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売られていった靴 ・ 新美南吉
靴屋の小僧、平介が初めて一足の靴を作りました。
すると、一人の旅人がやってきて、その靴を買いました。
平介は、自分の作った靴が初めて売れたので、 嬉しくて嬉しくてたまりません。
もしもし、この靴積みとブラシをあげますから、 その靴を大事にして、かわいがってやってください。
と平介は言いました。 旅人は珍しいことを言う小僧だ、と感心していきました。
しばらくすると平介は、つかつかと旅人の後を追っかけていきました。
もしもし、その靴の裏の釘が抜けたら、この釘をそこに打ってください。 と言って、釘をポケットから出してやりました。
しばらくすると、また平介は思い出したように、 旅人の後を追っかけていきました。
もしもし、その靴大事に履いてやってください。 旅人はとうとう怒り出してしまいました。
うるさい小僧だね、この靴をどんな風に履こうと私の勝手だ。 平介は
ごめんなさい、と謝りました。
そして旅人の姿が見えなくなるまで、じっと見送っていました。
平介は、あの靴がいつまでもかわいがられてくれれば良い、 と思いました。
