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2025-11-23 34:40

Epi. 031│楽しい勢いの功罪/寝落ち朗読『一房の葡萄』

sen
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Host

激重近況回から一新、ラフに反省会をしました。
改めて、マブダチよわおさんありがとう👐


・久し振りなのに聴いてくれてありがとう
・楽しくて良い時間だった
・日本語もおかしいし、歯切れも悪いし、我を出しすぎて反省
・地獄だった編集
・配信できない鬱時期に録っていた朗読
 青空文庫 有島武郎『一房の葡萄』


#一人じゃない収録は楽しすぎた
#原稿無しだと日本語話せない奴
#音源がズレて泣いた
#一人じゃない収録楽しかった
#初夏に収録した秋の話の朗読を秋に配信できたから結果オーライ


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・OP/ED: DOVA-SYNDROME のる様
・ジングル: DOVA-SYNDROME G-MIYA様
・ジングル: OtoLogic様

サマリー

今回のエピソードでは、『一房の葡萄』が寝落ち朗読として取り上げられ、記憶や感情に訴えるストーリーが探求されています。また、話し手自身の音声環境や収録プロセスにも触れられています。学生がジムの絵の具を盗むことで苦悩し、最終的に先生にそのことがバレる様子が描かれています。生徒の心の葛藤や罪の意識、そしてその後の先生の優しさが印象に残ります。このエピソードは、学校での出来事を振り返りながら、子供の成長と友達との関係の大切さが表現されています。特に、先生とのやり取りやぶどうの思い出が心に響きます。

エピソードの紹介
こんばんは、senです。心の隙間にプリンは、私の頭の中をずばく思考を、ボイスジャーナリングとしてアーカイブしていく場所です。
もはや名前を分けている意味がなくなっておりますが、本日はsenです。
前回の養老さんゲスト回および養老さんの番組、口物でのエピソード、聞いていただけましたでしょうか。
これから聞くね、投げよっていう連絡をくれた友達から聞いたよという連絡がないんですけど、これはもしかして長すぎて分かりにくかったですか?
2時間半近くの長さといい音質といい、だいぶマニアム系ですよね。
それなのに思っていた倍ぐらい再生数回っているので、とてもびっくりしました。
フォロー減ると思ってたら、増えてたからなぁ。
養産効果ですかね。ご神起様いらっしゃいませ。こんな番組です。
声だけはご好評いただいておりますが、内容も面白いなと思ってもらえるように、超無理ない範囲で楽しくやっております。
あの聞くねって連絡をね、LINEでくれたあなたね、感想もください。
あなたはきっと最後まで聞いているでしょ。よろしくお願いしますね。
前に五感星内ラジオに出た時にも猛烈な一人反省会をしたんですけれども、今回もやらせてください。
収録の環境
まず大前提としてとっても楽しかったんですよ。
で実際私すごく楽しそうなんですけど、音源聞いてるとね。
だいたい1時間ぐらいで集中力が切れて、話もまとまりない方向に転がっていくし、
口元の方ではさ、養産を深掘りしますって意気込んで言ったのにさ、自分の話ばっかりしだすゾーンに突入してさ、
お前ちょっと黙れよって思っちゃった。
楽しかった。私は楽しかった。
養産も楽しかったって言ってくれてたから、あのすごく良い時間だったんですけどね。
こう、あんなマウンティングまでして養産のファンに叩かれないか今怯えています。
怖いな。
普段この番組は原稿を割としっかり書いてその通り喋ってるんですけど、
今回の口元の方ですね、では完全フリースタイルで臨んでまして、
で、こちらのマニプリに関しては、一部だけ書いて臨んだんですね。
それ何かというと、音との関係パートのところなんですけど、
これは感情に任せて余計なことを言ってしまわないようにですね。
荒々だったんですけど、原稿を作って臨んでいました。
不動産屋さんはもう全然書いてないっていう状態でしたね。
