生物発光のメカニズム
生き物が自ら光る現象、生物発光。科学を学ぶあなたなら、その仕組み気になりますよね。
ええ、非常に興味深いテーマです。
今回は、ホタルやクラゲがどうして光るのか、その科学反応の基本から、
GFPを使った細胞観察とか、眼診断への応用、さらには量子化学が解き明かす古代ホタルの光の色まで、
講義資料や論文を基に、その革新に迫っていきましょう。
そうですね。生物発光というのは、科学エネルギーを光エネルギーに変換する、非常に効率的な反応なんです。
基礎的な反応メカニズムから、ノーベル賞にもつながった応用技術、それから計算科学を使った最新の研究まで、
分子レベルで何が起きているのか、一緒に見ていきましょうか。
はい。では、まず基本の基ですけど、ホタルはどうやって光るんでしたっけ?
あ、はい。ホタルの体内にはですね、ルシフェリンという発光する機質と、それからルシフェラーゼという酵素があるんです。
ルシフェリンとルシフェラーゼ。
これらがATP、エネルギー追加ですね。それと酸素を使って反応します。
まずルシフェリンが活性化されて、次に酸化されるとジオキセタンという非常に不安定なエネルギーの高い中間体ができるんですよ。
あ、不安定な中間体。科学反応ではよく聞きますね。それがポイントですか?
まさに。このジオキセタンが分解するときにですね、生成物であるオキシルシフェリンというのが、エネルギー的にすごく高い景気状態になるんです。
景気状態。
例えるなら、分子が階段を一気に駆け上がったみたいな状態ですね。
で、その分子が安定な既定状態、元の階に降りるときに、余分なエネルギーを光として放出すると。
なるほど。
これが生物発光の輝きの正体なんです。
GFPの応用とガンのイメージング
エネルギーの階段を上り下りする、そんなイメージですね。分かりやすいです。
で、この光る仕組み、実は私たちの生活にも役立つ応用がどんどん進んでるんですよね。
ええ、そうなんですよ。代表的なのは、やっぱり下露秋博士のノーベル科学賞につながったオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質、GFPですよね。
GFP、これは有名ですね。生物学の研究を大きく変えたとか。
まさに革命をもたらしました。
具体的には、GFPで何ができるようになったんですか?
あのですね、遺伝子光学の技術で、調べたいタンパク質にGFPを、いわば蛍光のタグとしてくっつけるんです。
ふむふむ、目印をつけるんですね。
そうです。すると、生きた細胞の中で、そのタンパク質がどこでどんな風に動いているのかっていうのを、まるで映画みたいにリアルタイムで観察できるようになったんです。
ええ、生きたまま分子の動きを追えるなんて。
そうなんです。例えば細胞が分裂するときの染色体のダイナミックな動きとか、あれを可視化できるようになったのは本当に大きな進歩でしたね。
すごい技術ですね。じゃあ、ホタルの発光原理、ルシフェリン・ルシフェラーゼ系も応用されてるんですか?
あ、はい。使われています。特に医療分野ですね。ガン細胞のイメージングなんかで期待されています。
ガンのイメージングですか?
ええ。ガン細胞に集まりやすいように、ちょっと科学的に工夫したルシフェリン誘導体を投与して、ガン細胞の中にある特有の酵素とかで光らせることで、ガンの位置を特定しようという仕込みです。
なるほど。体の中から光らせて、外からガンを見つけると。でも、体の光って血液とかに邪魔されて見えにくいイメージがあるんですが。
あ、いいところに気づきましたね。おっしゃる通り、初期の緑色の光だと血液中のヘモグロビンなんかに吸収されやすくて、体の深いところはちょっと見えにくかったんです。
やっぱりそうなんですね。
そこで最近は、もっと体内を透過しやすい、波長の長い赤色の光、これを出す新しいルシフェリン誘導体、例えばアカルミネみたいなものが開発されてるんです。
あ、赤色の光。
これによって、生きたマウスの体の奥深くにあるかなり小さなガンでも、より高感度で検出できるようになってきています。
古代ホタルの光の色
へー、光の色を変えることで診断の精度が上がる可能性がある。とー、面白いですね。
そして今回、もう一つ注目したい研究がありましたよね。古代のホタルは何色に光っていたのかっていう。これはワクワクします。
中部大学の大葉先生たちのグループの研究ですね。約9000万年前、恐竜がいたような時代のホタルの祖先が持っていたとされる発光光素、これをアンシランプと名付けてるんですが、祖先配列復元っていう手法で現代に再現したんです。
祖先配列復元。遺伝情報から大昔の光素を作るって、なんだか分子レベルのタイムトラブルみたいですね。
まさにそんな感じですね。
で、その古代の光素アンシランプは何色に光ったんですか?
