#24-1 ヴィーガンになるべきか?:その卵の生産過程を知っていますか?ー工場畜産の現状
今回から新シリーズ!「ヴィーガンになるべきなのか」について考えます。 初回のテーマは「工場畜産の現状」です。 みなさんは身の回りの畜産物の生産方法についてどれくらいご存じでしょうか? 採卵鶏の例を中心にしながら、飼育や処理の問題点、畜産動物の規模などについて紹介します。 次回以降は、これを出発点に、倫理学の代表的な理論はこの現状をどう評価するのか、個人の動物性製品の消費については何が言えるのかなどについて考えていきます。 飼育の問題点 / 正常行動が制限される / 痛みを伴う処置が多く、麻酔なしで行われることが多い / 病気や怪我の発生率が高い / 輸送中の特に劣悪な環境 / 屠畜前の処理方法と屠畜そのものの方法が悪い / 非常に混雑し、汚れた生活環境 / 他の動物たちについても少し / あなたのペットが同じ目に遭っていたら? / 畜産動物の数 / 現状を変えるためにできること 参考文献 新村毅編『動物福祉学』(昭和堂, 2022年)〔2024年に増補版も出ているが今回のポッドキャストでは最初の版を参照している〕 採卵鶏の飼育面積 2021年の一般社団法人日本養鶏協会報告「わが国における採卵鶏ケージ飼育の実態」:https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010938048.pdf 2018年1月-2019年10月に飼育されていた合計125群鶏 アンケート用紙は, 16道県14養鶏場の125鶏群の成績として回収することが出来た(配布養鶏場数に対する回収率は48%)。 群あたりの飼育羽数:1-13.3万羽 結果、すべての群が1羽あたり470cm2で飼育 [公益社団法人 畜産技術協会]「採卵鶏の飼養実態アンケート調査報告書」(2014年):https://jlta.jp/test/wp-content/uploads/2023/12/factual_investigation_lay_h26.pdf 420件中377件、90%が550cm2未満.約半分が430cm2未満 採卵鶏の体の大きさ:成鶏(23週)胴の長さが20.7cm 岡山畜産協会「鶏の成長過程における鶏体各部の大きさ」https://okayama.lin.gr.jp/tikusandayori/s3705/tks05.pdf A4紙でも623.7cm2。B5紙で467.74cm2 日本の採卵鶏のほとんどがB5サイズのスペースで一生を過ごす 採卵鶏の骨折率が高い Farmed bird welfare science review: https://agriculture.vic.gov.au/livestock-and-animals/animal-welfare-victoria/livestock-management-and-welfare/farmed-bird-welfare-science-review 輸送の問題 アニマルライツセンター「採卵鶏 あまりにむごい最後の一日。屠殺場での長時間放置」https://www.hopeforanimals.org/eggs/chickens-are-left-for-long-hours-before-slaughtering/ アニマルライツセンター「出荷時における鶏への暴力-関係機関の対応」: https://www.hopeforanimals.org/eggs/482/ 厚生労働省(2018年):食鳥処理場における鶏の保管状況に関する調査の結果について: https://www.hopeforanimals.org/wp-content/uploads/2019/03/%E3%80%90%E5%8E%9A%E5%8A%B4%E7%9C%81%E3%80%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%E9%80%9A%E7%9F%A5.pdf 屠殺の問題 https://www.hopeforanimals.org/eggs/chickens-are-left-for-long-hours-before-slaughtering/ 厚生労働省(2018年):食鳥処理場における鶏の保管状況に関する調査の結果について: https://www.hopeforanimals.org/wp-content/uploads/2019/03/%E3%80%90%E5%8E%9A%E5%8A%B4%E7%9C%81%E3%80%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%E9%80%9A%E7%9F%A5.pdf アニマルライツセンター「環境省、厚生労働省、国会議員に事前の意識喪失なしの屠殺禁止を求め、あなたの声を届けてください」: https://www.hopeforanimals.org/ban-cruel-slaughter/ 世界全体の畜産動物の数(屠殺数) Global Animal Slaughter Statistics & Charts: https://faunalytics.org/global-animal-slaughter-statistics-and-charts/ 日本の畜産動物の数 採卵鶏飼養羽数(令和6年)170,776,000羽(種鶏含む) ブロイラー飼養羽数(令和6年)144,859,000羽 豚(令和6年確報)8,798,000頭 「畜産統計調査 令和6年確報」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500222&tstat=000001015614&cycle=7&year=20240&month=0&tclass1=000001020206&tclass2=000001223340 ケージ飼育の割合(出典:アニマルライツセンター「日本のケージフリー飼育の鶏の割合は1.11%、ケージ飼育が98.89%(2023年調査結果)」: