00:02
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしてきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、今はなき古英語の接頭辞 ge- の化石的生き残り、という話題です。
この接頭辞 ge というふうに綴ったんですけれども、これは ge ではなく、古英語では ge と呼んだんですね。
この接頭辞がやたらといろんな単語についたんです、古英語では。 動詞とか名詞とか形容詞なんかにもですね。
大した意味はない。一応もともとは強めぐらいの意味はあったんでしょうけれども、ほとんど意味はないといってよくてですね。
この ge の後に来るこのほにゃらら。ほにゃらら単体で使われることもあるし、この ge がついて ge ほにゃららみたいに使われることもあって、
この2つが多少なりとも区別される時もあれば、ほとんど区別がないという場合もあって、いわば死にかけていた接頭辞 ge ですね。
存在意義がほとんどないというか弱まっていた ge っていうのがあるんですね。
あまりに ge で始まる単語が多いので、古英語の辞書なんかですとですね、これ ge のところに、
ge の後にこれを置こうとすると、もうそれだけでものすごい量になってしまって、とっても使いにくい辞書ですね。
なってしまうので、これは ge をカッコに入れて、家がないバージョンでの最初のイニシャルで辞書を引きなさいというような、
そういう辞書が多いくらい。それくらい ge っていうのが非常に多くあるんですね。
これ現代のドイツ語を勉強している人は、ドイツ語も英語も同じゲルマン系の言語ですが、現代ドイツ語でも、
これ ge と続いて今度は ge とちゃんと読むんですが、これは非常に多いですよね。
動詞にもやはり名詞にもつくっていうことで、これは古来のゲルマン語の ge っていうのをしっかりと保っている言語ということになります。
ドイツ語ね。ところが古英語では、まずこの ge というもともとの音が弱まって、
これは柔らかい音になるということで、難音化するという言い方をするんですけども、難音化して ge が ye になっていくんですね。
難音化ってのは弱化、弱まるってことです。簡単に言うと。
古英語ぐらいまでには ye という形でしっかりあったんですが、次の中英語ぐらいになりますと、もともと弱まった形で ye になったわけですから、さらに弱まってですね、
ye, ye, ye とか ye, ye, ye というぐらいの音になってしまいます。
そしてさらにそれが弱まって、現代までに大抵消えてしまいました。
03:02
つまり、ドイツ語にはきっちり残っているタイプの ge という窃盗字が、古英語ぐらいから弱まって、中英語ではさらに弱まって、消える方向でいくと。
近代語にはもう完全にゼロになってしまったということで、現代はこのもともとの ge に相当する部分がほとんど残っていない、すべて消えてしまったといっていいんですね。
近現代語ではそんな状況になって、ge とか ye というのは全く姿を表さないってことになっているわけなんですけれども、
古英語、それからまだ中英語ぐらいまでもですね、本当によく現れてたんです。
特に一番よく現れるのは何かというと、動詞の過去分詞なんです。
現在でもドイツ語ではですね、動詞の過去分詞には基本的に ge という窃盗字がつくってことになっています。
つまり過去分詞の時は ge をつけましょうねという一つの規則ということでしょっちゅう現れるわけですね。
これは古英語でも一緒でして、ge では夫としては ye という形になっていましたが、非常によく出たんです。
過去分詞には ye をつけましょうねということだったんですね。これはまるでドイツ語と一緒です。同じゲルマン語の一つの規則だったということです。
ですから、受け身であるとか官僚権に相当するような、とにかく過去分詞が現れる文脈ではよくこの ye っていうのが現れて、存在感はそれなりにあったわけですね。
それも中英語以降にかけてはだんだん弱まって ge, ye, i になり、そして最後には無音、ゼロの音になってしまったということで、ほとんど残っていないということなんですけれども、
ただ、稀にその痕跡、もともと ge とか ye だったもの、中英語では i になったものの、痕跡が仮跡的に残っているような語形っていうのもいくつかあります。
例えば、綴り字が違ってしまっているので、今となってはほとんど意識しませんが、例えば enough っていう時の i, 最初の誤答の i ですね。これは実はそれなんです。
つまり、後英語では ye know といった ye に相当するあの窃盗字だったんですね。
で、音として随分弱まって薄められて、今では i, i ですよね。 enough の i なんですが、ギリギリ現代まで生き延びてきた一例であるということになります。
他にはですね、例えば afford, alike, aware っていう時の、この頭の a ってありますよね。
これまぁ窃盗字っぽい感じはしますけれども、じゃあもともと何だったかというと、これが後英語の窃盗字 ye なんです。
この afford, alike, aware それぞれ a で綴って、発音としては u, u, u という曖昧母音に過ぎませんが、
06:08
もともとの後英語系はですね、それぞれ afford は yefordian という単語が元にありました。
から alike なんかも ye reach なんていう、だいぶ違った発音がありました。
から aware なんかも yewear なんていう風に、この ye で綴る ye があったということになりますね。
なので、かつての ge とか ye に相当する、ゲルマン語由来の窃盗字が非常に薄められた形でギリギリ残っている化石的な例と言っていいと思うんですね。
さらにこの後英語の ye の化石度がもっと強い単語が一つあります。
これはもう今でもですね、古語と言っていいですね。普通使われない e です。
eclept という単語があるんですね。これ非常に面白いことに y で始まるんです。
eclept の e ですね。 y, c, l, e, p, t これで eclept って言うんですね。
y で始まる単語というのは英語ではですね、そんなに多くないです。
野妖詩音ということで言うと、いくらでもあるといえばあるんですけれども、これが e と読まれて始まる単語っていうのはほとんどないと思うんですね。
これが実は英語本来語であって、伝統的なある動詞の過去分詞なんですね。
ye が弱まって y となって、つづり字上はこれがですね、 wine となっている。
eclept っていうのは何かというと cleep っていう単語です。
c, l, e, p, e ですかね。これ自体もまあ古いです。呼ぶ、call ぐらいの意味です。
なので cleep これの過去分詞で clept
keep, kept, kept なんかと一緒ですね。 cleep, clept, clept
ただし、この3つ目の clept 過去分詞の clept にはもともとは ge のあの接頭字がついたはずなので、これが eclept の e に相当するということです。
で例えば、a giant eclept barbarossa
barbarossa 赤ひげですね。赤ひげと呼ばれる巨人みたいな意味です。つまり a giant called barbarossa のような意味で、この eclept っていうのが
古語的ではありますが、今でも大きい辞書を引けば載っています。
もう一個ですね、同じぐらい古語でほとんど使われませんが y, c, l, a, d, eclad っていう単語もあります。
y で始まって clad ですね。eclad これは clothes
衣服を着させるということです。この過去分詞としての eclad
09:03
今で言えば clothes とか dressed という単語に相当するわけですが意味的には、これが eclad なんて単語がありますね。
この y で始まった過去分詞としては eclept, eclad がギリギリ大きい時点に今でも古語として載っているぐらいで、これ以外はもうまずないと言っていいですね。
ですがこれは、古英語の時代で言いますと ge と綴られて非常に普通に当たり前に、今のドイツ語の過去分詞に現れる ge と同じぐらい普通に現れた
接頭時の慣れの果てということになります。非常に例としては少ないわけですけれども、残っているものについては大切にしていきたいなと思う次第ですね。
それではまた。