物語の導入と設定
絶望カフカの何者かになりたいラジオ、この番組は元アスリートのカフカが、日々の絶望と些細なヒントをお送りするラジオです。
さて、最近暑いですね。最近というか、もうずっと暑いですね。
僕は毎日、毎晩アイスを食べておりまして、なんか最近ちょっと腹の肉がついてきたなっていう感じがしてるんですよね。
ちょっとまずいですよね。ちょっとちゃんと走んないとって思ってます。
そんな雑談は去っておきですね。
今回ご紹介する本は、イヴァン・レピラさんという方が書かれた、深い穴に落ちてしまったという小説ですね。
こちらの小説が、およそ100ページぐらいでして、すぐ1日ぐらいで読める小説になってます。
早くネタバレを避けてお話していきたいと思うんですが、何も聞きたくないよという方は、今回はスキップしていただければと思います。
こちらはスペインの作家さん、イヴァン・レピラさんによる偶話ですね。
あらすじを簡単に説明すると、2人の兄弟が深い穴に落ちてしまったところから始まるんですよね。
この物語の中で彼らはなぜ穴に落ちたのか、誰に落とされたのかというのは一切語られません。
そしてこの2人の名前すら明かされないまま、ただひたすら穴の底の中での生活が描かれていくんですよね。
上の世界にはすごい光が射しているんですけど、深い穴の底っていうのはジメジメして真っ暗な世界です。
兄は弟を守ろうとするんですけれども、当然食糧もないので、次第に体力が尽きていって、最初の方はね、2人でなんとか明るく生きていくんだということで、
なんかこうジェスチャーゲームとかをして、ユーモア交えて生きていくんですけれども、次第に時間が経つにつれて、どんどん希望を失っていきます。
そんな中、弟はなんとか脱出できないかということで、穴を掘ったり、もしくはその穴に向かって、上の穴に向かって登ろうとしたりして脱出を試みるんですけど、
いろんな努力をした成果は虚しく空回りしていきます。
その極限状態の中でですね、弟は幻想を見て、頭がおかしくなっていくんですね。
食糧も、これあんまり綺麗な話ではないんですけど、水分も取れないということで、近くにいる虫を食べてなんとか流れていく。
その中、二人の人間としての尊厳がだんだん失われていく中で、暴力的な部分が出てきたりとか、いろんな人間らしさみたいなのが滲み出ていく様子っていうのが描かれていきます。
物語はそこから、二人がどうやってこの穴から脱出しようとしていくのかというパートに移っていくんですが、そこはネタバレになるのでお話はしないでいきたいなと思っています。
僕がまず思ったのは、この深い穴というメタファーが何なのかなっていうのはずっと考え続けていたんですよね。
それは、例えば国家の政治の圧力みたいなところなのかもしれないし、何か理不尽な目にあったチームみたいなところなのかもしれないし、不合理な目にあっている様子なのかもしれないし、
あるいは何かの人間関係に絶望している様子なのかもしれないし、何か深い穴のメタファーというのも感じ取れるかなというふうに思いました。
絶望と兄弟愛
そんな中、この二人の兄弟がユーモアを交えながら希望を見出そうとする様子というのが、非常に心に訴えかけてくるような描写というのがいくつかあったんですよね。
それが僕、この物語を読んでいてすごくいいなというふうに思いました。
特にお兄さんが弟に対して最初、僕は弟のことがもしかしたら好きなのかもしれないなという描写があるんです。
それは自分自身に対しても疑いの目を設けながらも、おそらくそうだろうというふうに思いながら、でもだんだん弟の様子がおかしくなっていくんですよね。
さっき言ったみたいに、人間としての尊厳がだんだん失われていって、だんだん人間ではなくなっていってしまう。
でも兄として冷静でいなければならないというふうに思いながら、そこから本当に自分は自分のことのように弟を大事に思っているんだということに兄が気づいていくんです。
その兄の変化というのが僕はこの物語の中で一番いいなと思ったところなんですよね。
ちょっとその兄と弟のやりとりというのを会話形式で続いていくところが僕はすごくいいなと思った箇所があるので、そこを一部引用しながらお伝えしていきたいなと思っています。
兄は弟に言う。
お前が生まれた時にはな、医者が来るのが間に合わなかったんで、俺が母さんの腹から取り上げたんだぜ。
台所が血の海になってお前は豚みたいにピーピー鳴いていた。
どうすれば鳴き止むのかわからなかったから口に指を突っ込んで吸わせてやったんだ。
母さんは眠っていてお前もしばらくすると寝てくれた。
でもちっちゃいし胸は上下していないし動きもせずにじっとしている。
俺は慌てたよ。
死んじまった指が汚かったから毒でも回ったんだそう思って大声を上げた。
声がでかすぎてお前は目を覚ましたが俺はそれでもまた叫んでいた。
とんでもない世界に来ちまったとお前は思ったことだろう。
とんでもない世界に来ちまったとお前は思ったことだろう。
俺はその後何週間も何ヶ月もそれを考えて眠れなかった。
弟は言う。どうして僕にそんな話を聞かせてくれるの?
