煙の基本的な意味
おはようございます。英語の歴史の研究者、ヘログ英語史ブログの管理者、そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
英語史の面白さを伝え、裾野を広げるべく日々配信しています。 今日は11月2日、水曜日です。いかがお過ごしでしょうか。
英語の語源が身につくラジオheldio。本日は、【smoke】煙はいかにしてタバコの意味を獲得したのかと題してお話しします。どうぞよろしくお願いいたします。
英語にsmokeという単語があります。名詞です。 煙というのが基本的な意味ですね。
そしてさらにタバコ、タバコの一服っていうことですかね。 この意味もあります。
前者、原義の方の意味、煙ですけれども、これは例えば no smoke without fire 火のないところに煙は立たぬ。
一般的な使い方ですよね。煙一般です。 一方、タバコ、タバコの一服という意味で
let's have a smoke とか let's take a smoke といった場合の a smoke っていうのは一服ぐらいの意味ですよね。
現代では普通、タバコのことを言うんだと思うんですけれども、 煙という原義、もともとの意味からタバコ、タバコの一服という意味が派生したということになります。
意味の変化とか意味の派生という言い方が適切かと思うんですけれども、 これは一見するとごくごく普通の、そしてどうしてそうなったのかということがですね、
とてもわかりやすい、想像しやすい例の一つだと思うんですね。 意味変化のプロセスがとても想像しやすいと思います。
煙っていうのは非常に一般的ですね。 火から立ち上るもの、焚き火から例えば立ち上るものもあれば、
サンマを焼いていて立ち上るものもあれば、 煙突から吹いているものもあれば、
タバコの先から出ているあの煙もあるわけですよね。 様々な煙の種類、煙の出方、シチュエーションがあるわけなんですが、
様々ある中で、ある一つの特殊な出方、 タバコの煙ですね。タバコから出るあの煙というふうに、
特定の煙が出るシチュエーションに注目して、 それを新たなスモークの意味に使う。
いわば意味の特殊化っていうようなものですね。 広く煙一般だったものが、そしてこの一般的な意味も残ってはいますけれども、
特定の出し方、タバコの先から出る煙っていうことですね。 これを指してスモークという新しい意味を作り上げる。
派生させるということで、一般には意味の特殊化という言い方をしますね。 別の観点から見ますと、煙と喫煙、
タバコの一服、この関係はというとメトニミということもできます。 タバコの一服という行為が
発端となって、いわば原因となって煙が出るという結果がもたらされる。 因果関係ということですね。この観点から言えば、
派生した意味、原理から派生したタバコの一服という意味は、 メトニミというプロセスによって生み出された新しい意味なんだと、そのように説明することもできると思うんですね。
ここまでは非常に絶やすいと思うんです。 なぜ煙からタバコの一服の意味が生まれたかっていうのは、
さほど大きな想像力を必要としない、非常にストレートな感じで捉えられるのではないかと思うんですね。
スモークの語源と意味の変化
ところがです。今日の話の本番なんですけれども、 ヘンリー・ブラッドリーという非常に有名な英語誌の研究者、OEDの編集長の一人でもあったんですけれども、
100年以上前の人ですけれどもね、英語誌の名著を書いてるんです。 The Making of English という本なんですが、その中でですね、このスモークの事例を取り上げて面白いこと言ってるんですね。
スモークの語源と、それから意味の構成の発達ですね。 これについて述べている箇所なんですけれども、少し私の方で解説を補いながら、
ブラッドリーの趣旨を紹介したいと思うんですけれども、 もともとスモークという単語ですね、名詞、煙を意味するんですが、
これに動詞語尾をつけることで、動詞、スモークが生まれます。 煙を吹くとか煙を吐くというのが原理ですね。
煙から動詞語尾をつけて、動詞化したわけです。 煙を吹くとか煙を吐くということですね。
もともとですから、スモークという名詞自体とは違う形なんです。 後ろに少し語尾がつきますんで、動詞用の。
ただ、この動詞用の語尾が結局なくなってしまってですね、徐々に音が弱くなり消えてしまったので、 今では名詞と動詞が同じ形になっています。
ですが、派生関係としては、まず名詞スモークっていうのがあって、 それを動詞化することで、煙を吐く、吹くという意味が出たっていうことですね。
この名詞と動詞は原義の形で、声語から確認されます。 非常に古い単語だっていうことですね、両方とも。
さて、時代が下りまして17世紀のことです。 パイプやシガーやタバコというものが伝わります。
