無限の伸びしろ、推しの駆動、ラック&ピニオン。
ものづくり系ポッドキャストの日。
まあということでね、語っていきますけども、まずは基本的な機械要素の話をさせてください。
私は10年ほど機械設計をやっておりまして、
主に工作機械っていうね、産業機械の新製品開発っていうのに携わってきました。
出てしまいましたね。工作機械という単語が出てしまいましたんで、
ちょっとね、工作機械とは何かを説明せざるを得ません。
もちろんね、初めて聞いてくれる人もいますからね。
ものづくりのラジオをいつも聞いてくださっている人にとっては、
何度も何度もこの話を聞いて耳にタコができすぎて、
そのタコを捕食するためのうつもまで集まってきていると思いますが、
何度聞いてもいいですからね。
それではね、ご賞はください。
工作機械とは、工作を行う機械のことで、
材料を加工して製品や部品を作り出す機械です。
ここでいう材料とは、金属に限らず樹脂や木などの加工も含まれます。
加工方法は削るだけではなくて、溶かす、曲げるなど様々なんですけど、
一般的には金属を切削加工、削って加工する機械のことを工作機械と呼びます。
皆さんもね、小学校とかの図画工作の時間で、
ドリルで穴を開けたりとか、そういうことしたことあると思うんですけど、
まさにあれが削ると、切削という加工です。
ああいう加工を金属に対して自動でやってくれる機械、それが工作機械です。
機械の部品を作る機械と思っていただければOKです。
ゆえに工作機械は、機械を生み出す機械という意味で、
母なる機械、マザーマシンと呼ばれています。
機械のお母さんなんですね。
という話をね、いつもさせていただいているわけですけど、
そんな工作機械なんですが、物を削るために刃物を動かさなきゃいけないから、
機械の中に色々と動作する部分があるわけです。
その動作のために使われているのが、まさに駆動の機械要素なんですね。
どんなものが使われているかというと、
一番代表的なもので言うと、ボールネジと言われるものです。
工作機械の駆動ってほとんどボールネジです。
ボールネジっていうのはね、めちゃくちゃ滑らかに動くネジだと思ってもらえればOKです。
ネジって聞くとさ、物と物をネジで締め付けてくっつけるみたいな、
そういう使い方のイメージってありますよね。
そういう物と物をくっつけることを定欠と言いまして、
その定欠を設計することを定欠設計なんていうわけです。
その定欠設計の詳細は、
あつまれ設計1年生初めての定欠設計っていう、
これまためちゃくちゃいい本が出てますんで、
そちらを買っていただければと思います。
概要欄にリンクは貼っておきますけども、
ちなみにこの書籍、あとちょっと売れたら10判がかかるらしいんで、
ぜひともゴールデンウィークの読書のお供に使っていただけると嬉しいです。
という宣伝を挟みつつ、だいぶ脱線した話を元に戻しますけど、
ネジっていうのは、もともとそうやってね、
物と物を締め付けてくっつけるものなんですけど、
用途って実はそれだけじゃないんですよ。
物を動かすのにも使えるわけです。
またまたね、イメージしてみてほしいんですよ。
ネジってさ、回すと物に入り込んでいくじゃないですか。
それはわかりますよね。やったことあると思います。
だから回転させるとネジ自体が軸方向に動いていくわけですよ。
つまりネジっていうのは、回転運動を直線運動に変換するという能力も持っているんですよ。
その特性をうまく生かしたのがネジを使った直線運動の駆動です。
当然ネジを回してネジ自体が動いていくっていうこともあれば、
ネジ本体をどっかに固定しておけばね、
ネジが刺さっているその物体をネジを回すことによって引き寄せたり、
逆に押す方向に動かしたりできるわけです。
それはなんとなくイメージできると思います。
ただネジって物理的な面の接触があるんで摩擦が大きいんですよ。
だからあのネジのギザギザしている部分ですね。
おネジと目ネジっていう穴側と棒側があって、
そのギザギザ同士が噛み合うことでネジになるんですけど、
そのギザギザの面と面が触れてるんで非常に摩擦が大きいんですよ。
物を締結するときはその摩擦の強さっていうのがいい方向に働くんですけど、
ネジで物を動かしたいよっていった場合って、
単純にその摩擦って力の伝達ロスになるんですよ。
なんでそこで開発されたのがさっき言ったボールネジというものです。
ネジの接触部分にボールを入れることで、
まるで滑るかのようにスムーズに動くようになった駆動です。
これがボールネジです。
物を動かすためだけに使われるネジと言ってもいいでしょうね。
まあ細かい形状はね言葉で伝えにくいんですけど、
本当に厳密ではないイメージだけお伝えするんだったら、
滑り台に例えるとわかりやすくて、
普通のネジっていうのは普通の滑り台です。
板とか鉄板の上を摩擦でスーッて滑っていく感じです。
ボールネジはどういうものかって言ったら、
ローラーがついた滑り台あるじゃない。
あんな感じですよ。
大きい公園の長い滑り台によくそういうのあるじゃん。
ローラーついてるやつ。
あれがまさにボールネジの内部で起こっていることに近いです。
あれはローラーだから厳密には違うんですけど、
転がって滑っていくっていう意味ではあんな感じなんですよ。
普通に摩擦で滑っていくよりスムーズに滑っていきそうなイメージってありますよね。
そんな感じですね。
でめっちゃ話それるんだけど、
あのさ、大人になってからあのローラー滑り台って皆さん滑ったことあります?
