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2026-10-08 14:50

#106 「眺めのいい部屋」:ルーシーはなぜイタリアに行ったのか?

🎙️ ようこそ、英国ドラマタイムへ! 英国の歴史ドラマをもっと楽しむためのポッドキャスト。

 

映画『眺めのいい部屋』を4つの切り口でご紹介するシリーズ、第1回です。

ヒロインのルーシーは、なぜイタリアにいたのでしょう?

 映画では説明されない「当たり前」の中身を、 憧れ・鉄道・ガイドブックの3つからたどります。

 

▼今回のお話

・貴族の息子たちの旅「グランド・ツアー」と、イタリアへの憧れ

・椅子に担がれて越えたアルプスが、鉄道で越えられるようになるまで

・当時の旅行者の相棒、ガイドブック「ベデカー」を実際に読んでみました

・イタリアなのに「ロンドンみたい」?ルーシーたちが泊まった宿

・イタリアへ行って、ルーシーはどうなったのか

 

公開40周年の4K版が、今全国で公開中です。 見た方も、これからの方も、ぜひお聞きください。

 

▼あらすじはこちらの回で
#103 映画『眺めのいい部屋』眺めのある部屋で、ルーシーに見えるようになったもの

https://listen.style/p/british-drama-time/room-with-a-view-lucy-sees

 

 

【お知らせ:「眺めのいい部屋」オンライン会 】 

  • 開催日時: 2026年11月7日(土)〜
  • 申込締切: 2026年11月31日
  • 詳細・お申込はこちら: https://forms.gle/zp5AgKMSvAf2LkxE6

     

    ▼今回参考にした資料 
    ・E.M.フォースター『眺めのいい部屋』(1908年)
     ・Karl Baedeker, Italy: Handbook for Travellers. First Part: Northern Italy(1906年版)
     ・Lillias Campbell Davidson, Hints to Lady Travellers at Home and Abroad(1889年) 
    ・James Boswell, The Life of Samuel Johnson(1791年)

    _________________________________

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サマリー

映画『眺めのいい部屋』のヒロイン、ルーシーがなぜイタリアへ旅したのかを、当時の文化と交通からたどる。貴族の教養旅行だったグランド・ツアーへの憧れは、鉄道とトーマス・クックの旅行手配によって中流階級の娘にも届くものになった。女性旅行者向けガイドや赤い表紙のベデカーは、見どころや訪問時間、支払いまで旅を支え、イギリス人の宿も母親の安心材料になった。さらに原作で描かれるローマやアルプスでのセシルの求婚を通じ、イタリア旅行がルーシーにもたらした変化を振り返る。