そしたらね、それはもう散々な状態で、自分の日本語がいかに拙いかを思い知りました。
現在形、過去形の時勢もめちゃくちゃ、助詞の使い方もおかしい、
能動体、受動体もめちゃくちゃ、もう編集で発狂するかと思いました。
特に述語が壊滅的で、ここだなと思った。
私が自分で喋ってて、何言ってるんだっけ?みたいな、なることがめちゃくちゃあるんですけど、
ここが、ここに問題があったっていうことにめちゃくちゃ気づかされたので、今後精進したいと思います。
洋裁の日本語が綺麗すぎてね、この差で風邪ひきそうでした。
内容についても言わせてください。
言い訳をさせてください。
オットパートは、今の段階で話すのはすごい難しいんですね。
取り込み中なので、でもこの場のボイスジャーナリングとしては話す必要はあって、
主語に私を置いて話す以上、私が単純な被害者であるというような立ち位置にどうしてもなってしまうっていうのがすごい難しくて、
実際には、100%私が被害者というわけではもちろんなくて、私にも彼にも非はあるし、
もちろん逆にね、いいことだってあるし、結果として私が受け入れられなくなったっていうことなんだよね。
で、あのこれは、なんていうのかな、彼は悪くないの、みたいな、そういうムーブがしたいのではなくてね、決して。
ただ、こうやってオープンな場で話す以上、彼がいない場で彼を一方的に悪者にするというのはフェアじゃないなという、私の道義にのっとってお話しさせていただいたものになります。
彼に非があることであっても、毎回が毎回そうだったわけじゃないし、良かったこともあるし、みたいな、そういう葛藤がにじみ出ていて、
え、何?どっち?そっち?ってなる。そうやって言われてましたよね。
そんな、そんな話し方していて、めちゃくちゃ歯切れが悪いなと。
よく言えば、ライブ感がある?絶妙なニュアンスが伝わる人には伝わったと思うんですけれども、しかし分かりにくかったよね。
私の話を要約してくれる八王さんがいなかったら、もっと大変な悲惨な状態になっていたと思うので、マジで呼んでよかったです。
ありがとうございました。またこういうふしむふしめでお呼び出しさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
不動産パートなんですけど、言い忘れてたんですけどね。私、一応、ヤバい客という自覚はあります。
それ以前の夫とのことだったりで、疲弊していたりとか、それなりのことをされたからというのは、それがあったからそうなっちゃったっていうのはあるんだけど、
でもそうじゃない。4件目の不動産屋さん、ただただいい人だったのに、
私のこの被害妄想というか、被害妄想ではないか、私のこの過剰な気持ちを受け止めてくださって、
もう足向けて眠れない、彼女には。
何かあったら頼ってって言おうかなと思ったけど、それも、それもキモいかなと思って、
本当にありがとうございましたって言って終わったんだけど、
あのすごくあの反省はしています。嫌なこともされましたけど、私自身もヤバいことしたなぁとは思っているので、
ちなみにあの管理会社の方とは、入居後何度かやり取りをしていますが、関係は良好です。はい。
今のところ大丈夫です。で、あとは温室についてなんですけど、
物語の朗読
実は前、その養産との会を収録した時に、加湿器切るの忘れてて、
それなんですよ多分、一番の原因。で、今回はちゃんとエアコンも加湿器も切ったので、
この会は少しはマシになっているであろうと思います。 これでダメだったらもうちょっと考えます。まだ
反響はあるかな?なんかそんな感じがするな。前の家はロフトベッドの下で撮っていたので、
マッドレスだとか、そういう吸音素材で溢れていたから、結構良い収録環境だったんですけど、
今の部屋はそういうものが何もないんですよね。 養産の方の口物で配信したエピソードは雑談のスタジオで撮らせてもらったんですけど、
音響が良いってだけでめちゃくちゃテンション上がりますね。 声の返しがあるっていうのもすごい喋りやすくて、
聞き返さなくてもいいってすごく良かった。 家でもね、そういう収録環境にできないかなと思って調べてるんだけど、
なんか、 私が持っているオーディオインターフェースとオーダーシティではできないのかもしれない。
