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2026-10-22 15:59

#108『眺めのいい部屋』:セシルとエマソン親子の背後に、なぜ「戦いの絵」が?

🎙️ ようこそ、英国ドラマタイムへ! 英国の歴史ドラマをもっと楽しむためのポッドキャスト。

映画『眺めのいい部屋』を楽しむ4つの切り口シリーズ、第3回。
今回は、映画に登場する絵画から物語を読み解きます。

 

セシルとエマソン親子がロンドンのナショナル・ギャラリーで出会う場面。3人の背後に大きく映し出されているのは、パオロ・ウッチェロの《サン・ロマーノの戦い》です。

なぜ、この場面に戦いの絵が選ばれたのでしょうか?
絵に描かれた理想化された戦いと、ルーシーをめぐってこれから始まるセシルとジョージの対立。さらに、理想の女性像を求めるセシルの姿とのつながりを考えてみます。

そして、フィレンツェでルーシーが見上げるジョットの壁画にも注目。人物の感情を生き生きと描いた絵と、周囲の期待から少しずつ自分自身の気持ちに目を向けていくルーシーの姿を重ねてみました。

 

映画の中の絵画は、ただの背景ではないのかもしれません。絵に注目すると、登場人物や物語の展開が、また違った角度から見えてきます。


「聖フランチェスコの死」ジョット作 1325年 サンタクローチェ聖堂、バルディ家礼拝堂
「サン・ロマーノの戦い」

 

 

▼あらすじはこちらの回で
#103 映画『眺めのいい部屋』眺めのある部屋で、ルーシーに見えるようになったもの

 

https://listen.style/p/british-drama-time/room-with-a-view-lucy-sees

 

 

 

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▼今回参考にした資料 
・E.M.フォースター『眺めのいい部屋』(1908年)
・「眺めのいい部屋」映画パンフレット(1987年) 
https://www.santacroceopera.it/en/support-us/giotto-project/

https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/paolo-uccello-the-battle-of-san-romano
https://youtu.be/GTsgLgM9XWw?si=NGreqj2qXKUMJteG

 

 

 

 

 

 

 

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サマリー

映画『眺めのいい部屋』に登場する絵画を手がかりに、物語の展開と登場人物を読み解く。セシルとエマソン親子が出会う場面の背景にある、パオロ・ウッチェロの《サン・ロマーノの戦い》は、ルーシーをめぐるセシルとジョージの対立や、ルーシーを理想の女性として見るセシルの姿を暗示するものとして考察される。フィレンツェでルーシーが見るジョットの《聖フランチェスコの死》については、感情を生き生きと描く表現と、周囲の期待から自分自身の気持ちへ目を向け始めるルーシーとのつながりが語られる。