ルーシーがイタリアへ行けた背景
英国ドラムタイムへようこそ。この番組は、イギリスの歴史ドラマが大好きな私が、ドラマや映画のおすすめ、プロジェクトの秘密、当時の暮らしまで深掘りしてご紹介しています。
物語の背景を知ると、作品がもっと楽しくなります。
今回から、英国ドラムタイムは第2章に入ります。
前回お話しした通り、作品の魅力と、そこから知ることができるイギリスを最大限にお伝えしたい。今そんな思いでいっぱいです。
ということで、今回から4回にわたって、映画「眺めのいい部屋」を4つの切り口でご紹介していきます。
この映画、今40周年ということで、4経過されて全国で公開が始まっていますが、見られた方いるかな?私は今週末行く予定です。
物語のあらすじは、第103回の放送でご紹介しているので、ぜひそちらも聞いてみてください。
まだ映画を見たことないという人も、今日の話を聞いてから見るときっともっと楽しめると思います。
物語のヒロインのルーシー・ハニーチャーチは、ロンドンの南サリー州ののどかな場所で育ったお嬢さんです。
亡くなったお父さんは地元で成功した弁護士でした。
彼女の家は貴族でもおうち主でもない、でも暮らしにゆとりのある中流階級の家庭です。
そのルーシーが年上のいとこシャーロットと一緒にイタリアへ旅に出ます。
まずは映画の最初の場面を思い出してみてください。
イレンツェのペンションに着いたルーシーとシャーロット。
イレンツェといえば、町の真ん中をゆったりと流れるアルノ川です。
有名な別境橋が架かるあの川ですね。
川沿いの部屋からは、その景色が窓いっぱいに見えるはずでした。
ところが2人が通された部屋から見えたのは中庭だけ。
シャーロットはすっかりご機嫌ななめです。
この長めのない部屋から物語はスタートします。
ここでちょっと立ち止まってみたいんですが、そもそもルーシーはなぜイタリアにいるんでしょうか。
イギリスの若いお嬢さんがわざわざ海を渡ってフィレンツェまでやってきた。
それはなぜだったのか。
ということで今回のテーマは、ルーシーはなぜイタリアに行ったのか。
映画の中では特に説明されません。
当時の人にとってはまあそれくらい当たり前のことだったんですよね。
今回はルーシーをあのペンションまで運んできたものを3つたどってみたいと思います。
憧れから鉄道へ――グランド・ツアーの大衆化
1つ目は憧れです。
グランドツアーという言葉聞いたことありますか。
ツアーというくらいなので旅かなというのはわかると思うんですが、
これちょっとやそっとの旅ではないんです。
17世紀から18世紀にかけてイギリスの貴族の息子たちは
学校を卒業すると教養の仕上げとしてヨーロッパ大陸へ旅に出ました。
期間は何ヶ月も、かければ何年もかけてです。
フランスを通りアルプスを越えていって、その一番の目的地がイタリアでした。
古代ローマの遺跡とロネッサンスの美術、本物を自分の目で見ることが
許容ある紳士の条件だったんです。
この豪勢な旅がグランドツアーと言われています。
イタリアで大量の美術品を買ったり、遺跡の前で立っているような肖像画を描いてもらったり、
旅の土産になるようなベネチアの美しい風景画を買ったり、
イギリスのカントリーハウスを訪ねると、こういったイタリアの絵や彫刻がたくさん飾られています。
あれは彼らが現地で購入してきた旅の土産でもあるんですよね。
今から250年前に、当時の感覚をこんな風に言った人がいます。
語ったのは、辞書を作ったことで有名なジョンソン博士。
イタリアに行ったことのない人はいつも引き目を感じている。
見ておくべきものを見ていないのだから。
イタリアは行きたい場所というより、行っておかなければならない場所だったんですね。
実は私も美術を見る旅をしたいと思った時、選んだのはイタリアでした。
美術ならイタリアとも当たり前のように思っていたんですね。
でも考えてみると、それはジョンソン博士の時代からずっと続いている感覚なんだなぁと、
私も何百年も前のイギリス人たちと同じ憧れを持っていたんだなぁと思いました。
ただ私は飛行機に乗ればイタリアへすぐ行けます。
でもジョンソン博士の時代、この旅ができたのは貴族のしかもほぼ息子たちだけでした。
ルーシーは貴族ではありませんし、息子でもありません。
ではなぜ彼女に番が回ってきたんでしょうか。
2つ目は鉄道です。
グランドツアーの時代、イタリアへの旅はとにかく大変でした。
まずイギリスを出ると待っているのはフランスへ渡る船の旅です。
波が高ければ港で何日も足止めされることもありました。
そしてようやく大陸に着いても馬が疲れてしまうたびに馬車を乗り継ぐ。
道だって今みたいにきれいに舗装されていないのでガタガタガタガタと何日も揺られます。
旅の途中山賊に襲われたり、そして何と言っても大変なのはアルプス越えです。
お坊ちゃまは椅子に座って人に担いでもらっての山越えです。
お金も時間も、つき添いの家庭業種も必要で、貴族でなければとてもできない贅沢な旅だったんですね。
それを変えたのが19世紀の鉄道です。
線路がヨーロッパ中に伸びていくと遠かったイタリアがぐっと近くなりました。
そしてもう一つ旅を変えた人がいます。
トホマス・クックです。
旅行会社の名前として知られている人ですが、このクックが初めてイタリアツアーを行ったのが1864年でした。
切符の手配も、宿の手配もまとめて引き受けてくれるようになります。
言葉が通じなくても、旅慣れていなくてもイタリアへ行ける。
貴族の息子だけのものだった旅が、こうして貴族でなくても、いとりのある家なら手の届くものになっていきました。
