大学組織の現状
真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
今晩は第231話を迎えました。今夜のお便りをご紹介します。
ペンネームくるまえび.さんからいただきました。
バタやんさん、はじめまして、こんにちは。
はじめまして、こんにちは。
私は大学の職員をしています。
少子化とコンプラ強化の昨今の世の流れにより、大学組織も大幅な制度と風土の改革が求められています。
なのですが、一職員の私には、調査をしろ、案を出せと言われるばかりで、一向に話が進む気配がしません。
私は一般企業から転職した組なので、組織のレスポンスの遅さや、世間からずれた閉鎖的な環境に、もやもやゾワゾワしてしまいます。
バタやんさんも、事業部門から人事部へ移動されたと聞いて、勝手に親近感を覚えていました。
最近読まれた本で、何かおすすめのものがあれば教えてくださいといただきました。
ありがとうございます。
そうですね、なるほど。
大学もやはり、ご時世柄、そういう改革とか風土改定を求められるわけですね。
車指ドットさんがどういった大学にいらっしゃるのかは書いてないので、当てはまるかちょっとわからないんですけれども、
例えば、強豪と言われるすごく強いスポーツの部活とか、大学のチームでハラスメントやいじめや不祥事なんかが続けて、最近注目を集めてましたよね。
ラグビー部とかサッカー部とか野球とか、大学だけじゃなくて高校野球とか高校サッカーでしたかね。
強豪と言われる学校であればあるほど、OBたちから多分プレッシャーも強いでしょうから、
大学の時代的にとか今時とかって言って、もうこういうのをやめましょうよとか言った子がいたとしても、思った人がいたとしても、
劇的に長く続いてた習わしみたいなのを変えたりするのは難しいんでしょうね、なんてことを思ったりしましたね。
さてさて、今夜の勝手に貸し出しカードは2冊選びました。
1冊目は最近出たばかりの話題の本です。
ここが文竹さんの著書、「集団占領。優秀だった男たちはなぜ道を誤るのか?」という本と、
もう1冊、サラ・アーメット三丁、竹内俊恵さん、そして飯田真由さん役の
苦情はいつも聞かれないという本にしました。
まずは集団占領という本から解説します。
占領というのは、浅い資料の量と書いて占領と読むんですね。
どういう本かと言いますと、富士テレビの中井さんの件にまつわる第三者調査委員会の報告書がありました。
それを読み解きながら、なぜ優秀だったはずの組織が愚かな意思決定をしてしまうのかという問題を掘り下げた本になっています。
なぜこの本を知ったかと言いますと、先日、経営者のレプテーションリスクに対する対応判断に関する講演会がありまして、
濱田恵子さんが登壇されていて、濱田恵子さんというのはジャーナリストで、
モーニングショーかな、朝のコメンテーターをされている方ですけれども、
私は何回か以前にご一緒させていただいたことがあって、その講演パネルディスカッションに行ったんですね。
その中で、集団占領という概念とこの本をちょうど紹介されてたんですよ。
その時まで私、集団占領という言葉を知らなかったので、聞いても漢字がちょっと頭に思い浮かんでなくて、
占領かと思ったんですよ。染める方の占領かと思って。
染まる、集団に染まるってことかなとか勝手に思ってたんですけど、
でも後でググったら、検索したら全然違っていました。
浅い配慮、浅い資料と書いて占領だったんですね。
元はアメリカの社会心理学者のアービング・ジャニスさんという方が提唱した概念で、
グループシンクっていう英語の訳から来てるんですね。
ジャニスさんは集団占領のことを何と説明しているかと言いますと、
業種性の高い集団に深く関わっている人々が、
集団の統一を守るために批判的思考を放棄してしまう思考様式と解説しています。
ちょっと難しいですね。
これを著者の小賀さんは、優秀であるはずの個人が集団になった時に発言する、
あまりにも愚かな意思決定プロセスとでも定義しておこうと解説しています。
集団になったら思考が深まりそうなのに浅くなっちゃうってことなんですね。
どんな集団でも、集団になると浅くなるってことじゃなくて、
業種性の高い集団とあります。
判断の誤りとケア