『眺めのいい部屋』と絵画への注目
英国ドラマタイムへようこそ。
この番組は、イギリスの歴史ドラマが大好きな私が、
ドラマや映画のおすすめ、ロケ地の秘密、
当時の暮らしまで深掘りしてご紹介しています。
物語の背景を知ると、作品がもっと楽しくなります。
映画眺めのいい部屋を楽しむ4つの切り口シリーズ。
前回は、ルーシーの家はどのくらいいい家なのか、という話でした。
今日は、その3回目です。
この映画の中には、絵が登場するだけではなくて、
セリフの中にもふんだんに芸術家の名前とか、
作品の名前が登場しています。
気がついていましたか?
映画の中で、ルーシーもイタリアに来た理由を尋ねられた時、
芸術を学びに来たのか、と聞かれてもいました。
そんなふうに、芸術が物語の背景にある眺めのいい部屋。
ということで、今回はちょっと趣向を変えて、
映画に登場する絵画に注目してみたいと思います。
ウッチェロ《サン・ロマーノの戦い》と出会いの場面
今回ご紹介する映画登場したのは、
物語後半、ルーシーたちの状況がぐっと動き出すきっかけになった、
かなり重要な場面です。
セシルがロンドンで、エマソン親子と出会って、
彼らにルーシーの家の近くにある空き家を紹介することになるあの場面です。
出会った場所は、ロンドンにある美術館、ナショナルギャラリーでした。
この時、3人の背後に大きな絵が映っていたのを覚えていますか?
馬に乗った男性や槍を構えているたくさんの騎士たちが描かれている絵です。
映画の画面いっぱいに映し出されていたので、
ご覧になった方なら、記憶に残っているのではないかと思います。
この巨大な絵の前で、エマソンのお父さんは、
自分たちが今どんな家を探しているのか、
もう唾が飛んできそうなくらい大きな声で話しています。
それを聞いているセシルは、居心地が悪そうに回りを見渡して、
それでも近くにちょうど良い家があると得意気に申し出ます。
そしてジョージは、二人の会話を聞きながら絵の方も見ている。
このちょっとチグハグなやりとりが、私はとっても面白かったです。
この場面の背後に大きく映し出されていたのが、
パオロ・ウッチェロのサン・ロマーノの戦いという絵です。
でもなぜ、セシルとエマソン親子の出会いが、
こんな戦いの絵の前で撮られたのでしょうか?
これって、映画独自の場面なんです。
原作の小説では、セシルがナショナルギャラリーで変わった親子に会った後、
ルーシーに話すだけ、しかも見ていたのは別の画家の絵になっているんです。
ナショナルギャラリーには他にもたくさんの絵があるのに、
なぜこの一枚だったのか、とても気になりませんか?
監督がその理由を語っているわけではないのですが、
今日はあの絵について調べて、映画の場面と重ね合わせながら、
私なりに考えてみたことをお話ししたいと思います。
では、そのサン・ロマーノの戦いという絵はどんな絵なんでしょうか?
この絵、高さが約1メートル80センチ、横幅は3メートルもある、かなり大きな絵なんですよね。
描いたのは、15世紀のフィレンチェで活躍した画家、パオロ・ウッチェロです。
絵の題材になっているのは、1432年ですから、今から600年前、
フィレンチェ軍が敵軍と戦った、本当にあったサン・ロマーノの戦いです。
面白いでしょう?ロンドンの場面なんだけれども、フィレンチェが追っかけてきているんです。
では、ここでもう一度、この絵が登場する場面を思い出してみたいと思います。
この時のセシルは、自分の大嫌いな人物が貸し出そうとしている家に借り手を見つけてやろうとしています。
当然、親切心からなんかではなくて、その人を困らせてやろうという、セシルらしい、みみっちくて、いやらしい動機なんですよね。
そんな時、エマソン親子と出会って、話を聞いて、彼らをルーシーの家の近くに引っ越しさせることにします。
これで嫌いな人物を困らせてやったぞと、意気揚々としているわけなんですね。
でも、この物語の結末を知っている人なら、あらあらセシルって思いますよね。
セシルはこの時、まだ何も気づいていません。
自分はこの嫌がらせも、ルーシーとの結婚も全て計画通りに進んでいると思っている。
でも、この行動が、これから始まるルーシーを巡るジョージとの戦いのきっかけになってしまうんです。
そして、その場面の背景に描かれているのが、フィレンツェの戦いの絵。
