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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
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veryの基本概念
今回取り上げる話題は、脅威語veryです。
veryはフランス語から借りてきた形容詞だった、という話題です。
veryという単語は、とても、非常にを意味する、最も普通の脅威語、意味を強調する単語だと思うんですね。
実際ですね、ブリティッシュナショナルコーパスで頻度を探ってみたところですね、すべての英単語中、86位の頻度ということで、極めて日常的、頻度の高い単語ということがわかります。
そして英語にはですね、様々な脅威語があります。
terribly, badly, really, completely, perfectly、等々を無数に挙げることができますが、その中でも一番普通の、むしろ不透明と言いますかね、そして頻度が高いものがこのveryであるということは、これはもう誰も疑わないと思うんですね。
脅威語の絶対王者というべき存在なわけですが、これはでは昔からそうだったのかというと、そうでもないんですね。
このveryが脅威の副詞として本格的に使われ出したのは15世紀以降なんですね。
それ以降は確かに王者だったわけなんですが、この中英語期に遡ればですね、他の脅威語の方が優勢だったということになるんですね。
例えばfoolとかですね、rightだとかmuchだとかwellだとか、いろいろあったわけです。当時からいろいろあったんですが、veryというのはあまり目立たなかったんですね。
それがどういうわけでですね、そもそも英語の中でブレイクしたかということなんですけれども、そもそもがこの単語は英単語ではないということなんですね。
フランス語から借りてきた単語です。フランス語を知っている人はですね、これvraiという単語が今でもありますね。v-r-a-iと続いてvraiというふうに読むわけですね。
これフランス語ではとてもという意味ではなくて、真実の本当のという形容詞なんです。
つまり副詞ですらなくてですね、そもそもがtrueぐらいの意味をする形容詞である。本当の、真実のということですね。
このフランス語vraiの中世での語形がvraiという感じだったんですね。vraiとかこんな形だったんですね。
これが13世紀後半に英語に入っていきます。vraiという形で。
当然入ってきた時の意味はフランス語の意味ですから形容詞で本当の、真実のというつまりtrueぐらいの意味でvraiが入ってきたわけです。
実際この形容詞としてのですね、真の、本当のという意味は今でも残ってはいます。
例えばin very truth、in truthを強めてですね。in very truth、本当の本当にという感じですね。
それからvery god of very god、真ことの神よりの真ことの神という風に訳していますが、真ことの本当のという原理が残っているフレーズですね。
veryの歴史的変遷
他にはですね、まさにそのっていう意味で使うことがありますね。
例えばthe very hat she wanted to get、彼女が手に入れたかったまさにその帽子という言い方ですね。
それからat the very bottom of the lake、湖の底でというこの底、まさにその底でという感じですね。
do your very bestみたいな言い方ですね。
ではもともと形容詞として入ってきたこのフランス語の単語ですね。
フランス語では今だって形容詞になるわけですから、これが英語に入ってきてどうして副詞の意味を発達させたのか。
ここが面白いところなんですけれども。
こういう風に考えられています。
例えばですね、he is a very gentlemanという文を考えてみましょう。
この時、本来はveryというのは真のということですから、gentlemanという名詞にかかっていて、真のgentlemanだと、真の紳士だという意味になりますが、
これを聞き手がですね、very gentle manという風に解釈したらどうなるでしょうか。
つまりgentlemanという1語ではなくて、gentlemanという2語からなるくと考えてですね、veryはgentleにかかっているんだと。
そうすると、とても紳士的な人ですということになりますね。
つまり、he is a very gentlemanなのか、he is a very gentle manなのかという、ちょっとした意味の切れ目、統合分析の切れ目の違いによって、
真のという形容詞だったものがですね、一種の切り間違いによって、veryを副詞として解釈するようになったのではないかということなんですね。
こうした曖昧な用例がですね、中英語期に現れるわけですね。
また他には形容詞がそのままですね、名詞としても使われるという単語が、今以上に中英語の時期にはあったんですね。
例えばrepentant、これ後悔しているという形容詞でもありますし、後悔している人という名詞でもあります。
ここにveryがついたら、very repentantがあった場合ですね。
とても後悔しているという全体としては形容詞の意味なのか、あるいは真の後悔者というような名詞句なのかがですね、見分けが怪しいという例もいろいろ出てくるわけですね。
このような両方に読めるような文脈ですね。
この辺りがいわばきっかけとなって、もともとの真の本当のという意味の形容詞から真に本当に、結局はですね、強調の意味でとても非常にという一般的な教義語の副詞に変わっていったのではないかと考えられています。
この英語に入ってきてからの形容詞から副詞になるという変化ですね。
これ意外と早かったようで、veryが形容詞としてですね、フランス語のそのままの意味で入ってきたのが13世紀後半と言いましたが、副詞としての意味もですね、14世紀前半には現れていますので、比較的この変化は早かったと考えることができるのではないかと思います。
関連して語形についても一言述べておきますと、もともとのフランス語ではveryというような発音だったと思われるんですね。
第2音節にアクセントです。その結果、現代でもですね、veryという形で後ろにアクセントということになっていますが、当時でもフランス語ではveryという形だった。
そして英語に入ってきた当初は、だいたいですね、フランス語のアクセントのままでveryと読まれていたと想像されるんですが、かなり早い時期にアクセントが第1音節に移ったと思われるわけですね。very、very、そして今のveryということですね。
英語への同化が早かったタイプの釈用語なんではないかと思われるんですね。
それと意味がですね、本来のフランス語の形容詞だけではなくて、副詞の意味も獲得したということと、この英語への同化が早かったことと関係しているようにも思われます。
このように14世紀前半から副詞の意味は見られるんですが、これが強調語、脅威語として本格的に今風に用いられ始めたのは15世紀以降ということで、それ以降、近代英語記、そして現代英語記にはですね、脅威語の王者と呼ばれるほどの頻度になっていったということなんですね。
なぜ他の様々にあった脅威語を追い落としてまでですね、このveryが王者になったかというところについては、実は詳しいことはよく分かりません。
脅威語というのは面白い語類で、使われ続けるうちにですね、脅威が感じられなくなるので、新しい本当に効き目のある脅威語というのを新たに投入する、新しい脅威語がどんどん出続けるというサイクルが多いんですね。
結果として、一つ一つの生まれてきた脅威語の寿命というのは、短いことも多いんですね。
その中でveryというのは15世紀くらいから一気に拡大したとしてもですね、ざっと5、600年王座を守り続けているというのは、なかなか珍しくて興味深いことのように思われます。
なぜなんでしょうね、皆さんも考えていただければと思います。
それではまた。