あれ結構やばいっすよ。
子供はああいう滑り台好きなんで、公園行った時とかに遊ぶんですけど、
振動がすごいんですよ。
子供を膝の上に乗せて滑り台を滑り切ると、
振動でケツがなくなりますよ。
滑り台滑り終わった途端にケツという概念そのものを失います。
本当になくなる。
滑り終わった瞬間にケツってなんだってなりますからね。
いやーあれねきついっすね本当に。
子供の体重だからこそ楽しめたものなんだなってね。
大人になってから初めてわかりましたよ。
ということで脱線しましたけど、話戻しますけど、
そういう感じでスムーズに動くボールネジっていうものがあって、
そのネジがモーターによってぐるぐると回されることで工作機械っていうのは動いてます。
そういう駆動軸っていうのがいくつもついていて、
それらが同時に制御されることで複雑な加工っていうのが可能になっているわけですね。
僕もボールネジを使った機械の設計多々やってきましたけど、
このボールネジの設計自体が私が会社に入って初めてやった仕事だったんですよね。
つまり私の設計者としての初めての業務ってボールネジだったんですよ。
だから結構これ思い出の駆動なんですよね。
私が入社した時に上司だった方、ものすごい優秀な人で尊敬できる設計者だったんですけど、
すごいしっかり僕の教育のことも考えて仕事をずっと投げてくれたんですよね。
今でも鮮明に覚えてるんだけど、最初にやった仕事がね、
ストローク8mのボールネジの設計だったんですよ。
だから8m以上のすごい長いボールネジっていうのを設計しなさいと。
そういう仕事だったんですね。
8mってね、工作機械にしても結構長い方なんですよ。
その長さの軸を設計した人って、設計者の中でも結構少ないと思うんですけど、
最初の仕事はこれだったのね。
しかも設計する上で条件があってですね、
僕の上司が出した条件っていうのが、紙とペンだけで設計しろって言うんですよ。
しかもいくら時間かかってもいいから、まずは便利な計算ツールとか使わずに、
関数電卓と手書きだけで立式して、図とかも全部手書きで書いて設計計算をしろと、そう言うんですね。
で、インターネットも禁止。
その代わり、ボールネジに関する技術資料はわんさこ渡されて、
これを読み込みながら、ちゃんと式を理解しながら設計計算していきなさいと、
そういう仕事を渡されたわけですね。
ボールネジの設計ってね、すごい奥が深くて、
ボールネジの径、直径ですね、リードっていうね、
一周回ったらどれくらい進みますかみたいな、そういうのも決めるんですけど、
危険速度っていうものもあって、
ボールネジってね、金属の棒なんで結構頑丈なんですけど、
長いボールネジになってくると、やっぱね、回転させるとたわむんですよね。
それをどんどん高速回転させていくと、本当に金属なんですけど、
長々飛びみたいな状態になって、それでしなってどんどん壊れちゃうみたいな、
そういうこれ以上速く回すとやべえぜっていう危険速度があるんですけど、
長ければ長いほど危険速度ってどんどん低くなるから、
あんまりネジを高速で回転させれないんですよ。
でも機械を速く動かしたいから、じゃあどうするかって言ったらリードっていうね、
一周ネジが回ったときに進む量っていうのを増やせば、
回転速度が同じでも速く移動するからスピードが出るんですけど、
そういうふうにリードっていうのをつけていくと、
今度はモーター、ネジを回すほうのトルクが足りなくなったりとか、
細かいこと言うとイナーシャの問題で加速度が出なくなったりとか、
深いイナーシャ比っていうのがあって制御性が悪くなったりとかって、
