桐島滋さんの本「罪深きシリア観光旅行」とアルジャジーラの約1年前の記事から「セイドナヤ刑務所」と「移行期正義」について考える。
「罪深きシリア観光旅行」
著者:桐島滋
出版:産業編集センター
Al Jazeera Gallery, 9 Dec 2024
Families search Syria’s Sednaya Prison for loved ones after al-Assad’s fall
サマリー
このエピソードでは、シリアのセイドナヤ刑務所について考察されており、シリアの現状や刑務所の厳しい実態が語られています。また、過去のシリア観光旅行の回顧や、関連するアルジャジイラの記事を通じて、希望と絶望が交錯するシリアの現実を探求しています。シリアのセイドナヤ刑務所に焦点を当て、アサド政権下での人権侵害や家族の苦しみとともに、ダマスカスの光とセイドナヤの闇という対比が描かれています。解放の喜びと過去の闇と向き合う複雑な状況が強調され、この問題がシリア全体の現実と密接に関連していることが論じられています。
シリアの希望と現状
シリアの希望- 2024年12月8日からの記録。
こんにちは、AKIKOです。
この番組は、シリアの現在の状況、特に2024年12月以降の変化とその影響について、私自身の情報収集をまとめながら感想を語っているポッドキャストです。
私はNGOのスタッフとして、9年間、ヨルダン、イラク、ドルコなどのお隣の国々で、シリア難民支援に携わってきました。
平和なシリアの未来への願いを込めて、シリアの希望というタイトルでお送りしています。
今回、録音日が2025年12月5日です。
今回は、現在の最新の情報ではなくて、過去に遡った情報をご紹介する回となります。
9月ごろに2回ご紹介した、霧島しげる山頂-罪深きシリア観光旅行-をもう1回ご紹介します。
そして、その後に関連するアルジャジイラの2024年12月のウェブ記事をご紹介します。
約1年前の記事ですね。
共通するテーマは、セイドナヤ刑務所。
ではまず、罪深きシリア観光旅行。
2023年11月15日発行。桐島滋さん著。
今回ご紹介するのは、第3章。
地方のまちまち。6、サイドナヤ刑務所。
74ページです。
では読みます。聞いてください。
74ページ。
6、サイドナヤ刑務所。
午前8時、ダマスカスの宿を出発する。
今日からは、地方のまちまちを訪ねる予定だ。
首都よりも地方の方が、その国の矛盾や歪みが見えてくることが多い。
中央からの締め付けが少ない分、
うぞうむぞうの輩がいる可能性もあったし、
人々の自然な生活を見られるのではないかという期待もあった。
シリアをより深く見て聞くチャンスだ。
しかし、はじめから私の計画はうまくいかなかった。
マーゼンがこう言ったからだ。
僕は今日から助手席じゃなくて、あなたの隣の後部座席に座るよ。
助手席に座って振り返りながらしゃべるより、説明しやすいからね。
あ、もちろん嫌じゃなければだけれど。
親切心からだというのはわかっている。
もちろん嫌とは言いづらい。
普通中東の国では男性は運転手に対してタクシーなどでも
使用人じゃないよ、友人だよという敬意の意味を込めて助手席に座る。
その不分立を破って私に解説するために隣に座ろうとしてくれたのだ。
しかしこちらとしてはこっそり写真を撮りまくろうと思っていた計画に
軌道修正が必要になった。
私は時々アザドの看板や空爆跡などを撮影したいと思っていた。
写真を撮るなとは言われていないけれども、また外国人スパイと思われそうなので
撮っているところをあまり見られたくはない。
監視されているようでやりづらい。中略。
車は郊外へと向かう。人々の格好は旧市街のあたりで見かけた
こじゃれた装いとは違い庶民的だ。
このあたりは野菜市場だよ。
マーゼンの言葉をきっかけにシリアの農業事情に話題が映る。
シリアは以前は小麦の生産大国だったんだよ。
だったっていうのは今は違うってこと?
クルド人地域で栽培が盛んだんだけれど、誰かが小麦の畑を燃やしたんだ。
この話については私も以前聞いたことがあった。
記憶をたどりながら聞いてみる。
えっと、誰かってイスラム国ってこと?
火をつけたのはイスラム国だって言う人もいるし、生産地域もある。
イスラム国ってこと?
