エピソードの紹介
いちです。おはようございます。今回のエピソードは、地球を継ぐものというタイトルでお送りをします。
このポッドキャストは、僕が毎週メールでお送りしているニュースレター、Steamニュースの音声版です。
Steamニュースでは、科学、技術、工学、アート、数学に関する話題をお届けしています。
Steamニュースは、Steamボート乗組員のご協力で配信しています。
このエピソードは、2024年11月22日に収録しています。
Steamニュース第206号から、地球を継ぐものというタイトルでお送りをしていきます。
このエピソードでは、西暦79年のベスビオ山の噴火によって埋もれてしまったイタリアの街、
ヘルクラネウムから見つかった灰になった書物、
こちらをどうやって読むのか、そして何が書かれていたのかについてご紹介をしていきたいと思います。
どうぞお楽しみになさってください。
西暦79年のベスビオ火山の噴火によって灰になってしまった書物を読むという
ベスビオチャレンジが2023年に開催されました。
この書物はおよそ2000年前のもので、発掘されたのがおよそ300年前、正確に言うと1738年のことでした。
発掘されたときは、この本、巻物なのですが、すでに灰になっていて誰も読むことができませんでした。
いや、永遠に読めないとさえ思われていたんです。
しかし、1977年のSF小説、星を継ぐものに書かれた
開けない本を読む装置が現実のものになり、かなりの部分を現在読むことができるようになったんです。
このSF小説、星を継ぐものには、架空の装置トライマグニスコープがストーリーの鍵として登場しています。
トライマグニスコープは物質を透過撮影できる装置で、本を開くことなく中の文字を読み取ることができるというものでした。
この作品の中ではニュートリノを利用した透視撮影装置ということになっています。
1977年にはすでに医療用のX1000コンピューター断層撮影、X1000CTが実用化されていましたから、
星を継ぐものの作者、ジェームズ・P・ホーガンは、X1000CTに着想を得てトライマグニスコープを考案したのかもしれません。
本作の中では月面で見つかった謎の死体、チャーリーが持っていた日記か、
うっかり触るとバラバラになってしまう恐れがあるため、トライマグニスコープを用いて日記を開かずに読むことになります。
この時、文字は浮かび上がれど中身は読めずというところから物語は意外な展開を迎えていくのですが、
この本、SF小説の最高傑作とも言われていまして、中身をバラしてしまうのはとてつもなくもったいないことなので、触れないでおきたいと思います。
さて、現実世界に開くことができないのに読みたい本、読みたい日記はあるでしょうかという疑問なんですが、もちろんあるんですね。
西暦79年のイタリアのベスビオ山の噴火によって、ポンペイとヘルクラネウムという2つの町、実際にはもう少し小さい町を含めると、もういくつかの町が火災流に覆われてしまっています。
ここで、当時の書物である巻物も火災流に飲まれ、姿をとどめたまま灰になってしまいました。
俺らの巻物も、もし開こうとしたら粉々になってしまう恐れがあります。
しかし、この巻物を読むことができたら、当時の文化を知る重要な手がかりになるんです。
2023年に始まったベスビオチャレンジは、そんな巻物を開かずに読む挑戦です。
巻物を解読したチームには、当初賞金25万ドルが提供されるとアナウンスされていました。
このチャレンジは、2024年2月5日に3人の勝者をたたえました。
エジプト人大学院生のユセフ・ネーダ、ネブラスカの大学生ルーク・ファリタ、
スイスの大学生ジュリアン・シリガーで、3人には結局賞金70万ドルが贈られました。
日本円にするとおよそ1億円ということで、とてつもない賞金ですね。
ただ、見つけたものはそれ以上の価値があるのかもしれません。
この3人は灰になった書物から本当に文字を読んだんです。
ベスビオチャレンジは、星を継ぐもののトライマグニスコープのように灰になった巻物を最新のテクノロジーによってスキャンしました。
解読された内容とその意義
使用したのはX1000コンピューター断層撮影、X1000CTです。
X1000CTは医療用によく使われるもので、体の断面を撮影するものですが、少しずつ体をずらしていくことで、この連続的に断層撮影というものをしていくわけですね。
ベスビオチャレンジでも、巻物を少しずつずらして断面をその度に撮影していって、巻物全体をスキャンしました。
そして断面をつなぎ合わせて、巻物の面を再構成していったんです。
その結果の写真もメールでお送りしているニュースレター、スティームニュースの方には掲載をさせていただいています。
文字がずらっと並んでいる巻物を見ることができます。
この文字たち、およそ2000年の間、誰の目にも触れられなかったものです。
そして問題は、このように文字が可視化されてもなお読めないということでした。
優勝チームの3人はAI技術を使って、ベスビオチャレンジが課題とした140文字4セットのうち85%以上を解読しました。
このチャレンジの要求としては30%以上を解読することだったそうなのですが、その期待を上回る85%以上の解読を行ったということですね。
しかも課題以外のおよそ1500文字、合わせて2000文字程度を解読したそうです。
となると、巻物には何が書かれていたのか気になるところだと思います。
ベスビオチャレンジは次のように説明をしています。
現在までに私たちの努力によって巻物の最初の5%ほどを広げて読むことができました。
私たちの学者たちはいかのように説明をしています。
本文の一般的な主題は快楽であり、快楽はエピクロス哲学における最高の禅である。
巻物の連続する2つの段から引用されたこの2つの断片の中で、
著者は、食べ物のような罪の入手可能性が、
その罪がもたらす快楽に影響を与えるかどうか、
またどのように影響を与えるかに関心を寄せている。
大量に手に入るものよりも、少量しか手に入らないものの方が快楽を得られるのだろうか。
著者はそうは考えない。
食べ物の場合もそうなが、欠乏したものが豊富なものより絶対的に心地よいとはすぐに思わない。
しかし、豊富なものがない方が楽なのだろうか。
このような疑問は頻繁に検討されるだろう。
なんだか、美味しんぼの貝原雄三が言いそうなセリフですよね。
巻物が見つかった小さな図書室を使っていたのは、
古代ローマの哲学者・詩人ピロデモスと考えられています。
2000年前に書かれた哲学者のノートがこうして読めるようになるというのは驚きではないでしょうか。
ベスビオチャレンジとその挑戦者たち、
そしてピロデモスをはじめとしたベスビオ火山の火災流に飲まれた人々は、
星を継ぐものにならって、地球を継ぐものと呼んでも差し支えないかもしれません。
というわけで、今回のエピソードでは、地球を継ぐものについてスティームニュース第206号からお送りしました。
やはりですね、写真を見てもらうと、画像資料を見てもらうと、このチャレンジがいかに大変だったのかということがよくわかると思いますので、
できればですね、メールでお送りしているスティームニュースの方も無料でご登録いただけますので、読んでいただければと思います。
というわけで、今回も最後まで聞いてくださってありがとうございました。
スティームFMのイチでした。