二郎さんの入院とコミュニケーションの開始
こんにちは。お聞きいただきありがとうございます。あきねです。
こちらは、2人の小学生の子を持ついちお母さんの私が、ASDの息子を通して出会った行動分析学について語るチャンネルです。
私が初めて教科書として買った行動分析学の本は、杉山直子先生の、「行動分析学入門第2班」という青い本です。
中にはたくさんの興味深いお話があり、終始目が輝いてしまうのですが、その中の一つ、言葉を取り戻した男を取り上げさせてください。
まず注意書きとして、本書に登場する人物の多くは架空の存在であるが、紹介している事例は実際に行われた研究に基づいている。
という文章とともに、それぞれの事例について元になった論文が記載されています。
この本で、言葉を取り戻した男として登場するのは、二郎という男性です。
二郎は21歳の時に、ある病院の精神科に入院しましたが、入院したその日から一言もしゃべらなくなり、なんとそれから19年、黙ったままです。
ということは、二郎さんは40歳ですね。
19年間しゃべらなかった人が、どうやって言葉を取り戻したのでしょうか。
ここに、二郎さんが入院している精神科の陽子先生が登場します。
行動分析学に詳しい先生です。
ある二郎さんを含む患者さんたちとのセッション中のこと。
陽子先生がポケットからペンを取り出したら、一緒に入っていたチューインガムがポロリと落ちました。
すると、二郎さんはそのガムを見ました。
実は二郎さんが何かに反応するということ自体、とても珍しくて、
普段は外界の出来事を全てシャットアウトしているかのように、何に対しても無反応だったんです。
そんな二郎さんが、自分の外の世界で床に落ちたガムを見た。
陽子先生は見逃しませんでした。
そして、もしかしたらこのガムが二郎さんにとっての好子、つまり行動を増加させる作用のあるものとして使えるかもしれないと思いました。
さて、二郎さんにしてほしい行動の最終目標は、言葉を発することです。
でも今の彼は、声を全く発しないどころか、外の世界に反応を示すことすら滅多にない状態。
これは作戦を考えなければいけません。
陽子先生はまず、次のセッションの際、二郎さんの顔の前にガムを一枚出し、そのガムを彼が見るまで待ちました。
そして見た瞬間、即座にガムを二郎さんの口に近づけます。
言葉を取り戻す過程と感動
すると二郎さんは口を開けてガムを噛みました。
これを何日か続けるうちに、先生がガムを差し出すと、いつでも二郎さんはガムを見るようになりました。
そんな頃、二郎さんの唇が少し動くのを目にした先生は、ガムを見るという行動だけでなく、唇を動かすという行動もガムを好子に使って強化していきました。
さあ、ガムを見るという行動と唇を動かすという行動が出てくるようになった二郎さん。
ここで陽子先生は二郎さんへの介入の仕方を変えます。
彼の前にガムを差し出す。二郎さんはガムを見る。
でも今度は今までと違って、見るだけではガムを渡しませんでした。
すると二郎さん、何か音声を発したんです。
すぐさま先生はガムを渡して強化します。
続けることで、二郎さんは頻繁にかすれた音を発するようになりました。
そしてある日、かすれた声を出した二郎さんに先生は、「ガムと言ってみて。」と促します。
はじめのうちはガムとは似ても似つかない音でした。
なので先生はガムに似た音が出るまで待ち、よりガムに近い発声を強化していきました。
19年前までは言葉を話していた二郎さんですので、その後陽子先生と会話ができるようになり、
さらに繁華が進んで他のスタッフさんとも話すようになりました。
はい、言葉を取り戻した男はそんなお話です。
この事例、まるっきり物で釣っていますよね。
どう思われるかはそれぞれだと思います。
じゃあ私はどう感じたかというと、感動しました。
行動分析学の可能性にですね、自閉症の息子の独特さを間近で見ているからかもしれません。
どういうことかと言いますと、まず多くの人は自分の行動を自然な形で都度都度選択していると思います。
それはその人がこれまでに獲得してきた行動のレパートリーがあるからです。
でも息子はこの行動レパートリーを広げる力自体に大きな凸凹があります。
そんな状態にある人に、本人ができる行動の新しい回路を作ってあげることができるのであれば作ってあげたいです。
その上で本人と共に生きる人が選んでいけばいいと思っています。
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ABAで広がれ!シンプルで楽しい生き方。
今日も大事なものを大事にできる一日を。あきねでした。