令和8年4月8日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会は第649回会合を開き、「DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応について」を議題としました。新規に薬価収載された医薬品は、DPC/PDPSの診療報酬点数表に反映されないため、包括評価のままでは高額な薬剤費が病院の負担として残ります。本稿は、今回示された高額薬剤判定の結果を、DPC対象病院の実務で使える形に整理します。
中医協は、7成分を包括評価の対象外として出来高算定とし、2成分を定義告示の既存分岐に反映する案を示しました。判定の基準は、1入院当たりの標準的な薬剤費が、診断群分類ごとの包括範囲薬剤費の84パーセンタイル値を超えるかどうかです。出来高算定の対象となるのは、テゼスパイア、トレムフィア、キイトルーダ、ベスレミ、アクイプタ、ラヴィクティ、エキシデンサーの7成分です。定義告示に反映されるのは、エキシデンサーとツカイザの2成分で、いずれも類似薬の分岐に追加されます。
1. 高額薬剤判定は、技術革新の導入を妨げないための仕組み
高額薬剤判定は、新規の高額薬剤を一時的に包括評価から外す運用です。この運用は、年4回、新薬の薬価収載に合わせて実施されます。判定作業は、高額薬剤告示への追加と定義告示への追加という2つの作業から構成されます。
高額薬剤判定が必要になる理由は、DPC/PDPSの包括点数が過去の使用実績データにもとづいて設定される点にあります。新たに保険収載された医薬品には、この使用実績データがまだありません。データが不足したまま包括評価を続ければ、医療の技術革新の導入が阻害されかねません。そこで厚生労働省は、一定の基準に該当する薬剤を使用した患者について、十分な使用実績データが収集されDPC包括評価が可能となるまでの間、包括評価の対象外としています。
包括評価の対象外とするかどうかは、個別の診断群分類ごとに判定します。この判定では、対象の医薬品を入院初日から退院まで添付文書どおりに投与した場合の投与回数(仮想投与回数)を求めます。次に、仮想投与回数から1入院当たりの薬剤費を算出します。算出した薬剤費が、その診断群分類で使われている包括範囲薬剤費の84パーセンタイル値を超えていれば、当該医薬品を高額薬剤として指定します。前年度に使用実績のない医薬品では、併用する医薬品を含む標準的な使用における薬剤費の見込み額を、当該医薬品を使用していない症例の薬剤費の84パーセンタイル値と比較します。
判定の対象となる医薬品は、3つの区分に分かれます。第1の区分は、新たに薬価収載される新薬です。第2の区分は、効能効果・用法用量の一部変更が承認された医薬品です。第3の区分は、事前評価済公知申請が受理された医薬品です。今回の議題では、令和8年2月19日に効能または効果および用法または用量が追加された医薬品、令和8年1月29日に公知申請が受理された医薬品、令和8年4月15日に薬価収載を予定している医薬品が検討対象となりました。
2. 出来高算定の対象は7成分
高額薬剤告示に追加され、出来高算定の対象となるのは7成分です。内訳は、令和8年2月19日に効能効果・用法用量が一部変更された4成分と、令和8年4月15日に薬価収載を予定している新薬3成分です。これらの薬剤を使用した患者のうち、対応する診断群分類に該当する患者については、次期診療報酬改定までの間、出来高で算定します。
対象となる7成分の概要は、次のとおりです。一部変更の4成分を先に、新薬の3成分を後に並べています。
■ テゼスパイア皮下注210mg(テゼペルマブ)
* 区分:効能効果・用法用量の一部変更
* 効能・効果:鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎
* 対象の診断群分類:030350 慢性副鼻腔炎
* 1回投与当たりの標準的な費用:169,058円
■ トレムフィア皮下注(グセルクマブ)
* 区分:効能効果・用法用量の一部変更
* 効能・効果:中等症から重症の潰瘍性大腸炎
* 対象の診断群分類:060185 潰瘍性大腸炎
* 1回投与当たりの標準的な費用:導入療法678,506円/維持療法325,040円
■ キイトルーダ点滴静注100mg(ペムブロリズマブ)
* 区分:効能効果・用法用量の一部変更
* 効能・効果:局所進行頭頸部癌の術前・術後補助療法
* 対象の診断群分類:03001x 頭頸部悪性腫瘍
* 1回投与当たりの標準的な費用:398,924円(併用薬の費用は別途)
■ ベスレミ皮下注(ロペグインターフェロン アルファ-2b)
* 区分:効能効果・用法用量の一部変更
* 効能・効果:真性多血症
* 対象の診断群分類:130050 骨髄増殖性腫瘍
* 1回投与当たりの標準的な費用:初回272,587円/2週後以降518,246円
■ アクイプタ錠(アトゲパント水和物)
* 区分:新薬
* 効能・効果:片頭痛発作の発症抑制
* 対象の診断群分類:010240 片頭痛、頭痛症候群(その他)
* 1回投与当たりの標準的な費用:1,461.6円
■ ラヴィクティ内用液(フェニル酪酸グリセロール)
* 区分:新薬
* 効能・効果:尿素サイクル異常症
* 対象の診断群分類:100335 代謝障害(その他)
* 1回投与当たりの標準的な費用:41,455.4円(3日分)
■ エキシデンサー皮下注100mg(デペモキマブ)
* 区分:新薬
* 効能・効果:気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎
* 対象の診断群分類:030350 慢性副鼻腔炎、040100 喘息
* 1回投与当たりの標準的な費用:1,143,284円
7成分のうち、最も単価が高いのはエキシデンサー皮下注100mgです。この製剤は、1回100mgを26週間ごとに皮下注射する薬剤で、1回投与当たりの標準的な費用は1,143,284円に達します。同じ1回投与で、慢性副鼻腔炎の84パーセンタイル値7,380円(令和6年度告示番号441)や、喘息の84パーセンタイル値381,534円(同593)を大きく上回ります。
単価が低くても高額薬剤に該当する例が、アクイプタ錠です。この内服薬は、1回投与当たり1,461.6円にすぎません。しかし、片頭痛の診断群分類では仮想投与回数が5回とされ、1入院当たりの標準的費用は7,308円となります。この金額が84パーセンタイル値6,030円を上回るため、高額薬剤として指定されます。判定が薬価の絶対額ではなく診断群分類ごとの相対比較で決まる点を、この例が示しています。
投与方法によって費用が変わる薬剤にも、注意が必要です。トレムフィア皮下注は、導入療法で1回678,506円、維持療法で1回325,040円と、局面ごとに費用が異なります。ベスレミ皮下注も、初回272,587円、2週後以降518,246円と用量調整に応じて変動します。キイトルーダ点滴静注は、1回投与当たり398,924円に加えて、併用薬の費用が別途かかります。
3. 定義告示に反映する2成分
定義告示への反映は、エキシデンサーとツカイザの2成分です。いずれも令和8年4月15日に薬価収載を予定している新薬で、類似薬効比較方式(Ⅰ)により薬価が算定され、比較薬に特化した診断群分類がすでに設定されています。この場合、新薬を既存の分岐に追加し、比較薬と同じ扱いにします。
エキシデンサー皮下注100mgは、喘息の診断群分類に反映されます。この製剤の類似薬はメポリズマブです。そのため、診断群分類040100 喘息に設定されている「メポリズマブ」の分岐に、デペモキマブが追加されます。
ツカイザ錠は、乳房の悪性腫瘍の診断群分類に反映されます。この錠剤は、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳癌に対し、トラスツズマブおよびカペシタビンとの併用で1回300mgを1日2回経口投与する薬剤です。類似薬がトラスツズマブ デルクステカンであることから、診断群分類090010 乳房の悪性腫瘍の同分岐に追加されます。なお、ツカイザ錠は、出来高算定の対象として高額薬剤告示に掲げられた7成分には含まれていません。
4. 医療機関に求められる実務対応
医療機関には、3つの実務対応が求められます。第1に、対象薬剤と診断群分類の組み合わせを確認します。第2に、算定システムのマスタを更新します。第3に、正式な告示の内容で最終確認します。
対象薬剤と診断群分類の組み合わせの確認が、最初の作業です。出来高算定となるのは、対象薬剤を使用したすべての患者ではありません。対象となるのは、当該薬剤に対応する診断群分類に該当する患者に限られます。今回の資料では、同じ薬剤でも診断群分類の枝番ごとに84パーセンタイル値が異なるため、14桁コード単位での確認が欠かせません。
算定システムのマスタ更新が、次の作業です。今回の資料には、令和6年度の診断群分類番号と令和8年度の診断群分類番号が併記されています。令和8年度診療報酬改定で番号が変わるため、更新時には参照する年度を取り違えないよう注意します。運用開始の時期も、薬剤ごとに確認が必要です。新薬3成分は令和8年4月15日に薬価収載が予定される一方、一部変更の4成分はすでに収載済みで、令和8年2月19日に効能効果・用法用量が追加されています。
正式な告示での最終確認が、最後の作業です。本稿で紹介した内容は、令和8年4月8日の中医協総会に提出された事務局案にもとづいています。実際の運用は、高額薬剤告示および定義告示の改正内容で確定します。厚生労働省から発出される告示と関連通知を、必ず原文で確認してください。
まとめ
令和8年4月8日の中医協総会には、DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応が議題として示されました。判定の基準は、1入院当たりの標準的な薬剤費が診断群分類ごとの包括範囲薬剤費の84パーセンタイル値を超えるかどうかです。出来高算定の対象となるのは、テゼスパイア、トレムフィア、キイトルーダ、ベスレミ、アクイプタ、ラヴィクティ、エキシデンサーの7成分です。定義告示に反映されるのは、エキシデンサーとツカイザの2成分で、それぞれメポリズマブとトラスツズマブ デルクステカンの分岐に追加されます。DPC対象病院は、14桁コード単位で対象を確認したうえで、正式な告示にもとづいて算定準備を進めてください。
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サマリー
DPCは定額制のため、新薬の費用が病院の負担にならないよう、一定の基準を超える薬剤を出来高算定にする仕組みが説明されます。判定には診断群分類ごとの84パーセンタイルが用いられ、約114万円のエキシデンサーだけでなく、1回約1,461円のアクイプタも、入院中の合計額が基準を超えるため対象になります。既存の分岐に薬剤を組み込む場合や、効能追加日と薬価決定日の違い、14桁コードと年度別マスタの確認など、病院の請求実務上の注意点も取り上げます。最後に、個別化医療で高額治療が増えた場合に、定額制をどう進化させるべきかが問いかけられます。
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