2025-04-07 10:03

heldio #261. 「剥奪の of」の歴史ミステリー

#英語史 #英語教育 #英語学習 #前置詞 #剥奪
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サマリー

今回のエピソードでは、「剥奪のof」という文法構造の歴史的背景を探求しています。この不思議な語順がどのように形成されたのか、具体的な例を交えながら解説されています。

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おはようございます。英語の歴史を研究しています。 平尾義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生も、ネイティブスピーカーも、 辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、 英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、 新しい英語の見方を養っていただければと思います。
剥奪のofの紹介
今回取り上げる話題は、「剥奪のof」の歴史ミステリー、という話題です。
剥奪のofと聞くとですね、「おお、この文法事項か!」 という風に興奮する、おそらく私と同じくらいの世代の方がいると同時にですね、
リスナーの中には、「剥奪のofって何ですか?」 というような人もいるんではないかと。
このように考えられるわけなんですけれども、 この剥奪のof、剥奪という言葉がですね、
もしかしたら私この日本語の剥奪を覚えたのは、 この剥奪のofという英文法の項目として覚えたのが最初かもしれません。
その後、人権剥奪とかですね、表現を覚えたという、 むしろそういう順番の可能性があるわけなんですけれども、
これは典型的な例を挙げたいと思うんですが、 典型的なこの動詞はですね、「rob」
まさに奪う、剥奪するということなんですが、
The gang robbed a bank.
ギャングは銀行強盗をしたということですね。
The gang robbed a bankということです。
つまり、robっていうのは強盗するっていうことなので、 そのすぐ後の目的語には、
例えば銀行強盗するのであれば銀行、 a bankが来るわけですよ。
じゃあこれをですね、人から、 例えばお金を奪うというような表現にするとこうなります。
The gang robbed him of all his possessions.
このように、ギャングは彼から全ての所有物を 奪ったということになるんですね。
この時に日本語で言うと、 彼から、彼の所有物全部を奪ったとなるので、
奪ったものは、直接的に奪ったものは all his possessions ってあって、これが目的語になって、
彼からなので、from him ぐらいのものが続くのかなと思いきや、
英語ではこれがあたかもひっくり返ったようになるんですね。
ギャングは彼を奪ったと、 そして彼の所有物からのような、
一見するとそう思えるような語順と 前置詞の使い方をするんですね。
改めて言いますと、
The gang robbed him of all his possessions.
ということです。
何かひっくり返った感じが、 日本語母語話者の感覚としてはあるんではないかと思うんですね。
他に典型的なのは deprive です。
これも奪うってことですね。
例文をあげます。
The court cannot deprive me of the right to see my child.
ということで、裁判所は私から子供に合う権利を 奪うことはできないということで、
やはり奪うもの、直接的に奪うものは、 子供に合う権利を奪う。
私からという順番になりそうなものなんですが、
英語としてはあたかもひっくり返ったかのような 統合構造ですね。
The court cannot deprive me of the right to see my child.
となるわけです。
英語の感覚としては、 ひっくり返った感覚はないのかと。
これは日本語母語話者としては 知る余地もないわけなんですけれども、
全くないわけではないんじゃないか っていう匂いがするんですね。
例えばですね、robとdepriveの例を出しましたが、 他にもいくつかありまして、
例えばstripっていうのがあります。
このstripっていうのは、はぐ、むしるですね。
そんな意味があるんですが、 例えばこんな例文はどうでしょうね。
The vandals strip the tree of its branches.
その野蛮な破壊者たちは、 木から枝をむしり取ったぐらいの意味ですよね。
むしり取ったのは枝なので、
stripの直接目的語として、 ブランチーズが来そうなものなんですが、
そうではなくて、the treeとくる。
of its branchesということで、
オブクを使って実際にむしり取ったもの、 直接的なものをオブクで表すっていうことですね。
これが剥奪のオブってことなんですが、
The vandals strip the tree of its branches.
という言い方をするわけです。
ひっくり返った感じがしますね。
では、英語ネイティブは、 ひっくり返った感じがしないのかというと、
そんなこともないんじゃないかという、 対応する構文があります。
こんなんですね。
The vandals strip the branches of the tree.
という言い方です。
これ、日本語防護話者の感覚としては、 すっと入ってきます。
The vandals strip the branches.
枝をむしった。
そして、of the tree。
木からということで、 非常にストレートに思われます。
むしろ一般的である、
The vandals strip the tree of its branches.
という、剥奪のオブを使った例文は、
やはり、どう考えても、
ひっくり返っているかのように 思われて仕方がないわけです。
歴史的変化の考察
しかもですね、
この2つの構文の入れ替えで、
剥奪のオブに対して、 ストレートな語順ですね。
日本語防護話者にとって、 ストレートな語順の場合、
今度はオフという前置が使われるんです。
オブではなく。
ところが、オブとオフというのは、
もともと同じ一つの前置なんですね。
なので、からって意味です。
今でいうfromとかout ofぐらいの意味を表すものが、
オブであり、そしてオフであるんです。
つまり、この2つというのはですね、
語順も違うし、使っている前置が微妙に、
オブとオフとで違うと言いながら、
ルーツとしてはですね、
前置も同じルーツですし、
しかもこの、もともと語順ひっくり返っているんじゃないか、
という我々の感覚自体もですね、
やはり英語だってそんなに違わないんじゃないか、
という気がするんですね。
さて、ここで歴史を遡ってみましょう。
典型的にrob a of bとやって、
aからbを奪うというような、
逆転したような感覚の訳になるわけですね。
Rob a of bで、
aからbを奪うということなんですが、
じゃあですね、ストレートな感覚で言うと、
Rob b of a、
この方がよっぽどわかりやすいということになるんですが、
これは英語において全くなかったのかというとですね、
実は歴史的に調べるとあるんです。
現代の英語の規則では、
Rob him of money、
彼からお金を奪うという言い方ですが、
実はRob money of himという言い方も存在して、
しかも両方ですね、
このRobに関して言う限りですね、
初出、初めて現れたのが、
英語史上同じ1320年ぐらいなんです。
20年から30年っていうことで、
ほぼ同じタイミングで出てるんですね。
つまりやっぱりですね、
Rob him of moneyが今の普通の
規範的な言い方なんですけれども、
感覚としてはRob money of himという言い方だって
あったということは、
我々日本語母語話者の感覚が
何か転倒しているというわけではなくて、
ネイティブ的にもですね、
不自然な漢字っていうのはどこにあるのではないか、
というふうに私は疑いたいと思っているんですね。
しかもこれを記録しているOED、
Oxford English Dictionaryでもですね、
なんでこんな公文が、つまりひっくり返っての公文が
出来上がってしまったかということについて、
transpositionという用語を使っているんです。
特に専門用語というわけでもないんですが、
つまりひっくり返ってしまっているらしいという
表現を使って説明しているんですね。
つまりOEDの公式見解として
ひっくり返っているということを
仲間認めているということになります。
我々日本語母語話者の感覚がおかしいわけでもありません。
ネイティブもきっと同じように考えている
かもしれないという少なくとも節はあるということですね。
Rob A of BでAからBを奪うというのは、
なんかひっくり返っている感がある。
B of Aであれば、しっくりくるのにという
この感覚は決しておかしいわけではない。
むしろなぜこのような分布ですね。
Rob A of BでAからBを奪うという形になったのか。
他にもdepriveであるとかstripもそうですが、
いくつか他にありますが、こういったものがなぜ
生じてしまったのかというのは、英語統語論史上の
なかなか面白い問題だと思います。
それではまた。
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