火をつけたのはイスラム国だって言う人もいるし、政府だって言う人もいるし、
クルド人武装勢力だって言う人もいるし。
この小麦畑放火事件とは、犯人がはっきりしないというのがみその事件だった。
アメリカ政府が命令したという政権側の報道まである。
シリアの北東部は現在、クルド人勢力が実行支配している。
シリア危機が始まって以降、イスラム国に対抗して戦う過程で北東部で力を持つようになった。
アサド政権も敵の敵は味方という論理で、クルド人勢力とは相互不干渉の形で協力していた。
しかし、アサド政権が想定していた以上にクルド人勢力は力を持ってしまい、緊張関係が生まれていた。
私がここであれと思ったのは、マーゼンはイスラム国が犯人と言い切らなかったことだ。
アサドを支持する人物だったらそう言って叱るべきだろう。
マーゼンがかなり知的な人物であることは、ここ数日一緒に過ごしてわかってきた。
ただ、頭がいいというのではなく、学者的な頭の良さというか性格なのだ。
政治的な立場はあるが、事実かどうかわからない話をするのは生理的に受け付けないようだった。
昨日もダマスカスで、ある爆殺されたイスラム教の法学者の墓を見学した際、犯人はイスラム国という人もいるし、政府がやったという人もいると説明してくれた。
政府が主張する説、イスラム国犯人説だけを言うことだってできたのに、マーゼンは別の説までわざわざ教えてくれていた。
マーゼンは発言しても問題にならないギリギリのところで、私にシリアのことを教えようとしてくれているのかもしれない。
いずれにしても小麦が燃やされて何もいいことはない。
本当、燃やしてもいいことはないのにね、というとマーゼンはイエスと力強く答えた。
この日の私の目的は車窓からある風景を撮影することだった。
サイドナヤ刑務所だ。
ダマスカス郊外のこれから向かうキリスト教徒の村の道中にある。
正直に言うと、このサイドナヤ刑務所を見たいがためにキリスト教徒の村に行く計画を立てたも当然だった。
なぜそこまでして刑務所が見たいのか。
サイドナヤ刑務所はシリア国内で最も精算で残忍な刑務所として知られている。
シリアネットワークフォーヒューマンライト、SNHRによると、
シリアでは現在12万人以上の人たちが強制失踪と言われる状態だ。
強制失踪とは、何者かに誘拐され、生死のわからないままにさせられることだ。
その86%がアサド政権によるものとされ、刑務所という名の強制収容所で拷問を受けている。
シリア人の刑務所職員のカメラマン、通称シーザーが命がけで、
拷問死した囚人たちを写した5万枚以上の写真を秘密輪にアメリカへ持ち出し、議会で証言したことで大きく報道もされた。
写真には骨と皮だけになって横たわる人々のいくつもの遺体があった。
これがきっかけで、シーザー法と言われるアメリカのシリアに対する制裁を受けている。
中略
今回の滞在で、もちろんサイドナや刑務所に立ち寄ることなどできないが、まずは一目見てみたかったのだ。
マーゼンとおしゃべりをしている間に、ダマスカスを抜け、何の変哲もない家や店が所々にある郊外に来た。
次第に建物を見つけた。
マーゼンとおしゃべりをしている間に、ダマスカスを抜け、何の変哲もない家や店が所々にある郊外に来た。
次第に建物さえなくなり、左右にデコボコした乾いた大地が広がる。
時々工場のような建物が見える。
事前に何度も見た地図を思い出しながら、近くまで来ているのはわかった。
ちょっと用事があればダマスカスと行き来できる便利な場所でもあるのだろう。
黙って車窓を見ていると、ちょうどマーゼンが座っている側の窓から一つ高くなった小山に大きな建物が見えた。
ピンと来た。
サイドナや刑務所は中央から全ての塔が監視できるように、三つの塔が伸びていると人権団体の報告書で読んだ記憶がある。
離れているのでよくわからないが、まさにその形に見える。
できるだけ普通を装ってマーゼンに聞いてみた。
あれ何?