いろいろ試してみたけど、 いい感じの結果にならない。
最近こういうのを調べるとすぐ疲れちゃって、
もしかしたら方法があるのかもしれないけど、 年齢を重ねるごとに脳の衰えを実感しますね。
良いやり方をご存知の方はぜひ教えてください。 話したいことは、
休止中もいっぱいあったんですけど、 思考が止まっているので、
話せなかったので、 でも何か喋ろうと思って、青空文庫から選んだお話をですね、
私なりに朗読した音源が一つだけ録ってまして、 最後にこれを流して今日は終わろうかなと思います。
メンタルがやられていたので声が死んでるんですけど、 ストーリーのトーン的には問題なく聞けると思います。
さっき聞き返したんですけど、 あの読み間違えてるところがあった。
だけどまぁ、雑音だけ録って、このまま流しちゃおうと思うので、
このまま流しながら皆さんは眠りについていただければと思います。 これからもこういうふうにやるかどうかわかんないんですけど、
せっかく録ったから出しとこうかなという感じですね。 もし好評だったら継続を考えます。
ということで、先に締めの挨拶を入れさせていただきます。 この番組を見つけてくださった方は、概要欄に記載のメールやフォーム、各種SNSのDMからお便りをいただけると大変嬉しいです。
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八王さんにおやすみなさいって言わせたの、グッジョブ、私、と思っているせんでした。
こんばんも、いい夢見てね。
ひとふさのぶどう 有島武雄
僕は小さい時に絵を描くことが好きでした。 僕の通っていた学校は横浜の山手というところにありましたが、
そこいらは西洋人ばかり住んでいる町で、 僕の学校も教師は西洋人ばかりでした。
そしてその学校の行き帰りには、いつでもホテルや西洋人の会社などが並んでいる 海岸の通りを通るのでした。
通りの海沿いに立ってみると、 真っ青な海の上に雲間だの小船だのがいっぱいに並んでいて、
煙突から煙の出ているのや、 ほばしらからほばしらへ万穀木をかけ渡したのやがあって、
目が痛いようにきれいでした。 僕はよく岸に立って、その景色を見渡して家に帰ると、
覚えてるだけをできるだけ美しく絵に描いてみようとしました。 けれども、あの透き通るような海の藍色と、
白いホマエセンなどの水際近くに塗ってある陽光色とは、 僕の持っている絵の具ではどうしてもうまく出せませんでした。
いくら描いても描いても、本当の景色で見るような色には描けませんでした。 ふと、僕は学校の友達の持っている西洋絵の具を思い出しました。
その友達はやはり西洋人で、 しかも僕より二つくらい年が上でしたから、
背は見上げるように大きい子でした。 ジムというその子の持っている絵の具は博来の上等のもので、
軽い木の箱の中に十二色の絵の具が小さな墨のように四角な形に固められていて、二列に並んでいました。
どの色も美しかったが、取り分けて愛と陽光とはびっくりするほど美しいものでした。
ジムは僕より性が高いくせに絵はずっと下手でした。 それでもその絵の具を塗ると下手な絵さえがなんだか見違えるように美しく見えるのです。
僕はいつでもそれを羨ましいと思っていました。 あんな絵の具さえあれば僕だって海の景色を本当に海に見えるように描いてみせるのになぁと、
自分の悪い絵の具を恨みながら考えました。 そうしたらその日からジムの絵の具が欲しくって欲しくってたまらなくなりました。
葛藤と欲望
けれども僕はなんだか臆病になって、パパにもママにも買ってくださいと願う気になれなかったので、
毎日毎日その絵の具のことを心の中で思い続けるばかりで、幾日か日が経ちました。
今では、いつの頃だったか覚えてはいませんが、秋だったのでしょう。 葡萄の実が熟していたのですから。
天気は冬が来る前の秋によくあるように、空の奥の奥まで見透かされそうに晴れ渡った日でした。
僕たちは先生と一緒に弁当を食べましたが、その楽しみな弁当の最中でも、僕の心はなんだか落ち着かないで、
その日の空とは裏腹に暗かったのです。 僕は自分一人で考え込んでいました。
