書誌情報メモ。今井むつみ・秋田喜美『言語の本質——ことばはどう生まれ、進化したか』中公新書、2023年5月刊、全277ページ。以上です。
この本は、今井さんの『学力喪失』という新書を読んで、とても興味を持ち、その前の年に、『学力喪失』の出版された2024年の前の年の23年に(出版され)、(2024年の)新書大賞第一位という賞を受賞しているようですが、
とても有名な本のようですが、これを読みたくなりまして、早速購入し、今日読み終わりました。
結構ボリュームのある本でして、内容豊富で、一度読んだぐらいでは十分に消化できていないかもしれませんが、
でも、だいたい、著者の言いたいことは理解できたかなというふうに思います。
タイトルが『言語の本質』ということで、とても大きなテーマなんですけれども、
それを身近なオノマトペという言葉を手がかりにして、言語の本質に迫っていく、そういう探求の過程が書かれていまして、
とても面白くて、こういった賞を取るというのもよくわかる気がします。
この本ですね、前に読んだ学力喪失、つまり学ぶ力が今の子どもたちから奪われている、そういう状況に対して、
いやしかし、そういった子どもたちも赤ん坊の頃から素晴らしい学ぶ力を持っていたんだと。
つまり、何も教えられずに自分の力で言葉というものを獲得していった、そういう力がほとんど全ての子どもにあったはずなのに、
それがどうして学ぶ力が失われてしまっているのか、という問題につながっていく話で、
もともと人間はどうして言葉を学ぶことができるのか、これは言葉だけではなくて全てのことに言えるんですけれども、
あらゆることを学んでいくことができる、その学ぶ力というのは何なのかということを明らかにしたもので、
これは一言で言えば、記号接地ですね。つまり言葉というものと、それから身体的な感覚を結びつける、そういう力が人間にはあるということですよね。
ですので、その経験というのがとても大事だと。
特に私が印象に残ったのは、この経験というのは単に経験すればいいということではなくて、失敗というのがとても大事だということですね。
言葉の上での失敗と言いますと、いわゆる誤解とか言い間違いとかいうものなんですよね。
子どもはよくそういった言葉の誤解をしますね。大人から見るとちょっと変わった言葉の使い方をするわけです。
それを大人は正してあげて、子どもはだんだんと正しい言葉遣いを学んでいくんですけれども。
でもこの子どもの言い間違いというのは非常に理にかなっているということですね。
単純に子どもだから間違えるという、そういう単純な話ではなくて、これは子どもなりに非常に素晴らしい推論を行っていて、その推論によって間違ってしまったんだということです。
この推論をして間違うというのは、別に子どもだけではなくて、あらゆる新しい知識を獲得する人には共通のものなんですね。
科学の歴史、学問の歴史というのもまさにそういうものであったと。
さまざまな仮説を提出する。その仮説が間違っていたということがわかる。
それによって仮説を修正し、またそれをさまざまな検討に付してということで。
そうやってだんだんと妥当な考え方に進んでいくわけですよね。
これはまさに子どもが間違った言い回しから正しい言い回しを学んでいくのと同じことなんだという話で。
これは私、科学の歴史を学んでいるものなんですけれども、そういえば、ということで思い出したことがあります。
それはもうずいぶん前になくなったと思うんですけれども、トーマス・クーンという非常に有名なアメリカの科学史家がいました。
日本でも『科学革命の構造』という本で非常に有名になり、その中でパラダイムという概念が使われていて、
そのパラダイムという概念は一般の人でも普通に使う言葉になったかと思います。
もともとはこの科学史のさまざまな発展を説明する概念だったんですけれども、一般に思考の枠組みぐらいの意味で使われるようになりました。
そしてパラダイム・チェンジ、その思考の枠組みを変えなければいけないというような、そういう文脈でよく使われる言葉になったんですけれども。
このクーンがパラダイムという言葉を使った元は、もともと言葉の話なんですね。
ある西洋の言葉だと活用というのがありますけれども、その活用のパターンのことをパラダイムというふうに言ったりするわけですね。
それで外国語を学ぶにはそのパラダイム、活用のパターンをまず覚えて、それでそれをいろんな言葉に適応していく、そういう学び方をするわけです。
これは子どもが学ぶときはそういうやり方はしないんですけれども、大人が外国語を学ぶときには大体そのパターンを先に学んで、
それをいろんな言葉に適応していく。もちろん例外もいろいろあるわけですけれども、不規則な活用というのもあるので例外を覚えなければいけないですが、例外以外は大体そのパターンでうまく対応ができるわけです。