刑務所。マーゼンは驚くほど感情を込めずに言った。
スマホのレンズをマーゼン越しに建物に向けた。
写真は撮れないよ。軍事関係だから。
マーゼンにすかさず止められてしまった。
すっとぼけて、あれ刑務所って軍事関係?と聞くと、その周りを守っているのは軍だから、と言う。
おとなしく引き下がることにした。
やっぱりサイドナや刑務所だったのだ。
あまりにもありふれた郊外にあることがショックだった。
途中の道では雑貨屋でお菓子が売られているのも見た。
イジャブをした女性が運転している車ともすれ違った。
これから私たちがキリスト教の村に行くように、郊外にピクニックに行く人たちもこの道を通るのだろう。
一方で、そんな場所の近くにこの世の地獄のような刑務所があるのだ。
数百メートルの距離に死と恐怖に苦しめられている人がいる。
でも私はただ眺めて通り過ぎるだけだ。
私はマーゼンに変に思われないように適当な建物を指さして、「あれ何?」と再び聞いてみた。
「工場だよ。」と教えられ、カメラに収めた。
以上です。
以下、私の補足です。
桐島さんのこの本の元となっているシリア訪問は、おそらく2022年です。
アサドフ政権下のシリアです。
桐島さんとは、私はもともとイラクで出会い、その後彼女がベルートやヨルダンで取材やアラビア語の勉強を続けていることを知っていました。
そして、2023年、いまだアサドウ旧政権が続いていたときにこの本を発行なさって、
彼女も私と同じようにシリアに引き付けられながらも周辺国をぐるぐるしている人だったけれど、
アサドウ政権下のシリアに一歩踏み込んだこと、
そしてそれをこのように著書としてまとめた勇気と行動力が素晴らしいと思っていました。
そして実は、つい先日、ダマスカスの旧市街を散策中に、彼女とばったり出会いました。
お互い大変に感動していました。
この本は私は最近常に身近に持ち歩いています。
桐島さんの誠実な取材と文章の書き方、とても注意深くて、ものしずかに今、
私はこの本を読んでいます。
この本の終わりの方、
19 再度なやでの日々という部分で 彼女がレバノンで出会った人物とのインタビューについて書かれています
この部分の冒頭にはこう書かれています
シリアのことを書くにあたって まずもって彼のような存在を抜きには語れないと思う
彼はシリアの刑務所で拷問を受けた生き残りだ
この部分については朗読をすることはしません
よろしければぜひ本を手にしてみてください
アルジャジイラの記事の紹介
では次に関連する 再度なや刑務所というキーワードで関連する
アルジャジエラの記事を一つ紹介します
これは約1年前2024年12月9日のウェブ記事です
実はこのポッドキャストを開始した初期に紹介したいと思ってリンクを集めて記録してあったんですが
紹介に至れないまま下書きに残っていた記事です
さてこちらはノートブックLMのブク太郎さん ブク子さんに紹介をお任せしたいと思います
ブク太郎さん ブク子さんよろしくお願いします
あなたが送ってくれたこのアルジャジエラの記事すごいですね
まさに歴史が動いた直後のシリアのその息遣いが聞こえてくるようです
50年続いたアサド政権が崩壊して国が新たな時代を迎えたと
でもその解放の光の裏であの悪名高いセドナイア刑務所では行方不明の家族を必死に探す人々がいる
今回はこの記事を手がかりにシリアが今直面している希望とそして絶望が入り混じった
その複雑な現実を深く掘り下げていきたいと思います
この記事が捉えているのは解放っていう国会レベルの祝祭ですよね
それと愛する人を探すというものすごく個人的な悲しみ
この2つが同じ場所同じ瞬間にぶつかり合っている様子なんですよ
セドナイア刑務所の現実
国全体が未来へ向かおうとする中でどうしても過去に引き戻される人々がいる
この緊張感こそが今のシリアを理解する鍵になりそうですね
まず記事が描いているのはセドナイア刑務所のかなり緊迫した光景ですよね
救助隊のホワイトヘルメットあの紛争地でずっと民間人の救助を続けてきたあの団体です
彼らと家族たちが隠された地下独房を探していると
ホワイトヘルメットの希望を見つけるために全力を尽くしていますが
最悪の事態にも備えなければならないという言葉が現場の空気を全部物語っています
ここで浮き彫りみるあるのは創作の物理的なそして精神的な困難さなんです
記事に出てくるアイダタハという女性がいますけど
彼女は2012年に逮捕されたお兄さんを探して狂ったように通りをさまよっていると
その刑務所には地下3階か4階まであると言われていて
扉は特殊なコードがないと開かないそうなんです
これってまさに旧政権が残した情報と物理的な壁そのものなんですよね
物理的な壁もそうですけど何年も希望を抱いてきた家族にとっては
真実を知ってしまうことへの心理的な壁っていうのも相当なものでしょうね
おっしゃる通りです希望がある意味で一番残酷なものに変わり得る瞬間ですから
だからこそこのセドナイアという場所が単なる刑務所っていうそういう枠には収まらないわけです
象徴的な意味があると
