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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、brunch と Brexit ーかばん語がときめく現代、というタイトルです。
この brunch と Brexit ですね。これはよく知られた英単語であり、日本語にもそのまま入ってきていると思いますけれども、
これは作りとしてはですね、2つの単語を足して2で割ったような作りなんですね。
brunch というのは、breakfast と lunch これを合わせて2で割ったのが、brunch ということです。
それから Brexit というのは、Britain と exit ですね。これで Brexit であるとか、濁らずに Brexit というような発音もありますが、
このようにですね、2つの単語を足し合わせて、そして2で割って1単語であるかのように表現するということですね。
そのまま、例えば breakfast と lunch と言ったり、Britain exit と言えばですね、これは2つの単語をそのままつなぎ合わせただけの、いわば複合語と呼ばれるわけですが、
そうではなくて、あくまで1単語という短い単語の形にですね、凝縮すると。2分の1にするというところにポイントがあります。
これをですね、2つの単語を混成するということで、混成語、blend なんて言うんですが、もう1つ別の名称としてですね、一般的にカバン語なんという呼び名もあるんですね。
これは portmanteau word、portmanteauですね、カバン、2つのものをカバンという1つのものの中にグッと詰め込むという意味なんですけれども、
実はこのカバン語という言い方自体は由来がありまして、これはですね、ルイス・ケロが鏡の国のアリス、そこでですね、アリスとハンプティ・ダンプティが交わしている会話から生まれた造語なんですね。
あるくだりでですね、slivey という単語が出てくるんですね。slivey、こんな単語は英単語としてないわけです。
即席に作った造語なわけなんですけれども、これをハンプティ・ダンプティがですね、解説していくんですね。
slivey っていうのは、ライズという単語とスライミーですね。ライズというのは生き生きとしたとか柔軟なしなやかなということです。
スライミーというのは、ベトベトネトネトしたというスライムっぽいという意味ですね。これでこの2つを合わせて、2で割ってsliveyという単語を用いた。
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これというのは2つのものですね。1つの入れ物の中に、カバンの中にまとめ上げたようなことなので、portmanteau wordと言えるねというような文脈があって、
他にもですね、いくつかのこのそれこそカバン語というのが、このアリスの中で出てくるわけなんですけれども、こんなところからですね、カバン語、portmanteau wordなんて呼ばれることになりました。
専門的言語学的には、混成語と言っています。これ実は非常に多いんですね。
例えばですね、ブランチとブレキシットについてはすでに触れましたけれども、例えばですね、educationとentertainmentというのを合わせてedutainmentと言ってみたり、
エレクトロとexecuteを文字って両方合わせてelectrocuteと言ってみたり、europeとtelevisionでeurovisionと言ったりするタイプですね。
他にはですね、lion tigerでligerと言ってみたり、motor、hotelということでmotelですね、からoxford、cambridge合わせてoxbridgeというのは知られていると思いますし、それからオリンピックとparallel、平行して行われるのがparallel olympicsのカバン語でparalympicsということです。
他にはpodでbroadcastするのがpodcastということになりますし、singapore englishということでsinglishなんていうのもそうですね。
それからまあ典型的なカバン語の例と言われるのがsmogです。これはsmoke、fogでsmogということになりますね。
このような単語ですね、カバン語とか混成語というのは非常に多く存在していまして、今の例をざっと聞いただけでも聞き覚えがあるというものが多いかと思うんですね。
そうすると、こういうカバン語を作るのが英語っていうのは得意なんだという印象を持つかもしれませんが、実はこれ非常に新しい現象なんですね。
英語の歴史を紐解いてみると、このblend、混成語とかportmanteau語、カバン語というものはですね、中世の段階、中英語以前には明らかな例というのがほとんど上がってこないんです。
それらしい例というのはあるんですが、はっきりしたものは実は出てこないですね、いくら調べても。
近代以降にですね、少しずつそれらしいものが現れていきます。
例えばですね、面白いのは、バカな哲学者ということで、fool philosopherというのをもじってphilosopherなんという混成語が作られています。
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これなんか言葉遊びですよね、として少しずつ現れてくるんですね。
それから、アリスのルイス・キャロルも19世紀ですから、このぐらいになるとですね、言葉遊びの一環としてちょこちょこと出てくるわけです。
ところがですね、19世紀までは本当に言葉遊びの息を出ずに、しかも数も限られています。
ところがこの20世紀になって、こうした混成語の生産性が真の意味で爆発したんですね。
政治、文化、科学を含めた社会のあらゆる側面で、こうした足して2である単語が爆発的に生まれてきた。
これなぜかということなんですね。
実はこれは20世紀だけど、21世紀、現代にかけてもどんどん量産されてきています。
つまり英語史上初めてですね、この百数十年で混成語、カバン語というものが一気に増加してきているっていうんですね。
一つの言葉上の流行りといえばそういうことなんですが、じゃあなんでこの時期なんだろうかと、現代なんだろうか。
これはですね、いわゆる情報化社会にあると思うんですね。
つまり2語を合わせて表現、本来するはずのですね、情報量の多い2語分の情報量を持っているものをぐっと包めて、
1語、つまり2分の1の形、容器の中にですね、情報を詰め込むっていうことです。
情報が爆発して情報化社会になるにつれてですね、なるべく短い時間で少ない容器、小さい容器の中に情報量を詰め込むという、ある意味では時短とも関係しますね。
情報化社会っていうのは時短社会でもあります。
このように情報を詰め込むという潮流がですね、社会の他の部分でも見られますけれども、この言葉においても、はっきりとこのカバン語、混成語の増加という形で見えてきている。
つまり社会のありようといいますか、潮流みたいなものが語形成というですね、意外なところに反映されている。
社会を映し出す鏡だということなんですね。
現代の我々にとっては非常に馴染み深いこの混成語、カバン語なわけですけれども、これは本格的に始まった歴史としては、せいぜい百数十年ぐらいしかないということなんですね。
いかにも昔からありそうでありながら、そうではなかった。
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そしてこれはまさに現代のある意味潮流と言いますが、ネガティブに言えばちょっと病理と言いますかね。
現代の何でもかんでも少ないところに情報をひたすら詰め込むというような省略語の傾向、省略語を作る傾向の一環としてですね、この混成という技が使われているということです。
言葉もこういう観点から見ると非常に面白いものに見えてくると思うんですね。
それではまた。