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#12 たった1人のオリンピック(スローカーブを、もう一球)
2026-06-28 20:36

#12 たった1人のオリンピック(スローカーブを、もう一球)

この番組は、書籍編集者が読んで良かったノンフィクション書籍について語るPodcastです。

隔週での更新を予定しています。


⭐今回紹介した本

スローカーブを、もう一球

https://www.kadokawa.co.jp/product/201202000087/


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サマリー

今回のエピソードでは、山際淳二氏の著書『スローカーブを、もう一球』を紹介。特に、1980年のモスクワオリンピックに出場できなかったボート選手、津田正男氏の「たった一人のオリンピック」というエピソードに焦点を当て、人生をかけた挑戦が理不尽に奪われる悲劇と、事実に基づいて語られるノンフィクションの魅力を掘り下げています。また、同書に収録されている、独特なスローカーブを武器に心理戦を仕掛ける高校野球のピッチャーの話にも触れ、スポーツノンフィクションの奥深さを伝えています。

はじめに:スポーツノンフィクションの世界へ
ノンフィクションの隣で、第12回です。 今回はですね、ちょっとこれまで取り上げていなかったジャンル、いわゆるスポーツノンフィクションと呼ばれるジャンルの名著と呼ばれるような本をひたすらご紹介したいと思います。
山際淳二さんのスローカーブをもう一球という本、角括弧ですね。 こちらをご紹介したいと思います。
僕はこの本10年前ぐらいに読んで、最近読み直して、やっぱりすごい良いなと感じたので、今回取り上げているんですけれども。
スポーツノンフィクション、いろいろなスポーツの選手であったりとか、大会であったりとか、そういうところにスポットを当てて、こんなことがあったという事実に基づいていろいろ書いていくというジャンルなんですけれども、
このスローカーブをもう一球という本は、一つ一つのエピソードはそんなに長くなくて、文庫本に1つ10ページから20ページぐらいのエピソードが8個ぐらい入っているという、そういう1冊になっています。
その中で僕が特に惹きつけられたエピソードを一つご紹介しようかなと思います。
エピソード1:たった一人のオリンピック(津田正男選手)
それはスポーツ、いろいろあるんですけれども、ボートの話ですね。
たった一人のオリンピックというタイトルの、短いノンフィクションなんですけれども、これどういう話かというと、1980年のモスクワゴリンのボートの日本代表に選ばれた人の話なんですけれども、その人は代表に選ばれたけれども、モスクワゴリンに出れなかったんですね。
なんで出れなかったかというと、その当時ソ連がアフガニスタンに侵攻していて、それに反発したアメリカがモスクワゴリンをみんなでボイコットしようというふうに呼びかけて、ベース冷戦の時代ですね。
その呼びかけを受けて、日本もゴリンの主張を全面的にボイコットしたと。
これ選手たちはもうやらせなかっただろうなと思うんですけれど、そういうわけでそのタイミングで代表になっていた人たちはゴリンにみんな出られなかったわけなんですね。
そこでこのボートに出ていた、このたった一人のオリンピックというノンフィクションで扱われている、取材の対象になっている津田正男さんという選手。
この選手に特にスポットを当てて書いているというのは、この人はすごい異色の経歴で、すごく人間臭い部分があって、非常にドラマチックなんですね。
もう少し詳しく話していくんですけれど、まずこの津田さんという選手は、いわゆるスポーツのエリートではなくて、大学までは全然ボートとかやっていなかった。
高校時代は東京大学、東大を目指していたんだけれど、一浪して二浪して三回目も失敗して東海大学という別の大学に進んだ。受験がうまくいかなかったんですね。
大学に入ってもエコマージャンとかばっかりやっていて、留年失踪になったりしていると。そのまま23歳ぐらいになって、どうもこのままじゃダメだなと、唐突にオリンピックに出ようと思いつくんだそうなんですね。
高校に関しては本に書いていたことじゃなくて、僕は読んでいて感じたことですけれど、やっぱり人間、人生に出遅れてしまったというような感覚があると、それを何らしかで挽回したいという気持ちが生まれるんだなと思いましたね。