これからルーシーを巡って戦いが始まりますよと、予告しているようにも見えませんか。
しかも画面の真ん中には、白馬に乗った騎士が描かれています。
この人物はセシルなのか、それともジョージなのか、物語が大きく動き始めるこの場面に戦いの絵を置いたというのが、とても面白い使い方だなと思います。
理想化された戦いとセシルのルーシー観
ここでまた絵に戻ってみたいと思います。
戦いを描いた絵と聞くと、激しさやあらあらしさが前面に出た、ちょっと怖い絵なのかなと思いがちですよね。
でもこの絵をよく見てみると、かなり印象が違うんです。
真ん中には白馬に乗った男性が描かれています。
赤い、とても変わった帽子をかぶっているんですよね。
この絵を所蔵しているナショナルギャラリーによると、少なくともこんな帽子をかぶった人物が戦場にいたとは考えにくいそうです。
そして、この絵で地面に倒れた兵士や散らばっている槍にも注目してみてください。
本当の戦場だったら、もっとごちゃごちゃに混乱しているはずなのに、この絵では兵士や槍が計算されたように配置されているんですね。
というのも、この絵を描いた画家は遠近法に強い関心を持っていた人物です。
なんと、地面に倒れた兵士や槍が作り出す線が、絵の中に奥行きが見えるように使われているんですね。
戦場を描いているのに、画面の中には秩序と公正の美しさがある。面白いところです。
さらに、この場面がオレンジやザクロやバラに囲まれていること。
そして、今は耐火しちゃっている色も、本来は銀や赤など鮮やかな色が使われていたこと。
つまり、とても華やかな絵だったんですね。
実際にあったかなり激しかったと言われる戦いを描いているんだけれども、血が流れるような戦場の混乱や悲惨さをそのまま見せようとしているわけではないんですね。
英雄たちの戦い、そしてフィレンツェの勝利をどこか現実離れした、理想化された戦いの世界として描いていたというわけです。
そして、ここからは私の考察です。
この絵の理想化というところが、セシルとつながってくるんですよね。
セシルはルーシーを一人の女性として見ているというよりも、自分の理想を投影して見ているように思うんです。
映画の中でもレオナルド・ダ・ヴィンチのあの絵の女性のようだ、なんていう場面もありました。
彼女はピアノも美しく弾ける素晴らしい女性、そんな女性を妻にする自分を誇らしく思っている。
ちょっと嫌ですよね。
ルーシーはセシルに名画のように周りに見せびらかしたいと見られている。そんなふうにも思えるんです。
でもジョージはまるっきり反対です。理想を重ねるのではなくて、ありのままのルーシーを愛している。
僕の腕の中にいる時でさえ、君がどんなことを考えて、どんな感情を持っていてもいいんだと言っていました。
自分の理想通りの女性であってほしいセシルと、ルーシー自身の気持ちを大切にするジョージ。
そう考えると戦いを美しく理想化して描いたこの絵が、セシルをちょっと皮肉っているようにも見えてくるんです。
ここからあなたの性格が崩れてきますよとね。
もちろんこれは私の考察です。
監督が実際にそう考えていたのか分かりませんが、でもそんなふうに見るとこの絵の使われ方がますます面白くなってくるんですよね。
ジョット《聖フランチェスコの死》とルーシーの変化
そして最後にもう一つ、映画の中で使われた印象に残る絵についてもご紹介しておきたいです。
登場したのは物語の前半のフィレンツェです。
ルーシーがエマソンお父さんと一緒に見上げていた絵。
サンタクローチェ聖堂にある壁画で、イタリアの画家ジョットによる聖フランチェスコの物語を描いた絵です。
この場面はかなり面白かったんですが覚えていますか?
イギリス人の牧師さんがまるで教科書のようにこの絵について説明しているんですよね。
壁画があるのが聖堂の中にある小さな礼拝堂の中です。
そこにたくさんの人が集まっていて、牧師さんが説明するたびにみんなが一斉に右を向いたり左を向いたりするんです。
そんな牧師さんの説明を遮るかのように、エマソン氏がいろんなことを言い始めます。
空を飛んでいる太った男を見てみろとか、貧しい人たちをコテ使って描いたんだとか、自由な発想を口にするんです。
エマソン氏はガイドブックに書かれている説明に従ってみるというよりも、