アムネスティインターナショナルが2017年にここで収容者が静かにそして組織的に殺害されていたと告発しました
つまりここはアサド政権の残虐行為の祝図でありシリア国民のトラウマが凝縮された場所でもあるわけですね
このセドナイアの行き詰まりような状況とは対照的に
キジワ首都ダマスカスの中心部で感じられたある種の祝祭感も捉えていますよね
その対比が鮮やかです
特に印象的だったのが49歳の公務員リムラマダンさんでした
彼女の言葉では言い表せません私たちは生まれ変わったのです
50年ずるいた体制の終わりをこれほど端的に表す言葉はないかもしれない
そしてその2つの光景が同時に存在しているのが今のシリアの現実なんですよ
反体制派が各都市を制圧する中で多くの刑務所の門が開いて人々が解放されたのは事実です
でもセドナイアのような場所ではまだ答えが出ていない
ダマスカスの光とセドナイアの闇は別の国の話ではなくて
地続きの現実として存在しているわけです
それが国全体が抱えるジレンマの祝図だと
そういうことです
なるほど
つまりシリアは今解放という大きな喜びを手にしながら
同時に過去の最も暗い秘密と向き合わざるを得ないという
非常に複雑で痛みを伴うキロに立たされているわけですね
まさにこの記事が透き通る最も重要な点は
解放の瞬間というのは
実は過去と未来が最も激しく衝突する瞬間だということなんです
なるほど
ダマスカスの光とセドナイアの闇は単なる対比じゃない
シリアが次に沈むために乗り越えなければならない
一つの巨大な壁の両面なんですね
だからこそあなたにも考えてみてほしいんです
もしこれらの隠された独房から真実が明らかになったとしても
あるいは永遠に閉ざされたマナだとしても
失われたものの全貌が決してわからないかもしれないとき
国家はどのようにして癒し屋の一歩を踏み出すんでしょうか
そして正義とは一体どのような形で実現されるべきなんでしょうかね
はい 福太郎さん 福子さんどうもありがとうございます
こちらは1年前の記事
2024年12月9日の記事でしたが
現在においても引き続き続いている状況
重要な状況が書かれている記事だと思っています
聞くところによれば
サイドナイア刑務所は今は一般の人は立ち入り禁止になっているそうです
国際司法組織や人権組織によって
失踪者についての調査や
サイドナイアで行われたことについて調査が進められています
シリアの複雑な状況
実は私が勤めているNGOのスタッフの一人
ふとした雑談の中で
自分も実はサイドナイア刑務所に入れられていたことがある
というふうに話してくれたことがあります
私の方がびっくりしてしまって
あまり詳細に踏み込んで聞いていないのですが
彼の場合はもともと教師だったと
そして兵役に行った時
仲間と脱走計画を立て
それがバレてサイドナイア刑務所に数ヶ月間拘束されたということでした
その後他のスタッフから聞いたのは
彼の体にはたくさんの傷跡が残っているということでした
あまりにショックでどんな反応をしたらいいのかもわからないほどですが
とにかく今は無事私たちのNGOで働いてくれていて
よかったありがたいという気持ちです
クロージングです
このアルジャジーラの記事の中で
ダマスカスの光とサイドナイアの闇は
地続きの現実として同時に存在している
ダマスカスの光とサイドナイアの闇は単なる対比じゃない
シリアが次に進むために乗り越えなければならない
一つの巨大な壁の両面というふうに
例えられていた状況が現実でも続いていて
大変重要な課題であるというふうに感じています
私自身はポッドキャストをシリアの希望と名付けました
そして間もなくやってくるシリア開放の記念日
1周年記念日12月8日に向けて
ダマスカスの街の雰囲気は明るく盛り上がっていますし
私の周りの人々 日々出会う人々との会話の中では
希望の方を強く感じることが多いです
それは大変に良いことだし嬉しいことではあります
しかしながら独裁者が海外に逃亡したからといって
過去の闇をただそのまま葬り去って終わりにするというわけにはいかない
と強くそのようにも思います
それが将来に向けて異なる宗教や民族や
いろいろな思想の人々がみんなが安心して暮らせる
民主的な国づくりを知っていくことに深く関わってくるからです
過去の闇と向き合うことについて
意向規正義 トランジショナルジャスティスという言葉で
表現されることが多いです
現時点では私自身の言葉でこれを語れる自信は全くないのですが
今後このポッドキャストの中では
このシリアの意向規正義についても取り上げていきながら
世界を深めていきたいというふうに思っています
では今回は以上にします
聞いていただいてどうもありがとうございました
24:17
コメント
前回ご紹介いただいたいてKindleに入れていたけど止まっていたので、また読み始めます。その間にAkikoさんはダマスへ、そして桐島さんと出会ってらした!
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