特にこの津田さんというボート選手の場合は、浪人を何回もして留年も失踪で、その間他の同期とか、かつて付き合っていた女の子とかがバリバリやっていたのを見ていたようなこともあって、余計に焦りを募らせていたということもあって。
そういうコツコツと順調に積み重ねている人を見ると、自分は何やってるんだろうなという感情になることってあるんですよね。そこで何かしようという気持ちになることは誰しもあると思って。
この本で取り上げられている津田さんの場合は、それがやや飛躍したというか、結構遠い目標、すごい目標に行って、オリンピックに出ようということになったそうなんですけれども。
ちょっと本の話に戻って、非常に独創的なんですけど、この津田さんという選手は、そもそも最初からボートをやろうと決めていたわけではなくて、オリンピックに出ようという目標が先にあって、じゃあどの種目がいいかというのをその23歳の段階で選び始めるんですね。
オリンピックの種目って非常にいろいろあるんですけど、この津田さんは結構入り好みをして、まず団体種目はダメ。サッカーとか野球とか。
23歳になってから団体スポーツのチームに入って、まだ素人なんですけどオリンピックに出たいですって言ったら、お前バカかって言われて終わってしまうっていうのが理由の一つと、
それから団体競技だと自分のミスじゃない責任で負けることがあるっていうことを言っていて、
自分がいくら練習して一生懸命練習して上手くなって活躍しても仲間のミスで負けることがある。それはちょっとかったるいという発言をしていて、
個人競技だという考えに至るんですね。個人競技の中でいろいろと考えているうちに、スポーツあるスポーツ雑誌でソ連のボート選手が一人乗りのボート、それがオリンピックの種目としてあって、
それで3連勝したみたいな記事を見かけて、ボートっていうのはマイナー寄りの競技でチャンスもあるし、チーム戦ではなくて一人乗りの種目があるということで、これならいけるんじゃないかということでボートを選ぶんだそうです。
僕自身が卓球に親しんでいることもあって、今の卓球のオリンピック選手ってほとんど2歳3歳の時からラケットを握らされて、冷裂教育を受けて、国の教科チーム、エリートアカデミーとかいうところがあるんですけど、
そこで君たちが日の丸を背負って戦うんだっていうふうに、すごい小さい頃から練習を受けさせられて、科学的なトレーニングもして、コーチがちゃんとついてみたいな、そういう冷裂教育を受ける世界だっていう印象があったので、時代もあると思うんですけど、この津田さんのボートにたどり着いて23歳からオリンピックを目指したっていうエピソードが非常に斬新に感じましたね。
そういうわけでこの津田さんはボートでオリンピックを目指すんだと、金メダルを取るんだということで、独学でボートの練習を始めて、タイトルに関わってくるんですけど、ボートをやり始めたことは友達にも話さなかったそうなんですね。
これで23歳でオリンピックに出るんだって言ったら間違いなくバカにされるだろうということで、本当に一人っきりで始めたそうなんです。
多少はしとるんですけれど、モスクワオリンピックまでの5年間、ひたすらに練習をやり続けて、おそらく適性もあったんでしょうね。
モスクワのオリンピックの日本代表になるわけです。なんですけれど、冒頭お話したように政治的な影響があって、日本はモスクワ五輪への出場をボイコットするわけなんですね。
なんでこの須田さんが20代をかけて挑戦してきた、冒頭でオリンピックに出て金メダルを取るんだっていうチャンスはおじゃるになってしまったと。そういうわけなんですけれど、このノンビクションの締めの文章が僕は特に好きで、こんな感じで終わるんですね。
彼はモスクワ五輪の代表選手に選ばれた。その五輪に日本が参加しなかったことは周知の通りである。結局は、と彼は言った。自分のためにやってきたんです。国のためでも大学のためでもなかった。自分のため、ただそれだけです。だからボートを続けることにこだわることができた。
バイトをしながらのカツカツの生活ではボートを続けられた。須田雅夫は現在ある電気メーカーに勤めている。ボートはやっていない。これで終わるのがかっこいいなと感じたんですね。
ここに書かれていたのは、五輪のボイコットでこの人が五輪に出られなかった。その後、電気メーカーに勤めて、ボートはやっていないという事実ですよね。