兄は言う。死ぬのは怖くないってことをわかってもらいたいからさ。
俺は死んだらすべてが終わっちまうと考えてるわけじゃない。
生きてる間には思い切ったやり方を取るしかない状況に追い詰められることもあるだろう。
とてつもない犠牲を払うような状況にね。
俺はそれを受け入れられる。
しかしお前がこの穴みたいな寒々としたところで成長することだけは我慢ならない。
惰性に流されるだけの文明に生きて安らぎを知らずに朽ち果てる墓場でな。
野原に咲くこともなく枯れてしまう花みたいに。
俺はお前が死ぬことを想像すると世界がちっぽけなものになっちまうんだよ。
っていう会話をするんですよね。
なんとも詩的な会話というか、
お兄さんはとってもドラマチックな人なのかなって思います。
ここまで来て、ちょっとこの二人がですね、
人間じゃないんじゃないかなって思うような、それを示唆するような場面もあったりするんですけど、
台所とか医者っていうキーワードが出てくるんで、
二人は間違いなく人間なのかなっていうふうにも思います。
で、この時、兄はきっと自分で話しながら、
ああ、きっと自分の命より弟の命の方が大事なんだなっていうことに
気づいたんじゃないかなっていうふうに思うんですよね。
最終的な思索とメッセージ
実際にこの会話からいろんな展開を迎えていくんですけれども、
まあ兄の決意のような、
言葉だったのかなっていうふうに僕の中では感じ取れました。
まあこの物語は兄弟愛を描いている物語とも取れるんですが、
なんか僕の中では兄という一人の文人、弟という文人がいて、
この深い穴というのが、
つまり心の穴の中での文人同士が手を取り合って、
仲良くしようとしているみたいな風景をちょっと思い浮かんだんですよね。
それは直近で平野啓一郎さんのエッセイを読んだっていうのもあるのかもしれないですが、
そのエッセイを読んだ時に、
まあちょっと思い浮かんだんですよね。
それは直近で平野啓一郎さんのエッセイを読んだっていうのもあるのかもしれないですが、
そういうふうに考えると絶望する状況の中で、
相反する自分みたいなのがいて、
それで必死に過去の自分、相反する、
なかったことにしようとしている過去の自分というのを、
やっぱりお前の方が大事なんだって思える。
なんかそんなことがもしかしたら絶望の中であったのかもしれない。
なんかそんなふうに思ったりしたんですよね。ちょっと飛躍しすぎですかね。
まあというのもこの物語自体がとても抽象的に描いていて、
ある一つの答えをあえて出させようとしていないみたいな部分があるので、
いろんな読み方ができるんじゃないかなというふうに思います。
クライマックスの結末の部分はお話していないので、
そこの部分のミステリーとしての面白さもあるので、
ぜひ読んでみていただければと思います。
というわけで今回は、深い穴に落ちてしまったをご紹介していきました。
最後までお聞きくださりありがとうございました。ではまた。