それをここに持っております。
こう言いかけて喜助は胸に手を挙げた。
遠投を仰せつけられる者には帳目二百度を使わすというのは当時の掟であった。
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