そこで、須田雅夫だと、彼の胸の中はこうだったのではないかとか、活躍の場をずっとかけてきた、五輪の勝負の場を奪われた彼の気持ちはどうだったろうかとか、そういう推測を入れない。あくまで事実で語る。
ボートはやっていないという締めの文章で、読者は想像せざるを得ないわけですよね。そんな風な状況に追いやられた彼がどう感じたのかとか、それから今ボートはやっていない、普通の会社員生活をしている。答え間近じたる思いがあるのかとか。
もちろんこの記事のまとめ方として、そこの部分をこの選手にホリホリ聞いてまとめるというやり方もあると思うんですけれど、というかそれを聞いたのかもしれないんですけれど、そこを長々と述べるのではなくて、ボートはやっていないで終わらせる。
これは僕が考える良いノンフィクションの形そのものだなと思いますね。僕が尊敬しているノンフィクションライターで野村進さんという方がいるんですけど、その方の調べる技術・書き技術という本で、ノンフィクションのテーマは事実によって語らせるべきで、論によって語らせるべきではないというノンフィクションのテストを言ってるんですけれど、
要は事実を述べることで伝えたいテーマを語るべきであって、それを書いている人がどう考えているかとか、もしくは読者を羽織るような事実ベースではない、事実から少し離れてしまうような文章を使うべきではないというようなことを言っていて、この文に僕は結構影響を受けているんだと思うんですけれど、
このたった一人のオリンピック、この冒頭選手のノンフィクションは事実で語って、読者に想像する余地がある、そういう風に作られているのが非常に印象的でしたね。
このオリンピック選手のエピソード、いろんなテーマがあると思うんですけど、僕は人生を懸けた挑戦の場が理不尽に奪われることっていうのがテーマの一つとしてあるのかなと思っていて、これは僕自身こういう経験がないので、この文章を読んで想像するしかないんですけれど、
おそらくこういう時の人間の反応って、まず抵抗をする、なんとか出られないんですかというような抵抗をするか、もしくは別の方法を探す、オリンピックが難しいのであれば、別に4年に1回のオリンピックではなくて、毎年ある世界ボート大会みたいなもの、正式名称はわからないんですけれど、
そういったもので活躍をしようと、他の道を探すとか、あとは本当に力が抜けて虚脱状態になってしまう、そういう人間の反応もあると思うんですけれども、この津田さんもそのどれからだったんじゃないかなというふうに想像したりしますね。
結局この津田さんはその後ボートをやらずに会社員をやっていたという話なので、他の道で頑張ろう、ボートを続けようということではなく、おそらく一変に、本当にオリンピックというものを唯一の目標にやっていたので、他で頑張ろうという考えにはならずに、少し力が抜けてしまったではないですけれど、
風船から空気が抜けていくような感じで、ボートに打ち込む時間とか気力とかモチベーションというものは失われてしまったんじゃないかなと、その結果会社員になってボートを辞めたんじゃないかなと想像してますね。
エピソード2:スローカーブを、もう一球(川松選手)
これはノンフィクションじゃないんですけれど、結構これに近いテーマの漫画を僕が今読んでいて、竹内保郎さんの地早リスタートっていう陸上の漫画なんですね。
これは陸上に本当に高校生活を捧げたような子たちが、コロナ禍のせいで最後のインターハイの活躍の場を理不尽に奪われてしまって、そこで各々どうにも行き場のない、やりきれない、やるせない気持ちを抱えて、
それをどう乗り越えていくか、あるいは乗り越えられなかったのかというのが描かれている漫画なんですけれど、オリンピックのボイコットにしても、コロナ禍でのインターハイ中止にしても、自分の力でどうしようもできない大きなイベント、
政治的なものであったり、自然災害みたいな疫病であったり、そういったものに自分がかけてきた活躍の場を奪われる、これはある種の悲劇だなと思いますね。
最近のオリンピックとかはちょっとビジネスビジネスすぎてるなと思わないでもないんですけれど、それに向けて打ち込んできた選手たちの頑張りとか、それまでの積み上げというものは全く否定するものではなくて、たらたらすリスペクトの対象ですので、僕にとっては。