弁護士の娘であるルーシーがイレンチェのペンションに座っている。
それはこういう時代が来ていたからなんですね。
ジョンソン博士の言葉からおよそ130年。
見ておくべき場所は、ようやくルーシーのような娘たちにも回ってきました。
女性旅行者を支えたガイドブックと宿
とはいえです。
行ける時代になったと言っても、若い娘を外国へ送り出すのはやっぱり心配ですよね。
3つ目はカイド・ブックです。
1889年にロンドンで出版された女性旅行者のためのカイド・ブックがあります。
そこにはこんなことが書かれていました。
女性が一人で旅をすることを心配する声は多い。
でも毅然とした態度でいれば困ったことは滅多に起こらない。
そして今では若い女性でさえメイドを連れずに一人で旅行できるようになった。
この出版された1889年といえば、長めのいい部屋の物語の20年ほど前です。
女性の旅は少しずつ当たり前のものになり始めていました。
そしてもう一つ重要なカイド・ブック。
当時の旅行者の大切な相棒、赤い表紙のベディガーです。
これね、映画の中でも出てくるんです。
ちょっとよく注目して見ていただきたいんですけど、
シャーロットが同じ宿に泊まっていた女性と街歩きしている途中、
カイド・ブックを取り出してみようとします。
他にもジョージも荷物をカバンの中にしまうときに入れてましたね。
私はこのベディガーをネット上で実際に読んでみました。
映画の時代に近い1906年版です。
写真もなくて小さな文字がびっしり書いてあって、
今のカイド・ブックとは全然違います。
こんなものを旅に持って行って、読んでいたんだっていう驚きでした。
でも、当時の旅行者になったつもりで読むと、これがね、なかなか面白いんです。
例えば、ルーシーが言ったサンタ・クローチャ教会。
名前の前に星印がついています。
ここは見るべきという印なんですね。
そしてこう書いてあります。
光が良いのは午前中。
さらに鍵を開けてもらう礼拝堂では、係の人にいくら渡せばいいのか、金額まで書いてあるんです。
どこを見るか、いつ行くか、いくら払うか、全部この一冊が教えてくれるんです。
そして、ルーシーたちが泊まるのは、イギリス人のお客さんが集まるペンション。
ロンドンの下町並のお上さんがいて、食卓を囲むのもイギリス人たち。
壁にはビクトリア女王の肖像画が飾られています。
そして、町にはイギリス人の牧師様がいます。
小説の中でルーシーは、まるでここはロンドンみたいだって失望しているんですよね。
イレンジェはイギリスのまま滞在できる外国だったようです。
釣り添いがいて、イギリス人の宿があって、赤いガイドブック、ベディカーがある。
それたち揃っていたから、お母さんは安心して娘をイタリアへ送り出せたのだと思います。
イタリア旅行がルーシーにもたらしたもの
さて、ルーシーはなぜイタリアに行ったのか。
何百年も続いた憧れがあって、鉄道が通って、頼れるガイドブックがあった。
ルーシーは、そういったたくさんのものに背中を押されて、イタリアへやってきたんですね。
そう思ってみると、映画の最初のフィレンツの場面も少し違って見えてきませんか?
では、イタリアへ行って、ルーシーはどうなったのか。
映画の中では、フィレンツの場面が終わると、舞台はイギリスに移ります。
そこで、ルーシーはセシルという紳士から求婚されていますよね。
映画には映っていませんが、実はこの二人はイタリアでも会っているんです。
原作によると、ルーシーたちはフィレンツへの後、ローマへ向かいます。
そこにセシルがいました。
セシルはこれまでルーシーのことを、すごく平凡な娘だと思っていたのが、
ところがイタリアで会った彼女はまるで違ってみえた。
イタリアが彼女に奇跡を起こしたと感じます。
そしてローマでプロポーズします。
断られます。
帰り道のアルプスでもう一度、また断られます。
映画に出てくるのはイギリスに帰ってからの3度目。
ここでルーシーはようやくはいと答えるんです。
イタリアで磨かれて立派な婚約者ができた。
表向きには旅は大成功です。
でもルーシーは2度断ってるんですよね。
見るべきものを見て学んで帰る。
そんなつもりで出かけたイタリアで、
ルーシーは予定になかったものに出会ってしまいました。
それが何だったのかは、第103回でお話しした通りです。
まだの方はぜひそちらも聞いてみてください。
そして4Kの美しい映像で、今劇場で見ることができます。
何百年分の憧れと鉄道と一冊のガイドブック、
それに背中押されてやっていったルーシーだと思ってみると、
きっと前より味わい深く見えると思います。
オンライン会と次回予告
そしてお知らせです。
11月7日に眺めのいい部屋をテーマにしたオンライン会を開きます。
今回から4日にわたってお話しする内容を、
オンライン会では写真や資料をお見せしながらたっぷりお届けします。
今日お話ししたガイドブックのベテカーも、
実際の紙面や当時のフィレンツェの地図も画面でご覧いただこうかなと思っています。
私が歩いた露天地の写真も一緒にご紹介する予定です。
映画をご覧になった方も、これからの方もどうぞお気軽にご参加ください。
開催日は11月7日土曜日夜8時から9時です。
詳しくは概要欄のリンクをご覧ください。
さて次回は、舞台がイタリアからイギリスへ渡ります。
ルーシーが育った家、ウィンディーコーナーの話です。
弁護士だったお父さんが建てたあの家には、ちょっと意外な成り立ちもあるんです。
私が訪ねたロンドンの露天地のお話もします。
どうぞお楽しみに。
14:50

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