業種性っていうのもちょっと耳慣れない言葉ですね。
小賀さんの本には簡単に言うと仲がいいってことだというふうに書いてありますね。
団結力があるとか、エンゲージメントが高いとか、
その組織に所属していたいっていう意欲が高い組織ってことなので、
HR的には人事の領域としてはすごく良いこと、理想とされている状態だと思うんですよね。
みんながそういう組織にしたいと思うものだと思うんですけど、
スポーツチームとか強いスポーツチームはまさにそうなんじゃないでしょうか。
一方で同時にですね、
鮮明意識みたいなのも、そういう業種性が高い組織っていうのは強いわけです。
選ばれし者だ、俺たちは。成功体験を共有しているみたいなことが、
やっぱりその集団に居たい、所属していたいっていう思いを強くするわけじゃないですか。
そう聞くと、富士テレビも競合校、スポーツ競合校の競合チームなんかも、
業種性が高い組織だったんだろうなっていうのが、想像がつきますよね。
その俺たち、私たちの誇り高き集団を守ろうっていう作用がいかに強いかという話なんです。
男性的な集団の方がイメージしやすい感じもしますけれども、
そのいわゆるオールドボーイズクラブ的な、でも女性にもあると思いますね。
私は、私たちの誇り高き集団を守ろうっていう強い作用、結束力みたいなものが、
その強い結束力の集団に異物が混入したときに、
同調圧力がどんなステップを踏んで組織を守ろうとするかっていうのが解説されていて、
そのステップが解説されていて非常に興味深かったです。
異物っていう言い方なんですけれども、本の中では逸脱者という呼び方をされています。
例えば職場で言うと何でしょうね、毎年恒例みたいな習慣とか、
やめましょうよとか、僕はそれは参加しません、みたいな、
そういう仕事と関係ありますか、みたいな人がいたとするじゃないですか。
そうするとまず説得という段階に入るんですって、
コミュニケーション量を増やすんですね、その逸脱しようとする人に対して、
ちょっと俺が一回飲みに行って話すから、飲みに連れて行って話すからとか、
コミュニケーション量を増やせば同質性に染められるんじゃないかと思うっていうのがまず第一段階です。
第二段階に入ると疎外というフェーズに来ますね。
コミュニケーション量がかえってギュッギュッと減る、減らされるわけです。
もう呼ばない、輪に入れない、ゴルフにも誘わない、飲み会にも誘わない、
そうなってくるとコミュニケーション量が減ると同時に仕事とか試合でいうと機会も奪われやすくなりますね。
その挑戦する機会が奪われると会に奪われない、コミュニケーション量が少ないから、
そういうところに抜擢されない、メンバーに選ばれないということが起こりますと、
パフォーマンスが発揮しにくくなるわけですよ。
もともとは結構スキルがあって、スキルと関係ない飲み会にはいかないよとか、
変な式たりには応じないよみたいにしてたとしても、
チャンスが減ると活躍の機会というのは奪われてしまいますよね。
コミュニケーションも機会も奪われると簡単に言うと活躍できなくなってきているので、
集団の方からその逸脱者をどんどん排除するというのと合わせて、
その人の方からもうやめていってしまうという確率も上がっていくということですかね。
さてそのフジテレビの問題に戻りますと、そもそも女性のAさんは、
コミュニケーション量がそんなに最初の段階でも多くなかったんじゃないかなと勝手に想像したりしました。
いわゆる飲み会の花やぎの花として、花やぎ要員として呼ばれることはあったとしても、
中枢の仲間討ちという扱いじゃなかったんだろうなぁと思ったりして、
そしてことがわからなくなってきて、
女性のAさんは、
花やぎ要員として呼ばれることはあったとしても、中枢の仲間討ちという扱いじゃなかったんだろうなぁと思ったりして、
そしてことが起こりまして、だんだんそれが明らかになっていくその過程でも、
彼女の話を聞く役割は佐々木アナですね。
女性アナウンサーのトップをやっていた佐々木アナ一人に、
任せきりになっておりまして、
一度も彼女から直接経営人というか意思決定に関わる男性陣は話を聞いていないんですよ。
私はこの本を読んで、ここが一番やっぱ判断を間違った要員だと思いましたね。
調査報告書は非常に読み応えがある魂の報告書というふうにこの本では書かれてますが、