これは科学においても同じで、科学でもいろんな問題、例えば物理学の問題なんかもある現象を説明する、あるいは現象を科学的に解析する場合に、典型的な例題のようなものがあるわけです。
その例題を学生は学び、それをいろんな他の問題に適応していって、その科学上の法則とか概念とかをきちんと身につけていくということをやるわけですね。
そのパターンの全体みたいなものが、これもある種のパラダイムなわけですね。個々の事例もパラダイム、全体もパラダイムで、ちょっと同じ言葉をいろんな意味で使っているということはよくないので、そこは批判なんかもあったんですけれども、言いたいことはよくわかります。
その言葉を覚えるというのと、それから科学上の概念を覚えるというか、使えるようになるということは基本的に同じことなんだということを、クーンは言っていたように思うんです。
本当に科学史の様々な発展を言語学の比を使って解明したのがクーンの特徴かなというふうに思うんですけれども、ですので、この言語の本質というところで書かれている様々なことは非常に私にとってはピンとくるものでした。
私が学生時代にクーンの本を読んで感銘を受けたことが、単なる言語を学ぶときにそういうふうにやっているということを使って科学の方の説明をしたんですが、その言語自体を子どもはどうやって学ぶのかという、そこのところの解明ができた。
この本によってなされて、私としてはこれを基本として様々な科学的なあるいは学問的な概念の習得などにもつなげていくことができるのではないかなというふうに思うんですね。
そのときにとても大事なのがアプダクションという概念でして、何らかの事例からそこから一般化して、ある種の法則、これはまだ仮説なんですけれども、自分なりの仮説を組み立てて、
その仮説が正しいかどうかをいろいろ試して、ダメな仮説もあるわけですけれども、修正しながら正しい理論に近づいていくという、その考え方は全てのことを学ぶ上で大事なことだなというふうに思いました。
ですから本当にこれ思うんですけれども、失敗を恐れるというのが一番良くないんですね。失敗を恐れたらば何も学べないということですね。
気楽に自由に失敗ができる環境をいかに用意するかということが、人の学びを最大限に実現する一番根本的なものなのだなということもこの本を読んで感じたことですね。
大人になるとなかなか言葉を覚えるのは大変になりますよね。特に外国語、小さい子どもの頃から学んでいる英語を、多くの日本人はなかなかうまくしゃべれないという状況があると思います。
その理由は何かというと、やっぱり失敗を恐れるわけですよね。この言い方おかしいんじゃないかというふうにちょっとでも思うと言葉を発せられなくなってしまう。
特に大の大人と言いましょうか、失敗をあまりすることはカッコ悪いみたいな、専門家なんかもそうですよね。専門家、あるいは社会的に地位の高い人、そういう人たちが気楽に失敗できるというのはなかなかないので、
そうしますと、まだ習得できていない言語をしゃべって、失敗というか変な言い方をして、あれ間違った言い方をして恥をかくのは嫌だということで失敗を恐れると言葉を発せられないわけで、そうするといつまで経ってもしゃべれるようにはならないわけですね。
ですから、逆に言いますと大人でもいくらでも失敗していいような状況になれば、これはだんだんと学びが進むんじゃないでしょうか。
もし恥ずかしいというのがあるのであれば、今はAIというのがありますから、AIとしゃべってみるというのがいいんじゃないかなと思うんですね。
AI相手でしたら、いくら失敗しても恥ずかしくはないんじゃないかなと思うんですね。
ですので、思いっきり失敗しながらですね、AIと会話をし、外国語を習得するなんていうのもこれからはできるんじゃないかなと。
これは外国語だけではなくてあらゆることを学ぶ上でですね、AIと一緒に学ぶっていうのは一つの方法かなというふうに思います。
どんなに初歩的なことであってもですね、AIはバカにしたり笑ったりせずにですね、優しく教えてくれるはずですよね。
ですので、本当にこれは、特に恥ずかしがりや恥をかきたくない人にとってはですね、いい学習ツールが出てきたなというふうに思うわけですね。
ただ、本当はできれば生身の人間同士でですね、いくらでも失敗できるような環境が本当はあったほうがいい。
これは大の大人、社会的に地位の高い人でもですね、気軽に失敗できるようなそういう場がですね、本当はあったほうがいい。
今もですね、ないとは言えないんじゃないでしょうか。いわゆるサード・プレイスですね。
普段の人間関係とはちょっと違うところにですね、そういう自由な失敗が気楽にできる学びの場を作るっていうのも一つの方法かなというふうにも思いました。
ということで、この本はですね、いろんなことを思い出させてくれますし、また発展的に考えさせてくれる、そういう刺激に満ちた本だなというふうに思いました。
それではまた。