当然、煙を出すものですので、 煙を出す、煙を吐くという、小英語時代からあったスモークの意味っていうのはこれ活かせますよね。
ということで、スモークアパイプとかスモークアシガー、スモークアシガレットのような言い方が出るっていうのは非常に自然ですね。
そして、吸うものがパイプであるとかタバコということが当然視されるようになると、この目的語の部分も省略するわけですよ。
なので、I smokeといえば、私はタバコを吸いますって意味になるわけですね。 私は煙を吐きますという辞儀どおりの、あるいは原義の意味というよりはですね、タバコを使って煙を吐くぐらいの意味です。
すなわち、タバコを吸うということですね。 喫煙するという意味ができるわけです。つまり、動詞スモークはもともと煙を吐くだったわけですが、これがタバコを吸うという意味に変わったと言いますか、派生的に意味を追加したわけです。
そして、このI smokeみたいな言い方ですね。タバコを吸うという意味でのI smokeみたいな動詞の用法が当たり前になってくると、改めてこのスモークという動詞が品質転換を起こして名詞として使われるようになった。
ブラッドリー自身も編集長を務めたOEDによりますと、それぞれ名詞、動詞、そして派生儀ですね。この辺りの年代を比べてみますと、動詞、タバコを吸う、喫煙するという意味が先ほど述べたように17世紀に出るんですね。17世紀前半です。
そしてタバコ的な意味もほぼ同時期に出るんですが、一般的に使われるようになった。特にHave a smokeのような形で、いわゆるタバコの一服を意味するようになったのは、ずっと遅く19世紀に入ってからなんですね。
少なくとも、よく使われるようになった。定着感のある感じでタバコあるいはタバコの一服という意味で使われるようになったのは、動詞よりもずっと遅いっていうことです。今日何の話をしているかと言いますと、
名詞と動詞の関係
名詞smoke、煙を原義として持つ名詞smokeが、いかにしてタバコあるいはタバコの一服の意味を獲得したのかということなんですけれども、ストレートに考えれば、想像すれば、煙とタバコの関係って非常に近いので、先ほどもメトニミと言いましたので、名詞内部で
煙の意味が少し派生して、転移ですね。転移して直接タバコになったと考えるのが最もたやすい。これが起こったのが17世紀くらい。タバコが流行り始めた17世紀くらいと考えるのが最もストレートで苦労はないわけですが、実はそうじゃない可能性が高い。どういうことかというと、
煙からまず煙を吐くという動詞が生まれた。これは小英語とか小英語より以前の話ですけれどもね。順番で言うとこういうことになります。そして煙を吐くからしばらくして17世紀になって、タバコを吸う。タバコによって煙を吐くっていうことですね。
なので、喫煙するという意味に動詞側で転移して派生的な意味が生まれたと。そして派生し終わった、喫煙するという意味の動詞ですね。これが品詞転換によって名詞となり、タバコ、タバコの一服という意味になって名詞に帰ってきたということです。
つまりストレートに煙からタバコが生まれたのではなくて、煙、煙を吐く、タバコによって煙を吐く、そこから名詞に戻って一服という意味になったんだということですね。
正方形ABCDを考えて、AからBに直接行ったのかなと思いきや、ADCBだったという流れですね。
歴史は見方を変えます。エンディングです。今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。今日の話は一つの教訓と言いますかね。与えてくれると思うんですよね。
非常にストレートに説明できそうな現象、AからBが生まれたんだのように見える場合でも、実際の歴史をたどると直接ではなく間接的に遠回りをしながら、AからBにたどり着いている可能性があるってことです。
表面的に見えることがですね、その通りのこともあるかもしれませんが、調べてみるとそうではなかったということが、どんな現象にもですね、あり得るっていうことです。
そのためには、異なる角度から、今回の場合、歴史的な角度から見ることによって、気づくことができたということにもなりますし、名詞内部での話と考えてしまうと、頭がこり固まってですね、考えてしまうと、どうしても解けないものが、
動詞と名詞と動詞の間の品詞転換という現象、この辺りを合わせるとですね、分かってくる。真実が分かってくるというような、そんな例でもあると思うんですね。語の変化のみならず、あらゆるものの変化に、もしかしたらこのような遠回りの経路があって、今のかもしれないな、ストレートじゃないのかもしれないな、ということですね。
可能性として、選択肢として考えてみる。これが大事なんではないかと思います。
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それでは、今日も良い1日になりますように。ほったりうちがお届けしました。また明日。