ポール・オースターのニューヨーク三部作
こんばんは、ゆうこです。このチャンネルでは、私の読書ログや日々の学びを音声配信しています。
今日は、ポール・オースターのニューヨーク三部作と言われる三作品をお話ししたいと思います。
ガラスの街、幽霊たち、鍵のかかった部屋という三作品。
こちら、1980年代に書かれたニューヨークが舞台となっているポール・オースターの作品となります。
この三作品はですね、順番はどれから読んでもいいんじゃないかなと思います。
いずれも、長編と言われるほど長い物語ではなくて、すごく読みやすい。
私は順番としては、ガラスの街、幽霊たち、鍵のかかった部屋という順番で読みました。
これは単にポール・オースターが書いていた順ということで読んだんですけど、読み終わってみて、どれから読んでも面白かったし、いずれも共通点がある物語だったなと思います。
そしてどれもめちゃくちゃ面白いんですね。面白いというか、私が大好きな作風というか、こういう話を読みたかったんだって思いました。
でもね、なかなかこんな物語に今まで出会ったことないと思うんですよね。
ポール・オースターってすごく唯一無二だなと思うし、好みはあるかもしれないですが、私的にはすごく大好きな作家さんだなと改めて思いました。
ということで、今日はこの3作品の中から、とても印象に残った幽霊たちという作品をメインに話していこうかなと思っております。
ということで幽霊たち、新庁舎から訳本が出ていて、こちら柴田茂之さんですね。
他の2作品も私は全て柴田茂之さんの翻訳されたものを読みました。
幽霊たちの新庁舎のサイトに書いてあるあらすじをちょっと読んでみます。
私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。
変装した男ホワイトからブラックを見張るようにと。
真向かいの部屋からブルーは見張り続ける。
だがブラックの日常に何の変化もない。
彼はただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。
ブルーは空想の世界にさまよう。
ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。
次第に不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー。
80年代アメリカ文学の代表的作品ということで。
ポール・オースターの作品の特徴にね、
語り手がどんどん変わっていって物語が重層的になるだとか、
そういう作風はポール・オースターらしいなと思うんですけれども、
さらにこの幽霊たちはですね、
視点がどんどんメタになっていくというだけではなく、
登場人物の名前が色で示されているという、
ルーツだったりアイデンティティみたいなものから切り離された物語ということで、
『幽霊たち』の特徴
すごく抽象的な登場人物の描き方になるんですよね。
名前を持たせないという点ですね。
ただ、だからこそ見えてくる何かがあるということで、
この幽霊たちというのはすごく印象に残る物語でした。
主人公的な男、私立探偵のブルーはですね、
正体不明の変装した男ホワイトから、
ブラックという男を見張ってくれという依頼を受けるんですね。
そのホワイトが何者なのかも分からないし、
何の目的でブラックを見張れと言っているのかも分からない。
そのブラックがどういう人なのかも分からないんですけど、
そのブルーは依頼を受けて、
ブラックがいる部屋の向かいの部屋を借りて、
それもホワイトが借りているんですよ。
その窓からずっとブルーはブラックを見続けるという毎日が始まっていくんですね。
ブラックは毎日何かを書いているんですよ。
書いて、読んで、たまに散歩に行って、そんな毎日の繰り返しなんですよね。
その毎日を繰り返しているうちにブルーは、
俺一体何しているんだと思い始めます。
見張っていなくてもブラックは毎日同じような生活をして、
必ずブラックの部屋に帰ってくるんですね。
俺はこれ、四六時中見張ってなくてもいいんだってことに気づくんですけど、
そうするとよりブルーの中にブラックの存在感っていうのが増していくようになるんですよ。
ずっとブラックのことを考えている。
あいつは今おそらく部屋に戻ってこういう行動をしているだろうっていうのが、
ブルーは見てなくても離れていてもわかるようになってしまうんですね。
で、そのうちブルーはよくわからなくなります。
俺はもしかしたらブルーじゃなくてブラックなんじゃないかみたいな。
こういう物語を読んでいくうちにどういう印象を受けるかというと、
まず自分というものが何なのかっていうのがどんどん曖昧になっていくんですね。
で、名前を持たされていないっていう時点で、
この登場人物は一つのアイデンティティを持っていないわけです。
で、それを読んでいる私ですね、ルーツも明かされない主人公、
名前を持たない、アイデンティティがない、
そしてどんどん現実から切り離されていく。
ただ、この小説の中の世界には2人の男がいて、
それを支持する第三の男がいて、で、出会う物語があって、
そのニューヨークの街にそれが存在しているということだけが浮かんでくる。
何が見えてくるかっていうのが、読む人にとってはいろいろあると思うんですけれども、
一つ事故が切り離されて曖昧になっていくと、
その中でより見えてくる、じゃあ自分って何なんだっていう部分ですね。
読者の自己の存在に疑問
私はそれをすごく感じながら読みました。
もう一つはですね、これポール・オースターの小説全てに共通する部分なんですけど、
主人公的な人が語り始めるんですけど、その中での物語が、
別の物語が語られていったり、その物語の中のまたその別の物語っていう、
物語がすごく重層的になっていくっていうポール・オースターの作品の一つではあるんですけれども、