だからいろいろあるんですよ、とにかく。
それ以外にも形状的に、軸心冷却っていって、
ボールネジって動かしていくとどんどん温まっちゃうから、
そうすると機械の位置決め精度っていって、
移動させたときの精度が悪くなるので、
そういうふうにボールネジが温まらないように、
ボールネジの中心にでっかい穴を開けて、
そこに冷却水っていうのをずっと流したりするんですよ。
そういう仕組みを作ったりとか、
ボールネジが慣れないように最初にギュッと引っ張ってつけるんですね。
それをプリテンションって言うんですけど、
プリテンションをかける方法を考えたりとかね、
いろいろと検討する事項がいっぱいあって、
それを一個一個じっくり勉強しながら、
手で計算しながら学んでいくっていう時間が、
新入社員のときにあったわけですよ。
今でもその計算書っていうのはデスクの中にしまってありますよ。
記念品として。
自分の最初の仕事だから嬉しくて、
それはずっと取ってあるんですけど、
あれは本当に良い勉強になりましたよ。
入社したときは、
そりゃ設計者はみんな計算するでしょうって思ったんですけど、
意外と機械設計者計算しない人多いんですよ。
これ本当にびっくりしたんですけど。
とにかく結果だけパパって出ればいいっていう設計者たくさんいて、
ツールに数値をポンって入れて出た数値そのまま使うみたいな、
そんな感じの人多いんですよね。
でも私の上司はスタンスとして、
寸歩、計算、その全ての理由をきちっと説明できる設計者になりなさいと、
すごい言ってたんですよ。
だからそういう風に教育してくれたんで、
今振り返ると、
めちゃくちゃ良い環境を用意してもらったなって感謝しかないですね。
それゆえに最初の計算じっくりやらせてもらえたんで、
それ以降、どんな計算であっても、
初めてやる設計は一回自分の手で計算してみて、
式の意味を理解して使うっていうことが私の中で癖づきましたね。
これが本当に大事なんですよ。
あらゆる会社の中に秘伝のタレエクセルっていうのがあってさ、
これめちゃくちゃあって、
どこの誰が作ったかわかんないんだけど、
数値入れたらそれっぽい数字出てくるからずっと使うっていう謎エクセルが大量にあるんですよ。
どの会社にも必ずある。
大体しっかり式を追っていくと、
なんか変なケース入ってるんですよね、秘伝のタレエクセルって。
例えば機械効率っていってね、
計算上はこうなんだけど機械的な損失がありますと、
その損失って全部を摩擦とかそういうの計算できるわけじゃないから、
大体0.7かけとこうみたいなそういう文化あるんですけど、
そういう損失係数っていうのが重ね掛けされてたりするんですよね。
あれここの項でも機械損失かかってるのに、
次の項でも機械損失かかってねーみたいな。
そうするとかなり余裕を持った無駄な設計になっちゃうんですよ。
でもその秘伝のタレエクセルを使ったら不具合出ないから、
誰も気がつかないんです。それは出ないですよね。
かなり余裕を持った潤沢な無駄に豪華な設計っていうのを
そのエクセル使うとやっちゃうから不具合出ないです。機械は壊れないです。
でもそんな頑丈でなくてもいいんです本当は。
だけどそれに誰も気がつかずにずっと無駄を垂れ流し続けてますよ
みたいな状態になっちゃってるんですね。
そういう思考停止に陥らない気がつける設計者になるためには
計算式を単なる式として見るんじゃなくて
自分で理解して意味として見るという視点がすごい大事なんですよ。
これが本来設計者に持っておいてほしい視点なんですよっていうのを
僕は上司から教わりました。