誰かが気が付いてみたら顔もきっと青かったかもしれません。 僕はジムの絵の具が欲しくって欲しくってたまらなくなってしまったのです。
胸が痛むほど欲しくなってしまったのです。 ジムは僕の胸の中で考えていることを知っているに違いないと思って、
そっとその顔を見ると、ジムは何にも知らないように面白そうに笑ったりして、
脇に座っている生徒と話をしているのです。 でもその笑っているのが、僕のことを知っていて笑っているようにも思えるし、
何か話をしているのが、今に見ろ、あの日本人が僕の絵の具を取るに違いないから、と言っているようにも思えるのです。
僕は嫌な気持ちになりました。 けれどもジムが僕を疑っているように見えれば見えるほど、
僕はその絵の具が欲しくてならなくなるのです。 僕は可愛い顔はしていたかもしれないが、
体も心も弱い子でした。 その上臆病者で言いたいことも言わずに済ますような立ちでした。
だからあんまり人からは可愛がられなかったし、友達もいないほうでした。 昼ごはんが済むと他の子供たちは活発に運動場に出て走り回って遊び
始めましたが、 僕だけはなおさらその日は変に心が沈んで、
一人だけ教場に入っていました。 外が明るいだけに教場の中は暗くなって、僕の心の中のようでした。
自分の席に座っていながら、僕の目は時々ジムのテーブルの方に走りました。
ナイフでいろいろないたずら書きが彫り付けてあって、 手垢で真っ黒になっているあの蓋をあげると、
その中に本や雑記帳や石板と一緒になって、 飴のような木の色の絵の具箱があるんだ。
そしてその箱の中には小さい墨のような形をした 藍や洋光の絵の具が、僕は顔が赤くなったような気がして、
思わずそっぽを向いてしまうのです。 けれどもすぐまた横目で、ジムのテーブルの方を見ないではいられませんでした。
胸のところがドキドキとして苦しいほどでした。 じっと座っていながら、夢で鬼にでも追いかけられた時のように、
気ばかりせかせかしていました。 教場に入る鐘がカンカンと鳴りました。
僕は思わずギョッとして立ち上がりました。 生徒たちが大きな声で笑ったりどなったりしながら、
洗面所の方に手を洗いに出かけていくのが窓から見えました。 僕は急に頭の中が氷のように冷たくなるのを気味悪く思いながら、
フラフラとジムのテーブルのところに行って、半分、 夢のように底の蓋をあげてみました。
そこには、僕が考えていた通り雑記帳や鉛筆箱と混じって、 見覚えのある絵の具箱がしまってありました。
何のためだか知らないが、僕はあっちこっちを見回してから、 誰も見ていないなと思うと、手早くその箱の蓋をあげて、
藍と洋紅との二色を取り上げるが早いか、ポケットの中に押し込みました。 そして急いでいつも整列して先生を待っているところに走って行きました。
僕たちは若い女の先生に連れられて、教場に入り、 命名の席に座りました。
僕はジムがどんな顔をしているのか見たくてたまらなかったけれども、 どうしてもそっちの方を振り向くことができませんでした。
でも僕のしたことを誰も気のついた様子がないので、 気味が悪いような、安心したような心持ちでいました。
僕の大好きな若い先生のおっしゃることなんかは、 耳に入りは入っても何のことだかちっともわかりませんでした。
先生も時々不思議そうに僕の方を見ているようでした。 僕はしかし先生の目を見るのがその日に限ってなんだか嫌でした。
そんな風で一時間が経ちました。 なんだかみんな耳こすりでもしているようだと思いながら、一時間が経ちました。
教条を出る鐘が鳴ったので、僕はほっと安心してため息をつきました。 けれども先生が行ってしまうと、僕は僕の級で一番大きな、そしてよくできる生徒に、
ちょっとこっちにおいで、と肘のところをつかまれていました。 僕の胸は宿題を怠けたのに先生に名をさされた時のように、思わずドキンと震え始めました。
けれども僕はできるだけ知らないふりをしていなければならないと思って、わざと平気な顔をしたつもりで、仕方なしに、
運動場の隅に連れて行かれました。 君はジムの絵の具を持っているだろう。ここに出したまえ。
嘘がばれる瞬間
そう言って、その生徒は僕の前に大きく広げた手を突き出しました。 そう言われると僕はかえって心が落ち着いて、