https://arcj.org/issues/animal-welfare/1percent-cage-free/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E9%A3%BC%E8%82%B2,%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%EF%BC%89%20%2D%20%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%84%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC ) ケージフリー飼育のリスク ケージ飼育の死亡率は変化していない(上昇している)が、ケージフリーでの死亡率は年々下り、ケージを下回っている Schuck-Paim, C., Negro-Calduch, E., & Alonso, W. J. (2021). Laying hen mortality in different indoor housing systems: a meta-analysis of data from commercial farms in 16 countries. Scientific reports, 11(1), 3052. https://doi.org/10.1038/s41598-021-81868-3 「従来型のケージ飼育を除き、各システムでの経験が蓄積されるにつれて死亡率は徐々に低下することが示されています。2000年以降、ケージフリーの鶏舎での経験年数が増えるごとに、累積死亡率は平均0.35~0.65%低下しており、近年ではケージ飼育とケージフリーのシステム間で死亡率に違いは見られません。経営に関する知識が進歩し、遺伝学が最適化されるにつれ、ケージフリーの飼育方法に移行する新しい生産者は、さらに速いペースで死亡率が低下する可能性がある。我々の結果は、ケージフリーの生産方法では死亡率が本質的に高いという考えに反対するものである。」(要旨より) 値段が高いと言うが・・・・ 放牧・放し飼い・フリーレンジとケージフリーは異なる。ケージフリーは必ずしも運動場を設置するとは限らず鶏舎内で鶏たちが運動できるようにしたエイビアリーシステムなどもある。このタイプだとフリーレンジよりも多くの羽数を飼育できるため1羽あたりの生産コストが下がる。フリーレンジだと1玉100円くらいする卵も売られているが、ケージフリー・平飼い卵の場合、それほど価格が高くなるわけではない。 例えば2024年12月時点でイオン・トップバリュ平飼いたまご 10個入は398円(税込価格429.84円)で販売されている(https://www.topvalu.net/ge_hiragaitamago/)これはMサイズ卵の6年間平均価格(https://www.jz-tamago.co.jp/business/souba/monthly/ )の1.89倍、Mサイズ卵2024年の最高値314円の1.26倍ほど。
#17 ウェルフェアはどこまで重要か? 廃絶主義者と新福祉主義者で議論してみた
畜産動物たちが過酷な状況にあるという認識は、ヴィーガニズムや動物倫理に関心のある多くの人に共有されていることかと思いますが、この問題に対して取ることのできるアプローチは様々です。 今回のエピソードでは、廃絶主義と新福祉主義のふたつの立場に分かれてディベートを行いました。この議論を通じてどの立場が正しいかに白黒をつけたいというよりも、それぞれのアプローチの背後にありうる様々な考え方を知って、皆さんの今後の取り組みに活かしたり、参加する団体を適切に選べたり、ときには異なる立場に立つ人たちや団体の間で協力し合う場面がでてきてもらえればと考えています。 前半のエピソードでは、廃絶主義と福祉主義、新福祉主義という分類を出発点にしながらも、畜産動物の問題へのアプローチの仕方についてさらに細かく見ていきました。そちらもぜひお聴きください。 エピソードの中で話した分類はこちらの表にもまとめています。 ■「アニマルウェルフェア」とは? 世界動物保健機関(WOAH, 旧国際獣疫事務局(OIE))はアニマルウェルフェア(「動物福祉」と訳されることもあります)を「動物の生活と死の状況に関連した動物の身体的および心理的状態」と定義しています。畜産動物のアニマルウェルフェアを向上するとは、農場にいる動物たちの身体的/心理的苦しみを減らし、その自然な欲求を満たせるようにすることです。 ■参考文献 そもそも工場畜産の何が問題か? Peter SINGER – Ethics, Animals and Intensive Farming —– 27-34 肉食者が非ヒト動物の心的能力を不適切に低く見積もり、道徳的地位を低く見積もり、非ヒト動物が資源として利用され続けることへの傾向をもっていることを示す心理学実験 Bastian, B., Loughnan, S., Haslam, N., & Radke, H. R. M. (2012). Don’t mind meat? The denial of mind to animals used for human consumption. Personality & social psychology bulletin, 38(2), 247–256. https://doi.org/10.1177/0146167211424291 Caviola, L., Everett, J. A. C., & Faber, N. S. (2019). The moral standing of animals: Towards a psychology of speciesism. Journal of personality and social psychology, 116(6), 1011–1029. https://doi.org/10.1037/pspp0000182 Leach, S., Sutton, R. M., Dhont, K., Douglas, K. M., & Bergström, Z. M. (2023). Changing minds about minds: Evidence that people are too sceptical about animal sentience. Cognition, 230, 105263. