00:03
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶應義塾大学の堀田隆一です。 このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる素朴な疑問は、
cats and dogsの表現の紹介
cats and dogs はなぜこの順番? という素朴な疑問です。
日本語では犬猫っていうことが多いと思うんですね。 ところが英語では cats and dogs という順番。猫と犬という順番になっている。
で、これまあどちらでも良いと言えば良い。 どちらでも意味は通じる。同じような意味になるわけですが、なぜこの順番なんだろうという疑問ですね。
この cats and dogs を使った表現というのは英語にいくつかありまして、例えば they fight like cats and dogs のように、喧嘩する時にも激しくっていうイメージですね。
they fight like cats and dogs であるとか、to lead a cat and dog life なんていうと喧嘩ばかりの生活を送るという表現もありますね。
それからこれは有名だと思うんですが、いわゆる土砂降りで雨が降るという時、 it's raining cats and dogs という、いわば喧嘩のような激しさですね。
これを喚起させるということで、it's raining cats and dogs ということで、土砂降りが降るという表現がありますね。
いずれも cats and dogs となっている。この順番になっているということですね。
このように対になりやすいペアってのがありますね。 A and B とか A or B とか、あるいは接続しなく A B というように2つの項目が並べられるっていうケースがあります。
これをニコイディオムって言っていますね。ニコからなるイディオムっていうことで、 バイノミアルというふうに英語では言いますけれども、このバイノミアル、ニコイディオム、英語には非常にたくさんあります。
この要素の順番、項目の順番を考えてみますと、 多かたですね、傾向はあるんですね。
一般的に言いますと、2つ並ぶ場合にですね、 最初のもの、これは音節的に軽いものがきます。
何をもって音節が軽いとか重いっていうのかっていうのは、後でまた例を述べていきますが、 最初に音節の軽いものが来て、そして後の方に音節の重いものが来る。
つまり音としてあるいはリズムとして、軽いものが先で、重いもので最後に締めるというような、こういう順番がかなり多いんですね。
必ずしもっていうことではないんですけれども、一つの有力な傾向としては認めることができるんですね。
具体的に言いますと、音ですね、特に母音で言いますと、高母音から低母音へという順調になります。
高母音っていうのは、イとかウですね。これは比較的軽いっていう風に見なされる音ですね。
それに対して低母音っていうのは、アーとかオーとか、そして重々しい響きもありますよね。
だから重い母音と見なされやすいので、つまり2つの要素を並べるときにですね、その2つにそれぞれに含まれている母音が軽いものが先に来て、重いものが後に来るということが多いですね。
例えばですね、この2つの要素を直接繋いだANDを入れずに直接繋いだような表現がたくさんありますが、
例えば、フリンフラム、ティックトック、リックラック、シェリーシェリー、ミッシュメッシュ、フィドルサドル、リーフラフ、シーソー、ニックネックのような例ですね。
他にも、チュッチャット、キッキャット、ピンポン、シップシェイプ、ゼグゼグ、ディンドン、ティックテックのような例です。
第一要素に典型的にイのような軽い響きのする母音ですね。これが来て、後の方にオとかエという比較的相対的にということですが、重い母音が来ることが多い。
この方が英語のリズムに乗りやすいということでもあるんですね。
そして、このような一般的な傾向は、詩音についても考えることができるんですが、今回は母音に限って考えたいと思うんですね。
それでは、今回の問題であるCats and Dogsについて考えたいと思います。
Catsの母音ってのは、え、え、えですね。
比較的低めの母音、真ん中よりはちょっと低い位置にありますので、そこそこ重いということですね。
一方、Dogs、これのドーグ、オーという音、これも低いですね。
どっちがより低いかっていうことになるとですね、微妙な問題なんですが、ほぼ違いはないというふうに考えられますね。
なので、これによって、この音の母音の違いとか低さによってこの順番が選ばれているかというと、なかなかこれ説明が難しいということになってしまうんですね。
では、他に音声的な要素を考えられることはあるかというとですね、長さ、母音の長さみたいなことなんですが、Cats and Dogsというように短い、長いという順番になっているようにも見えます。
その場合、軽いものから重いものへ、小さいものから大きいものへ、短いものから長いものへという順番になっているので、これはこれで理屈が立っているような気はしますね。
ですが、本当にこれが理由なのかというのは、今のところよくわからないというのが正直なところなんですね。
文化的背景の可能性
そこで、なかなかこの問題、決着がつかないということでいろいろ考えていたんですが、ふとあるとき思ったんですね。
IdiomとしてCats and Dogs、例えばIt's raining cats and dogsというものがあるということが知っている。
なので、この順番をデフォルトとして、そもそも捉えてこの議論を始めたんですが、本当だろうかということを原点に戻ろうと思ったんですね。
そこで、英米の英語の代表的なコーパスであるBNC WebというものとKokaというコーパスでですね、単純検索してみました。
つまりCats and DogsもそうですがDogs and Catsという順番でも使われているんだろうかということで確認したところですね、
意外や意外、いずれのコーパスにおいても、実はDogs and Catsの方が数としては、ヒット数としては多い、優勢のようなんですね。
そうすると、そもそもの今回の問題提起、Idiomの中に固まっている、つまりIt's rainingと言ったらCats and Dogsなんですが、
一般的に日本語で言うところの犬と猫、犬猫という時に英語でもですね、この順番でDogs and Catsということも結構あるではないかということがわかったんですね。
ということはですね、今日の放送の前半でもですね、音、母音の軽さとか重さとかを議論してきたんですけれども、
どうもそこがポイントではやはり必ずしもないということが、つまり両方の個人があり得るということですからね。
どうもそこではないのかなと感じられるわけです。
さて、私は英語の歴史を研究しているわけなので、過去はどうだったのかということが常に気になるんですね。
そこであまり深く遡ってもあれなので、18世紀、19世紀あたりの後期近代英語のコーパスでですね、調べてみました。
そうするとコーパスサイズがそれほど大きくないので、ものすごく何百例も出るわけではないんですが、Cats and Dogsが18例ヒットしました。
それに対してDogs and Catsが8例出ました。
とすると、この200年くらい前もですね、両方の個人はあり得たんだけれども、典型的にはCats and Dogsの方が多かったと。
ところが、現代の英米のコーパスで調べたところ、先ほど述べたように優勢なのはむしろDogs and Catsということなので、
優勢なパターンがこの100年とか200年の間で変わってきたという可能性があるということです。
比較的最近のことなのかもしれません。
そうしますと、ますます音の都合というわけではどうもなさそうで、もしかしたら何らかの文化的背景があるかもしれないということですね。
とりわけアメリカ英語の歴史コーパスで見る限りですね、どうもDogs and Catsの方が現代に近くなるにつれて増えているというような気配が濃厚なんですね。
これは単なる順番の問題ではないかもしれない。
音の都合で説明できるような問題ではないかもしれない。
背後にもっと面白いことが起こっている可能性があるということです。
それではまた。