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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。 このチャンネルでは英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する
素朴な疑問に英語史の観点からお答えしていきます。 毎朝6時更新です。ぜひフォローして新しい英語の見方を養っていただければと思います。
shallとwillの使用法
今回取り上げる素朴な疑問は、shallとwillの使い分け規則はいつからあるの? というものです。
この法常動詞、典型的に未来を表す、意思未来であるとか単純未来を表す 法常動詞ですね。shall、will。これ非常に使い方が似ていて両方とも省略すると
アポストロフィー、LLとなって、I'll、you'll、he'll、she'llのように両方ともLLになってしまうので、結局使い分けというのはですね、省略形の場合
なくなるという形状は区別がつかなくなるということもありますし、 そもそもshallっていうのはですね、アメリカ英語ではもうほとんど使われなくなってきていますし、
イギリス英語でも硬い。 古くて硬いと言いますか、フォーマルな
文脈で表れるということで、一般的にはwillを使うことも多いということなんですね。 つまり全体としてshallというものは、この法常動詞は英語の中でどんどん頻度が少なくなってきていてですね、
固定的なフレーズであるとか、いわゆるshall Iであるとか、shall weであるとか、 固定的にフレーズとして固まっているものに関しては残っているんですが、一般に未来を表すのに
shallを使うということは、英語では全体的に少なくなってきている、 衰退してきているということなんですね。
ただそれでもですね、伝統的な英文法ではこのshallとwillというのは、 きっちり使い分けましょうねというふうに、
基本的にですね、習うことが多い。 一昔前にはですね、受験英語であるとか、その受験英文法の中で必須項目とされていたくらいなんですけれども、
じゃあどういう使い分けがあるのか、 おさらいしておきたいと思います。
一般的にこのshallとwillの違いが濃厚に出るのはですね、 2人称あるいは3人称が主語となった場合というふうによく言われます。
主語が1人称の場合にはですね、それほどshall willの違いというのが出ないんですね。 例えば、
I shall be sick if I eat any more. これ以上食べたら気分が悪くなります。という時、今これは単純未来ということなんですね。
これをwillで言い換えたところで、意味はほとんど変わりません。 I will be sick if I eat any more.
ということですし、実際の会話なんかではですね、ここは省略形になりますので、 I'll be sick if I eat any more.
ということですね。あまり違いがないですね。 willだろうがshallだろうが違いがないということになる。
それから意思未来ですね。何するつもりや何しようという強めの意思ですね。 これを表す用法というのがこのshall willにはありますが、これも1人称の時はそれほど違いが出ません。
I shall work hard tomorrow. I will work hard tomorrow.
それほど違いはありませんね。 問題は2人称が主語の場合、uです。それから3人称が主語の場合に
shallとwillでだいぶ意味が変わってくるって言うんですね。 shallの場合は話者の意思がこもるって言うんですね。
主語はuだったりhe, she, it, theyだったりするわけなんですけれども、あくまで話しているiですよね。話している話者の意思がこもって、例えばあなたが何するだろう、彼が何になるだろうみたいな形なんですね。
では例文をあげてみましょう。まず2人称、uが主語の場合ですね。
You shall have a new bicycle for your birthday. 誕生日に新しい自転車をあなたは持つことになるだろうというのが表現されているんですが、ここに私、話し手であるiの意思がこもっています。
私の意思によってあなたは誕生日に新しい自転車を持つことになるだろう。 簡単に言えば誕生日になったら私があなたに新しい自転車をあげますよ、買ってあげますよというような
言い方に近くなるということですね。 では3人称が主語の場合の例ですけれども、No one shall stop me.
これ誰も私を止めないだろう という意味のように見えますが、あくまで
私の意思によってということです。つまり誰にも私を止めさせないぞという意味になります。
それからThe truth shall be told tonight. 今晩真実が明らかになるでしょう。
私の意思によってということです。つまり真実は今夜お話しします。 そういう意味になるわけですよね。
非常によくあるこの例文、このshallとwillの違いが際立つ例文というのがありまして、これはyou will dieというのとyou shall dieということですね。
You will dieというのは単純未来ということであなたは死ぬでしょうということになりますが、
You shall dieとなると私の意思がこもってあなたが死ぬということになりますので、簡単に言うとですね
私の力によってあなたは死ぬぞと、つまりI'll kill youに近い意味になるということですね。
三人称死後の場合も一緒です。He will dieであれば、例えば病気の中で近いうちに亡くなってしまうだろうという単純未来。
これはwillの場合なんですが、He shall dieといえば私の意思によって彼は死ぬだろう。
つまりI'll kill himにかなり近い意味になってくるということで、だいぶこのあたり差が出てしまうということですね。
こんな典型的な違いがあるということで、伝統的な規範文法ではshallとwill、この使い分けをきっちりしましょうというふうに言われてきました。
ウォリスの文法書
さて、このルールなんですけれども、いったいいつからあるのかということなんですね。
これは英語誌の世界ではそこそこ知られていまして、The Wallace Rulesというふうに呼ばれています。
Wallaceの規則、shallとwillの使い分けに関する規則ですね。
これをThe Wallace Rulesと呼んでいます。
このWallaceというのは誰なのかというと、この人は17世紀の規範文法家、ジョン・ウォリスという人なんですね。
このウォリスが1653年に英文法書を表しました。
当時の本というのは英文法書でありながら、字の文はラテン語で書いてあります。
ラテン語で説明されている英文法の本なんですね。
これのザラでした、17世紀あたりではですね。
そのタイトルはGrammatica Linguae Anglicanaeという、当然これ自体がラテン語のタイトルなんですけれども、英語の文法というズバリのタイトルではありますが、
この中でですね、このウォリスが定式化した、そして現代に至るまで影響力を保ち続けているこのルールが定式化されたのが、このウォリスの文法書の中でだったということなんですね。
その中で、先ほどのyou will dieとyou shall dieの違い、これ非常に対照的に違いが浮き彫りになると言いましたが、
そういった形でですね、非常に表の形でまとめられるぐらいに対照的にshallとwillの違いというのが解かれているんですね。
このウォリスの文法書の中でですね、これがあまりに対照的なので、鏡写しのような用法の違いなのでやや人工的な嫌いがある、匂いがするということなんですね。
ウォリスの背景と影響
合理的すぎると言いますか、理屈っぽすぎると言いますかね。
ただ当時はですね、17世紀後半から18世紀にかけては理性の時代と言われるぐらいですね、世の中が理屈、理性というものでいろんなものを統制しようという風潮があったということはまず拝見にありますし、
そもそもこのウォリスという人物はですね、文法家などではなくて本来はですね、本来は数学者なんです。
ニュートン以前のイギリス最大の数学者と言ってもいいですね。
実はあの無限記号ってありますよね。8の文字を90度寝かせたやつです。
あれを考案したのがこのウォリスなんです。
それとか二項定理とか微分積分の基礎を築いたという功績もありますが、このような人がですね、本来の数学者がその数学的な原理って言いますか、理性を言葉にも当てはめようとした結果ですね。
このシャールウィルの違いなんかにもこれを、それをその発想を適用したっていうことになります。
結果的にですね、これが影響力を得て、規範文法家たちの間で受け継がれていったっていうことなんですね。
ただもちろん、規範はあくまで規範です。みんながそれを守ってるかどうかっていうのはまた別問題。
実際、現代ではシャルが衰退しているなというのは先ほど述べた通りです。
ではまた。