再起代名詞の使用について
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、I have no money with ME.のMEについてです。
これはどういう問題かと言いますと、
普通ですね、主語、この場合、Iなわけですが、これが同じ文の中でですね、前置の後なり、目的語なりですね、返ってくる場合には、普通、最期待名詞を使うと。
現代の英語には、最期待名詞というのがあって、Iだったら、Myselfということになるんですね。
You, Yourselfとの、この最期待名詞という語類があるわけなんですけれども、これ、I have no moneyというわけですから、Iが主語なわけですよね。
この場合、with MEと付けることで、所持金がない、今持っているお金がないということで、家に戻ればあるんだけど、というようなことも含意するわけですよね。
今、持っていないんだという意味で、with MEとやるわけなんですが、主語がIであれば、with MYSELFのように、最期待名詞を使うべき文脈ではないかということが疑われるんですが、
これは監修的に、普通、I have no money with MEというふうに言って、with MYSELFとは言わないわけですね。
with MYSELFと言っても、通じるとは思うんですね。ただ、監修的には、with MEみたいな言い方をする、そういうことです。
英語の歴史的変遷
似たような文を他に拾ってみますと、例えば、He looked about him.
これ、彼は辺りを見回したということですよね。
これ、自分に返ってくるわけですから、He looked about himselfとなりそうなものなのに、about himと言っているわけですね。
他には、She pushed the cart in front of her.
なんていうのもそうですね。in front of herであって、in front of herselfではないということです。
herselfでも通じるとは思います。
他には、We have the whole day before us.
1日、自由に広がっている、今日1日は私たちの自由だって意味ですね。
これ、We have the whole day before ourselvesと言っても、もちろん理解はされるということですが、監修的にbefore usということが多いということなんですね。
実際、どっちで言っても通じるなっていうのは、いろいろと例がありまして、例えば、
She is building a wall of Russian books about her.
の場合、about herだけではなく、about herselfと言っても十分に通用しますし、
他には、He closed the door behind him.
これ、He closed the door behind himselfと言っても、もちろんOKですし、同じぐらいよく使われるんじゃないかと思うんですね。
このように厳密に言うとですね、主母と同じ人物、支持対象に帰ってくるものなので、
このような、主に前置の後に来るというケースが多いわけですが、ここで再起代名詞を使うこともできるけれども、そうではない。
非再起代名詞は単純形ですね。これが使われることも多くて、監修的な表現においては、
普通、非再起代名詞、単純形を使うという、そういうケースも非常に多いわけですよ。
一般的に言えば、現代英語はかなり統合的にうるさくてですね、自分と同じもの帰ってくる、
再起代名詞を使うべきところには、きっちりと再起代名詞を使わなければいけませんよというのが原則なんですね。
例えば、He killed himと言ったとき、これはですね、彼は他の別の男性を殺したという読みになって、
つまり他殺の読みしかありえないわけですね。自殺の読みにしたい場合は、He killed himselfと言わなきゃいけないというように、
きっちりとですね、単純形か再起代名詞かというのを使い分ける。そうじゃないと意味が変わってしまう。
支持対象が完全に変わってしまうというような、割とこの再起代名詞についてうるさい言語、文法を持っている言語なわけですけれども、
今回のようなですね、I have no money with meみたいなときは、何で許されるのかと、何でゆるいのかということですね、規則が。
このあたりについて、歴史的に考えてみたいと思います。英語の歴史をひもときますと、
実は再起代名詞と、現代英語で呼ばれているような語類はですね、もともとなかったんです。つまり単純形しかなかったということなんですね。
特に小英語ではそうです。小英語で先ほど挙げたですね、例えばHe killed himみたいな言い方をした場合、これ他殺と自殺、両方の読み方があります。
この主語のheと同じものを指すhimという使い方もちゃんとあったんですね。もちろんそうじゃない、他殺の読み、違う人を指すんだっていう読みもありました。
つまり再起代名詞という特別な語類がなかったので、これは文脈によってですね、このhimっていうのは主語と同じものなのか、そうでないものなのかっていうことを文脈で判断するっていうタイプの言語で、
いちいちですね、再起代名詞なんて決まった語類があったわけではないんです。ただもちろん、自身にって返ってくるような表現をしたい場合、あえてしたい場合にはそのための表現というのはもちろんありました。
ただ、マストではないんですね。あえてはっきりと明示したいときだけつけるという意味ではですね、今のようながっちりした規則があったわけではないんです。
小英語のときにどういう表現があったかというと、まさにそれが実はセルフという単語なんですね。
ただ、myselfとかhimselfのような言い方で、今では一語に綴ることから完全に一語として認識されているわけですが、小英語のときにはあえてセルフを補ってですね、これは自身に返ってくるという特別な使い方だよというふうに強調したい場合のみ使いました。
なので、これ二語だったんですね。myselfになりhimselfなり、綴る場合にもですね、典型的にはスペースを空けてあくまで添えるという感じで一語ではなかった。つまり、再起題名詞というような語類が存在したわけではないんです。
ただですね、中英語期以降にこれがしばしば使われるようになります。そしてだんだんと一語のように見なされて、myself、himselfのような形になったということなんですが、ただ中英語、そして近代英語まではですね、実はやはりオプショナルだったんです。
つまり、自分に返ってくるよっていうことをあえて強調したいときだけにこのmyself、himselfを使ったんであって、特に強調の必要もないであるとか文脈から自明だっていう場合にはですね、このセルフをつけないいわゆる単純形でずっとやってきたんです。
つまり、このmyselfとかhimselfというこういう表現のですね、再起題名詞につながる表現の種こそ、古英語時代からあったわけなんですが、これが自分に返ってくる意味のときには必ず使わなければいけませんよっていうがっちりした規則になったのは、実は現代英語期に近づいてからなんです。
現代英語の文法
古英語、中英語、そして近代英語の取り分け前半まではですね、特にその明示する必要がない場合は単純形で普通にやってたんですね。明示したいときだけセルフをつけるというようなことだったんです。
そして今回の話題で取り上げたような、I have no money with meみたいなケースのこのwith meっていうのは、いわゆるその古英語から近代英語まで続いていた単純形で事実上再起題名詞の役割を果たせますよっていう時代の名残っていうことになります。
理屈がちがちで言えば確かにこれwith myselfというのが正しい。それが正確だということにはなりますけれども、この特に前置きの場合ですね、I have no money with meみたいな形は古くからずっとこの単純形でやってきたわけですね。
とりわけ強調する必要がない限りは当然単純形でやってきたっていうのが伝統ですから。これがいわばフレーズとしてそのまま現代まで残っていると。
普通、動詞の目的語の場合はこの使い分けがうるさくてですね、ちゃんとmyselfとかhimself使いなさいっていうことなんですが、そのこのがちがち化した現代英語的な文法に変化していく際に、前置きの後ろにある、しかもフレーズっぽいものに関しては昔ながらの表現が残ったっていうことなんですね。
I have no money with me. He looked about himというふうに。前置きの後に来る場合には、このselfっていうのはないならないでOKということになっているわけです。これは歴史的な連続性という観点から説明することができるわけですね。ではまた。