そんなもの、僕持ってやしない、と、ついデタラメを言ってしまいました。 そうすると、3、4人の友達と一緒に僕のそばに来ていたジムが、
僕は昼休みの前にちゃんと絵の具箱を調べておいたんだよ。 ひとつもなくなってはいなかったんだよ。
そして昼休みが済んだらふたつなくなっていたんだよ。 そして、休みの時間に、教場にいたのは君だけじゃないか、と、
少し言葉を震わしながら言い返しました。 僕はもうダメだと思うと、急に頭の中に血が流れ込んできて顔が真っ赤になったようでした。
すると、誰だかそこに立っていた一人が、いきなり僕のポケットに手を差し込もうとしました。 僕は一生懸命にそうはさせまいとしましたけれども、多勢に無勢で、とても叶えません。
僕のポケットの中からは、みるみるマーブル玉、今のピー玉のことです。 や、鉛の面子などと一緒に、ふたつの絵の具の塊がつかみ出されてしまいました。
それ見ろ、と言わんばかりの顔をして、子供たちは憎らしそうに僕の顔を睨みつけました。
僕の体は一人でにブルブル震えて、目の前が真っ暗になるようでした。 いいお天気なのに、みんな、休み時間を、面白そうに遊び回っているのに、
僕だけは本当に心からしおれてしまいました。 あんなことをなぜしてしまったのだろう。取り返しのつかないことになってしまった。
もう僕はダメだ。そんなに思うと、弱虫だった僕は、寂しく、悲しくなってきて、しくしくと泣き出してしまいました。
泣いて脅かしたってダメだよ、と、よくできる大きな子が馬鹿にするような憎み切ったような声で言って、
動くまいとする僕をみんなで寄ってたかって、二階に引っ張って行こうとしました。 僕はできるだけ行くまいとしたけれども、
とうとう力任せに引きずられて、足五段を登らせられてしまいました。 そこに僕の好きな受け持ちの先生の部屋があるのです。
やがて、その部屋の扉をジムがノックしました。 ノックするとは、入ってもいいかと扉を叩くことなのです。
中からは優しく、お入り、という先生の声が聞こえました。
僕はその部屋に入るときほど、嫌だと思ったことはまたとありません。 何か書き物をしていた先生は、ドヤドヤと入ってきた僕たちを見ると、
少し驚いたようでした。 が、女のくせに男のように首のところでぶつりと切った髪の毛を右の手で撫で上げながら、
いつもの通りの優しい顔をこちらに向けて、ちょっと首をかしげただけで、 何の子よ、という風をしなさいました。
そうすると、よくできる大きな子が前に出て、 僕がジムの絵の具を取ったことを詳しく先生に言いつけました。
先生は少し曇った顔つきをして、真面目にみんなの顔や、半分泣きかかっている僕の顔を見比べていなさいましたが、
僕に、「それは本当ですか?」と聞かれました。 本当なんだけれども、僕がそんなに嫌な奴だということを、どうしても僕の好きな先生に知られるのが辛かったのです。
だから僕は答える代わりに、本当に泣き出してしまいました。 先生はしばらく僕を見つめていましたが、
やがて生徒たちに向かって、静かに、「もう行ってもようございます。」と言って、みんなを返してしまわれました。
生徒たちは少し物足らなさそうに、どやどやと下に降りて行ってしまいました。 先生は少しの間、何とも言わずに、僕の方も向かずに、自分の手の爪を見つめていましたが、
やがて静かに立ってきて、僕の方のところを抱きすくめるようにして、「絵の具はもう返しましたか?」と小さな声でおっしゃいました。
先生の優しさ
僕は返したことを、しっかり先生に知ってもらいたいので、ふかふかとうなずいて見せました。
あなたは自分のしたことを、いやなことだったと思っていますか? もう一度そう先生が静かにおっしゃったときには、
僕はもうたまりませんでした。 ぶるぶると震えて仕方がない唇を噛みしめても噛みしめても泣き声が出て、
目からは涙がむやみに流れてくるのです。 もう先生に抱かれたまま、死んでしまいたいような心持ちになってしまいました。
あなたはもう泣くんじゃない。 よくわかったらそれでいいから泣くのをやめましょう。ね?
次の時間には教場に出ないでもよろしいから、私のこのお部屋にいらっしゃい。 静かにしてここにいらっしゃい。
私が教場から帰るまでここにいらっしゃいよ。 いい?
