発音の揺れ
英語に関する素朴な疑問です。 なぜ、しばしばを意味するoffenはoftenと発音されることがあるのですか。
これは確かに、一般的にはですね、英語を学習などではoffenというふうに、スペリング上はoftenと綴りますが、発音上はoffenとtを読まないというふうに一般的には習うんではないかと思います。
しかし実際にネイティブの発音を聞いてみますと、よくですね、oftenとtの発音が聞こえるケースがあるということです。
これはなぜかという問題です。 これは非常に歴史的に考えても面白い問題ということで取り上げてみたいと思います。
まず現状なんですけれども、2008年のロングマン・プロナンシエーションディクショナリーという発音辞典によりますと、実はイギリス英語において73%が規範的な伝統的な発音でoffenですね。
一方27%がoftenと発音されるということなんです。 アメリカ英語で見てみましても状況は大体同じでですね、
offenという伝統的な発音が78%、しかし22%ほどがoftenというふうに発音されるということです。
つまりざっとイギリス英語でもアメリカ英語でも4分の1ほどはですね、oftenというふうにtで発音されるということです。
この比率はもしかすると現代までに2008年の今データですから増えてきているという可能性もあるわけです。
では2つの発音があるということなんですが、そもそもなぜこの発音に揺れがあるのかということですね。
一つにはまあ規範的伝統的にはoffenというふうにt発音しないんですが、スペリングは昔から今まで変わることなくtで綴られ続けてるんですね。
そうしますとスペリングと発音を照らし合わせてみたところ、tはいつでも書いてあるのにこの発音の方はですね、読まないっていうのはおかしいじゃないかと。
つまりズレが感じられるわけです。そこでこのズレを解消しようということでですね、つづり字にあるのだから発音しよう、このtはつづり字に含まれているのだから発音上もtで発音しようという意識が働くわけです。
たとえ規範的伝統的にoffenであっても、ある時にこのズレの事実に気づいてしまうと、t書かれているんだから発音したらどうかという発音になるようにして、つづり字をベースにしてですね、発音に無音だったものが、tの発音が復活するというんですかね。
発音に惹かれて発音されるように、つづりに惹かれて発音するようになる場合がありまして、これをスペリングプロナンシエーション、つづり字発音、つづり字ベースの発音という意味ですね。というふうに呼びます。
他にいくつか例を挙げますと、このつづり字発音はですね、例えば額、おでこを意味するforheadという単語があります。forheadというのが伝統的な従来の発音です。しかしつづり字上はfor、f-o-r-eですね、にhead、前頭、頭の前の部分という意味ですよね。ですので、これどうしても初見で見るとforheadと読みたくなるわけです。
ということで、このつづり字発音のforheadというのもだいぶ行われるようになってきました。
他にはですね、食べるeatの過去形、これみなさんeat、e-a-t、8の8と同じ発音ですね。発音していると思うんですけれども、実はこれ伝統的な発音はe-t、e-tなんです。e-tではなくe-tという短い母音なんですね。
だったのが、このateというつづり、これはどう見てもですね、英語のつづり字の規則からするとこれeightと読みたくなるということで、つづり字に誘われる形でeightとなり、これが現代では最も普通の発音になっているということで、イギリスなどでも伝統的な発音でありますがetという発音は生き残っています。
このように知らず知らずのうちにスペリンプロナンシエーションというのは、いろんな単語の中に観察できまして、このままoftenもですね、oftenという風に発音されるようになって、こちらがもし優先になっていくと、いわばスペリンプロナンシエーション、つづり字発音として始まって、それが定着、確立したということになるのかもしれません。
さて、そもそもつづり字発音によってoftenになったというのですが、そのつづり字発音ではない伝統的な発音のoftenというのは、そもそもなんでtで発音しないんだろうかというのが次なる質問です。
歴史的にも昔から今まで、つづり字上は常にtがあったわけなのですから、昔からoftenだったのではないのかという次質問になりますね。
ですが今の標準的なまだマジョリティの発音としては、tがない方の発音oftenなわけですよね。そもそもこのtがないということです。
歴史を振り返ってみますと、この単語の元の形といいますか、これは小英語にあります。実はoftとこの3文字で綴られるoftというのが小英語の単語でした。
これはドイツ語なんかでも今でもありますが、しばしばという意味でoftというような形だったんですね。それがいくつかの理由で、必ずしも明らかになっていないのですが、enという語尾が付加される別の形が現れたんですね。
これがoftenです。つまりoftとoftenというのが同じ意味なんですが、少し形を違えた形、短い形と長い形ということで共存する時代が長かったんです。
現代でもあまり使われませんが、例えばoft-repeated-claimであるとか、よく繰り返されるclaimであるとかoft-quoted-phrase、よく言うみたいな形で複合語の中でoftというのが現れたりしますが、一般的にはこのenを付けた長い方が優先になってきます。
これは近代に入ってからのことでoftenですね。近代に入った時もまだ文字通りにoftenだったと考えられます。ところがこれが18世紀、19世紀くらいになると、このtが抜けた発音というのが一般化していきます。
発音の変化
これはなぜかというとoften、この単語に限らずですね、3シーンが連続するという場合、この単語の場合もft、通常はeがありますが実際は非常に弱く発音されるので次のnがくっついた形になります。つまりftnの場合ftという3シーンが連続するんですね。
英語ではこの3シーンというのはないではないんですが、やはり発音しにくいということもあり、tがくるんですが、この3シーンに並んだときに真ん中にくるtが脱落すると、2シーンに少し発音しやすくなるという現象があります。
これなんですね。often、言えないことはないんですけれども、ドークの場合これが近代にかけてoftenと真ん中のtが消えた形で発音されるようになります。
他の例としては、聞くのlistenがそうですよね。listenと書きますがあれもstnと3シーンが続くので真ん中のtが落ちてlisten。他にはお城castleもcastleと実際には書きますよね。stlです。ですが真ん中のtが消えてcastleということです。
他にoftenにsを頭につけるとsoften、柔らかくする。柔らかいという形容詞はsoft、stですね。ですがenという動詞語尾がつくとftnの3シーンが成立してしまいますので真ん中のtが抜けてsoften。
他にchrist、これはキリストということですが、ここにミサを意味するマス、キリストのミサという意味でマスをつけるとクリスマスというようにtが飛んでしまうというのと原理的には同じです。
このように18世紀19世紀にはこの3シーンの真ん中のtが消えたoftenという発音が一般的になります。そしてそれが20世紀の標準英語にも至るということなんですね。
ところが20世紀も後半に至って先ほどのように発音と通りの間にギャップがあるということに気づき、つまりoftenとtが通りに入っているのに発音上はない。
これはどうしたことかということで通りに合わせて発音を変える。つまりこの場合tを復活させるという形になったわけです。
しかし同じ通り次発音、ギャップがあるからこのtを戻そうという現象だったら他にも単語があるわけです。先ほど言ったリスン、キャッソー、クリスマス。しかしこれではtは戻っていないわけですね。
このようにスペリングプロナンシエーションというのは一貫して働きません。同じような単語が全て起こるかというとそういうわけではなくてどういったoftenという非常に頻度の高い英語ですがこれをある意味ピックアップして発音と通り違うじゃないかということでこの単語においてのみスペリングプロナンシエーションを適用しtを復活させつつあるというのが現状なわけです。
これが一貫していればキャストル、リストン、クリストマスとなるのかもしれませんが決してそうはなっていないというところが言語変化の厄介なところでもありまた非常に面白い部分でもあるということになります。
この話題につきましてはヘログ379それから380をご覧ください。