それがですね、実験で光らせてみたら驚いたことに緑色だったんですよ。
緑色?
えー、現代の、例えば日本のゲンジボタルが出す黄緑色とは確かに違う色でした。
緑と黄緑、わずかな差のようにも聞こえますけど、進化の上では大きな変化ですよね。
なぜ色が違うのか、その謎に分子レベルで迫ったのが千葉工業大学の山本研究室でのシミュレーション研究ということですよね。
その通りです。ここではQMMM法という計算科学の手法が使われました。
QMMM法。
これは反応の中心部分、つまり光る分子のあたりはすごく精密な量子化学QMで計算して、
その周りの大きなタンパク質環境なんかはもう少し簡略化した分子力学MMで計算する。
いわば良いとこ取りのシミュレーション法なんです。
なるほど。計算量を抑えつつ大事なところは正確にシミュレーションできると。
そういうことです。その結果、ちゃんと実験通り古代ホタルの光素アンシランプの方が
現代の光素よりも短い波長、つまり緑色側に光るということが再現できたんです。
計算でも再現できたんですね。
さらにチャージスキャニングという、これは山本研独自の解析手法なんですが。
チャージスキャニング?
特定のアミノ酸の電化をコンピューター上でゼロにしてみて、その影響を見るという方法で
これによって発光色を決めるカギが特定のアミノ酸残気と発光機質との静電的相互作用の強さにある
ということが示唆されたんです。
静電的相互作用。プラスとマイナスが引き合う力みたいなものですよね。
その強さが色に関係してるんですか?
そういうことです。具体的に言うとですね、現代ホタルの光素では発光機質と強く相互作用するアルギニン残気
これは精の電化を持ったアミノ酸ですが、その間に数個の水分子が入るちょっとした隙間があるんです。
水分子が入る隙間。
この水分子がクッションみたいになって、アルギニンとの相互作用を少し弱めるんです。
その結果、色が少し波長な長い黄緑色側にシフトすると考えられます。
なるほど。じゃあ古代の光素は?
古代の光素アンシランプの構造を見てみると、その隙間がほとんどなくて水分子が介在しないんです。
水が入らないんですね。
そうなんです。だから発光機質とアルギニン残気がより直接的に強く相互作用する。
その結果として、よりエネルギーの高い、つまり波長の短い緑の光を放つんだろうと。
へー。光素のポケットのわずかな構造の違い、水分子が入るか入らないか。
それが何千万年という進化の過程で、ホタルの光の色を緑から黄緑色へとチューニングしてきたかもしれないと。
そういう可能性が計算から示唆されたわけです。
いやー面白いですね。たった数個の水分子がカギかもしれないなんて。
今日は生物発光の化学反応の基本から医療への応用、そして計算科学が解き明かす古代ホタルの色の謎まで一気に見ることができました。
分子レベルの構造とか相互作用が目に見える光の色というマクロな現象につながっている。これぞ科学の醍醐味ですよね。
まさにそうですね。基礎的な化学反応が生命現象の理解とか最先端の技術開発の基盤になっているっていうのがよくわかります。
それにさらに驚異深いのは、ホタルの子のルシフェラーゼももともとは脂肪酸の代謝に関わるような全く別の機能を持っていた酵素が進化したものだと考えられている点ですね。
そうなんですか?光るためじゃなかった酵素が光るようになった。
そういう説が有力です。
それはまた面白い話ですね。では最後にあなたへの問いかけです。
生物はもともと別の目的で使っていた分子ツール、酵素のようなものをどうやって光るという全く新しい機能を持つように進化させていったのでしょうか?
その機能転換の分子メカニズム、ぜひ想像を巡らせてみてください。