自分には何が見えるのか、自分がどう感じるのか、それを大切にしているんですね。
でもそのことに起こった牧師さんはみんなを連れて他の場所に移ってしまいます。
もし私がエマソン氏のそばにいたら、言っていることはすごくわかるけれども、ちょっと恥ずかしいなと思ってしまうかもなと思っていたんですが、
でもルーシーは意外と平然としているんですよね。
牧師さんの説明に従って絵を楽しんでいる人々と、知識や説明だけに頼るのではなく、
自分の目で見て自分の頭で考えることを大切にしているエマソン親子。
ルーシーはそんな彼らの言葉や振る舞いに触れる中で、少しずつ自分自身の気持ちにも目を向けていくことになります。
ルーシーたちが見ていたジョットの絵をもう少し見てみます。
このジョットという画家は絵画の歴史を大きく変えた人です。
それまでの絵は聖なる人たちを象徴的に美しく表現することが重要視されていました。
そこにジョットは表情とか身振り、体の動きで人々の感情や反応をより生き生きと描き出したんですね。
これは当時とても斬新なことでした。
描かれている人たちを見てみると、手に口づけをしたり、手を大きく広げて悲しみを表している人もいます。
描かれているのは聖フランチェスコの死の場面です。
悲しみが伝わってくるだけではなくて、まるで私たちの目の前でその出来事が繰り広げられているかのように感じられること。
絵の中のこうした生き生きとした現実感がジョットの前には十分にはなかったんですね。
そこに大きな変化をもたらしたのがこのジョットです。
だからこそ私はここにまたルーシーの姿が重なって見えるんですね。
ルーシーはこれまで周囲の期待や常識に従って生きてきた女性です。
でもエマソン親子と出会うことで少しずつ自分自身の感情に気づいていく。
そんな変化の入り口にこのジョットの絵が登場しているところが面白いなと思うんです。
映画の絵画を物語の手がかりとして見る
再び最初の問いに戻りましょう。
なぜ映画ではセシルとエマソン親子の出会いにこの戦いの絵が選ばれたのか。
もちろん監督の意図はわかりません。
でもこれからルーシーを巡ってセシルとジョージの間に起こることを報告するようにも見えますし、
理想の女性を手に入れようとするセシルの姿を理想化された戦いの絵が皮肉っているようにも見えます。
そしてもう一枚のジョットの絵からはルーシーが自分自身の感情に目を向けていく姿を重ねてみることができます。
映画の中の絵画はただ背景に飾られているだけではないのかもしれませんよね。
そこに注目すると、登場人物の姿や物語の展開を違う角度から読み直すことができる。
今回はそんな楽しみ方をご紹介しました。
ご紹介した絵は、セシルとエマソン親子が出会う場面に登場するウッチェロのサン・ロマーノの戦い、
イデンテでルーシーが見上げるジョットのセイ・フランチェスコの死です。
どちらも実在する絵です。
ウッチェロの絵はロンドンナショナルギャラリーにいつも展示されている絵です。
そしてフィレンチェのジョットの絵は、これはナショナルギャラリーのウッチェロの絵よりもさらに100年ほど前の絵なんですね。
なんと今年4年をかけた修復が終わってきれいによみがえったようです。
映画のロケ地巡りとしてぜひ訪れたい場所ですね。
そして最後にお知らせです。
来月11月7日の夜、眺めのいい部屋をテーマにしたオンライン会を開きます。
今回は絵画を声だけでご紹介してきましたが、オンライン会では絵も見ていただきます。
この4回のシリーズでお話ししているイタリアも絵も家も目で見ながらたっぷりお届けします。
映画をご覧になった方もこれからの方も気軽に覗きに来てください。
11月7日の土曜日夜8時から9時の開催です。
詳しくは概要欄のリンクからどうぞ。
さて次回は眺めのいい部屋シリーズの最終回です。
この映画が公開されたのは1985年。
実はこの頃のイギリスではこんな風に美しい田園風景やお屋敷暮らしを描いた映画やドラマが次々と作られていたんです。
一体なぜだったのか。
そしてこれはあのダウントアビーにもつながっていくお話です。
映画が作られた当時のイギリスを覗いてみたいと思います。
どうぞお楽しみに。
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