根源的欲求の概念
ストーリーとしての思想哲学 思想染色がお送りします。
今回は、人間の根源的欲求と、それが社会とどう関係するかについてです。
根源的というからには、動物としてあるいは生物として内在している本能に関することです。
このポッドキャストでは、しばしば人間の心というものについて繰り返し扱ってきたし、
もっと類的な視点から、人類がこういうふうに振る舞うのは、こういう構造的な背景があって、
その構造に操作されて、そういう振る舞いをする、みたいな話をよくしています。
構造主義的な見方をする以上は、そもそもホモサピエンスの内的な構造について、
つまり本能に根差す一番根源的なところを抑えないわけにはいきません。
人間の根源的欲求と聞くと、大抵、食欲、睡眠欲、精欲が三大欲求として挙げられます。
ただこの三大欲求という分け方は、キャッチーではあるけど、あんまりミッシーではなさそうです。
ミッシーとは、抜け漏れなく猛烈的に羅列できているという意味です。
この3つだけ満たしても生存するには足りないから、ミッシーではなさそうですね。
どうやらこの三大欲求という考え方は、マズローの欲求談会説で有名な
アブラハム・マズローの著作から抽出してきたもののようなんだけど、
マズローの著作にあたると、最も根源的な欲求は生理的欲求であるとされています。
生理的欲求とは、空気を求める欲求、水を求める欲求、食べ物を求める欲求、
被護を求める欲求、睡眠を求める欲求、性別の性の性を求める欲求のことを指します。
こちらは空気とかも入っているから、抜け漏れはあんまりなさそうな感じだけど、
性を求める欲求だけ、自分自身の生存とは関係ない気がします。
そこでこれらをさらにカテゴライズすると、やらないと死んでしまう、生存に直結する欲求、
つまり生存欲求と、もう一つ自分の遺伝子を残したいという欲求の二つに分けられそうです。
ダーウィンの進化論的な見地からも、これは妥当な分け方ではないかと思われます。
というのも、ダーウィン以来の自然選択の枠組みでは、人間を含む動物や虫などの生きている個体は、
存続して繁殖に寄与する、挙動を取るものが残り、そうではないものが淘汰されるとされているからです。
つまり、各個体には、存続と繁殖が最も根源的な欲求として、
本能にプログラムされていないと理屈に合わないということになります。
で、ここから先が、それが現実社会とどう関係するかの話なんだけど、
経営学と経済学を補助線として、現実の社会を見てみましょう。
経営学には、ペインという有名な概念があります。
ペインとはそのまま痛みという意味ですが、経営学におけるペインには、
お金を払ってでも解決したい悩みや精神的な苦痛みたいなニュアンスがあります。
何が言いたいかというと、ペインには深さがあり、
根源的な欲求により近いペインに関係するほど、
ビジネスとしての市場規模も大きく、価格弾力性も小さい。
要は、儲けやすい。
こういうルールで、資本主義経済のゲームは行われているよということです。
この世の中に飲食店が非常に多くあふれていて、
最近だと、マッチングアプリの会社がボロ儲けしているのも、
根源的欲求に近いペインと関係する商売であるからと言えます。
逆に、僕は今マイクを使ってポッドキャストを収録しているけど、
ビジネスにおけるペインの重要性
例えばマイクを製造する会社なんかは、なかなか儲かりづらいんじゃないかと思います。
ほとんど趣味の領域だから、欲求としては根源的なものではないし、
さらにサプライサイド、供給量も結構多いから、
需要と供給の関係から価格も低く設定しないと、なかなか売れないわけだから。
非常に単純化するとゲームルールがそういう風になっているという話だけど、
もうちょっとだけ複雑にして再度を見てみると、今のマイクだったら、
コロナでオンライン会議やリモートワークが急増したという、
かなりの追い風が実際には現象として発生しました。
先ほどの原理に照らして考えると、
オンラインで仕事をするにはマイクが必要ですよね。
そんで、オンラインでも何でも、仕事をするということは、
金を稼ぐということとほとんど同義です。
つまり、マイクが仕事道具として振る舞うようになり、
金に直結するようになったわけですね。
仕事道具がなければ、当然金は稼げないわけですから。
そして金というのは、根源的欲求を満たすための、
手段の一つになり得るわけだから、
かなり距離としては根源的欲求に近い場所にあります。
したがって欲求としては金はかなり強い方で、
だからこそ追い風だったということですね。
まとめると、ビジネスにおける儲けやすさというのは、
シンプルに言うと、X軸とY軸とがあって、
片方の軸はペインがより根源的な欲求に近いかどうか、
もう片方の軸は、その製品やサービスの供給量が多いかどうか、
根源的な欲求に距離が近いかどうかと、
需要と供給の関係のこの2つが、
儲かりやすさに特に深く関係しているという、
経済活動における根本ルールの話でした。
余談だけど、その話で言うと、
僕は文学関係の仕事が本業ですけど、
文学なんて最悪です。
根源的欲求からもかなり距離が遠いし、
サプライサイドのプレイヤーも多い業界ですから、
別に自虐をするわけではないですけどね。
ただ、文化芸術領域が非常に儲かりづらくて、
常に貧血なのは裏にこういう構造があるからだと、
理解すると捉えやすいのではないでしょうか。
今回はここまでです。
次回もよろしくお願いします。