00:03
おはようございます。英語の歴史を研究しています慶應義塾大学の堀田隆一です。このチャンネルでは英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる話題は
Lady Chapel に残る)残っていない属格、という話題です。
これは何の話題かと言いますと、Lady Chapel という単語がありますね。
2語で書くんですけれども、それぞれ大文字ですかね。 Lady Chapel ということで、これは大聖堂についている
聖母礼拝堂ということですね。 Lady が聖母マリアのことを指して、そして Chapel っていうのが、これが礼拝堂っていうことで
Lady Chapel このまま見るとですね、2語そのまま名詞を並べてですね
複合名詞を作る、一つの複合名詞を作るっていう、これは決して珍しくありませんので何の気なしに見るとですね、そういうふうに解釈したい
つまり複合名詞として解釈したくなるわけなんですけれども、これ歴史的に見ますと実はこの Lady の部分は
属格、今でいう所有格なんですね。つまり聖母の礼拝堂ということで、複合語というよりはですね、もともとは統合的な名詞の所有格形にもう一つの名詞がついたという
John's House っていうのと同じような作りだったわけですね。ただ意味的にはこれで一体感がありますので、現在では2語と書き分けたとしても全体として複合語、1語というふうに
捉えられると思うんですけれども、語源的には歴史的にはこの Lady にあたる部分は属格、いわゆる所有格なんですね。
現在、所有格というとですね、普通 apostrophe s をつける、つまりこの場合であれば Lady's Chapel になるんではないかと思われるかもしれませんが、この apostrophe s で
名詞の所有格形を作るというのはですね、中英語以降ですね、そして完全な形では近代語以降に確立した形です。
それ以前、特に古英語の時期はですね、名詞に従ってその所有格、属格ですね、これが異なる語尾を取ったんです。
確かに現在の apostrophe s ですね、これが一般的な所有格マーカーになっていますが、これの起源になるものは古英語にちゃんとありました。
これはですね、いわゆる男性名詞と呼ばれたもの、それから中性名詞と呼ばれたものは単数の所有格の時に確かにこう
03:02
es というのをつけるんですね。これが後にちょっと包まって apostrophe s みたいに綴るようになったんですけれども、ただこれは男性名詞や中性名詞に限られたことだったんですね。
一方、女性名詞というのがありまして、そしてまさに Lady ですから、これ女性名詞なわけなんですが、女性名詞の時には絶対にこの es とかですね、s は現れないです。
続格、所有格に。じゃあ何が現れたかというと、その女性名詞にもいろいろタイプがあるんですけれども、これはですね、古英語では Lady のことフラーフディエというふうに言いました。
だいぶ異なる形ですよね。長い歴史の中で発音もスペリングも相当変わって、今 Lady になっているわけですが、もともとはフラーフディエという形だったんです。
これの単数の所有格形というと、フラーフディガンというふうに a n の語尾がついたんですね。
で、後に n っていうのは弱い語尾なんで消えてしまいます。そうするとフラーフディエ、これが主格の、いわゆる見出しの形なんですが、それに対してフラーフディガというふうに a の形になったり、
さらにこの a 自体も曖昧母音になってしまって、結局主格の形、見出しの形と異ならない、全く同じ形がそのまま所有格で使われるという状態になってしまったんですね。
これは音声的、形態的な弱化の結果ですね、たまたま見出しの形と同じものになってしまったっていうだけなんですね。
中英語ではこの状況でした。つまりレイディ・チャポルのような言い方で、これ起源的にはこのレイディは語尾がないのでわからないんですけれども、実は所有格だったということになります。
続格だったということですね。これをある意味引きずって、この形を引きずって、今レイディ・チャポルというわけですけれども、このレイディには従って続格、所有格の名残が残っているというべきか、残っていないというべきか、
なんですけれども、起源をたどると非常に弱い語尾ではありましたが、ちゃんと続格語尾がついていたものですね。それが弱化して結果的になくなってしまったように見える、そういうことなんですね。
このようにレイディなんかが典型なんですが、例えば他にはレイディ・バーグってありますね。これテントウムシのことですね。あるいはレイディ・バーグというふうにイギリス英語では言いますが、これも文字通りには本来は意味的にはレイディーズ・バーグとかレイディーズ・バーグというふうに、
今の言い方に合わせばそのような続格、所有格がついた形の女性のというのの意味がちゃんと入っていたということになるんですね。
06:01
類でもう一つあげたいと思うんですが、これもびっくりなんですけれども、母語、自分の話す第一の言語ですね。母語というのはmother tongueって言いますね。英語ではmother tongueっていうことで、これそのまま確かに母語というふうに日本語にも当てはまるので、これも二つの単語を並べただけの複合語というふうに捉えられるかもしれません。
しかしこのmotherもやはり女性名詞です。そしてこのmotherはさっきのレイディーのタイプとはちょっと違う屈折を、小英語の時からしたんですけれども、要はこのmotherは見出しの形でもあるんですが、このままで単数続格でもあるんです。
つまり母のという意味を、この裸の形でそのままのの意味を含むそういう屈折があるんですね。小英語ではmodalという形でした。主格単数もmodalですし、続格で単数もmodalというふうに形状区別がつかないわけなんですけれども、このmodal tongueのような言い方ですね。
これが中英語にも出てきまして、これでmother tongueという母の言葉というのが本来の意味です。
実際に後にSに相当するものが、元が女性名詞であれ男性名詞であれ中性名詞であれ、とにかく一般化したというのが英語の歴史なんですが、このmother tongueに対してmodal languageであるとかmoderate languageのようにmoderate、この場合Sがついてますね。
比較的中英語も後半になってくると、このようにmother's languageみたいな表現も出てくることから考えると、やはり本来的にはこのmother tongueという言い方のmotherも続格だったのではないかということが疑われるわけです。
このように女性名詞に遡るものですね。今日挙げたもので言えばladyというのが典型的ですし、このmotherというのももう一つの例なんですけれども、こうした女性名詞は大体単数の続格にSみたいなはっきりした詞音の語尾を取らないんですね。
単数主格の形と事実上同じ形になってしまうということで、続格の痕跡が形としては残らないんですけれども、つまり見出し語と同じ形になってしまうんですけれども、実は古くからある続格に由来する表現なんだということになります。
現代的な観点から見ると、これは単に単語を2つ並べただけの複合語というふうに見えますけれども、語源を探るとですね、実はこのmotherとかladyの語尾の部分に、今では透明ではあるんですけれども、続格語尾があったと、そういうことになります。
09:16
それではまた。