そういう頑張りというか、選手のパフォーマンスが超人的なものであるほど、こういった事件とか、オリンピックのボイコットみたいなものだとか、そういうものが起きたときの捉えられ方がちょっと皮肉なんですけど、ドラマチックなものになってしまうという側面はあるのかなと思いましたね。
という感じで、ちょっと私の喋りで伝えきれてない、全く伝えられてないんですけれど、山際デュンディさんのノンフィクションは文章がマジでめちゃくちゃ上手いので、ぜひ読んでいただきたいですね。
それから氷大作のスローカーブをもう一休という作品、こちらにも簡単に触れておきたいと思います。
こちらは高校野球の話ですね。高校野球で活躍していたとあるピッチャーの話。
1980年、群馬の高崎高校という高校の野球部の川松選手という投手がいたそうなんですけど、このピッチャーがですね、めちゃくちゃな速い高速球で寝るし伏せるとか、そういう王道の強さではなくて、かなりクセモノのピッチャーで、私野球全然詳しくない基本的なルールがわかるぐらいなんですけれど、すごい読んでて面白かったですね。
このピッチャーの得意技がタイトルにもあるスローカーブ。時速60キロとか70キロみたいな。野球のピッチャーが投げる球としては本当に非常に遅いスローカーブ。ゆーっくり入ってきて、手元でぐーっと曲がるような。
この川松選手というピッチャーはこういうスローカーブを投げて、バッターの様子をすごい観察するんですね。なんだよこの球はっていうムッとした顔をするバッターもいれば、そのスローカーブは変な球だからもう全然無視しているような選手、バッターがいたりとか、あとはめったに見ない球なので、なんだこの球とちょっと動揺してしまうようなバッターがいたりとか。
相手が動揺する様子がなかったら、ちょっと番外戦術を使うんですね、このピッチャーは。ヘルメットを取ってピッチャーがバッターにちょっと挨拶したりするんですけど、その時に意味もなくニターッと笑って、ちょっと嘲笑うような笑顔を作ったりする。
そうするとバッターは、なんだあのピッチャーはと、変な気持ちになると、こういうことをやったり、あとはバッターを焦らすために、結構緊迫したシーン、大事なシーンとかでピッチャーがキャッチャーをマウンドに呼んで、全く意味のない雑談をしたりとか、なんで俺にはガールフレンドができないのかなとか、今ラーメン食ったら美味いかなとか、野球と全く関係ない話をするわけですね。
まあでもバッターにはそれは聞こえないので、自分を打ち取るための作戦を何か狙われている、何を話しているかわからないっていうような、まあそういう気分になると。
このピッチャー、川端選手は体が大きいわけでもないし、すごい速い球を投げられるわけでもないので、そこをこういう心理戦、バッターの心理を読む、相手を少し焦らすとか、そういうところでカバーをして、相手にいい当たり、ヒットとか大物とかを打たせないっていうことに長けていたという話があって。
こういう邪道の選手の話は、邪道って言うと言葉があるんですけれども、王道の選手、強速球で相手を打ち取っていくような選手ではないピッチャーの話とか、そういうちょっと外れた選手のかっこよさっていうのは、やはり文章で伝わりやすい部分があるなと感じますね。
野球漫画とかも読んだことがありますけど、このスローカーブを描写するのは漫画とかより文章のほうが向いてるんじゃないかなと思ったりもしますね。
短いですけれど、そういった表題作、スローボールをもう一球、これも非常に読みごたえがありましたね。
まとめ:スポーツノンフィクションの魅力
こういうものが8編入っていて、どれもルールをそんなに知らなくても楽しめる。野球のルールぐらいは知っていたほうがいいのかな。
でもボートのルールとかは全然知らなかったんですけれど、普通に楽しく読めたので。
別にスポーツにすごい詳しい方とかではなくても、選手が何かに打ち込むときにどういうことが起きるのかとか、それからその打ち込んだ結果が必ずしも良いものにつながらなくて、
すごい花々しい成功談とかではなくて苦いエピソードとかも出てくるんですけれども、そういう人間模様を読みたい方とか、そういう方にはお勧めできるかなと思いますね。
というところで、今回はこの辺で終わりたいと思います。
番組への感想やお便り、その他の質問や雑談などお待ちしてますので、概要欄のホームから送りいただけると嬉しいです。
それではまた次回の放送でお会いしましょう。
ありがとうございました。
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