すごいボリュームの報告書なんですよ。
これ私も読んだんですけど、こんなふうに、いかに間違ったか、
ここでこういうことをしなかったっていうのがどういうことなんだっていうのを、
事実を書きながらですね、書いている人の思いみたいなのが乗っかっていて、
報告書ってこんなに気持ちのこもったものなんだっていうのを結構びっくりしたというか、
印象的でした。よかったら皆さんもちょっと時間があればぜひ見てみてください。
テレビの報道とかニュースでは部分的にしかピックアップされないので、
2人の間に何があったんだっていうところに注目が行ってしまいがちですけれども、
読み応えがあるのはですね、どこで会社の判断というか組織の判断がずれていってしまったのかというところなんですよね。
私が思った判断を間違った要員は結局彼女の声が届いていなかったんじゃなくて、
声をそもそも聞こうとしなかったっていうところにあって、
なぜかというと女性のケアを最優先であるっていうふうな言い方をされているんですけれども、
実際はですね、これは私の解釈ですけれども、
女性へのケアを最優先という言い方をしながら向き合うことから逃げた、避けたわけですよね。
それはつまり、もしかしたら自分の言動で様態が悪化してしまうかもしれない、極端な方向に触れてしまうかもしれないということを、
相手のことをおもんぱかって言っているように見えて、違うんですよ。
これは自分が失敗をこくのが怖かっただけで、守りたかったのは自分なんですよね。自分の地位なんです。
というのはちょっと私の穿った解釈で行き通り過ぎかもしれないんですけれども、
その国名な調査報告書と、それをピックアップしながらの小川さんの分析を読みますと、皆さんそれぞれに、
ここが悪種だったなって気づくポイントがあるんじゃないかなと思います。
そんな非常にリードアビリティが高くてですね、引き込まれる今年ずい一と呼べるようなノンフィクション本でした。
そんなわけで、集団占領のメカニズムを非常に面白く読んだんですけれども、
ただちょっと疑問が残るところがありまして、副題にもある通り優秀だった男たち、
個人だったら優秀なはずの人が、業種性の高い集団の一員となったせいで浅い思考に陥ってしまうという説明だと思うんですね、この本は。
まあでもそうだったのかなと思う部分もありまして、そこでもう一冊の方をご紹介したいと思います。
サラ・アーメットの分析
サラ・アーメットさんの苦情はいつも聞かれないはどんな本かと言いますと、大学組織の中で苦情という言い方はなんかちょっとカスタマーハラスメントみたいなニュアンスがありますが、
そういうことではなくて、セクハラとか差別とかそういったものを訴えた学生とか教員の人たちのたくさんの聞き取りをもとに、
なぜ声は声を上げたのに声は書き消されるのか、なぜ苦情は制度的に無力化されてしまうのかっていうのを分析したノンフィクションになっています。
書者のサラ・アーメットさんご自身が学者であり研究者でありながら、大学のハラスメント問題の対応に対して抗議をして所属の大学を辞職したという経験がある方で、そこをつつっております。
この本もフジテレビ問題とちょっと関連しそうなんですけれども、まさに苦情を言った人が退職、転職を余儀なくされるとか、加害者側が組織に残り続けるっていう非対称性を指摘しています。
苦情を申し立てた人に対して協調性がないとか、あの人おかしいとか、空想なんじゃないかとか、個人的な恨みなんじゃないかみたいな疑問を投げかけることで声を上げにくくさせる、悪者を転換してしまうっていうことだったりとか、正しく記録に残らないっていうことが起こりやすいと。
それらを形なき暴力と呼んだりしていて、なるほどと思いましたね。
そして、もう一つ印象的だったのは、権力の温床というのは非公式なポリシーに存在するとありました。
例えば、昇格とか罰的みたいなものって、大体人事ポリシーというかルールがあると思うんですけれども、そういうのが決まっていたとしても、公式なポリシーが決まっていても、成績が例え同レベルであっても、
あいつとは一緒にお酒を飲みたくないなとか飲みたいとか、よく一緒にいるから、あいつのことはよく知ってるから、みたいなことで男の人が結果的に有利になったりするっていうのを、権力の温床となる非公式なポリシーとして解説しています。