とおっしゃりながら、僕を長い椅子に座らせて、 そのときまた勉強の鐘が鳴ったので、
机の上の書物を取り上げて、 僕の方を見ていられましたが、
二階の窓まで高く這い上がったぶどうずるから、 ひと房の西洋ぶどうをもぎって、しくしくと泣き続けていた僕の膝の上にそれを置いて、
静かに部屋を出ていきなさいました。 一時、がやがやとやかましかった生徒たちはみんな教場に入って、
急に、しんとするほどあたりが静かになりました。 僕は、さめしくってさめしくってしょうがないほど悲しくなりました。
あのくらい好きな先生を苦しめたかと思うと、 僕は本当に悪いことをしてしまったと思いました。
ぶどうなどはとても食べる気になれないで、いつまでも泣いていました。 ふと、僕は肩を軽くゆすぶられて目を覚ました。
僕は先生の部屋で、いつの間にか泣き寝入りをしていたと見えます。 少し痩せて、背の高い先生は笑顔を見せて、僕を見下ろしていられました。
僕は眠ったために気分が良くなって、今まであったことは忘れてしまって、 少し恥ずかしそうに笑い返しながら、
学校への不安と期待
慌てて膝の上から滑り落ちそうになっていたぶどうのふさをつまみあげましたが、 すぐ悲しいことを思い出して、笑いも何も引っ込んでしまいました。
そんなに悲しい顔をしないでもよろしい。 もうみんな帰ってしまいましたから、あなたはお帰りなさい。
そして、明日は、 どんなことがあっても学校に来なければいけませんよ。
あなたの顔を見ないと私は悲しく思いますよ。 きっとですよ。
そう言って先生は僕のカバンの中に、 そっとぶどうのふさを入れて下さいました。
僕はいつものように海岸通りを、海を眺めたり、船を眺めたりしながら、 つまらなく家に帰りました。
そして、ぶどうを美味しく食べてしまいました。 けれども、次の日が来ると、僕はなかなか学校に行く気にはなれませんでした。
お腹が痛くなればいいと思ったり、頭痛がすればいいと思ったりしたけれども、 その日に限って虫は一本、痛みもしないのです。
仕方なしに、いやいやながら家は出ましたが、ぶらぶらと考えながら歩きました。 どうしても学校の門を入ることはできないように思われたのです。
けれども、先生の別れの時の言葉を思い出すと、 僕は先生の顔だけは何といっても見たくて仕方がありませんでした。
僕が行かなかったら、先生はきっと悲しく思われるに違いない。 もう一度先生の優しい目で見られたい。
ただその一言があるばかりで、僕は学校の門をくぐりました。 そうしたらどうでしょう。
まず第一に待ちきっていたようにジムが飛んできて、僕の手を握ってくれました。 そして昨日のことなんか忘れてしまったように、
親切に僕の手を引いて、とぎまぎしている僕を先生の部屋に連れて行くのです。 僕はなんだか訳がわかりませんでした。
学校に行ったらみんなが遠くの方から僕を見て、 見ろ、泥棒の嘘つきの日本人が来た、とでも悪口を言うだろうと思っていたのに、
こんな風にされると気味が悪いほどでした。 二人の足音を聞きつけてか、先生はジムがノックしない前に、
扉を開けてくださいました。 二人は部屋の中に入りました。
ジム、あなたはいい子。よく私の言ったことがわかってくれましたね。 ジムはもうあなたから謝ってもらわなくてもいいと言っています。
二人は今からいいお友達になればそれでいいんです。 二人とも上手に握手をなさい、と先生はニコニコしながら僕たちを迎え合わせました。
僕はでも、あんまり勝手すぎるようでもじもじしていますと、 ジムはいそいそとぶら下げている僕の手を引っ張り出して固く握ってくれました。
僕はもうなんといってこの嬉しさを表せばいいのかわからないので、 ただ恥ずかしく笑うほかありませんでした。
ジムも気持ちよさそうに笑顔をしていました。 先生はニコニコしながら僕に、
昨日のぶどうはおいしかったの?と問われました。 僕は顔を真っ赤にして、
ええ、と剥除するより仕方がありませんでした。 そんならまたあげましょうね。
そう言って先生は真っ白なリンネルの着物に包まれた体を窓からのび出させて、 ぶどうのひとふさをむぎ取って、
真っ白い左手の上に粉のふいた紫色のふさをのせて、細長い銀色のハサミで真ん中からぷつりと二つに切って、
ジムと僕とに下さいました。 真っ白い手のひらに紫色のぶどうのつぶが重なってのっていた、
その美しさを僕は今でもはっきりと思い出すことができ、 僕はその時から前より少しいい子になり、
少しはにかみ屋ができなくなったようです。 それにしても僕の大好きなあのいい先生はどこに行かれたでしょう。
もう二度とは会えないと知りながら、僕は今でもあの先生がいたらなぁと思います。
友達との和解
秋になるといつでもぶどうのふさは紫色に色づいて、美しく粉をふきますけれども、
それを受けた大理石のような白い美しい手はどこにも見つかりません。
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