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2022.105263 廃絶主義の立場から行われている/提案されているアプローチの具体例: Part 3/4: Scrutinising Objections to (Traditional) Abolitionist Approaches — EA Forum Part 4/4: Under-explored Abolitionist Approaches — EA Forum 日本語で読める動物権利論(廃絶主義の根底にある考え方)の入門書 ゲイリー・フランシオン『動物の権利入門―わが子を救うか、犬を救うか』 井上太一『動物倫理の最前線』第二章「道徳哲学」 新福祉主義的なアプローチの代表例「ケージフリー運動」に関する文献 効果的利他主義:なぜケージフリー運動が大事か Corporate campaigns affect 9 to 120 years of chicken life per dollar spent 【追加】動物を助けたいなら、他人の食事よりも企業に注意を向けよう。 【追加】アニマルウェルフェアの認知度、25%へ:認知度調査2024 【追加】How Factory Farming Ends
#16 アニマルウェルフェアについて考える――廃絶主義と新福祉主義
畜産動物たちが過酷な状況にあるという認識は、ヴィーガンや動物倫理に関心のある多くの人に共有されていることかと思いますが、この問題に対して取ることのできるアプローチは様々です。今回のエピソードでは、廃絶主義と福祉主義、新福祉主義という分類を出発点にしながらも、畜産動物の問題へのアプローチの仕方について、さらに細かく見ていきます。 エピソードの中で話した分類はこちらの表にもまとめています。 次回は、廃絶主義と新福祉主義のふたつの立場に分かれてディベートを行う予定です。 今回のエピソードを通じてどの立場が正しいかに白黒をつけたいというよりも、それぞれのアプローチの背後にありうる様々な考え方を知って、皆さんの今後の取り組みに活かしたり、参加する団体を適切に選べるようになってもらえればと考えています。 ■おたよりはこちらから https://forms.gle/jeEHyG2U5oTdje5m8 ■「アニマルウェルフェア」とは? 世界動物保健機関(WOAH, 旧国際獣疫事務局(OIE))はアニマルウェルフェア(「動物福祉」と訳されることもあります)を「動物の生活と死の状況に関連した動物の身体的および心理的状態」と定義しています。畜産動物のアニマルウェルフェアを向上するとは、農場にいる動物たちの身体的/心理的苦しみを減らし、その自然な欲求を満たせるようにすることです。 ■参考文献 そもそも工場畜産の何が問題か? Peter SINGER – Ethics, Animals and Intensive Farming —– 27-34 肉食者が非ヒト動物の心的能力を不適切に低く見積もり、道徳的地位を低く見積もり、非ヒト動物が資源として利用され続けることへの傾向をもっていることを示す心理学実験 Bastian, B., Loughnan, S., Haslam, N., & Radke, H. R. M. (2012). Don’t mind meat? The denial of mind to animals used for human consumption. Personality & social psychology bulletin, 38(2), 247–256. https://doi.org/10.1177/0146167211424291 Caviola, L., Everett, J. A. C., & Faber, N. S. (2019). The moral standing of animals: Towards a psychology of speciesism. Journal of personality and social psychology, 116(6), 1011–1029. https://doi.org/10.1037/pspp0000182 Leach, S., Sutton, R. M., Dhont, K., Douglas, K. M., & Bergström, Z. M. (2023). Changing minds about minds: Evidence that people are too sceptical about animal sentience. Cognition, 230, 105263. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2022.105263 廃絶主義の立場から行われている/提案されているアプローチの具体例: Part 3/4: Scrutinising Objections to (Traditional) Abolitionist Approaches — EA Forum Part 4/4: Under-explored Abolitionist Approaches — EA Forum 日本語で読める動物権利論(廃絶主義の根底にある考え方)の入門書 ゲイリー・フランシオン『動物の権利入門―わが子を救うか、犬を救うか』 井上太一『動物倫理の最前線』第二章「道徳哲学」 新福祉主義的なアプローチの代表例「ケージフリー運動」に関する文献 効果的利他主義:なぜケージフリー運動が大事か Corporate campaigns affect 9 to 120 years of chicken life per dollar spent