1. 志賀十五の壺【10分言語学】
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2020-02-17 05:57

#4 夏目漱石『夢十夜第三夜』朗読 from Radiotalk

#落ち着きある #朗読 #怖い話 #小説
気味の悪い話…。
00:01
こんな夢を見た。六つになる子供をおぶってる。確かに自分の子である。ただ不思議なことには、いつの間にか目がつぶれて、青坊主になっている。
自分が、「お前の目はいつつぶれたのかい?」と聞くと、「なに、昔からさ。」と答えた。声は子供の声に添えないが、言葉つきはまるで大人である。しかも対等だ。
左右は青田である。道は細い。詐欺の影が闇にさす。
「田んぼへかかったね。」と背中で言った。
「どうしてわかる。」と顔を後ろへ振り向けるようにして聞いたら、
「だって、詐欺が泣くじゃないか。」と答えた。 すると詐欺が、果たして二声ほど泣いた。
自分は我が子ながら少し怖くなった。 こんなものを背負っていては、この詐欺どうなるかわからない。
どこかうっちゃるところはなかろうかと向こうを見ると、闇の中に大きな森が見えた。
あそこならばと考え出す途端に、背中で、「ふふん。」 という声がした。
「なにを笑うんだ。」 子供は返事をしなかった。
「ただ、お父さん、重いかい。」 と聞いた。
「重かない。」 と答えると、
「今に重くなるよ。」 と言った。
自分は黙って森を目印に歩いていった。 他の中の道が不規則にうねって、なかなか思うように出られない。
しばらくすると、二股になった。 自分は股の根に立ってちょっと休んだ。
石が立ってるはずだがなぁ。 と、小僧が言った。
なるほど、八寸角の石が腰ほどの高さに立っている。
表には左肥額母、右掘った腹とある。 闇なのに赤い地が明らかに見えた。
赤い地は芋利の腹のような色であった。 「左がいいだろう。」
と、小僧が命令した。 左を見ると、さっきの森が闇の影を高い空から自分らの頭の上へ投げかけていた。
自分はちょっと躊躇した。 「遠慮しないでもいい。」
と、小僧がまた言った。 自分は仕方なしに森の方へ歩き出した。
03:01
腹の中では、よく目倉のくせに何でも知ってるなぁ。 と考えながら一筋道を森へ近づいてくると、背中で
どうも目倉は不自由でいけないね。 と言った。
だからおぶってやるからいいじゃないか。 おぶってもらってすまないが、どうも人に馬鹿にされていけない。
親にまで馬鹿にされるからいけない。 なんだか嫌になった。
早く森へ行って捨ててしまおうと思って急いだ。 もう少し行くとわかる。
ちょうどこんな晩だったなぁ。 と、背中で独り言のように言っている。
何が? と、際どい声を出して聞いた。
何がって知ってるじゃないか。 と、子供をあざけるように答えた。
するとなんだか知ってるような気がしだした。 けれどもはっきりとはわからない。
ただこんな晩であったように思える。 そうしてもう少し行けばわかるように思える。
わかっては大変だから、わからないうちに早く捨ててしまって、 安心しなくってはならないように思える。
自分はますます足を早めた。 雨はさっきから降っている。道はどんどん暗くなる。
ほとんど夢中である。 ただ背中に小さい小僧がくっついていて、その小僧が自分の過去現在未来をことごとく照らして、
寸分の事実も漏らさない鏡のように光っている。 しかもそれが自分の子である。
そうしてめくらである。自分はたまらなくなった。 ここだここだ。ちょうどその杉の根のとこだ。
雨の中で小僧の声ははっきり聞こえた。 自分は覚えず止まった。
いつしか森の中へ入っていた。 一見ばかり先にある黒いものは確かに小僧の言う通り、杉の木と見えた。
お父さん、その杉の根のとこだったね。 うん、そうだ。
と思わず答えてしまった。 文化5年、辰年だろう。
なるほど、文化5年辰年らしく思われた。 お前が俺を殺したのは今からちょうど100年前だね。
自分はこの言葉を聞くや否や、今から100年前、文化5年の辰年のこんな闇の晩に、この杉の根で一人のめくらを殺したという自覚が
忽然として頭の中に起こった。 俺は人殺しであったんだなと初めて気がついた途端に、
背中の子が急に石地蔵のように重くなった。
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