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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしてきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回の話題は、母音 i は小さくて近くて親しい印象、というものです。
普通ですね、言語音、それ自体には意味がないわけですね。ただの音です。
これが組み合わさって単語を作り、それが意味を持つということなので、母音であるとか子音のこの単体自体は何か意味を持つわけではありません。ただの音です。
しかし、音というのは聴覚印象というのがありますね。聞いたときの印象というのがありますので、これが意味とは言わないんだけれども、ある印象を喚起するという、そういった働きはありそうなんですね。
これをフォネフィジア、音感覚性なんて言ったりしますね。
例えば母音で言うと、この i ですね。これ究極の i という鋭い発音をすると、わかると思うんですが、口が平たくなりますよね。
i、i、i、鏡の前で発音してみるとわかると思うんですね。これ音声学的に言うと、一番前よりの、そして一番高い母音、高い位置にある母音というふうに言われてるんですね。
i、i、かなり極端な音なんです。これに対して、例えば a とか a とか o とか u というのは、もっと口の後ろより、あるいは下より低い位置で発音されるということなんですね。
話を単純化するために、この i とそれ以外の音というふうに大きく2種類分けますと、この i の音は小さいという印象を喚起するんですね。
小さいってことは、距離が小さい、物理的距離が小さいって意味で近いとも関係します。さらに、これ心理的な距離で考えると、小さい、近いということは、親しい、親しみやすいということになります。
こうしたある種の緩い音感覚性、i と聞くと、これは小さいものだ、近いものだ、親しいものだというニュアンスがあるということなんですね。
これは、ある程度文化差があるものなのか、それともかなりユニバーサルなのかということなんですが、どうやらかなり多くの言語に見られることから、ユニバーサルに近いものではないかというふうに考えられています。
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この音感覚性に迫ってみたいと思うんですね。英語からの例をいくつか挙げたいと思いますが、近い遠いという対立関係で見てみますと、例えば一人称単数、私ですから、これ当然自分に最も近いということですね。
これ、みですね。それに対して、あなたは遠い存在、私に比較してということですが、なので、ゆうとうという語韻を使っているわけですね。つまり、い対うの対立ということです。み、ゆうということですね。
だから、複数形になっても一緒で、ういに対して、同じですが、ゆう、複数形のゆうというふうに、い、ううという対立がありますよね。
じゃあ、近いということですと、本当に物理的にここ、あそこという言い方をすると、これ、here and thereですよね。英語hereにはひいの音が含まれていますね。
これに対して、thereというのは、え、え、えという音です。いに比べれば、えというのは少し遠いということになるわけですね。
それから、物を指すときに、これ、あれ、もちろんこれは、this and thatですよね。this、これ、いの音が入っています。
それに対して、that、えの音は、いに比べれば近くないということになりますね。複数形も一緒です。these and those。theseというのは、いの音が含まれています。それに対して、thoseということですよね。
他に、一般の単語から挙げますと、a little bitってありますよね。これ非常に小さいことですが、littleのりもそうですし、bit、これもいですよね。
それに対してlarge and hugeというときには、aとかuという語引が出てきますね。もちろんこのように並べるとシステマティックに見えるんですが、いくらでも例外はあります。
大きいといったらbigってあるわけですよね。これ、iが入っているけれども、大きい。都合悪いじゃないかということになって、一つ一つ指摘していけば、いくらでも例外があるものではあります。
なので、絶対的な規則というよりは、あくまで音感覚性、感覚として、iには小ささであるとか、近さ、親しみやすさということを喚起する傾向があるということです。
関連して面白い別の例は、動詞の不規則変化ですね。現在形、現形と過去形で母音が変わる一群の、いわゆる不規則動詞と呼ばれているものがありますよね。
これ、現在形は傾向として、iの音を含む比較的小さい、近い、親しいといった印象を喚起しやすい、必ずしもiそれ自体ではないんですが、前寄りの母音という言い方をするんですよね。音声学的には。前寄りの母音と相性がいい。
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一方、過去形というのは、今から時間的な距離で隔たったのは過去ですから、過去形にはむしろ遠いとか、大きいとか、距離があるということを印象付ける。
そうした後ろ寄りの母音、OとかAとかですね。こういうのが割と集まっているんです。実際見てみますと、write and wrote、書くですね。bind and bound、bear and boar, tread and trod, shake and shookということです。
この現在形のwrite、bind、bear、trod、shakeと今、5つ挙げました。最初の2つ、writeとbindに対しては、綴り字を思い浮かべてほしいんですね。iで書かれてますよね。
これは綴り字通りに昔は発音されていたので、リーテだったし、ビーンドだったんですね。明らかにiの音だったんです。今回問題にしている。
それが音の変化によって変わってしまって、今となってはiという二重母音ですね。writeとbindとなっていますが、もともとはeだったということを念頭に置いておいてください。
そうしますと現在形の系列は、やはりiとかaとなることが多いんですね。それに対して過酷形はoとかuあたりがよく出てくるということですね。
boundに関してはboundと書いてboundなんですが、これも古い英語に遡るとboondという形でした。
つまりbindboundは昔はbindboondという風に、i、uの綺麗な対立だったということになります。
他にはthink、thoughtというのもそうですね。thinkというのはiが入っています。それからthoughtというのはoと後ろ寄りということで、近い遠い現在過去という対立になります。
それからcanなんてもそうですね。これaという音ですが前寄りなので比較的近い方です。それに対して過酷形はcouldという後ろ寄りの母音を使っています。
これに関してちょっと面白いアメリカの子ども向けの話がありまして、小さい蒸気機関車ですね。これが一生懸命山を登ろうとしているんですね。
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最初は元気なので、i think i can、i think i canというように前寄りの母音、ちょっと元気でちょこちょこ動く小さい蒸気機関車というイメージですね。
しかも今できそうな気がすると希望があるわけですよね。ところが坂がきつくなってくるとですね、だんだん登れなくなってきた。
で、ぜいぜいしながらi thought i could、i thought i couldという。これ、i thought i could、過酷形になっていますし、この重々しい雰囲気っていうのが疲れ果てた雰囲気っていうのが伝わってくるわけですね。
i thought i could、i thought i couldということになります。
このようなフォネスティージャ、音感覚性というのは、いろんな言語に見られるわけですが、今回は英語から話題を提供しました。
それではまた。