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たけのこ、新美南吉。
たけのこははじめ、じびたのしたにいて、
あっちこっちへくぐっていくものであります。
そして、あめがふったあとなどに、
ポコポコと、つちからあたまをだすのであります。
さて、このお話は、まだそのたけのこがじびたの中にいたときのことです。
たけのこたちは、遠くへ行きたがってしようがないので、
おかあさんのたけが、
そんなに遠くへ行っちゃいけないよ。
やぶのそとにでると、うまのあしにふまれるから、
と、しかっておりました。
しかしいくらしかられても、
ひとつのたけのこは、どんどん遠くへもぐっていくのでありました。
おまえは、なぜおかあさんのいうことをきかないの、
と、おかあさんのたけがききました。
あっちのほうで、うつくしいやさしいこえがわたしをよぶからです、
と、そのたけのこはこたえました。
わたしたちには、なんにもきこえやしない、
と、ほかのたけのこたちはいいました。
けれど、わたしにはきこえます。
それはもう、なんともいわれぬよいこえです、
と、そのたけのこはいいました。
そして、どんどんはなれていきました。
とうとう、このたけのこはほかのたけのこたちとわかれて、
かきねのそとにあたまをだしてしまいました。
するとそこへ、よこぶえをもったひとがちかよってきて、
おや、おまえはまいごのたけのこだね、といいました。
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ええいえ、わたしはあなたのふいていらっしゃった、
そのふえのこえがあんまりよかったので、こっちへさそわれてきました。
と、たけのこはこたえました。
さて、このたけのこはおおきくかたくなったとき、
りっぱなよこぶえとなりました。