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どじょうと金魚
小川未明
ある日、子供がガラスの瓶を手に持って、金魚を欲しいと言って泣いていました。
すると、通りかかったどじょう売りのおじいさんが、その瓶の中へ、どじょうを二匹入れてくれました。
子供は喜んで、瓶に顔を押しつけるようにして眺めると、ひげを生やして滑稽な顔に見えるどじょうは、
坊ちゃん、あのきれいな馬鹿しで脳のない金魚よりは、私のほうがよっぽどいいのですよ。一つ踊ってみせましょうか。
と言いました。
と言って、一匹のどじょうは、瓶の底から水の上までもんどり打って、滑稽な顔を表面へ出し、また瓶の底に沈みました。
子供は、今までどじょうを馬鹿にしていたのは、まったく自分の考えが足りなかったのだと知りました。
金魚よりか愛嬌があるし、
踊りもするし、
ずっとおもしろいや。
と、子供は瓶を持ち歩いて、友だちに吹いちょうしたのです。
金魚を持っている子供は笑って、
そんな、どじょうなんかなんだい。この金魚は高いのだぜ。
と言って、相手にしませんでした。
坊ちゃん、
悲しむことはありません。
まあ、見ていてごらんなさい。
と、どじょうは言いました。
じめじめした、いやな天気が続きました。
生活力の乏しい金魚は、みんな弱って死んでしまったけれど、
どじょうは元気でした。
そして、
いつでも愛嬌のある顔、
変わる変わる瓶の中で踊っていました。