これはさらにそこから、ブルーとブラックが入れ替わって曖昧になっていくという、
さらによくわからない視点移動みたいなものが始まるんですよね。
で、それを見張っているホワイトという男は一体何者なんだみたいな。
どこから自分たちの世界を見ていて、自分は見ている側なのか、見られている側なのかみたいな。
視点の上下運動だけじゃなくて、いろんな角度からも始まっていくと、非常にわけわからなくなっていくんですよね。
で、その2つ、アイデンティティを徹底的になくしていく、曖昧な登場人物にしていくっていうことと、
視点の大きな移動、この2つで、自分自身が今いる世界、
今ここにあるっていう感覚が、どんどん曖昧に不安定になっていくんですね。
私は一体何者で、何のためにここにいるんだろう。本当に私は私なのかみたいな。
そんな感覚になっていくという、非常にね、面白い。
今いる自分が確固たる位置に立っていると思っているけれども、実はそうじゃないかもしれない。
この小説の登場人物のように、ある日いきなりホワイトがやってきて、
ブラック見張れみたいなことを言われてしまったら、私もきっとブルーのように彷徨い始めて、
自分が誰だかわからなくなってしまうかもしれない。
そんな恐怖とか不安定さっていうものを疑似体験できる。すごく面白い。
それって恐怖と捉えるか、今いる自分の場所から切り離してくれる、
そういうアドベンチャーを楽しませてくれる疑似体験を楽しむっていう視点で楽しめる人っていうのは、
すごく面白いんじゃないかなと思ったりしました。
私はどっちかへと後者なんですよね。
ポール・オースターのニューヨーク三部作
結構空想の世界に入り込むのが小さい時から好きだったので、
もし今何かが起こったら、現実にいる私って何者でもなくなって、また新しい私が始まるんじゃないかみたいな。
その時の私って今の私と何が同じで何が変わるんだろうみたいなことにすごくワクワクする子供だったので、
そういう小さい時からの素質が今も引き継がれているのかもしれない。
私的にはすごくこういう状況はワクワクするんですね。
だからポー・ローサのこういう実験的な事故をどんどん曖昧に不安定に切り離していくっていう、
そういう小説を楽しいと思えるのかもしれないですね。
より自分として残るものが何なのかっていうのを見つめていきたくなる。
そんな小説だったなと思います。
幽霊たちが今話したようなことの最たる象徴のような小説だったので、幽霊たちの話を話したんですけれども、
それ残りの2つですね、ガラスの街と鍵のかかった部屋もすごく面白くてですね、
あらすじを話しておきたいと思います。
まずガラスの街、こちらも新潮文庫ですね。
本の後ろのページにあるあらすじを読んでみます。
そもそもの始まりは間違い電話だった。
深夜にかかった電話をきっかけに主人公は私立探偵になり、
ニューヨークの街の迷路へ入り込んでいく。
探偵小説を思わせる構成と透明感あふれる音楽的な文章。
そして意表をつく鮮やかな物語展開。
この作品で一躍脚光を浴びた現代アメリカ文学の技術の記念すべき小説第一作。
大須田本役の第一人者、柴田本幸氏による新役待望の文庫化ということで。
このガラスの街もめちゃくちゃ面白くてですね。
作家である主人公はなぜか私立探偵に間違われて、
依頼を受けてしまうっていう話ですね。
本当に読んでて面白かったです。
奇想展開というか、次の展開を全く予測できないんですね、大須田の小説って。
それが本当に原先のような小説で初期に書いたからこそ、
それがより鮮明に詰まっているということでガラスの街もすごく面白いですね。
3冊目、鍵のかかった部屋という小説。
これはですね、これも柴田本幸さんの役で読んでますね。
あらすじをちょっと読んでみます。
美しい妻と傑作小説の原稿を残して失踪した友を追う僕の中で何かが壊れていく。
緊張感あふれるストーリー展開と深い人間洞察が開く新しい小説世界。
高橋玄一郎が激唱する現代アメリカで最もエキサイティングな作家オースターのニューヨーク3部作を締めくくる傑作ということで。
これもすごく面白くて、やっぱりこのニューヨーク3部作の共通点って何かありそうですよね。
作家であるオースターが自分の一部分をこの作品の中に登場人物として入り込ませるという作家の視点がすごく入っているということと、
あとは探偵が出てくるということですね。
推理だったりミステリーの要素が出てくるので、それが小説の面白さっていうのを引き出して際立たせているなというふうに思います。
あとは鍵のかかった部屋の跡書きに書いてあった人間洞察ですね。深い人間洞察。
いろいろ抽象的にしてルーツ、アイデンティティから切り離していって、いろんな視点から見た結果、自分って一体何なんだって。
ここにいる自分って何なんだっていうことを、
ポール・オースターもこの小説の中で書きながら考えてみたかったのかもしれないし、それを読んでいる側も考えさせられる、そんな小説だったなと思います。
すごく私的には面白くて、ポール・オースターの作品まだまだ読んでみたいなと思います。
こういう自分って何なんだろうっていう小説は、得意な人不得意な人に分かれるのかもしれないなと思うんですよね。
あんまりそういうこと考えたくないって、今安定しているここのポジションを不安定にしたくないっていう人は、読まないほうがいいのかもしれない。
そういうのをさまよったりするのが好きで、それを楽しめる人があれば、ぜひ読んでほしいなと思うポール・オースターの作品、特にニューヨーク三部作だったなと思います。
ということで、今日はそのニューヨーク三部作、幽霊たち、ガラスの街、鍵のかかった部屋について話してみました。
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今日も最後まで聞いていただいてありがとうございました。ではでは。