たぶんですね、女性アナウンサーの起用とか交番っていうのも、非公式なポリシーの温床だったように想像されますね。
声を上げるとキャリアに不利になる、声を上げづらくするプレッシャーっていうのは、男女関係なくあると思いますし、
このサラ・アーメットさんの方の中には、人種の違いですとか、育ちの違い、出身校の違いとか、いろんな差別の対象になりやすい差異があると思うんですけれども、
そういったことも相まって、声を上げづらい立場の人がいたり、声を上げづらくする集団からの異物とみなされた人たちを排除したり、抑えつけたりするような作用、力を組織的ハラスメントとして書かれています。
非常に腑に落ちたんですよね。組織的ハラスメント、直接ハラスメントをしたわけじゃないけど、隠蔽するというか、声を上げた人の方を居づらくする力自体が組織的ハラスメントなのかもしれないなと思いました。
集団と個人の関係
かつ、こういった声を上げづらくするプレッシャーをかける側の人は、当事者と会いたがらない、距離を取りたがるとも書いてあって、なるほどまさにと思いました。
そんなわけで、フジテレビ問題は集団占領であったかもしれないけど、これは組織的ハラスメントでもあったかもしれないと思いましたね。
全員が全員思考停止に陥ってたわけじゃないんですよ。この集団占領小笠の本を読むとですね、これはまずいって、個人的な判断で動いたり、声を通そうとしたところは何回もあって、
佐々木アナとか人事局長だった人かな、でも結局声は中枢に届かなかったわけじゃなくて、聞かれなかったんですよね。
佐々木アナも人事局長も、結局大事な決議をされる場には呼ばれてないんですよ。
まあというようなことをちょっといろいろ考えながら、すぐにでも自分の組織と重ね合わせてしまうところもありましたし、
こういうことって起こり得るなーっていうところがね、いっぱいありましたけどね。一方の苦情はいつも聞かれないはですね、
集団占領はグイグイ読ませる、無駄のない文章って感じで、さすが小笠さんって感じなんですけど、に比べると苦情はいつも聞かれないの方は、
比喩が多くてですね、独特の描写なんですよ。それはそれで面白かったですし、ただまあちょっとどんどん読むってだいぶじゃないので、読みこなすのに大変時間がかかりました。
でも読んでよかったと思える一冊です。税込みです。3000円くらいするかな。
なんでまあちょっとよいしょって感じの思い切りが必要なんですけど、思い当たるところがあった方はぜひ読んでみてください。
さて最後は苦情はいつも聞かれないから紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
組織を守ることについて私たちが語る時、一部の同僚を他の人たちに優先して守ることだけでなく、一部の同僚を他の人たちから守ることも語っている。
一人の人間を守ることが組織全体を守ることにつながっていると語っている。
誰が該当者になるのかには歴史がある。誰が該当者にならないのかには歴史がある。
とあります。これはちょっとですね皮肉が混ざっているから一瞬で理解しづらいんですけれども、私のこの解釈としてはですけれども、
誰かを守るふりをして今までの仲間を裏切らない、俺たちの仲間を裏切らないということを優先しているということが実はよくよく起こり得るという話かなと思います。
この集団組織を守ろうという強い作用は必ずしもトップダウンで起こるわけじゃなくて、トップを配慮した結果起こったり、
誰かが誰かを配慮して仲間を裏切らないということを優先した結果、集団の外と中を作りということですかね。
こういった構図は本当日本のトラディショナルの会社や学校だけで起こっていることでもないんだなあっていうのをこの本を読みながら思いました。
車やビドットさんぜひ頑張ってください。頑張りましょう。また経過展開があれば教えてください。
さてそろそろお時間になってしまいました。
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お届けしたのは講談社のバタヤンこと川端理恵でした。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみ。